AI着色は昭和時代の夢を見るか(その11)


PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズもこれで11回目。もうすぐ連載1年という長丁場に。実験で比較というよりは、もうこれ自体が楽しい感じでやってたりして。今回は趣を変えて1973年4月5日と7日に田川線および後藤寺線で撮影したカットを対象としました。今回使用したカット、およびその前後に当たるカットは、<田川線の3日間 その1(無意味に望遠 その13) -1973年4月5日-><田川線の3日間 その2(無意味に望遠 その14) -1973年4月5日-><田川線の3日間 その3(無意味に望遠 その15) -1973年4月5・7日 1974年7月24日->の中で発表してます。各カットの詳しい解説等はそちらを参考にしてください。この時はすでにカラーポジ中心の撮影でモノクロはサブ的な押さえしか撮っていませんので、2回分カットがないので、この1回でてんこ盛りにします。



この時の撮影旅行は4泊全部が車中泊という強行軍で、北九州・南九州・北九州とまわりました。若気の至りですね。まずは油須原駅で列車から降りて、行橋機関区の29612号機が牽引する乗ってきた列車の発車シーンを撮影しました。これは「その1」で使用したカットの一コマ前のカット。今や発車とばかりに石炭を焚き込んでいるところで、盛んに煙が上がっています。やはりディーゼルカーは苦手とみえて、ここはモノクロのままですね。自信がない時は彩度を下げてくるのもすっかりおなじみになった手の内。色褪せた感じに仕上げれば、レトロな感じとも相まって色無し部分があってもさほど違和感がなくなるのを狙って「教え込んだ」のでしょう。


続いて同列車を見返りで撮影します。これは同じカットを「その1」で発表しています。うってかわって自信あふれる力強い色の載せ方。どちらもアウトプットそのままですので、アドビのAIはカットによってこのぐらい違いが出てきます。客車はきちんとぶどう色2号に塗ってますね。まあ、屋根のキャンバスまでぶどう色2号というのはちょっとナニですが、長柱張り上げ屋根のオハ35や、鋼板屋根の錆びたオハ47なんていうのもありますから、ここは大目にみておきましょう。TR11のウェザリングはいい感じですね。機関車は九州のカマにしては漆黒過ぎますが、郡山や土崎の全検明けだとこんなのもいましたから間違いとはいえません。下回りのウェザリングも油のテカりが感じられてなかなかです。


まずは油須原-勾金間の定番の「お立ち台」から撮り始めます。この区間は後藤寺機関区のカマが後補機に入るので列車全体を捉えたいところですが、そのためにはこのカーブが絶好なのでお立ち台になってしまっています。大畑のループ線を「火の用心」の矢岳側の丘の上から狙うのと同じ理由ですね。本務機は49654号機、後補機は49619号機。どちらも若松から後藤寺に移動したカマで、デフ無しコンビです。この手の山がちな景色はAI君の得意とするところなので、手堅く固めています。築堤の向かって右の斜面は枯草に仕上げていますが、左の斜面はちょっと芽吹いた感じにしています。本当はまだ全部枯草なのですが、左が南面なのでまあ許せる範囲でしょうか。


このお立ち台は、見返るとおなじみの「マニアには日本一有名な柿の木」があります。一粒で二度おいしいお立ち台ですね。これまた前のカットに続いて「その1」に同じコマを発表しています。これらのカットはポジカラーがあるので元の色がわかっていますが、はっきり言って違うけれどそれなりにまとまっていて見られるカラー化ですね。田んぼはまだ枯れた状態なのですが、なんか水を張って田植えをしちゃってますね。そのワリに隣の田んぼにはレンゲ草を生やしてたり。個々の植生を「らしく」するのはだいぶ上手になっていますが、「季節感」の学習はまだまだのようです。個々の要素の部分最適だけではなく、画面を通しての全体最適ができるようになればかなりのものになるでしょう。


単機で戻ってくる、補機運用の49619号機。ここからは「その2」に掲載した写真になります。煙は妙に濃すぎずいい感じに収まっています。バラストはこの時代にしてはキレイすぎますね。鋳鉄製制輪子の時代ですから、錆色で真っ赤に染まっていました。これでは現代の道床ですね。とはいえ、モノクロでもかなり白っぽくなっているので、これはそう認識してしまったのでしょう。丈の高い草は枯草なのですが、青々と仕上げて初夏のような感じです。これもまた向かって左の田圃はレンゲみたいな花を咲かせています。田野で撮った本当にレンゲが咲いている写真をカラー化した時は花を咲かせなかったのに、どうしたことでしょうか。


今度は行橋機関区の69614号機が牽引する貨物列車。空のセフ2輌という、ほとんど緩急車の回送のような列車です。この一つ前のコマを「その2」に掲載しています。ちょっと機関車の屋根のウェザリングが効き過ぎですね。これではボロボロになった保存機関車のようです。前のカットと同じ場所から同じ構図で撮っていますが(ズームなので焦点距離は異なる)、そのワリには草の色付けがかなり異なり、季節感が大きく違っています。こっちでは背の高い草は基本枯草で仕上げています。一部緑が活き活きしているようににしてしまったところもありますが、枯草もあって緑も出始めているという感じは春らしいイメージで、実際の季節感にも比較的近くなっています。


こんどは同列車をカーブ側の方に見返して撮影します。このカットも「その2」に掲載してあります。ちょうど油須原線の分岐点のところなので、路盤が完成している様子が見て取れますね。元の陽射しが強いせいでしょうか、すっかり夏姿で仕上げてきました。枯草の中に芽吹き始めたというのが本当の季節感ですが、ギラギラした光線が照り付けているような、真夏の雰囲気で仕上げてきています。枯木も山の賑わいではないですが、枯草も草いきれが伝わってきそうなうっそうとした茂みになっています。ところでびっくり。セフの車掌室の黄帯は本当に黄色みが入っているじゃないですか。それもかなりリアルなウェザリングした黄帯が。おいオマエ、いつ学習したんだ。それとも目の錯覚か。


4月5日の最後のカットは、おきまりの重連+後補機のヘビーデューティー。前補機は59684号機、本務機が69614号機でどちらも行橋機関区。後補機がこれまた後藤寺機関区の49619号機という取り合わせです。ここからは「その3」に掲載したカットです。今回の3カット目とほぼ同じ構図ですが、ほぼ同じトーンで塗ってきています。築堤の両面で枯草と青葉というところも一緒です。この辺のブレ無さは流石ですね。もっとも午前と午後で光線の向きが逆転していますので、その影響で陰日向が変わって色の載りが変わっていることもわかります。積荷も石灰石らしく白っぽい色に仕上げていますね。まあ、元のモノクロも相当に白いから石炭にはしないだろうけど。


最後のカットのみ4月7日のモノ。この日は田川線ではほとんどモノクロを撮っていないので、この一枚だけカラー化してみました。船尾-起行間を行く39638号機のバッタ撮り。「その3」では、この一つ次のコマを採用しましたが、カラー化は周辺の景色が少しでも多く写っていた方が面白いのでこっちのカットにしました。九州っぽくはないですが、蒸機機関車の色としては及第点でしょう。ナンバープレートもちょっと金色っぽくしていますし。草も一応枯れ草がメインになっているようには見えるので、季節感としても問題ないでしょう。うっすら煙が混じったドラフトも、いい色に仕上がっているのではないでしょうか。



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