AI着色は昭和時代の夢を見るか(その12)
PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズもこれで12回目。1年間こればかり続けている勘定に。ということで、今回はさらに趣を変えた新機軸ということで、趣を変えて<無意味に望遠 その12 -1973年4月7日->をそのままカラー化してみました。前回はまだ800×600の画面の時代でしたので、今回は3:2のノートリミングで画面サイズも一回り大きくしてお届けします。各カットの詳しい解説等はオリジナルの方を参考にしてください。1973年はすでにカラーポジ中心の撮影になっていましたので、望遠ズームでのサブ的なカットばかりですが、逆にカラー化するとどうなるのか興味は湧きますね。日田彦山線で活躍する、門司機関区のD51が牽引する石灰列車です。

まずは城野駅付近で、日田彦山線の朝の名物の頭合わせの逆行重連。カマは前位がD51175号機。正位の本務機がD51814号機。全体的に彩度の薄いカラー化ですが、元が朝モヤのかかった中での撮影なので、ワリと雰囲気は出ています。草も枯葉と新芽が混じった状態で、ところどころに花も咲き、春らしい感じに仕上がっているのではないでしょうか。川面の反射感もかなり効果的です。機関車はモノクロにウェザリングだけではなく、ちょっと色を入れていて、それがかなり九州っぽい色合いになっているのがいいですね。ちゃんと煙室と缶胴で色調が変わっていますし。模型の仕上げなら及第点でしょう。九州の出庫時の石炭の積み方がよくわかります。

続いて同列車を見返りで撮影します。これは同じカットを「その1」で発表しています。この日はほぼ呼野-採銅所間で撮影しました。やってきたのは上りの貨物、牽引しているのはD51924号機。これも機関車は九州っぽいトーンに仕上げてきていますね。少しアップデートされたのかな。バックの山の林は手慣れた色調で出してきましたが、築堤の手前の木は新緑というよりは秋っぽいですね。まあいくつか気になる点はありますが、それなりにまとまってはいます。ずっとやってきて、ある意味カラー化ってレイアウト全体の色調をどうバランスされるかというのとかなり近いんですね。そういう視点では許せる範囲かと思います。

その列車がガーダー橋を越えたところで、採石場をバックに見返り気味のカット。これは情景としては裸の岩肌と木々の緑とのコントラストの対比が強くて、かなりカラー化が難しいと思われる場面ですが、なかなかいい感じに仕上げてきました。緑の部分は手慣れたウッドランドシーニックス調ですが、岩肌はいかにも石灰っぽい感じとちょっと土が混じっているところとをウマくまぶして臨場感を出しています。機関車はこれも九州調ですから、これは学習したのでしょうね。それはそれとして、「石油荷役」のタンクローリーを紫に仕上げてきたのはどこから出てきたのでしょうか。おかげでこのカットの中ではかなり目立つ存在になってしまっていますが。

D51275号機の牽引する、ワフ1輛の下り貨物列車。列車の位置自体は前のカットと10m程度しか違わず、バックはほとんど一緒なのですが、かなり違う色調でアウトプットしてきました。これはナゼなんでしょうかね。画面構成的に違うところといえば、道路をオーバークロスするところの擁壁ぐらいですが、これを影っぽい濃い色に染めてきてしまっているので、全体を逆光気味と判断したのでしょうか。確かにバックの山肌も前のカットに比べるとかなり暗めになっています。墨絵的な幽玄深い感じではありますが、ちょっとわざとらしいですね。とはいえ、機関車はちゃんと九州色です。クルマはそれなりにらしい色にしていますが、色がべったりのり過ぎているので、本物というよりトミカみたいなミニカーに見えますね。

続いて同列車が、道路との立体交差を越えたところでのワンカット。絶気・貨車1輌と、「撮り鉄」の人からするとつまらない写真でしょうが、模型をやる人にとってはレイアウト上のワン・シーンのようで、けっこうクるものがあります。ぼくの得意な、ジオラマの背景に実写の景色を使って撮った写真ような感じですから。これも3つ前のカットに比べると、全体に暗く仕上がっていて、特に背景が山深い感じになっています。確かにこの日は天気が悪く、時々パラパラと雨が降ってくるような感じでしたから、こちらの方が雲が厚くて山肌に光線が届いておらず、その差を強調する向きに色付けしているのでしょうか。このあたりのアルゴリズムは気になるところです

望遠圧縮で狙った、D51382号機が牽引する下りのホキ返空列車。林の茂みのある部分がちょっと暗くなりすぎていますが、岩肌が露出している部分はわずかな茂みや土がアクセントとなってなかなか良い感じに仕上がっています。雪ではなく、ちゃんと石灰石にみえますし。機関車はちょっと暗いかなと思いますが、モノクロのカットでもかなり沈んだトーンになっているので、それに正直に色付けしたのでしょう。ヘッドライトが鷲別機関区のカマのように汚れ切った感じになっていますが、これも確かにモノクロでもかなり黒っぽく写っていますので仕方ないでしょう。この圧縮した感じなら、なんとかこの露頭のベルトコンベアのイメージでジオラマが作れそうですね(ただし高さは何ともしがたいが)。

D51275号機の牽引する上り貨物列車。典型的な「望遠・バッタ撮り」ですが、まあ上り勾配にさしかかって力行し始める辺りですので、黒煙も上がっているしドレンも切っているなどそれなりに走行感はあります。これを撮った頃になると、かなり雨も強まってきているので、全体にヴェールがかかったようなモヤっとした描写になっています。そのせいか霧がかかったような全体に白っぽい画面になっており、機関車との対比でモノクロのカットより表情がついているのが面白いところ。「架線注意」を強調してきたのも、AI君、ファインプレイです。リアルな着色とは違う意味で、こういう思わぬ「成果」が出てくるので、カラー化はやめられません。

最後はこの区間おなじみのお立ち台から、川越えの2連ガーダーを渡るD51374号機の牽引する上り貨物列車。余談ですが、この区間は列車の上り・下りと、勾配の登り・下りが一致しているので、わかりやすくていいですね。これも雨のなかの撮影になりましたが、そのおかげで全体に彩度は低いものの明るいトーンという、目に優しい風景描写になりました。元々AI君はこういう印象派的な遠景が得意ですが(実際かつてのVHSのように、微分した線ではなく連続的な色の変化でカタチを描写しているのでしょう)、それが上手くハマっている感じです。雨中での像の粗さが、丁度点描のような感じを醸し出していて、モノクロではちょっと甘い感じだったのが、カラー化では味わいになっています。これもAI君、Good Job。
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