AI着色は昭和時代の夢を見るか(その14)


PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズ、まだまだ続きますよ。今回はまたかつてアップロードしたカットのカラー化に挑みます。元になったのは<無意味に望遠 その10 -1973年4月6日->で掲載した、1973年の春の撮影旅行で田野の築堤で撮影したカット。この時はもうカラーポジが主になっていたので、35oモノクロは完全にサブ。望遠ズームを付けてメインのカラーとは別のカットを撮るようにしていました。シーケンスは一緒ですが、カラー化の効果を考えて列車によっては前回取り上げたカットの1コマ前または後のカットを使用しているものもあります。



まず最初は、清武川橋梁を渡る吉松機関区C5552号機の牽引する上り貨物列車。この橋梁でのサイドビューは河原から撮るとバックが空で抜けて、C55のスポーク動輪がとても映えるのですが、今回は俯瞰気味なのでそうもいきません。これはモノクロで掲載した一つ次のカットですね。左側に写った木の枝がどういう風に色付けされるのかが気になって、こちらを選んでみました。全体に渋めの和風な色調で、なかなかいい感じに仕上げてきました。木の枝も違和感なくアクセントになっています。まあ、この手の「日本の田舎」の景色はかなり学習しているようで、およそアガリが読めるし、そこそこ使える感じに仕上がってくるようです。


次いては築堤の門石方で撮影したC57牽引の上り旅客列車。牽引機は宮崎機関区のC57187号機です。4月ですから築堤には若草が芽生えているのですが、完全に枯草の冬景色にしてきました。田んぼにも例によってレンゲ草が咲いているのですが、これも枯草っぽく仕上げてきています。冬景色という認識なのでしょう。列車は普通車4輛に郵便車・荷物車という編成ですが、お得意のぶどう色2号できっちり攻めてきています。郵便車の屋根はちゃんと銀色仕上げですが、ちょっとキレイすぎるかな。バックの林の針葉樹と広葉樹の色の違いは例によってウッドランドシーニックスっぽいですが、一応それらしい雰囲気は出ていますね。


続けて同列車の機関車のアップ。全体はやはり冬景色で仕上げてきていますが、これはこれで違和感はありません。モノクロだと余りに当り前で面白みのないカットですが、色が付いた方が絵として引き締まるのが面白いところ。機関車・客車ともに彩度の低い色付けですが、充分感じは出ています。機関車のウェザリングもなかなか。こうしてみるとカラー版では「架線注意」がモノクロ版以上にアイキャッチャーになってますね。こういう発見があるのも面白いところ。ナンバープレート、空気作用管は、目の錯覚かうっすら金色、銅色が入っているように見えるのが不思議。実際、薄く入れているのかな。この辺は謎なところです。


今度は築堤の田野方で、C57牽引の下り貨物列車を撮影します牽引機は宮崎機関区のC57109号機。これもモノクロ版で使用したカットの次のコマです。理由は建物と車をどう処理するのか興味があったから。家は無難に風雨に晒された羽目板に波板の屋根という感じに仕上げてきました。まあ、無難なところでしょうか。クルマはチェリークーペのようですが、ベージュメタリックに塗ってきました。確かに当時の日産車は、こんな色ありましたね。それほど違和感はありません。しかし、今度は築堤に草を生やして、枯草と若草が混じった感じでちゃんと春の季節感になっています。手前にアウトフォーカスしている枯草も、それらしく色を載せてきています。


続けて同機のサイドビューのアップ。ここでは、ちゃんと田んぼに咲く花を花として認識していますが、淡いピンクのレンゲ草ではなく、黄色〜オレンジがどぎついマリーゴールドかなんかみたいな色にしてしまっています。その分、お花畑感は強烈ですね。築堤は枯草のない夏っぽい感じに染め上げていますが、いかにもなんだかターフを撒いたような質感。色もそうですが、別の意味でウッドランドシーニックスっぽいですね。元がかなりアンダー気味で、アンダーな露出はAI君結構苦手なんですが、逆に開き直って派手に染めてきたような感じさえします。色調と言い、機関車がアップな分、ぼくの得意な「築堤のジオラマのバックに実写の背景を置いて撮影した模型の写真」みたいな感じです。


吉松機関区のC5552号機が、下り旅客列車を牽引して戻ってきました。これもモノクロ版の一つ次のコマ。モノクロ版がちょっとした林の手前だったのに対し、これは林を抜けたところ。これも、バックの道路とクルマに興味があったのでこっちのカットを使いました。これも夏景色のようになっていますね。枯草まで緑に染めてしまっています。でもまあこれはこれで雰囲気は出ています。とはいえ緑が濃くてちょっと目に痛いですね。機関車と客車はいい感じなのではないでしょうか。機関車のウェザリングはいいけど客車はちょっと艶を出し過ぎか。なんか全検出場直後みたいな雰囲気です。しかし、そういう風に見えるように仕上げてきたと言うのは、これはこれでウマくこなしているともいえます。


築堤最後のショットは宮崎機関区のC57112号機の牽引する上り貨物列車。これまたモノクロ版の一つ手前のコマです。こちらのほうが見返り度も低く、機関車がアップになっているし、クルマも写っていてなかなかカラー化が楽しめそうなので選びました。クルマは初期のカローラかな。白塗りにしてきましたが、確かの初期型のカローラは白がイメージカラーになっていたので台数も多く、手抜きというわけではないです。これも築堤の若草が結構派手な緑になっています。これだと、ウッドランドシーニックスではなく、ミニネイチャーの春の若草ですね。いずれにしろジオラマっぽい感じです。しかし冷蔵コンテナはちゃんと白にしてきたし、JNRマークもうっすら赤が入っているような気が。


さて最後のカットは、その日の夜宮崎機関区で、日南線のお召し牽引用に整備されたC11200号機とC5692号機の姿です。ならんで給炭・給水に出てきたところを撮影しました。お召し仕様の蒸機の写真は、この時しか撮っていません。AI君は意外と夜景に強いことはわかっているのですが、夜闇にギラリ光るお召し機の姿をどう色付けするか非常に興味があったので、実験してみました。結果としてはかなりのモノではないでしょうか。この両機は、お召し整備の際に赤ナンバーになっていますが、C5692号機の方はほんのり赤が入っているようにも見えます。手前の線路がホームの蛍光灯の明りに照らし出されている感じも良く掴んでいます。



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