AI着色は昭和時代の夢を見るか(その29)


PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズ。今回は前回の続きで、最初の北海道撮影旅行で1972年7月17日に行った苗穂機関区でのカットのカラー化の第三回です。AI君は機関区のような鉄道施設という人工的な空間もそれなりにこなせることが前2回でわかりましたが、今回はどのように料理してくれるのでしょうか。カラー化よりも、どうこなすのかを見る方が中心になってきてしまいました。



今回は、前回の最終カットの続きから。小樽築港機関区のD5170号機が転車台での方向転換を終え、下り向きで出発線のほうへと後ずさりで動き出すシーンです。あまり色味のあるものがないカットですが、地味ながらシンダや灰が油で固められたバラストの見えない機関区の地面の感じなどはよく表現できています。ある意味ジオラマ作りの参考としては、生のカラーよりも作りやすくていいかもしれません。AIによる提案という意味でそういう使い方もありですね。全体の雰囲気も、なんというか模型的な感じが溢れていますし。一方遠景でチラリと見える苗穂駅にも、薄っすらと色を挿しているのはポイント高いです。こういう気遣いがリアル感を増すんですよね。


次はまた庫の中に入っての撮影です。今では考えられませんが、半世紀前は許可こそ取る必要がありましたが、許可さえあれば構内撮り放題でした。当然庫の中に入っても全く問題なし。ただし今でも京都鉄道博物館に行けばわかるように庫の中はめっぽう暗く(これじゃおやじギャグだ)、庫にアタマから突っ込むのを基本としている道内の機関区では、夜間のバルブ撮影のようになってしまいます。その分前回のC576号機同様、入口から見える空は超新星爆発みたいに輝き、このバランスを取るのが非常に難しいです。機関車は苗穂機関区のC5757号機。今砧公園に保存されているカマです。予備機として、一応現役蒸機の最末期たる1976年春まで車籍があった、最後のC57の1輌でもあります。


今度は庫の外に出て、再び転車台の主の撮影です。機関車は苗穂機関区のC57147号機。広域配転で和歌山機関区から転属したばかりの頃です。とはいえ1年ちょっとで廃車になってしまうのですが。ずっと近畿地区で活躍していたので、ピストン弁点検用に蓋付改造したデフ・煙室末端の角型化やキャブの採光改良改造など、鷹取工場持ちのカマの特徴がでています。キャブの前面窓は、なんと採光改良で出窓化されたものに旋回窓を取り付けるというほかに見ない改造ぶり。しかし窓ガラスが斜めに上向きになっているので、これでは雪が付きまくって大変なのではと余計な心配をしてしまいます。なんかナンバーに薄っすら赤が入っていますね。かなり前からAI君は「赤ナンバー」が好きなのは見て取れましたが、何かそういうの学習しちゃったんでしょうか。


先程転車台上で撮影したD5170号機は、出発線上でC58415号機とD51394号機の前に停車しています。この日は「蝦夷梅雨」で雨が降ったり止んだり。この時は雨が上がったばかりで、バラストがほとんど見えない地面には水たまりができていますが、空には薄っすら陽射しも感じられます。この辺の感じは、なかなか上手く処理してますね。鉄道に限らずAI君は「雨の情景」をマスターしているのでしょう。前照灯は微妙な表現。当時の前照灯は点・滅の間にぼんや光る「減」が入っていましたから、そんな感じに見えないこともありません。これも遠景の苗穂駅がいい感じです。なぜか貨物の発着線に窓無しのワキ1がいますね。道内の特定運用に専用で使われていたのでしょうか。


D5170号機のエンジン部のアップ。これは完全に模型資料として撮影したもので、作画意図もなにもあったものではありません。築港のカマにしては、ちょっとウェザリング効き過ぎですし、ロッド類も錆が必要以上に目立ちますが、築港の特徴である動輪の輪心の磨き出しはちゃんとそれらしく描写できてます。もともとのカットがそういう目的なんで、陰になる細部がしっかり写るよう露出をオーバー気味にしているので画面の粒子が荒れており、そのせいもあってウェザリングが激しくなっているのかな。今回も「架線注意」はちゃんと黄・黒の輪郭に赤文字で表現してますね。毎回こうやってくるってことは、わかっているんでしょうね。


給炭台の線に入ってきたC57147号機を真正面から捉えます。これもやはり赤ナンバーになっていますから、機関車のナンバープレートには赤いモノがあるという知識は学習しているのでしょう。しかしよく見ると147号機は転属直後でまだ冬を越していないこともあり、北海道の蒸機機関車とは思えないポイントを発見できます。端梁にスノープラウ取付用のボルト穴がないのをはじめ、雪害を受けない位置に移設した標識灯もステイもありません。これも「架線注意」はちゃんと色が入っていますし、今までになく彩度を上げて表現しています。給炭台や地面の表現もなかなかいい感じです。LP405副灯は、発生品ではなく新品を取り付けていますね。。


今回の最後は、出発線に雁首を揃えたオールスターズ。苗穂駅側から小樽築港機関区のD51465号機、岩見沢第一機関区のD51737号機、小樽築港機関区のD5170号機。70号機の後ろには前回見たようにC58415号機とD51394号機が控えています。1972年は全国的にはかなり無煙化が進んできて、SLブームに火が着いた年ですが、北海道はまだまだ幹線でも蒸気機関車が主役。見飽きるぐらい撮影できる経験ができたというのが、この時の撮影旅行の収穫でした。それぞれのカマの雰囲気の違いが、ちゃんと色でも表現できているのがいいですね。模型でも、いや模型でこそ、こういう機関車がいっぱいたむろしている感じを楽しみたいところです。




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