AI着色は昭和時代の夢を見るか(その30)
PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズ。前回は未発表作品のモノクロでの公開で一回休みとなったが、今回は前々回からの続きで、最初の北海道撮影旅行で1972年7月17日に行った苗穂機関区でのカットのカラー化の第四回となります。AI君は鉄道施設もそれなりにこなせることがわかりましたが、今回はけっこう遊んでいるカットが多いので、それをどのように料理してくれるのでしょうか。AIカラー化も定着してくると、難しい課題をどうこなすのかの方が段々面白くなってきました。

今回は、機関車の「部分」のアップから。クロスヘッドを中心にすべり棒とメインロッドが主題。機関車は小樽築港機関区のD5170号機の非公式側です。鉄の地が磨き出されている部分の描写はなかなか良いですね。現役蒸機の油が刷り込まれた感じが出ていると思います。こういう機械の手入れされた摺動部のイメージは学習しているのでしょう。動輪はちょっとウェザリングを効かせ過ぎているようですが、まあ北海道だから良しとするか。色のムラとか気になるところもありますが、元が黒と銀とのグラデーションの組合せという、無彩色に近い色味でカラー化が難しいものだけに、けっこういい線行けたと言えるのではないでしょうか。ちゃんとカラーに見えますから。

次は同じくD5170号機の非公式側の、今度は見返りでの側面カット。模型の参考資料にしつつ、ちょっとモダニズムっぽい感じを狙ったのでしょう。完全に遊んでますね。色ムラが気になるところですが、全体の感じは悪くありません。ウェザリングはかなり強めですが、違和感はないですね。築港のカマなので北海道ではキレイな方ですが、北海道全体の平均として見るとこんな感じでもおかしくはありません。動輪の質感描写はこっちの方がリアルでしょうか。この時は降ったり止んだりの雨上がりなので、濡れたテカり感も出ています。遠景の霞み感もいいでしょう。よく見ると遠くに救援車がいますね。モノクロ版以上に白線が目立っています。

これまた70号機ですが、今度は公式側から少し薄日が射してきたのを利用して、ナメクジドームのシルエットを強調したカット。この時は16歳ですからね、なんかヒネたガキだなあ。微妙に光が当たっているところのみディテールが浮き出しているという非常に難しい条件なのですが、ウマくカラー化していると思います。空はここまで青くはなかったと思いますが、AI君は青空が見えてきた感じにして、いい感じでシルエットとの対比させた色付けです。例によって「架線注意」もほんのり色が入ってアクセントになっています。ボイラ側面のわずかに光が当たっているところをみると、心なしか空気作用管が銅色っぽいですね。これも学習しているのかな。

前回の苗穂機関区での写真のカラー化第三回で取り上げたように、この時は一番本線寄りの出発線には、小樽築港機関区のD51465号機が停車していました。これを真正面から撮影します。いまでは撮れませんが、この当時は業務中の機関区の中でも許可を取って入れば、運行に支障がない限り線路の中でもどこでも自由に撮れました。全体にウェザリングが効き過ぎな感じですが、まあ許容範囲といえないこともありません。追分のカマならこのくらいの感じでしょう。これまた前照灯が減光で点灯しているような描写になっていますが、これは確信犯のようですね。バックの苗穂駅の描写はいい感じ。そこここにある水溜りも上手く表現できています。

ちょっと引いて、小樽築港機関区のD51465号機、岩見沢第一機関区のD51737号機、小樽築港機関区のD5170号機の揃い踏みを、前回とは反対側の非公式側がみえるサイドから撮影します。前回より機関車に寄っている分、各機の状態の差がしっかり表現されています。465号機は前のカットよりキレイな感じ。これなら小樽築港のカマに見えます。737号機はそれよりはちょっと煤けた感じで、小樽築港と岩見沢の差を見て取れるニュアンスが出ています。あと4年で蒸気機関車は北海道でも廃止になってしまうのですが、まだまだ本線の主力で蒸気機関車が活躍していた様子を見てしまうと、「蒸機がウジャウジャいてこそ北海道」という刷り込みができてしまいました。

先程の非公式側と対になるようなカットですが、70号機は公式側の見返りも撮影しました。この時は薄日の入り方がいい感じだったのでその光を活かし、模型資料というよりは芸術っぽいカットを狙ってますね。ちょうどキャブのナンバープレートとメーカーズプレートのところに陽射しが来ているのでこれをメインにしてピンを置き、絞りを開放にして被写界深度を浅くし、遠景をボカすというこれまたマセた絵作り。それはまあ成功していますし、カラー化もその意図を良く汲み取っていると思います。ボケた遠景の淡い感じや、わずかに立ち昇る煙を濃い目に強調してくれたところなどはなかなかです。モノクロ版よりいいんじゃないでしょうか。

今回の最後は、D5170号機の公式側キャブのアップ。ナンバープレートとメーカーズプレートとレタリングの数々。なんと70号機はこの時全検上がりたてだったんですね。それもあって最末期まで残れたということなのでしょう。ちょっと色ムラが激しいですね。赤ナンバー好きなAI君の癖が出てしまったのか、ナンバープレートもメーカーズプレートも半分ぐらい赤が入ってしまっています。全体にウェザリングも効き過ぎている感じで、カラー化という意味ではこれは使えませんね。どうやら苦手なカットはあるようで、前よりは減っていますが、使えないカラー化は時々出てきます。まあ、これもこれからのバージョンアップに期待ですね。
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