AI着色は昭和時代の夢を見るか(その8)


PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズ。ちょっと寄り道して実験的なテーマに取り組んだが、今回は前回の続きで1971年12月17日の田野での撮影の後編です。今回はAI君がちょっと勘違いしたところもありますが、それなりにまとまっているし、こういう風に変換してしまう事例としても面白いので採用して掲載します。ということで、今回も吐き出したデータはそのままで、ポストプロのレタッチはしていません。



前回の続きから始まります。清武川鉄橋にさしかかる下り貨物列車。蓋付きのバイパス弁点検穴、関西式にタブレット受けが上ナンバープレートが下になったキャブ側面など、特徴ありまくりなので、牽引機はC5789号機とすぐに比定できます。左側の方は枯草の冬景色になってますが、右側はかなり草が生えているように仕上げてきて妙な感じです。これはちょっと問題ですね。ただ、その変化があまりにきれいなグラディエーションなので、アニメーションのごとく段々季節が変わるように見えてしまいます。ジオラマではこういう違う季節を一つに納めてしまうのは厳禁なんですが。機関車と貨車はかなり小さく扱っていますが、ちゃんと質感が出ていて及第点ですね。


「田野の築堤」は有名な撮影地ですが、何も考えずに撮影するとどうしても単調な構図になりがちです。ということで、二度目に来るともはや搦め手から撮影したくなってしまいます。ということで、季節柄田んぼの中にしつらえられている「藁鳰」を広角レンズで大きく扱って、その間に列車を入れた構図を思いつきました。やってきたのは吉松機関区のC57151号機の牽引する上り貨物列車。特徴ある唯一無二のK-3デフなので、すぐに比定できます。「藁鳰」は左の2つは枯れた藁らしいいい感じにもってきましたが、右の2つはかなり古くて半分腐っているような感じになっています。「藁鳰」としてはおかしいですが、藁が古くなった感じとしては絵になっていますね。


清武川橋梁と並行している道路橋の上からは、鉄橋上の列車を真横から狙えます。模型屋としては「真横」というのは魅力があるので、毎回ここでワンカットぐらいは撮っていますね。下りの旅客列車がやってきました。牽引機の特定は比較的容易で、2ケタナンバーのK-7デフ付きの一次型となると、この時期は鹿児島機関区の72号機しかいません。なるほど、給水ポンプの飾り帯や車輪の輪心の磨き出しなど、他の特徴も72号機と一致します。ガーダー橋も低彩度でウェザリングばりばりですが、赤味が入っている点は実物がローズピンク系の色だけになかなかのもの。客車のぶどう色2号もいい感じではないでしょうか。ジオラマの色付けとしても及第点でしょう。


清武川橋梁を下流側の素朴な木橋と合わせて撮影します。高校一年のガキにしては、マセた構図だなあ。木橋の質感は、AI君なかなかのもの。路肩に生えた雑草もちゃんと仕上げてきました。これは「こういう橋がある」ことを学習してますね。ガーダー橋とコンテナは極端に彩度が低いですが、ほのかに緑がのっているように見えるのが不思議。この橋は緑じゃないんですが、緑のもあるからね。自信のない色はごくごく薄く塗ってくるのも、妙に人間味があって面白いですね。上りの貨物列車の牽引機は、よく見るとデフの吊り穴が1個なので、117号機で決まりです。コキにワム・ワラ6輛とヨの8輛。いかにも模型っぽい編成ですが、実物でもあるんですよ。ちゃんとコキが入って。


続いて河岸段丘の上から、下りの貨物列車を望遠レンズで狙います。牽引する機関車は標準デフの一次型C57。宮崎機関区も鹿児島機関区もこのタイプが一番多くてなかなか機番の特定に悩むのですが、これは煙室扉にAA6000様式のナンバープレートが取り付けられています。この時期この様式の「いわゆる型式入りプレート」を付けていたのは宮崎機関区の49号機しかいません。ということであっさり比定できました。12月ですから、田んぼは稲の刈跡しかないのですが、これも葉っぱと思ったようで緑に仕上げてきたので、芽生えてきた畑のようになっています。築堤の側面とかも含め遅い春の景色と考えれば、ジオラマやレイアウトの地面の仕上げとしては悪くないですね。


先ほどのC57117号機の牽引する上り貨物列車は、列車交換と退避のため田野駅に長時間停車しているので、先回りしてもう一度撮影します。田野の鉄橋というと田野-門石間の清武川橋梁がおなじみですが、反対側の田野-日向沓掛間にも井倉川橋梁があります。今回はそんなに遠くまで行けないので、そこで撮影することにしました。ドラフトが出ているのでまだ力行しているようですが、石炭は全然焚いていませんね。コンテナもこっちはずいぷん黒っぽく仕上げてきてしまいました。この時代はまだ蒸気機関車がバリバリ現役でしたから、かなりウェザリングの効いたコンテナもあったので良しとしましょうか。県道のガードのところには、宮崎交通でしょうか「バス窓のバス」が走っていて、レイアウト感を高めています。。


最後のカットは、やはり田野-門石間ですが71年4月3日の撮影です。実はこのカット、かなり初期にカラー化をトライしたのですが全然ウマく行かず、掲載を断念したいわくつきのモノ。とはいえ、その後学習と機能改良が進んでいるので、もしかしたら今度はウマく行くかと思って挑んだところ、前よりかなり良く仕上がってきたので、今回はオマケとして掲載します。これ、4月だから草はまだ枯草なんだけど、青々と茂らせた上に、バラストにも草を生やしちゃってます。季節は変だけど、絵としてはまとまっているんじゃないでしょうか。やってきたのはC57重連で牽引する上りの貨物列車。前補機は宮崎機関区のC75115号機、本務機は鹿児島機関区のC5721号機です。この時期は宮崎機関区に115、116、117号機が揃っていましたが、各機の履歴は全く違うものでまさに偶然のなせるワザでした。



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