AI着色は昭和時代の夢を見るか(その9)


PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズ。ちょっと寄り道して実験的なテーマに取り組んだが、前回は1971年12月17日に日豊本線の田野で撮影したカットを利用しましたが、今回は同じ撮影旅行ですが1971年12月15日に筑豊本線で撮影したカットの内、望遠ズームを取り付けたサブカメラで撮影したものを使用しています。今回使用したカット、およびその前後に当たるカットはは、<無意味に望遠 その6 -1971年12月15日->の中で発表してます。今回は比較的AI君の得意とするカットが並びましたが、なんか学習を重ねたのかバージョンアップしているみたいで、一段と味わいが出てきた感じです。



まずは折尾-中間間で、若松機関区の88622号機の牽引する香月線上り旅客列車。全く同じカットをモノクロで発表しています。全体としては、なかなかバランスの取れたカラー化といえるのではないでしょうか。手前側のアウトフォーカスの雑草も、モノクロだとトーンが被ってうるさい感じですが、色を分けるとそれなりにアクセントとして味わいがありますね。12月なので本当はもっと枯草が多いのですが、アドビのAI君は葉っぱと認識すると活きのいい緑を載せてきたがる傾向にあるみたいですね。住宅も本当にこの色なのかはさておき、それほど違和感はありません。景色に色味を厚くした分、機関車はほとんどモノクロのままですが、これはこれでカラーに見えてます。


続いて路線別複々線と方向別複々線を切り替える、若松からの下り線の立体高架を登る、若松機関区のC5752号機が牽引する下り貨物列車。これは一つ前のカットをモノクロで発表しています。モノクロが一つ前のカットになった理由は、このカットでは機関車とうしろの電柱が被っていてちょっとうるさい感じなのでそれを嫌ったためです。しかしカラー化したことで、機関車と電柱の質感の違いが表現されるようになり、違和感は多少薄らいだ感じがします。元のカットが朝日をしっかり浴びて明暗の差がくっきり捉えられている分、色調表現も力強くなっています。こちらは、ちゃんと枯草を枯草と認識していますね。セラの黄帯は、まあしょうがないかな。レタッチして手で修正ですね。


今度は中間-筑前垣生間に撮影地を移してます。やってきたのは直方機関区のD6057号機が牽引する上り貨物列車。モノクロ版は一コマ前のカットです。ほとんど似たようなカットですが、このカットにしなかった理由は前の時は4:3のデジカメサイズにトリミングして掲載したため、このカットだと機関車ばっかりになってしまうためと思われます。今回は景色の部分をどうカラー化したかを重点的に見ていただくため、ライカ版ノートリミングの3:2で掲載しています。そういうこともあり、このカットは機関車がドアップに大きくなった分、ガシガシのハードウェザリングをしてきました。もう廃車体に近い感じですが、模型だとこんな風にやっている人も時々いますね。


続いて中間-筑前垣生間を行く、若松機関区のC5752号機の牽引する上り旅客列車。モノクロ版ではこれまた一つ前コマに当たる、直方機関区のD6028号機の牽引する石灰石ホキ返空の下り貨物列車と丁度すれ違っているカットを使用しました。AI君はこういう感じの景色が得意なことはわかっているので、安定の作業ですね。枯草はちゃんと枯草と認識しています。遠景の山の重なり具合も手慣れた感じ。いい具合の距離感が表現されています、ヘロヘロな線路の輝きも、最小限の色付けで効果が出ています。とはいえ、バラストに草を生やしちゃったのは「蛇足」ですね。ローカル線っぽくしたのでしょうが、この時代はローカル線と言えども手入れが充分に行われていました。もうちょとと学習しましょう。


で、すれ違った方のD6028号機の牽引する下り貨物列車を、遠方の後追いで。これは、モノクロだとつまらなくてどうしようもない捨てコマみたいな感じですが、日本の田舎の景色を良く学習したと思われるアドビのAI君だけのことはあって、カラー化したら「こういうレイアウトが作りたいな」と思わせるような、詩情溢れる絵面になりました。ということで、初出です。西日本らしい瓦屋根の集落を廻り込むような線路の築堤。はるか彼方に、そこを走り抜けてゆく蒸気機関車。その背景に広がる里山。本当にHOスケールでこれを作ろうとすると、小学校の体育館ぐらいのスペースになってしまい絶対に無理なのですが、これを部屋の中に再現したいという気持ちを湧き起こらせるには充分です。これはカラー化した意味がありますね。


今度は筑前垣生-筑前植木間の垣生公園の脇を行く、若松機関区のC5552号機が牽引する上り貨物列車。これは全く同じカットをモノクロで掲載しています。モノクロはちょっと眠い感じのトーンですが、カラー化したらちょっとシャープな感じになりました。枯草・枯木の表現も悪くないです。今回、前よりもカラー化にかかる時間が若干長くなったような印象なのですが、やはりいろいろ進化しているのでしょう。得意分野を中心に選んだこともありますが、今回は「こりゃちょっとなあ」というのはありませんでしたし、それなりのまとまりや味わいを感じさせるアウトプットが多かったと言えるでしょう。ところで信号にはほんのり緑を載せてきているような。三灯式なので上が緑で正しいのですが。果たして学習したのか。


最後はこれも初出のカット。先程の>C5552号機が牽引する上り貨物列車の後追いです。これまた鉄道写真とは言えないカットですが、模型ファン、貨物ファンには貴重な記録に溢れています。これの一番の見ものは、セキ3000が編成中に一輛だけ組成されている点でしょう。道外禁止以外の本州・九州・四国の黄帯ロ車は、基本運用区間・運用列車限定のはずですが、車扱のごとく混じっています。北海道では中小炭鉱発のセキが混じっていることもよくありますが、九州でも1輛での使用があったという証拠になります。心なしか黄帯が黄色っぽく見えるような気も。目を凝らすと、踏切待ちの車列にはオート三輪がいますね。これも貴重な記録です。


(c)2024 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


「記憶の中の鉄道風景」にもどる

はじめにもどる