アジア・環太平洋 ミュージックマーケット
についての基本的考え方









90/04/20  







1.このイベントのポジショニング


国際社会における、アジア/極東地域の今後

a.世界のハイテク基地として、エレクトロニクス、バイオなどの先端産業の中心地域
 となり、21世紀の生産をリードしてゆく
b.人口と経済発展力による購買力の伸びを背景に、世界最大のマーケットとなり、21
 世紀の消費をリードしてゆく
c.高度消費社会を支えた近代西欧文化に代わる、ポストモダン文化の発信地となり、
 21世紀の精神文明をリードしてゆく


音楽エンターテイメントビジネスにおけるアジア/極東地域の位置付けは、他の産業、
そして文化と同様、ますます大きく、そして重要になってゆく





 このトレンドは、すでに数年前から現実のものとなっており、その傾向はますます強くなっている。

・楽器、民生用AV機器、スタジオ・放送用機器といった、ミュージックエンターテイ
 メントビジネスを支えるハードウェアは、どれをとっても、極東のハイテク諸国の
 製品が、世界市場を制覇している

・市場規模としても、アジア・オセアニア地域のソフト・イベントなどのミュージック
 ビジネスの売り上げは、ヨーロッパを抜き、北米地域につぐ、世界第二のマーケット
 となっている。

・エスニックミュージックブーム、ワールドミュージックブームにのり、アジアの民族
 音楽が注目されると同時に、民族性を反映した各国のポップミュージシャンの世界
 市場への登場が続いている。



これだけのバックグラウンドができているにもかかわらず、世界の音楽ビジネスに
おいてのアジア/極東地域は、現状ではまだ表舞台に立つことはなく、リーダーとも
いえる日本のエンターテイメント市場さえ、規模こそアメリカにつぐ世界2位を
誇っても、ソフトの面では全くの買い手市場であり、世界マーケットではマイナーな
存在感しか持っていない


これを乗り越えるには、われわれ自身がマインドアップし、
アジアの側から情報を発信してゆくことが必要である





2.現状の課題とイベントの基本コンセプト


(1) アジアの音楽ビジネスがかかえる課題


 アジアの音楽ビジネスは、現状では次のようないろいろな問題をかかえており、これらの課題を解決することが、今後の音楽マーケット、エンターテイメントマーケットの発展の基本となる。

a.著作権・著作隣接権に関する秩序の確立

 ここ数年、特にコンピュータ関係のビジネスが発展したことを背景に、貿易摩擦等の進行なども影響し、アジア諸国でも著作権に関連する法体系の整備が、かなり進んでいる。しかし、音楽ビジネスの基盤ともいえる隣接権などについては、日本を含め、まだまだ未整備な部分も多い。これが、音楽産業のメジャーから見て、アジアの市場が魅力あるものとなっていない要因でもある。アジアからの音楽情報の発信が新たな貿易摩擦の原因とならないためにも、著作権関連の環境整備が必要である。

b.音楽制作者の地位の確立

 アジア地域の音楽ビジネスにとっては、過去における各国の音楽産業の事情等もあり、本来、ソフト制作においてリーダーシップをとるべき音楽制作者の立場は、比較的弱い地位に甘んじている。このような状況では、世界に対し情報発信をしてゆく場合、リーダーシップをとることができず、交渉面で不利なものとなる。したがって、音楽ビジネスの当事者としての音楽制作者の地位を確立することが必要である。

c.メディア環境の変化への対応

 アジア地域は、ヨーロッパなどに比べると地理的な広がりが大きく、また、海により隔てられた地形も多いため、今までの交通や通信の技術では、一つの地域としてのまとまりをとることはむづかしかった。しかし、現在では、台湾・韓国・中国などで日本の衛星放送が見られていることからもわかるように、メディア技術の進歩により、コミュニケーションのインフラから見れば、文字通り一つの地域となりつつある。これは、アジアにおける音楽ビジネスの状況を大きく変える可能性があり、積極的に対応してゆくことが必要である。




(2) アジアの音楽ビジネスの現状


エンターテイメントビジネスの成熟度は国により異なり、

1.完全にビジネスシステムとしてエスタブリッシュされている欧米諸国
2.個々の担い手は成長しているが、システムが整備されていない日本
3.個々の担い手さえ未成熟なアジア各国

というように、それぞれの国で発展段階が違うまま、世界市場を形成している。このため、日本およびアジアのエンターテイメント市場では、次のような問題が発生している。

a.日本から、世界へ進出しようとしても、業界としてのまとまりがないため、バック
 ボーンとなるものがなく、単独での進出しかできず、足元をみられ成功しない。
 ましてや、アジア各国では、単独でのトライの機会を持つことも難しい。

b.日本を中心とするアジアマーケットは、メジャーからは、単なる売場としか見られて
 いないため、その規模にも関わらず、たとえばアジアのアーチストが日本で成功して
 もメジャーからはプロモーション的意味を持たず、世界での成功につながらない。

 これらの課題については、日本国内においてさえ、まだ解決されていないものも多く、アジアの業界が一つにまとまってゆく前提としては、まず、日本国内において、関連業界が足並みを揃えて一つにまとまり、システマティックな秩序を作ることで、これらの問題を解決し、各国のソフト制作者が進むべき道を、われわれ自身が具体的に示す必要がある。




(3) イベントの基本コンセプト


 極東を中心とし、アジア、オセアニア地域から、環太平洋というカタチに視点を広げてゆくと、世界のミュージックビジネス・エンターテイメントビジネスの本拠地である、アメリカ・ウェストコーストも射程に入ってくる。これこそ、今後の世界のエンターテイメントの基本構図ともいえるものであり、アジアの音楽エンターテイメントを、ウェストコーストの持っている、ワールドワイドなショービジネスシステムを通じて世界に届けるものである。その前提としては、アジアの音楽ビジネスが、情報発信の基盤となる、確固とした一つの共通の場を持つ必要がある。


このイベントが作るのは、

「アジアの音楽ビジネスが、共に語りあう場」

である。


 このイベントは、アジアの音楽ビジネスが一つになり、共に語りあうきっかけとなることを目指しており、これを具体化するためには、以下のようなコンセプトを基本におく必要がある。

・アジアにおける音楽ビジネスと、市場秩序の確立のための具体的なステップ作りと
 なるような提言を、各国の音楽業界および、興業、放送などの周辺業界に対し行う。
・単なるお祭りや顔見せではなく、このイベント自体が、最初のアジアからの情報発信
 となるようなクォリティーの高いショーとなることを目指す。
・このイベントに集まったパワーが、新たなビジネスチャンスを生む活力とするべく、
 メッセのような実際の商談の場を設け、出会いの機会を生かす。
・日本の音楽業界が、現在おかれている国際的役割を再認識し、それをおごることなく
 果たすことができるよう、小異を捨てて大同につくことができるための機会とする。
・固有のエンターテイメント文化とハイテクノロジーの融合から生まれる、新しい
 アジアのイメージを、ソフトとして世界に提供するきっかけとする。

 このような目的を満たすため、イベントの実施に当っては、継続的な実施と情報発信が行なえることを、第一の目標として計画をたてる。





3.イベントとアジア音楽文化財団(仮)


(1) 文化活動の社会的意義


 上にのべたように、アジアのミュージックシーンがかかえている問題に関して、パブリシティー効果を図り、世界的なマインド・アップにつなげるためには、イベントの実施は効果的である。しかし、自らの手による、真の文化交流、情報発信を実現するためには、継続的にイベントを行なうことは当然のこととしても、それを包む「傘」として、商業的な目的だけに限定されない、長期的視野にたった、いわば相互の信頼関係に基づく共通基盤を確立し、世界に共感を呼び起こせる「文化」を作り出す活動を行なう必要がある。

イベントと並行して、アジア地域の音楽文化の育成を図る財団を設立し、
日本とアジア地域の、音楽の領域における新しい大衆文化の担い手を育成する


アジア音楽文化財団(仮)の設立





(2) 財団の基本理念


 現在、日本経済の国際化により、わが国の企業では、海外を拠点として活動することが多くなってきている。その中で、アジア地域は、生産拠点として、重要な位置を占めている。しかし、生産拠点としての役割は、ともすると効率主義と結び付き、地元の人達の生活や文化を無視しがちである。これを防ぐためには、つねに、投資先の国々の文化を理解・尊重し、それを育ててゆく姿勢をもつことである。この財団は、このような文化交流を、衆の心と密着した、「大衆文化」という視点で行なってゆくことを主眼としている。

○財団の運営と活動

<運営>

・アジア地域に進出している、製造業を中心とする日本企業からの寄付金で運営し、
 それぞれの企業の寄付金が、それぞれの進出地域で使われるようにする
・日本に総事務局をおき、ここで全体の活動計画をたてるとともに、アジア各国に現地
 の放送局・レコード会社等の協力の元に、独立運営の事務局をおく

<活動>

・地元の大衆音楽の、日本・アメリカ・ヨーロッパ等への紹介を後援する
・若手音楽家を集め、選抜コンテスト等により、アメリカ・ヨーロッパ・日本等への
 留学や、それらの国でのデビューのチャンスを与える
・アジア各地に、ポップミュージック学校や、ホールを建設することを目指す
・財団活動についての積極的なパブリシティーを地元で行ないイメージアップを
 行なう。
・活動は、日本にこだわらず、世界的な視野から行なうことで、中立性を保つ




(3) 当面の運営方針


 財団の積極的な活動を将来とも保証するためには、運営の基礎固めが大きな課題となる。このため、設立当初は、基本理念を実現するための方策として、日本国内において、次のような活動を行う。

・メジャーと対等に交渉ができるバックボーンとしての、国内業界の共通基盤の確立
・国内業界のまとまりを前提とした、アジアでのリーダーシップの確立
・各国のミュージシャンにチャンスを与える、「日本発のサクセスストーリー」作り
・「ハードで金儲けをするだけの国」から、イメージアップするためのキャンペーン




4.イベントの展開例


 以上のようなコンセプトをもとに、イベントの展開例を想定してみると、次のようなものが考えられる。

○国際著作権シンポジウム

・この分野に強い、国際的な法学者・弁護士をコーディネーターとして開催
・アジア諸国と、西欧諸国の、法学者、法曹実務者、および、音楽関係者が一同に
 会し、現状の著作権関連の法律・条約体系の問題点および、今後のあり方を探る。
 特に、ニューメディアにより、過去の「国境」が無意味化してゆく状況への対応を
提言する。

○各国音楽制作者・音楽関連事業者によるコンベンション

・日本初のソフトのメッセとして、各国の業界関係者をターゲットに開催する
・各国の放送局、レコード会社、プロダクション、興行主、映画・ビデオ会社などが
 出展し、実際の買付けの場となるソフトの見本市と、各国の関係者による、講演会、
 パネルディスカッションを組み合わせたイベントとする
・アメリカ・ヨーロッパを中心とするショービジネスのメジャーにも参加を仰ぎ、交流
 を深めると共に、アジアの業界が団結した力を背景に交渉を行える、実際のビジネス
チャンスの場とすることを目指す。

 以下に述べる、「機器メッセ」、「音楽イベント」も、この業界コンベンションと連動して、具体的な「モノ」を見せる場として実施する。

○音楽イベント

・ポップミュージックフェスティバル
 日頃、伝統芸能に比べ、紹介される機会の少ないアジアン・ポップスにスポットを当て 開催する。各国の人々が、いちばんトレンディーに楽しんでいる音楽を、日本に集め、ひとまず日本市場での着目を集める機会とする。

・アートミュージックフェスティバル
 アジアにおいては、特に注目されることが少なかった、現代音楽、フリージャズ、実験音楽などの現代芸術音楽の現状を紹介する。これらのミュージシャンの交流の場としても位置付け、新しいトレンド発信のきっかけとする。

・「財団後援留学生」選抜コンテスト
 財団のイベントであり、各国の優秀な音楽家の卵の中から、留学生の選抜を行なう。

 これらの音楽イベントは、よくある音楽祭形式や、コンピレーションイベントではなく、彼らの通常のコンサートと同じ形式で、1コンサート1アーチストで実施する。したがって、アジアン・ミュージック・ウィークのようなものを定め、期間中、ライブハウスから、大型ホールまで、ミュージシャンのカラーに合わせた会場で、マルチに展開する。
 これらのイベントは、衛星等を通じて、アジア各国に中継するとともに、アメリカ、ヨーロッパ等でのオンエアも行うことで、情報発信の具体的な機会とする。

○楽器・オーディオ機器の見本市
 たとえば、世界的な楽器のコンベンションとしては、アメリカのNAMMショー、ヨーロッパのフランクフルトメッセの両者があげられる。日本では、2年に一度開催される楽器フェアがあるが、これはあくまでも国内向けの見本市であり、国際コンベンションにはなっていない。これは、オーディオや、放送機器などについても同じような状況である。
 このため、国際規模の楽器・オーディオ機器等のコンベンションを開催し、名実共に、この分野のマーケットにおいて、リーダーシップの確立をめざす。




5.イベントの実施運営の基本案


(1) 実施日程案


 土曜から、翌週日曜までの9日間をイベントウィークとした場合、たとえば、つぎのような展開が考えられる。

  1週目 2週目
  土曜日曜月曜火曜水曜木曜金曜土曜日曜
公式パーティー開会        閉会
著作権シンポジウム       
制作者コンベンション     
ソフトメッセ      
機器メッセ      
イベント・ホールA poppoppoppoppoppoppoppoppop
イベント・ホールBartartartartartartart財団財団
ライブハウスApoppoppoppoppoppoppopoppop
ライブハウスBartartartartartartpoppoppop

(会場について)
・公式パーティー、シンポジウムは都内のホテルで実施
・制作者コンベンションとソフトメッセは、同時に開催可能なホテルまたは、
 コンベンション施設で実施
・機器メッセは、首都圏のコンベンション施設で実施
・ホールは、音響条件のよい都内のホールの中から選定する




(2) 運営のポイント


 各イベントは中立性を保ち、毎年の反復開催を可能とするため、基本的に、単独のコンベンション、コンサートなどと同じような独立採算により運営する。

・シンポジウム  :参加者の参加料
・コンサート   :入場料収入と、放映権・ビデオ化権料
・コンベンション :各ブースの小間代

各イベントには、通産省・郵政省をなどの関係官庁の後援を取り付ける

コンベンションは、エンターテイメントと直接の関係の薄く、かつ、コンベンション運営にノウハウのある新聞社(日経など)を主催者として実施することも考えられる。

著作権シンポジウムは、音楽のみならず、著作権に関連する諸団体(ビデオ協会、MPAAなど)の後援をとり、権威を高めるとともに、周辺からの動員を図る。

コンサートは、個々ではなく、全体を通して冠スポンサーをつけることも検討する。
また、イベントが開催できる小屋をもつ大企業(パルコ劇場・クワトロ/セゾングループ、BUNKAMURA/東急グループ、サントリーホール/サントリーなど)とタイアップを図り、スペース展開から仕組みをつくることも考えられる。

コンテストは、客観性と寄付各企業の立場を考慮し、財団の独自運営により行なう。

この期間は、世界の業界人が日本に集まるため、関係者によるプライベートパーティーの開催も多く考えられるため、これについても事務局で便宜を図る。

イベント全体の成否のカギは、事前のパブリシティーによる、アジアへの関心の高まりにあり、この部分は、特に綿密な戦略が必要である。

この手のイベントは、単なる花火になり、1回だけで終ってしまっては逆効果になり、かえって、悪印象を残しかねない。このため、無理をして大きいイベントにするより、小さくてもバランスのとれたイベントを組み合わせて、毎年、着実に継続しながら、だんだんと、規模を拡大してゆける仕組みを作る。



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