商品作りの秘訣



○お店の個性で勝負する時代
あなたのお店には「個性」はあるか。こう問われたとき、あなたは「はい」と自信をもってこたえられるだろうか。いまやどんな業態のお店でも、他のお店とは違う確固とした「個性」がなくては生き残れない時代になっているのだ。
なぜ「個性」が大事なのか。それは他の店にない「個性」があれば、自分の店の「常連」のお客さまを持つことができるからだ。このように、いつもあなたのお店をひいきにしてくれる「ストア・ロイアリティー」の高いお客さまを、ひとりでも多く獲得できれば、独自の経営基盤を築くことができる。それは、結果的に安定した経営を可能にしてくれる。なぜ他の店でなくあなたのお店にやってくるかという、明確な理由がなくてはだれも来てくれない。
この、お客さまをひきつける力をもたらしてくれるモノこそ、お店の「個性」なのだ。「個性」のない店にとっては、お客様への武器は価格競争しかない。いったん価格競争に入ってしまったならば、よほどスケールメリットの出せる店以外生き残れないのは明白だ。強大な資本力やチェーン店舗数など、スケールメリットを持っているお店なら、価格の安さを「個性」にするのも一つの手である。しかし、それ以外の中規模、小規模のお店が生き残るためには、あなたのお店をいかに個性的なモノにするかにかかっている。

○「個性」のカギは商品作りだ
ではこういった中規模、小規模のお店にとっての「個性」は、いったいどこから生まれてくるものなのだろうか。「個性」をかもし出す要素としては、店の作りや雰囲気もたしかに重要ではあるが、やはり商品がカギになる。どんな商品を売っているか、他にない商品がどれだけあるかが「個性化の決め手」なのである。
しかし、飲食店やサービスを提供する業種を除くと、お店は直接「商品」を作っているメーカーではないのがふつうである。もちろん、製販一体で営業している和菓子店など、一部のお店ではオリジナルの商品作りをやっているところもあると思うが、商品を仕入れて販売しているお店が大部分を占めているだろう。
したがって、基本的にはどの商店でも仕入れられるマスプロダクトの商品を販売していく中で、どのようにしてお店の個性化を行なうかが重要な戦術になる。そのためには、もうおわかりのこととは思うが、マーチャンタイジングしかない。マーチャンタイジングの「個性」が店の「個性」を生むのだ。

○マーチャンタイジングにおける「個性」とは
マーチャンタイジングでお店の「個性」を発揮するには、品揃えの中になんらかの「主張」がなくてはいけない。「主張」そのものは、どんなモノでもかまわない。個々の商品に共通するテイストでも、いろいろなジャンルの商品の中に共通するコンセプトでも、何だっていい。とにかく、限られた広さの中に、限られた点数の商品しか並べられない中で、お客様に向かってなんらかの「主張」を発信することが重要なのだ。はやりのコトバでいえば、「情報性」のある品揃えともいえるだろう。
さて、個性ある品揃えを考えるためには、その対局にある「没個性」型の品揃えとはなにかを考えてみるのがはやい。品揃えの個性の否定から生まれたモノといえば、コンビニエンス・ストアがある。徹底したPOS管理により、同じチェーンのお店なら、どこへいってもいつでも同じモノが手にはいる。これがコンビニエンス・ストアのコンセプトである。
確かにコンピニエンス・ストアは、売れ筋の上位商品に特化して品揃えしてあるので便利だが、客を呼ぶ力については「立地」しかない。どのチェーンでも、売っている商品にはほとんど違いがないので、お客さまはわざわざ遠くのコンビニまで行くということは考えられない。まあ、近くのお店でちょうど売り切れだったので、仕方なく別の店にゆくということはあるかもしれないが、基本的には自分の家から一番近いか、通勤通学の道すがらにあるか、どちらかの店をひいきにすることになる。

○商品の個性と集客力
これは実は、コンビニエンスストアのような商品戦略をとる限り、お店自体には独自の「集客力」がないことを意味している。「どこにもあるお店」では、お客さまはよべないのだ。つまりお客さまがわざわざ来る気持ちを起こす店かどうかという「ストア・ロイアリティー」のカギは、個性的な品ぞろえにあるのだ。
このお店は、他の店にはないものがある。このお店は、自分の趣味にあうものばかりある。こういう気持ちを感じさせるお店ならば、お客さまは遠くからでもやってくる。このグッドサイクルを築いてはじめて、立地条件などに規定されてしまう「商圏」を越えて、経営基盤を確立することができるのだ。
また、わざわざ電車代をかけたり、クルマに乗ったりしてまで来るというコトは、いいかえればお客さまがそれだけコストをかけてもいいと思っているコトになる。豊かな時代になった現代の消費者は、本当に気に入ったもの、趣味にあったものならば、価格だけみれば多少割高だとしてもそっちを選ぶ。気に入らないシャツはいくら安くてもかわないが、趣味にピッタリのシャツなら、多少高くても思い切って買ってしまう。
これは、お店の側から考えると、お客さまの気に入ったものをそろえることができれば、「高付加価値経営」が可能になることを意味している。個性ある品揃えは、価格競争を脱して、利益率の高い経営も同時にもたらしてくれるのだ。

○個性的な商品作りのために
個性的な品揃えのためには、なによりも商品選びにオーナーや店長のセンスがいきていなければいけない。あなたの顔や主張がその中からみえてくるコトが第一歩になる。しかし、ともすると、お客さまの志向とかニーズとかに合わせることを考えがちである。実は、そんなモノに合わせることは不可能である。お客さまの心をつかんでいるつもりでも、中途半端に終ることのほうが多いのだ。つまり「平均的なお客さまの好み」はわかるかもしれないが、実は「すべてにおいて平均的な」お客さまなんて実在しない。それはイメージの中だけの産物なのだ。
それより、確実につかまえることができる、「あなたのセンス」なり、「あなたの好み」を全面に押し出すべきである。それならば、少なくともそういう好みを持った人間が、この世に実在していることは保証付きだ。そして、あなたに共感できるヒトなら必ずついてくるはずである。
問屋やメーカーの営業マンの勧めてくる「売れ筋」にとらわれずに、自分の気に入ったものだけを選んで仕入れる。こうする中からお店の個性が生まれてくる。たとえばアパレル関係なら、自分のセンスにあったものだけを複数のブランドから仕入れる。書店なら、自分が納得したミステリーばかりを仕入れる。というようなやりかたである。
商品ジャンルを越えて、ある一つのテーマに徹底してコダわるやりかたもある。たとえば、猫に関係した商品を徹底して集めたお店、ローバーミニに関係した商品を集めたお店といった個性化は、小さくてもマスコミなどで話題になっている店には多い。それだけでなく今後はもっとテイストに特化して、ブリティッシュトラッドのテイストに徹底してコダわり、ファッションやグッズだけでなく、食器とか家具とかまで含めてそろえるお店などというやりかたも多くなるだろう。

○もう一つの個性的な品揃えとは
さて、個性化はなにも先端的なお店にしなくてもできる。地元密着型でも、個性化は可能なのである。それは、まさにコンビニエンスストアの逆をやることにある。売れ筋の「穴」を読んで、そこに特化した「ニッチ型」の品揃えをやるのである。
一般的にはPOSデータは、コンビニエンスストアでやっているように、売れ筋、死に筋の商品を読み取るのに使われることが多い。そして売れ筋に特化して仕入れるのである。しかし、POSデータの使いかたはこれだけではない。よくPOSデータをみると、その店独自の「特異点」といえるような傾向があるはずである。
たとえば弁当類の中でも、ツナお握りが、売り上げ総量そのものはそう多くないのだが、異常に完売率がいいとか、からあげ弁当の順位が、他の店とは違ってなぜか高いとか、そういう類の傾向である。
これは、その地域に特有の傾向を示しているわけである。単に順位だけでなく、時間的な変化とか、中下位商品の傾向とかに着目することで、こういうデータも読み取ることができる。この傾向を生かした品揃えができれば、地元に密着した店の個性を作ることができるのだ。
今の時代、商品の個性はメーカーが作った時点で決るのではなく、お店がどういう品揃えをするかで決る。品揃えによって付加価値がまったく違うのだ。「その」商品がほしいヒトは高くても買うが、そうでないヒトはどんな安くても買わない。ちょうど骨董品が、マニアには宝物だが、一般人にとってはタダのゴミにしかみえないのと似ている。こういう時代の品揃えは、単に「売れるものを並べる」ではダメなのだ。個性的な品揃えの中から、他の店とは違う売れ筋をつかもう。



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