接客テクニックの極意



○「付加価値」が生き残りのカギ
安定成長がベースとなった現代では、かつての高度成長期のような売り上げの拡大は期待できなくなっている。こんな時代に経営基盤を確固なものとするためには、同じ売り上げ高でも、どれだけ多くの利益を確保できるかがカギになる。今や経営は利益志向の時代になっているのだ。
つまり、薄利多売で売り上げの拡大を計るのではなく、同じモノを売ってもどれだけ利益を出せるかが勝負になる。同じモノをどうしたらより大きな利幅で販売することができるか。この答えを見つけたものが、もっとも効率的な経営ができるのだ。
このためには「付加価値」が大切になる。お客さまが「付加価値」と感じられるものを商品に込めることができれば、同じ商品をより高い価格で販売できる。価格競争のジレンマから逃れ、高い利益率を確保しながら販売することができるのだ。しかし、流通における「付加価値」とはどこにあるのだろうか。
直接商品を生産しているメーカーならば、よりお客さまのニーズに密着した、心に訴える商品を開発することで、「付加価値」を高めることができる。しかし流通業では、メーカーと違って商品そのものを変えることはできない。同じマスプロダクトの製品を販売するしかないのだ。その中で、他のお店と「差別化」のカギになる「付加価値」をつけていかなくてはいけないのだ。
お店における「付加価値」、それはお店で提供している「サービス」で決る。今やお客さまは、「サービス」は無料だとは思っていない。本当にやってほしいサービスであれば、それに見合う対価を支払ってくれる。だから高い利益率は「お金をとれるサービス」から生まれるといいかえることもできるのだ。

○お客さまの欲しているサービスとは
今や、商品の機能は高度化し、複雑でわかりにくいものとなっている。このため、世の中には二種類のお客さまがいるようになってしまった。一方では、その商品についてマニアックなまでの商品知識を持っていて、何でも自分でできてしまう、サービスのいらないヒト。もう一方では、あまりに商品が難しくなったために、一体自分のニーズを満たすためにはどの商品が適切なのかさえわからないヒト。この二つのタイプのお客さんは、当然お店に求めるものもまったく違う。
前者のマニアックなタイプのお客さんにとっては、いろいろお店のヒトにいわれることすら面倒に感じられる。当然、全部自分でDIYでやるからサービスはいらない、安いほうがいいというコトになる。「保障なし、サポートなし、だか価格は抜群に安い」という、ショップブランドのDOS/Vパソコンの販売は、このような「プロフェッショナルな消費者」にターゲットを絞ったからこそできたものだ。
後者の土地感がまったくないタイプのお客さんは、逆に、お金を出してもいいからいろいろ面倒をみてほしいというコトになる。つまり後者のヒトは、高くても「サービスのいい店」で、モノを買いたいと思っているのだ。こういうひとたちの悩みをウマく解決する機能が流通にあれば、同じモノをより大きな利幅で販売することができるようになる。このサービスを実現するものこそ、'90年代の接客テクニックなのだ。
接客テクニックが、ほしいと思っていないお客さんにも商品を押し込むためのモノだったのは、売上高だけを重視していた「量の経済」の時代のコト。今こんなコトをやっていたのでは、お客さまは逃げてしまう。付加価値をお客さまに提供するコトが「質の経済」の時代の接客テクニックなのだ。

○お客さまの気持ちを見抜く
お客さまの欲しているサービスを提供するためには、なによりもまずお客さまの気持ちを見抜くコトと、お客さまの必要としているものに具体的な答えを出せる対応が必要になる。このためには、紋切り型の決り切った対応ではダメだ。
お客さまへの対応について、きまりきったサービス手順を定型化して、サービスのレベルを高めようという「マニュアル化」は、'70年代から多く試みられるようになった。大量販売を目的とするならば、このようなやりかたも大いに効果的だったといえるだろう。しかし、サービスの質自体が問題になると、こういうやりかたでは対応できない。
もっとも、ディズニーランドのマニュアルのように、いろいろなお客さまのニーズに対応して、それぞれの状況における対応をすべてマニュアル化すれば不可能ではないが、個々のお店レベルでこのような作業をやるのは効率的とはいえない。やはり、従業員の教育の中で「接客テクニック」の向上をはかって、あらゆるお客さまのニーズにこたえるコトが必要になる。
この場合、もっとも重要になるのは、お客さまがなにを求めているか一瞬に見抜くことである。お客さまが困っているところ、ひっかかっているところ、悩んでいるところ。それがなにかは、お客さま自身はっきりとはわかっていないことが多い。だから、ウマくお客さまの気持ちをつかみ、どこにボトルネックがあるのかを迅速につかみとることがまず必要なのだ。

○接客テクニック向上のポイント
いったんお客さまのニーズをくみ取るコトができたなら、次はそのニーズにあったベストの答えをお客さまに返すコトが求められる。このためにはお客さまの相談にのる「カウンセリング」機能が必要になる。お客さまと親身になって相談することは、必ずしもすぐにお金に結び付くわけではないし、はっきりいって効率が悪いかも知れない。
しかし、長い目でみることが必要なのだ。お客さまの身になった対応は、けっきょくはストアロイアリティーを高めるコトになる。どこでも買えるものだからこそ、ストアロイアリティーは重要になる。おまけにストアロイアリティーが高いお客さんなら、多少高めであっても、自分が気に入ったお店で購入してくれるのだ。
では、カウンセリング機能としては、どういうモノが求められているのだろうか。まず、お客さまの「迷い」をときこたえを与える機能がある。いくつかある製品の中から、自分にとって一番いいのはどれなのだろうか。製品についているこの機能は、自分にとって役にたつものなのだろうか。自分が求めているコトを実現するためには、製品のどの機能が必要になるのだろうか。こういった問題に対し、「売らんかな」という「売る側の論理」でなく、お客さまの身になって考えるコトが求められている。
この「お客さまの身になって」という視点は特に重要である。こういうタイプのお客さまは、商品知識はないものの、「売る側が自分の身になって考えてくれているかどうか」にはとても敏感なのだ。だから、「口八丁手八丁でだまして売ってやろう」などというおごった気持ちがちょっとでもあると、すぐに見抜いてしまい、そっぽを向いてしまう。これでは、あなたのお店にはお客さまはよりつかなくなる。
さて、カウンセリング機能として次に求められるのは、お客さまのしてほしいことを実現する機能だ。これは、どの商品が自分にピッタリなのかわかった上で、実際の商品とともに、あるいはアフターフォローとして提供するサービスである。
たとえば、すぐに使えるようにする商品のセットアップとか、使いかたの説明とかいったものがここに含まれる。この機能は、なにも無料でやる必要はない。基本的には「サービス」だけでもお金がとれるようになるのが理想である。お客さまは、お金がかかっても、こういうアフターフォローできちんと対応してくれる店で買いたいと思っているのだ。
逆にいうと、こういうアフターサービス機能を充実させ、お客さまが他のお店で購入した商品についても「有料」で対応するようにしておけば、こういうお客さまがストアロイアリティーを持ってくれることにつながるメリットもある。

○接客テクニックに必要となる資質
このような接客テクニックを実現するためには、店長や従業員に対し、どんな資質が求められるのだろうか。まず一つはなによりお客さまの気持ちをわかり、お客さまの立場でものをみることができるバランス感覚である。実はこのセンスは流通業に限らず、あらゆるビジネスの原点ともいえるものだ。だから、こういうセンスを磨くことは、「ビジネスのプロ」になることともいえる。
もう一つは、取り扱っている商品についての、専門的な知識や技術を身につけることである。このような専門的なノウハウがなくては、お客さまへの的確なアドバイスは不可能である。これは文字通り、「その商品についてのプロ」になることである。
いまや、押売がうまいだけの「売りのプロ」は、消費者相手のビジネスでは通用しない。「ビジネス」と「商品知識」、この二つの面で「プロフェッショナル」になることが、お客さまから求められているのだ。質の向上と、能力の向上。中身で勝負することが、情報化時代の接客テクニックなのだ。



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