古代祐三インタビュー





<古代流の作曲術>

Q:ゲームミュージックをつくるときになにから作りますか?

やっぱり、ぼくは「曲」を作っているんだと思う。最初はメロディだ。そこにサウンドも同時になっている感じで湧いてくる。情景のイメージにあわせてね。昔は、ふつうの音楽みたいにメロディから作っていた。それに和声部をつけるという感じでまとめていった。でも最近は、メロディだけというよりは、リズムと一緒に入ってくる感じだね。

Q:作曲するときはどんな感じで湧いてくるんですか?

曲のイメージ自体は、ところかまわず湧いてくるんだ。で、それを書き留めておく。音符で書くのは面倒なので、MMLの文法でメモるんだ。五線紙とかないところで、雑に音符を書くとあとでよめなくなっちゃうからね。位置がずれたりして。まあ、速記でかくようなものだね。そういう意味じゃMMLって便利だよね。

Q:内蔵音源みたいに音数が少ないと、ベース、リズムは固めやすいけど、和音ができないので困りますよね。

やっぱり内蔵音源には限界がある。FM音源は発声音数が限られているので、コード感をだすのがとても難しい。もともと和声とか勉強していたから、最初は辛かった。ほんとに自分のイメージしている和声感を出そうとしたら、サウンドボードIIでもだせない。でも、内蔵音源だからといって妥協するのいやだ。そこで最近では、内蔵音源でも比較的イメージ通りの音楽が作れる、リズム中心のサウンドを目指している。ヒップホップ系のダンスミュージックとか、わりとその手のリズムナンバーがトレンディーということもあるし。ということで、最近はサウンドイメージからはいって、それに歌をつける感じでつくっている場合が多いね。

Q:ゲームの種類によって作風が違うようですが 、資料重視で作るのですか?

だいたい、企画書をもらって、原画をもらって、実際の画面をもらってからでないと、イメージがわかないよね。ゲームのテンポが見えてこないと、曲のテンポもでてこない。だから、ゲームのイメージにあわせて曲を作っているということになるよね。

Q:内蔵音源だと音が限られるので、音色が決め手になると思うんですけど、どういう感じで音色を作りますか?

好きな音色のストックとかは特に作ったりしないなぁ。思い付いたアレンジにあわせて、イメージに合った音色を作っていく方だね。曲があって音色がある、というタイプかな。

<作品にまとめてゆくポイント>

Q:曲をまとめていくときのポイントにしているのは?

ふつうの音楽に近い形で曲は浮かぶワケだから、どれだけそこに近付けるかに一番こだわっている。やっぱり、コードなんかで変化をつけたいけど、できないということも多い。リズム中心にすると、和声感はあんまりなくてもメリハリはつくけど、今度は、同じアイディアで作った曲は、似てきてしまうという問題がある。リズムだって、いろいろ鳴らせば音数を使うわけだしね。そこを調整するのが、難しい。「単調だ」とかいわれて、リテイクになった曲もたくさんあった。

Q:リテイクは素直に?

自分でもやっぱり不本意なものが没になりやすいし、そういう場合は理由もわかるしね。ただ、これは絶対に自信作だってときは、ゲームの進行とかとあわせてもう一度じっくり聞いてもらったり、作曲意図を説明したりする。

Q:「ゲームミュージック」という制約はどうとらえていますか?

ふつうの曲にくらべると、いろいろな面でどうしても劣る。これはしょうがない。でもその中で、満足のいける作品をどう作るか、というのが自分に課せられた課題だと思っている。自分で楽しむものじゃだめで、人に聞いてもらえるものを作らなくちゃいけないわけだからね。画面から浮いてもダメだけど、画面から離れたときに、間が持たなるようでもダメだよね。

Q:そのためのチェックポイントは?

どれだけ曲としての味わいというか広がりがあるか、どれだけゲームのイメージと密着してそれを広げているか、限られた制約を逆手にとってそれを活用しているか、といったところかな。ゲームにあっていても、ゲーム外したときに聞けるかを考えて没にした作品がも多い。

Q:制約があることが、やりがいにもつながっているんですね。

本来そういう制約がなくても、人に聞かせる音楽を作るのは難しいのに、その悪条件は、なかなかつらい。でも、そこをアイディアでなんとかするところが面白くて、またやる気が湧くんだよね。毎回いつも「これで限界だ」とか思うけど、次にやると不思議とまた新しいアイディアがでてくる。いつも実験、実験という感じできてるけど、なかなか「これだ」というところにはこない。

Q:最近アメリカではMIDIを使ったゲームミュージックも多いですが、ご興味は。

ある、スゴく(笑)。近い将来やってみたいと思っている。やっぱり、内蔵音源+MMLでいく限り、和音が表現できないという限界があるからね。これはこれで、色を使えない「墨絵」みたいなもので、逆に表現欲をかきたてられるところもあるけどね。

<アートとテクノロジーの融合>

Q:やっぱり、パソコンの内蔵音源と出会って、創作意欲がかきたてられたという面が強いのですか?

ふつうの音楽に比べると、内蔵音源は単調というか、間がもたない。だから、内蔵音源で曲を作るのはとても頭を使う。パズルを解くみたいに。そこが魅力というか、ワクワクするんだよね。誰でもやっているようなふつうの音楽みたいに、感性をぶつけるだけでは、なんか燃えなかった。イマイチ自分の世界じゃない気がした。機械的な部分、メカっぽい部分も好きだからね。自分の中の音楽的な部分と、メカ好きな部分が同時に刺激されるというのがやっぱりポイントかな。

Q:右脳と左脳のバランスから、古代さんらしさが生まれるワケですね。

ゲーム業界では、ふつうの音楽、というかアコースティックな感覚があるひとは少ないからね。ぼくがこの分野でウケたのは、そういうバランスがよかったからじゃないかな。たとえばクラシックの勉強をちゃんとしているヒトでも、実はメカ好きとか、秋葉原少年だったとかいうヒトがいると思うんだ。そういうヒトにもっと入ってきてほしいけど。

Q:88へのこだわりもそのあたりから?

やっぱり8ビットってできることに限りがあるし、使いにくいけど、その分アーキテクチャが見えているというか、ハードが直接いじれる感じだからね。もう、徹底的にいじってやろうという感じでね。ギタリストがギターを自分でつくちゃったりするでしょ。ああいう感覚だね。だから、自分でつくったMMLのツールには、もういっぱいアイディアが詰めこんだ。「インギーモデル」じゃないけど、「古代仕様」みたいな感じでね。

Q:コンピュータ使った音楽は「無機的」とかいわれますが、その辺については?

808の音とか、ハウスっぽいサウンドではよくつかわれてるけど、聞いてみると決して無機的なわけじゃないよね。必然性というか、そこにそのサウンドがピッタリはまっていれば、機械仕掛けだからどうのこうのという問題じゃないよね。逆に、創意工夫がみられない音の使い方が「機械的な音」なんじゃないのかな。そういう、機械に引っ張られちゃってるものはきらいだな。けっこうそういう音楽が多いんだけどネ。

Q:日本では多いですよね、機械に使われているヒトは。

オーディオ的というか、「きれいなもの」をつくるのは日本人うまいけど、楽器とかスタジオ機材とか、音楽をクリエイトするには、「きれい」なだけではセンスがないというか、存在感がなくなっちゃう。機械に使われると、こういうなってしまう。向こうの音楽とか聞いてると、ひずみを利用したり、ノイズを音の一つにしたり、サウンドの中に「音」そのものの面白さを生かしてるよね。オブジェじゃないけど、「そのもの」がもっている味わいをウマく引っ張りだして作ってるのがアートっぽくて面白い。

<自分を表現してこそ音楽だ>

Q:日本の音楽家は、「職人」は多いけど「表現したいもの」がはっきりしない……。

技術だけじゃ、音楽は作れないはずだよね。でも日本には、自分の中に表現したいものをもっているアーティストと呼べるヒトはあんまりいない。器用なミュージシャンは多いと思うけど。だから、なんかバックで奏くとかはウマいんだけど、自分のアルバムとか作ろうとしても、物まねばっかりになっちゃう。やっぱり「曲」が創れるヒトでないと、演奏の中でも「自分」を表現できないよね。

Q:それは、スタッフにもいえますよね。

そうそう、海外ではスタッフとかも、サラリーマン的でなくてアーティストとしての何かを持っているからね。ちゃんと曲を創れたり、自分を表現できたりするような、アーティストとしても充分やっていけるヒトがプロデューサーをやったりとか。だから、アルバムとして完成度の高いものができるんだと思う。

Q:スタジオのエンジニアも問題ありますよね

そう、エンジニアも違うよね。日本だと、ラジオ少年上がりというか、秋葉原一筋みたいなヒトばっかりみたいだし。音楽もオシロスコープで「測定」して楽しんでいるみたいなヒトが多いからね。これじゃ、「音楽への思いいれ」が感じられないよね。「いい音」かもしれないけど、心のこもった音にはならない。アメリカの話とか聞くと、技術でもプロだけど、それ以上に音楽へのこだわりが違う。そのぐらいやっているから、音に気合いが入ってくるんだよね。

Q:楽器メーカーとかもその傾向が大きい

そう、音楽のことも、ハードのことも充分にわかってるヒトがつくれば、本当にイマジネーションがわく楽器になると思うけどね。そういう意味じゃ、むかしピアノを発明したヒトとか、本当にスゴいと思う。表現のために、楽器には何が必要か、本当にわかっていたんじゃないかな。

Q:なんかゲーム業界にも似た問題が……

ゲーム業界も、なんか同じだよね。専門家は多いんだけど、なんかみんな専門バカになっちゃってるみたいで、バランスが悪いんだ。ゲームデザイナーは、プログラミングには浅く広く知識が必要だけど、必ずしも彼がスーパープログラマである必要はないワケだし。自分の得意分野はちゃんとあって、でも、それ以外のことも、本質だけはちゃんとわかってる。そんなヒトがチームを組んだら、スゴいものができると思うけど。

Q:ライバルとか、意識しているアーティストはいますか?

直接のライバルはいないと思う。この分野では、日本では、ぼくのようなポジショニングのヒトはいないから。もちろんぼくがファンだとか、意識してるミュージシャンとかはいろいろいるけど。坂本龍一さんとか。それと、音作りという面では、いろいろなヒトから勉強させてもらってます(笑)。あと、やっぱりクラシックのヒトね、気になるのは。

Q:これから、この世界を目指しているヒトにアドバイスを……。

ぼくには、この分野では先輩がいなかったし、道がなかったわけで、いろいろ痛い目にあったり、潰されそうになったけど、やっぱりこれが自分に向いていると思ったし、自分でも「これをやるんだ」という、ポリシーをもっていたから、その中でいろいろ学び取って、生き残ってこられたんだと思う。なにをやるにしても、「物事の本質を見抜ける力」がなくてはダメだと思う。基本がちゃんとしていなくては、いくら器用そうにみえても、実は応用がきかない。それと、自分らしさとはなにかがきちんとわかっていること。自分が表現の中で何をしたいのかみえていないのでは、やっぱりいいものはできない。そういう意味では「自分が育ってきた環境」というのは大きいと思う。育っていく中で、「心」を大事にしつつ、学ぶべきことを身につけていくようにしないと、芸術とかすたれてしまうんじゃないかな。今の学校とか教育のシステムだとね。そういうのに潰されない「人間性」を磨いてほしいけどね。




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