ヒトは人間になれるの? (仮題)


エレクトロニクスと、コミュニケーションの未来
構成案企画書











1988/12/21  







第1章 エレクトロニクスメディアが社会を変える

この章では、エレクトロニクスメディアの発展が、社会に与えるインパクトについて解説するとともに、この問題が、われわれ一人一人が自分の問題として考えていかねばならないことであることを示す。


1.エレクトロニクスメディアの発展

・ミクロが見える、世界が聞こえる
エレクトロニクスメディアの発展により、遠くはなれた国のニュースがたちどころにわかる。ミクロの世界や、遠い宇宙の様子も手に取るようにわかる。今まで、見たり聞いたりすることができなかったことが、誰にでも、簡単に知ることができるようになった。マルコーニ以来のエレクトロニクスメディア発展の歴史を振り返れば、人間の五感が、電子技術の進歩とともに、どのように増幅されてきたか、知ることができる。

・エレクトロニクス、その途方もない未来
エレクトロニクスは、情報という形のないものを扱うとともに、巨大技術のような技術発展のカベがないという特徴がある。このため、今までの技術革新とはことなり、コンドラチェフの波にとらわれず、今後も究極へ向かって、際限なく発展を続けてゆく。このダイナミズムはとどまるところを知らない。

・エレクトロニクスメディアは第六感の夢を見るか
情報技術であるエレクトロニクス技術の革新は、これまで人間には認知不可能であった情報さえ、入手可能にしてくれる。エレクトロニクスメディアは、五感の増幅にとどまらず、人間に対し、新しい感覚さえもたらそうとしている。このような、これからのメディアの発展の方向を見通せば、エレクトロニクスメディアが、コミュニケーションツールの中で、これまでの補完的な役割から、主役の座へと、その役割を広げてゆきつつあることがわかる。


2.コミュニケーションする動物、人間

・コミュニケーション・ビーイング
人間のアイデンティティー、それはコミュニケーションだ。コミュニケーションがあるからこそ、個体の経験を種の経験として伝承し、この文化を創り上げた。これこそ、人間を他の生物や自然界から区別する最大のポイントである。また、コミュニケーションは、ヒトの心のいちばん深い部分に対して影響力を与える、唯一無二の手段でもある。このように、人間社会とは、とりもなおさずコミュニケーション社会であり、コミュニケーションを語ることは、ヒトとは何かを語ることに他ならない。

・ヒトが、メディアを創った
人間社会は、常に新しいコミュニケーションの方法を求めてきた。それは、コミュニケーションする動物たる人間の、本能の求めとさえいえる。コミュニケーションツールであるメディアの発展は、より質的に深いコミュニケーションを求める、人間の欲望に裏打ちされ、推し進められてきた。この事実は、人類創世以来のメディア史をひもとけば、容易に理解できる。


3.エレクトロニクスメディアが社会を変える

・不連続な歴史たち
人間社会は、大きな技術革新を節目として、そのシステムを、狩猟社会→農耕社会→工業社会といった具合いに変革してきた。情報技術の発達によって、人間社会は否応なく、「情報の価値」の生産と消費によって特徴づけられる、高度な情報社会へと移行してゆく。これは、エレクトロニクスメディアの特性を論ずるまでもなく、われわれがすでに片足を踏み込んでしまっているものなのだ。

・ホットなエレクトロニクスメディア
コミュニケーションツールとして主役の座についた、エレクトロニクスメディア。これは、現代のメディアのように、ただ情報をタレ流すのではなく、受け手の側が主体的に情報にコミットしてゆくところに特徴がある。まさにマクルーハンがいった、ホットなメディアだ。人間社会の根幹に、これだけ大きなインパクトが加わるのだ。


4.あなたの、あしたを、どう生きてゆきますか

一人になっても逃げられない
・高度情報社会の到来は必至である。同時にコミュニケーションの方法が劇的に変化するのも避けられない。二重の意味で変革にさらされる人間。この問題は、時代を生きる一人一人に、内と外から迫ってくる。これに答えを出せるのは、国家でも、社会でもない。われわれ、一人一人がこの問題をとらえない限り、明日への道しるべは手に入らない。

・EVE OF DISTRUCTION
人間は、これまで何度もその絶滅の危機を乗り越えてきた。もしかすると、それは偶然の産物だったかも知れない。原子力、フロンガス……。例をあげるたびに、われわれは、いかに浅はかに生きてきたかが明らかになる。情報社会もまた、そのような愚行を繰り返すのだろうか。しかし、このチャンスを活かせば、ヒトは今までの工業社会のように、仮面の下で生活してゆくのではなく、ハダカの、生身の自分をさらけ出して思いのままに生きてゆくこともできる。この十字路で、ヒトは悪魔に魂を売り渡すのか。それとも、はじめて、本当の人間になれるのか。その答えは、あなたが考えるしかない。



第二章 デイドリーム・ビリーバー −エレクトロニクスメディアの描いた夢−

身近にすでに起こっていることでも、将来起こりうる大きな問題の前兆のようなエピソード。将来起こりうる現象そのものを、身近なものとして感じさせるエピソード。こういった、おもしろくて、ちょっと恐ろしいエピソードを満載して、「あなたのあした」を考える材料を提供する、メディア社会の、トワイライトゾーン。
今回は、ウィットと風刺の効いたマンガでお届けします。

エピソードの例

・悲しきメンズノンノ野郎
最近じゃ、雑誌の通りにコーディネートすると、どこいっても笑われるからナー。けど、自分じゃどうコーディネートしたらいいのか、からっきし分からないし。あー、困った。

・ぼやく、夢路いとし・喜味こいし
テレビがなかった頃はよー、ネタ一つ考えりゃ、それもって地方マワって、1年十分喰えたのになぁ。今でも、もっと、人気もあっただろうし、あの時代がなつかしい。

・「技術者」「研究者」が差別用語になる日
「昔のフランスの数学者で、一生かかって、πを何万桁か計算した人がいる」
「へー」
「で、千桁目位で間違えてて、その先はみんな間違いなんだって」
「かわいそー」
「今じゃ、パソコン使えば、5分ぐらいで間違いがわかるわなー」
「ふーん、彼の一生は、何だったんだろーねー」

・「モノ知り」、「早耳」という言葉は死語
ただ知ってる量が多かったり、ただ人より早く情報を知ったりなんて、何の意味もない。人間コンピュータったって、どうやってもご本家にかなうはずがないのに。

・哲学者の権威とは(ワープロの見せた夢)
活字になるから、本になるから、難しい言葉がならんでいるから、価値があるんじゃない。「大先生」なんてくそくらえ。ワープロが、ぼくらにそれを教えてくれた。

・同じ冗談は二度通じない
どっかで聞いたネタで、人を笑わそうとしても、そうは問屋がおろさない。バカなヤツと、あざけられるだけだよ。ま、それで笑ってもらえるだろうけど。

・本当に要領のいいヤツとは
そりゃ、大丈夫だよ。ずるがしこいヤツなら。自分の中から湧き出てきたワザで人を出し抜いてるなら、きみはじゅうぶんやっていけるさ。

・弁護士のつとめ
法律や判例覚えるのは、AI向きだよ。AIなら、司法試験なんて一発だよ。きっと。青春を潰して賭けたあれは、いったい何だったんだろう。

・竹村健一の悩み
だいたいやねー、前例や外国の例出しても意味ないんやったらねー。いったい、どなんして喰っていこか。ほんま、こまとるわい。

・2010年の落ちこぼれ
なんか、独創的なもの、創れ、創れっていうけど、どうせものまねっきゃできないんだからもうしょうがないや。つまんない人生。

・自分の言葉でいいなさい
先生:「犬がワンワン鳴いているなんて、×です。もっといい表現をしなさい」
生徒:「ぼくって、感受性がニブいからなぁ。だめなのかな」

・ビートたけしのつぶやき
自分の内面からウケるネタを出すには、生みの苦しみ、断腸の思いがある。何で毎日こんなに苦しまなきゃいけないんだろう。のんびり生きてみたいもんだ。

・返り打ちにあう、佐藤愛子
最近じゃどこへいっても、「もっとおもしろい話して下さい」、「何か、新しい話題はないんですか」ばっかり。同じ話何回しても威張ってられた、あの頃がなつかしいわ。

・喰いっぱぐれる電通マーケティング局某氏
もう、表紙をつけ変えるだけじゃ通用しない。電通発の付加価値を付けなきゃ、といわれてもねえ。整理するしか能のないオレたちじゃ、無理ってもんだよ。

・よみがえるマルチ商法
こうメディアが発達して人のふれあいが減ると、最近の年寄りは、ちょっと上がって世間話でもすりゃ、すぐコロッだもんな。百戦錬磨のオレでなくても、楽なモンよ。

・公文式は生き残れるか
数学のドリル、何のためにあるの。あれは、ほんとに人間のやることなの。何か、意味のあることなの。だれか答えてほしい。

・共通一次世代の終焉
マークシートを前に、燃えつきてしまった人。もう人間はおやめなさい。これからは、もう、あなたの手練手管が通るような世の中じゃない。

・げに難しきは、人の仲
人間を相手にするのが、やっぱりいちばん難しい。ましてや、男女の仲といば・・・。 あー、つらい。そうだ、ファッションヘルスでもいって、抜いてこよー。

・電子メディアは、サッチャー主義者?
強きを助け、弱気をくじく、まるでサッチャー主義者のような電子メディア。情報社会の到来は、新たな階級差別を、周到な形で生むのだろうか。

・メディア時代の人間蒸発
目には見えても、存在は認知されない。ネットワークからプラグオフしてしまえば、もうそれだけで、この世から消えることだってできる。

・「組織」じゃ仕事は生み出せない
仕事は個人がするもの。組織は何も価値を生み出さない。自分の才覚で、次々とクリエーティブな仕事をこなす、ハイパービジネスマンの時代がやってくる。

・通産省対文部省、漢字をめぐる攻防
JISの字体と、教科書の字体が違う。この裁判に最高裁が判決を出したとき、教育の分野も、通産省の手に落ちることが確定的になった。

・至上のいじめ、情報八分
ネットワーク上からIDが消された。その瞬間から、あなたはヘビの生殺し。あらゆる情報から遮断され、そしてあなたの存在さえも消されてしまう。

・サイバーおかまがふえてくる
からだカタチは男でも、電子メディアの中なら、どうにでもなれるの。わたしは、オンナ。これがほんとのわたしなのよ。

・国民皆メディア、だれでもみんなが放送局
情報を持ってさえいれば、だれでもビジネスのチャンスがある。国民の一人一人が、小さな放送局になる。このとき、マスメディアは、どうなっているんだろう。

・21世紀のグリコ犯
重要な売りモノであるデータに、ウィルスが仕掛けられているのが発見される。そして届く脅迫状。ヒトを傷つけなくても、一大パニックが起きる。

・B/S、P/Lは個人のたしなみ
えーと、あそこの口座は借り越してて、ローンの残金があって、持ってる株が上がってて・・・。オレはいったい、いくら財産があるんだ。帳簿つけなきゃわかんねえ。

・データ網の縁切り寺
人里はなれた山寺に集まってくる人々。ここは日本で唯一、情報通信回線のない場所だ。メディア社会に疲れたヒトが、最後の望みをここにかけてやってくる。

・神様はメディアがお好き
宗教は、始まったときから、メディアだった。そして今、エレクトロニクスメディアというかつてないパワーを得て、宗教の黄金時代がやってくる。

・究極の民主主義
エレクトロニクスメディアの前じゃ、利権も何もあったもんじゃない。こっそりやったんじゃ金にならないし。おおっぴらにやったんじゃ、おいしくない。政治もやりにくい。

・結局は個人だけ
会社も、家族も、結局はたよれない。最後に頼れるのは、自分の才覚だけ。きれるヤツはいいけど、オレなんて、何にも武器がないからなぁ。

・送る人より、受ける人
エレクトロニクスメディアは、過酷なまでに平等主義。特権的な存在を許さない。情報を囲い込んでも、ビジネスチャンスを逸するだけ。受け手が、情報の価値を決める。

・指紋押捺大賛成
イザとなったときに、本人の証拠になるのってこれっきゃないからな。ちゃんと登録しておかないと、自分でも、自分が本人かわからなくなっちゃうし。

・親から相続したいもの
情報なんて、いくらあったって役にも経たない。財産ったって、持ってるだけじゃ減る一方だ。相続できる一番の宝、それは才能だ。だけど、ウチの親は全然ないからなあ。

・情報化時代のプライバシー
何で隠すの。おかしいじゃない。どんなことでも、自分の信念でやれば、きっと評価される時がくるよ。さあ、ハダカになろうよ。それが人間じゃないか。

・オトナとコドモ
生物学的にいうと、人間とは、幼児期のカラダのまま成長した類人猿だ。老化とともに、猿に戻る。メディア社会の発展が、人間をコドモのままでいられるようにしてくれた。これが、ほんとの意味での、人間のあるべき姿なんだろう。

その他、まだまだ、いろいろ。




付録. 電子の科学


1.はじめに

どうして、エレクトロニクスメディアは、社会を変革するほどの大きな力を持つのだろうか。その源をたどってゆけば、電子の性質につきあたる。エレクトロニクスとは、いってみれば電子をどうハンドリングするかという技術の問題である。このような観点から、電子の持つ普遍的性質を説明し、その理解のためのヒントを読者に与えるものとしての付録の意味を説明する。

2.電子の話

電子の神秘をあばく
電子は、粒子と波の性質を兼ね備えた、われわれの日常生活では例えようもない、特異な存在である。電子に関する研究の歴史をふりかえり、その実態がどのように認識されてきたかを見ることで、電子と何物かという理解を深めてゆく。

電子の二つの顔
つづいて、電子の持つ、粒子としての性質と、波としての性質を、具体的な事例にもとづき説明するとともに、自然界の中で、電子の持っている特別な役割を明らかにする。

3.自然界と4つの力

4つの力とは
現代物理学の成果として、自然界に存在する力は4つの種類に分けられることが示された。この4つの力、「強い力」、「弱い力」、電磁力、重力、それぞれについて説明する。

わたしたちに手の届く力
4つの力のうち、人間が直接操作可能なのは電磁力だけであることを説明し、その担い手である電子をハンドリングする技術としての、エレクトロニクスの持つ意味を考える。


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