ヨーロッパの車窓から -1974年8月-


先月は、突如「ブルーベル鉄道」というからめてから攻めてしまいましたが、もちろんこれには前段があって、ヨーロッパ各地を回っていたワケです。基本的には観光旅行でしたが、主として「乗り鉄」な旅行だったので、それなりに鉄道関連のカットはあります。とはいっても、これ、考証ができません。中欧・東欧の鉄道なら、旧東欧製のHOスケールの模型を集めている関係で、昔の車輌についてはワリと知っているのですが、それが及ぶのはドイツまで。そこから西のヨーロッパの鉄道には、ほとんど知識がありません。正直言って、撮影地がスイス、フランス、イギリスということ以外、まったくちんぷんかんぷんです。そこで、今回はこのシリーズではじめてゲストをお呼びして、お知恵を拝借することにしました。天賞堂のオフィシャルウェブのコンテンツ、「いちかわのWorld Railroad」でもおなじみの、天賞堂HBf舞浜店にお勤めの、市川工さんです。それでは、Q&A形式で進めたいと思います。



Q1:スイスの電気機関車ということしかわかりませんが、ブフリ式でしょうか。2-D-1なんていう車軸配置で、けっこう古そうですねえ。

市川氏:これは、1927年から1934年にかけて製造された、SBB(スイス連邦鉄道)のAe4/7型電気機関車、御察しの通りブフリ式の電気機関車です。車体重量は118t/123t、総出力は2300kw、最高時速は100km/hです。写真右は、Ae4/7型電気機関車としては第一次型で、車体全長は16760mmです。第二次形では、車体全長は若干長くなり17100mmとなりました。写真左は三次形で、初代と同じ車体全長とながら、主電動機が一つ増えた(4台装備)ところに特徴があります。ブフリ方式は、1910年代〜1930年代に欧州大陸内にて大流行をした駆動方式で、発明者はスイスのヤコブ・ブフリ氏。車体に付いている主電動機より、動輪の外側にとりつけられた大歯車に動力を伝達し、駆動する仕組みです。ブフリ式の仲間としては、ドイツのE16型やフランス国鉄の2D2 5400型、日本国鉄のED54といったところが知られています。
鉄道模型の世界では、Bachmann社(旧Liliput)からHOサイズのAe4/7が、各タイプ発売されていますが、日本国内での人気はいまひとつなようです。


Q2:駅名票で、ジュネーヴ駅頭ということはわかるのですが、それ以上はちょっと。前のよりは少しは新しそうですが、それでも戦前モノでしょうか。ドイツのE18とか、あのへんに似ている感じです。

市川氏:これは、SBB(スイス連邦鉄道)のRe4/4T型電気機関車です。正面3枚窓なので、他形式と思ってしまいそうですが、Re4/4型の仲間です。Re4/4T型は試作的な要素が強く、三種類のバリエーションがありますが、車体サイドのに付けられたフィルターの数の違いで判別できます。この機関車は、番号が10044と読めますので、二次形です。またこの形式の機関車は、SBBの新しい標準塗装を決める際に、様々な色(緑2種類(濃緑とうぐいす色)、赤、青、TEE色で全5色)に塗装されて走ったことでも知られています。
鉄道模型の世界では、重厚なダイカスト金属製で様々なスイス型車輌を製造しているHAG社が模型化しています。ただ同社の製品の常として、古い製品のためスケールが完全なものではなく、わが国で16番といわれている1/80スケールに近い大きさです。


Q3: これって、Re4/4ですよね。というか、スイスの電気機関車ってそれしか知らなかったりして。

市川氏: その通り、SBB(スイス連邦鉄道)Re4/4U型電気機関車です。Re4/4U型は、先程のRe4/4T型をベースに、改良・量産された機関車で、車体重量80t、総出力4700kw、最高時速140km/hは共通仕様ながら、3つのタイプに分けられます。写真からでは、どのタイプかは判別しにくいのですが、スイス型の電気機関車といえば「この顔」ですね。Re4/4U型のバリエーションは、全長から以下のように分類できます。
1: 車体ナンバー11101〜11106のグループ。全長14800mm、製造年度1964年。 2: 車体ナンバー11107〜11155のグループ。全長14900mm、製造年度1967〜1968年。 3: 車体ナンバー11156〜11304・11351〜11370のグループ。全長15410mm、製造年度1969〜1975年。ただし、11351〜11370号機は最高速度125km/h。 なお、Swiss-Express塗装の11103、11106、11108、11109、11112、11113、11133、11141号機、TEE塗装の11158〜11161、11249〜11253号機は、全長が16030mm。
鉄道模型の世界でも人気機種で、主な欧州大陸のメーカーがほとんど製品化しています。重厚なダイカスト製ボディーで様々なスイス型車輌を製造しているHAG社は、SBBのみならず各私鉄仕様のバリエーションをほぼ完全に製品化をしています。


Q: これもまた、最初のと同じブフリー式の機関車ですね。よくみると、客車はBLSの所属ですね。

市川氏: これも、SBB(スイス連邦鉄道)Ae4/7型電気機関車です。第一次型は、車体ナンバーが10901〜11027の中で、以下の第二次形、第三次形の飛び番を除くもの。第二次形は、車体ナンバーが10973〜11002のもの、第三次形は、車体ナンバーが10939〜10951と11009〜11017のもの。この機関車は10973ですから、第二次形のトップナンバーです。期せずして、三つのバリエーションが全部そろいました。


Q: いわずと知れた、パリのメトロ。エッフェル塔の展望台からの撮影ということ以外、あまり良くわからないのですが。

市川氏: 地下鉄は、「鉄道趣味の極北」ということもあり、情報も限られ、あまりはっきり断定できないのですが、多分11号線ではないかと思います。車輌形式は、MP55型(製造年度1951〜)ではないでしょうか。


Q: ご専門の英国型の登場です。メイズヒルという駅、5201という車番は読み取れるのですが、それ以上のことはわかりません。

市川氏: ロンドン南東部の、第三軌条集電区間内(電圧660V 〜750V)の写真ですね。 写真の車輌は、415型のT型という形式で、1951年に製造された電車です。車輌番号は、5001〜5265となっていました。この形式は、他に2種類(U型、W型)のバリエーションがありましたが、近年新型車輌の導入によってすべて廃止された模様です。


Q: ロンドン近郊のどこかではあるのですが、これまた素性がわかりません。ディーゼルカーですかねえ。

市川氏: DMU(Diesel Multiple Units)の、108型ではないでしょうか。108型は、1958〜1961年の間にBR(英国国鉄)直営のDerby(ダービー)工場で製造されたディーゼルカーで、その総数は、333両になります。1990年代にまでは、ディーゼルカーの主力として、ロンドン近郊区間で活躍し、スプリンターとかターボ・ユニットとか称され大活躍をしていました。しかし、1993年10月には、全車引退してしまいました。
模型製品では、OOスケール(1/76)のBachmann英国型シリーズとして、昨年新発売されました。
ということで、最近ちょっとごぶさたな「いちかわのWorld Railroad」を髣髴させるノリで、解説していただきました。今回は、ご協力、どうもありがとうございました。
(c)2007 FUJII Yoshihiko


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