Gallery of the Week-Dec.14●

(2014/12/26)



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秦万里子 初個展
ギャラリーG2 銀座
実はこの展覧会、今月の23日で終了してしまったイベントである。取り上げ方としてはちょっとイレギュラーではあるが、年末進行ということでウヤムヤにしていただきたい。最近はテレビでもおなじみの、音楽家の秦万里子氏。実はぼくの同級生、同窓生である。年がわかってしまうが、彼女自身「中高年の星」的な売り出し方をしているのでお許しを。
彼女は、テレビでは芸人枠・イロモノ枠で出てくることが多い。確かに、中高年主婦の生活の悲喜こもごもを唄った、ちょっとコミカルな歌が多いし、各地で開いているママさんコーラスも、どちらかというと明るく楽しい雰囲気が溢れている。しかし、彼女自身は至ってシリアスな音楽家であり、アーティストである。今回は、その表現欲をビジュアルアートに託して作品化している。
昭和初期の古いビルの一室をそのままギャラリーにした、こじんまりとした会場ではあるが、彼女の全ビジュアル作品を運び込んで展示するには、ちょうどいい広さや雰囲気である。こらは彼女の音楽とも共通するが、カタチから入るのではなく、表現したいものをストレートにぶつけてくるので、ナントカ風になることもなく、釣り船で食べる釣りたての刺身のように活きがいい。
これは彼女と話していて意気投合したのは、カタチから入らず、心の中の表現したいモノからスタートすると、同じ「心のモヤモヤ」を、違う表現形態で作品にすることが良くある、ということである。ぼくも、同じイメージから曲とジオラマを作ったことがある。しかしアーティストの中でも、必ずしもそういうタイプの人は多数派でないことも確かである。とはいえ、表現ってのはもともとそういうものではないか。マルチなヴィークルでのびのびと自分を表現できる彼女に、エールを送りたい。。



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荒井良二だもん
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座
荒井良二氏は、国内外の国際児童図書展で数々の賞を受賞した、現代日本の代表的な絵本作家である。最近では、イラストレーションやアニメーションなど、幅広い分野で活躍している。今回の展示会は、そんな個性あふれる荒井良二氏の世界を、ギャラリー一杯に繰り広げるて見せる個展である。
ギンザ・グラフィック・ギャラリーで拓かれる展覧会というと、そのコンセプト上グラフィク・デザインよりの企画が多い。グラフィック・デザインはビジネスを密接な関係があることから、どうしても「理」の世界に近い作品が多くなる。当然、このギャラリーでの展示も、フォントとして使われるタイポグラフィーのようなものが多い。
そういう意味では、今回の荒井良二氏の個展は極めて異質である。「作品」も展示しているのだが、それ以上にギャラリー自体が、濃密な「荒井良二ワールド」で埋め尽くされている。これだけ息つく余裕もなく迫られたのでは、脳も思考を停止してしまう。ここまでくると、もはや作品と一体化するしかない。
もしかして「表現」っていうのは、難しい能書きなど必要なく、この「埋め尽くし感」が出せることが最高なのではないか。そのためには、自分のスタイルを信じて疑わず、ひたすら形にしてゆくこと。これはまさに表現の原点ではあるが、ともすると忘れがちだったり、そもそもそこに気付いていないことも多い。荒井氏自身、この展覧会について「この展覧会が、何かを『さあ始めよう』というきっかけになれば幸いです」というコメントを寄せているが、まさに見失いがちな表現の原点を再確認させてくれる個展であるといえよう。



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東京駅開業百年記念 「東京駅開業とその時代」
旧新橋停車場 鉄道歴史展示室 新橋
12月20日の東京駅開業100周年を記念して、この期間、東日本鉄道文化財団の3つの施設が連動して関連イベントを行なう。その一貫として、旧新橋停車場鉄道歴史展示室で開かれるのが、この企画展「東京駅開業とその時代」である。主として、東京駅開業当時の様子と、その時代の鉄道や旅のあり方にスポットライトを当てた展示となっている。
展示は限られた会場ながら、三部構成になっている。ます第一部は「東京駅開業と新橋」と題し、新永間高架橋と東京駅の工事と、当時の周辺の様子、旧新橋駅の変化を、当時の資料を中心に展示している。東京駅の駅舎復元以来、新永間高架橋関連の資料はかなり整理・発掘され目に触れることも多くなったが、一般の人にもわかりやすく興味を引くように作られた展示は、今回のメインといえるだろう。
第二部は「汽車の旅」と称し、当時の旅行スタイルを現物資料により見せるコーナーである。東京駅の一部から発掘された、大正時代の汽車土瓶のコレクションが目を引く。当時の土瓶はかなり大きいのに驚かされる。第三部は「東京観光」と称して、主に大正時代の観光地としての東京を、当時の絵葉書や観光ガイドをもとに紹介する。
全体的に、一般向きに作られた構成ではあるが、鉄道好きはもちろん、近代史に興味のある人や、近代風俗に興味のある人も、充分関心を呼ぶような資料が揃っている。狭いスペースながら、資料そのものがそんなに大きなものではないので、けっこう中身はタップリつまっている感じがする。



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えとじ もじとじ てせいほん2
銀座レトロギャラリーMUSEE 銀座
ぼくの友人たちが開いた展覧会に行ってきたので、そのレポート。2009年3月に銀座 Gallery S.c.o.t.tで行なわれた「第1回えとじもじとじてせいほん展」を受けて、途中2010年7月に吉祥寺 monoギャラリーにて行なわれたスピンオフの6人展「6つの本棚から展」を介したこのシリーズ第二回の展覧会である。
出展メンバーは大幅に拡大し、追川恵子氏、大田志麻氏、川村さとみ氏、桑原利恵氏、じぇむじぇむ氏、Sho氏、瀧川百合氏、玉田裕美氏、津村明子氏、戸坂晴子氏、深澤涼子氏、ふじわらあきこ氏、Mihoco Kitsuya氏、森高朗子氏、山田恵子氏、吉田知里氏、吉原洋美氏、綿貫香代美氏(五十音順)の18人。
第二回ということで、方向性も安定した感じがする。本自体をビークルとしたアート作品で表現する人から、本をメディアとしたコンテンツで表現する人、本そのものの製作やエディトリアルデザインにアイデンティティーを求める人。今までは、そのあたりが渾然一体とした作品も多かったものが、きっちりそれぞれの求める世界が明確に打ち出されていて、目指しているものが伝わりやすい。
ちなみのこの会場である「銀座レトロギャラリーMUSEE」、80年以上前の昭和初期に建てられた、銀座昭和通り沿いの古いビルディングをそのまま利用したもの。もともとは油問屋のオフィス兼倉庫だったが、戦後は和食店として使われていたものを改修・復元してギャラリーとしている。古い小型のビルは取り壊されることが多く、残っているものは貴重であるが、それを文化財としてウマく活用している。これも一見の価値がある。




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