雨の加太越え その4 -1971年3月31日-


雨の加太での一日も、引っ張りまくってますね。とはいえ、この4回目で最終回。実はこの時に撮影したカットは、コンタクトプリントこそあるものの、引伸しはワンカットもしていません。拡大してみるのは、まさに45年ぶりというカットばかりだったのです。おかげで非常に新鮮だし、今回新たに発見したこともけっこうたくさんあります。こういう流れで撮った日というのは、ワンカットワンカットの記憶が曖昧なのも、新鮮な発見に繋がったのかもしれません。こういう写真を撮るぞ、と、ロケハンし、満を持して撮影したカットは、シャッターを押した瞬間のことも克明に覚えているんですけどね。では、雨の加太越え。最終回をどうぞ。



前回すでに、大築堤から加太駅の方に戻り始めていましたが、今度は線路際を離れ、大和街道を駅へと歩いて行ったようです。そんな中、下りの貨物列車がやってきました。力行ですが、石炭は焚いていない様子で、エクゾーストの蒸気が雨の中、白く長く続いています。霧雨に煙るバックの林、濡れた路面の輝き。こうやって見ると雨中撮影も、和風の趣があってなかなか風情タップリですね。重装備だろうと何だろうと、そんなのはもはや関係なし。日本の風景のジオラマを作っている人には、グッと感じるものがあります。15歳の中学生のガキが撮った写真にしては、ちょっと渋過ぎかも知れませんが。


その列車が、近くにやってきました。本務機、亀山機関区のD51145号機。先ほど上り列車を牽引しているのを撮影したカマです。よく見ると、安全弁が一本吹いています。排気に煙は混じってませんから、完全燃焼状態。この機関車に乗務している機関助士は上手ですね。キレイに赤熱している火床が目に浮かびます。そう、黒煙は邪道で、完全燃焼こそが理想的な焚き方なんですよ。でもこのカット、流してますよ。おまけにちゃんと止まってる。まあ、1/60ぐらいだと思いますが、やなガキですね。狙って撮ったというよりは、結果として撮れた、というのが正しいんでしょう。実はこの時期は、ほとんど流し撮りはやっていません。さすがにそこまで生意気ではありませんでしたよ。


続けて同列車の後補機、亀山機関区のD51613号機。613号機も先ほど撮影しています。今度は速度が落ちたのか、流してはいないようです。このポジションは、スチルだといかにもオマケっぽくなってしまいますが、ムービーだと走ってゆくサイドビューが、意外といい感じになるような気もします。後ろのワフ35000は、大鉄局の表示でいかにも関西らしいのですが、前のワフ29500は千鉄局の表示。管理局と常備駅が書いてあるもの、いろんなところでいろんな局の所属のヤツを見ましたね。あれ、一体どうなってたんでしょうか。その反面、運用が決まっていて、同じ列車に必ず同じ緩急車がぶるさがっている、というのもありましたが。


最後の駄賃は、加太駅からも程近い、関西本線の築堤に寄り添うように鈴鹿川が流れているところで撮影しました。本務機は、奈良機関区の戦時型D51ということがわかります。この時期、奈良機関区には1007号機、1013号機、1054号機と3輌の戦時型D51がいました。このうち1007号機は、このシリーズ第一回に登場していますが、前照灯がLP405です。また、1054号機はデフに点検穴があります。ということで、1013号機と比定しました。ここもたいした景色じゃないんですが、雨が降っていることでいいムードになっています。このあたりが、日本の景色の面白いところですね。。


さて同列車の後補機は、奈良機関区の934号機。すぐ脇からアップで撮りましたが、まあこれは写真というより、記録という感じです。やはり模型をやる人は、記録が欲しいんですよ。ひとまず撮れるところは撮っておく。いざ飼料が欲しくなったとき、あるとないとでは大違いですから。でも、デフにバイパス弁点検穴がないというのは、鷹取工場持ちのカマにはけっこうありましたが、蒸気末期に撮影しまくった身としては、逆に変な感じですね。そのワリに、鷹取式集煙装置と重油併燃タンクはD51の場合、けっこう装備しているカマが多かったりしました。このあたりは、この時期関西で育った人だと、また違う感じかたがあるのでしょうが。


加太駅に停車中の、亀山機関区所属のD51689号機が牽引する上り旅客列車。689号機もこの日二度目の撮影です。この時期、定期の蒸気牽引旅客列車はなかったはずなので、臨時列車でしょうか。伊勢方面への臨時列車というと、京阪神地区からは近鉄なのでしょうが、山陽、山陰方面からは、国鉄の利用もけっこうありました。この区間の関西本線は、この後撮影に行ったこともありませんし、列車に乗車したことすらありません。この区間を通過したことは何度かありますが、全て名阪国道経由のクルマです。でも一日とはいえ、けっこう撮ってましたね。お腹いっぱいです。


さて最後は、関西本線ではありません。夜は山陽本線の夜行に乗るので、大阪に向かいます。その途中、東海道本線の草津駅で偶然草津線の旅客列車の発車に出会いました。亀山機関区のC58353号機の牽引です。列車の写真としては全く絵になっていませんが、駅の風景としてみると、それなりに記録としては面白いものがありますね。ジオラマを作っていると、駅構内のメインでない建物の様子や、小物の使われ方など、本当に資料が少ないです。写真作品としては至らないものでも、資料としては充分に価値があります。本当は、こういうものこそインターネットでアーカイブするべきなんでしょうが。


(c)2015 FUJII Yoshihiko


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