プレゼンテーションと説得力





自分を知る



国際人とは、世界の中の自分の位置がわかっているヒトのこと。語学がうまい人ではない。同じく、良いプレゼンテーターとは、しゃべりやパフォーマンスがうまい人でなく、伝えたいことに関しては、誰よりもよくわかっている人のこと。
その割に、自分や自分達のチーム、自分達の提案について知らない人が多すぎる。

・客観的に見る
ヒトに自分を語るには、自分のポジショニングの把握が原点。
客観的に自分の居場所を認識しておかなくては始まらない。

言うは易く、行うは難い。日頃から、周りからどう見えているかという「見え方」を気にしていると、自分が見えてくる。ファッションと同じで、たとえば色のコーディネートのように、気にしないとそのままだが、気にし出すとどう見えているかが大変気になるからだ。

・全体像をバランスよくつかむ
まず、コミュニケートしたいメッセージの全体像をきっちりつかむ。
これにより、総論と各論、すなわちマクロとミクロどちらの視点でも対応可能になる。

その場で言いたいことだけ練習しても始まらない。ともすると各論のタコツボに入りがち。相手はそこはかとなく、話の中から全体像をつかむもの。だから全体がわかっていないとメッキがはげる。

・思い込みは死を招く
自分が「したいこと」と、自分が「得意なこと」は違う。
普段から、自分の気持ちと、自分としての評価を明確に分けていないと、つい勘違いしがち。

野球の選手がサッカーやりたくても、必ずしもいい選手になるとは限らない。むしろ逆。自分にとって楽しいところ、面白いところにはまってしまうと、本当に自分の売りどころがアピールできなくなり危険。

・フレキシブルな身のこなし
臨機応変、状況の展開や相手の反応にあわせたダイナミックな展開をもたらすモノ。
話のポイントをつかんでいてはじめてできるワザ。

自分を知る必要がある一番の理由がこれ。これができれば、決めたことをやるだけでなく、アドリブが利くから。ここにライブでやる意味がある。そうでなければ企画書渡すんでも、ビデオでも同じ。フレキシブルさが大事なのはアイディアを出すときも共通。

・自分の強みをわきまえる
本当の売りどころ、本当の勝負どころを見誤らない。
これが意外と難しく、自分を知ることの要でもある。

ヒット商品のヒットの秘密は、意外と当人には気付かないもの。それは当人ならではの思い込みがあるから。これがマーケティングの難しいところ。プレゼンテーションしている相手にとっての自分の良さ・強さの本質も、なかなか自分ではわかりにくい。



相手を知る



相手は、自分自身の問題や課題を的確に把握しているわけではない。
相手の言葉に、全てが含まれているわけではない。
相手が正確に自分自身や問題点を把握していたのでは、そもそも広告会社みたいなビジネスの出番はない。その意味でも相手以上に相手を的確に知る必要がある。

・毎日が異文化交流
コミュニケーションは相手に甘えてはダメ。
「通じない」のを前提に、正しく伝えるにはどうすべきか考えるのが原則。

広告は「中学生でも理解できる」「5歳児に説明する」などといわれるが、それと同じ。用語にしても、前提にしても、共有できていないのを前提にどう説明するか考えることが、間違いのないコミュニケーションを生む。冗長になっても、良いように解釈してはダメ。

・ヤクザの仕事はガンつけ
理屈っぽいモノほど、相手はガンをつけやすい。
相手がヤクザだと思って、自ら自説にガンつけしてみて、隙を作らないようにする。

ロジカルなストーリーほど、反論しやすいし、否定しやすい。だから、かっちり組まれた論理ほど、反対する人には否定しやすくなる。自分にとって万全のロジックは、それを否定したい人にとっても万全のモノとなるため、危険性も増すことを忘れずに。

・相手に期待しない
敵意を持った相手でも、伝えたいことは正しく伝わることがコミュニケーションとしては肝要。
そのためには自分の土俵で、相手の言葉で語るのが基本。

相手に期待しないのは、コミュニケーションの視点だけではない。交渉という意味でも、自分が相手に恩義を売るのはいいが、相手に借りを作るのは良くない。相手の好意に期待するのは、相手に借りを作ることになる。

・「説得」するのか「折伏」するのか
説得というのは、理屈で相手をねじ伏せることではない。
正しく相手にメッセージが伝われば、それをどうするかは相手の自由。

口喧嘩じゃないのだから、勝った負けたじゃない。相手を負かしても意味がない。それではプレゼンテーションという意味では逆効果。きちんと伝えて、相手に判断を任せる。結果が悪くても、これなら納得できるはずだ。

・異性を口説く
コミュニケーションの基本は、用語も、バックグラウンドの異なる相手に自分を伝えること。
これがいちばん似ているのは、異性を口説く場合。

「商品を売りたい」という目的は共有していても、それ以外の考えもプロセスも違うのが広告主と広告主の関係。「違うからこそ伝わるのが面白い」男女の関係のようなもの。違う中で、どれだけ共通の価値観を構築できるかというプロセスがコミュニケーション。



コミュニケーションを図る


広告プレゼンテーションは、当たり前の企画をプレゼンテーションテクニックで通すものではない。企画がそもそも持っているパワーを極大化し、それで相手を説得する必要がある。プレゼンテーションテクニックはそのための手段に過ぎない。調子が良すぎるのは禁物。いつでも誠意が第一だ。

・ウソをつかない、無理をしない
ハードを売るのと、ソフトを売るのは違う。
ハードを売るにはウソも方便だが、ソフトは信頼感が全て。

ハードは現物がそこにあるので、取引条件はさておき、ブツがらみの話はいかに大げさに言っても問題はない。白髪三千丈といったところで、実際の長さは相手に見えているのだから。しかしソフトは自分の信用だけが頼り。実態は相手には見えていない。言いすぎは危険だ。必ず責任問題になって帰ってくる。

・性善説で楽天的に
しかめっ面をして、難しい話をしても誰も聞かないし、誰も説得できない。
夢があってこそ広告だ、ってことを忘れないように。

楽しく、面白く、夢がある。それでこそいい広告キャンペーン。どう実現するかというプロセスばかり説明しても、夢は伝わらない。夢そのものがプレゼンテーションの場で伝わる必要がある。それには自分が夢を持つこと。まず自分が楽しくなることから夢は始まる。

・相手を信じなくては、信じてもらえない
プレゼンテーションの目的は、自分の話を信じてもらうこと。
そのためには、自ら率先して相手を信じる度量がなくては話にならない。

相手は、いいアイディア、いい提案をほしがっているし、それを出せば的確に評価してくれる。相手は自分の提案をほしがっている。それを信じなくてはそもそもプレゼンテーションは成り立たない。ひねくれた相手を、ひねくれて説得するのでは、成功はおぼつかない。

・インパクトが必要
だらだら、くどくど説明したのでは、どんないい話も死んでしまう。
広告マンなら、一言ですべてを語る、心に響くコピーを作れ。

理屈で気に入ることはない。まず感覚的にピンと来て気に入って、それを補強したり、納得したり、他人に伝えるためにはじめて理屈がいる。感覚的なモノがまず問われている。そのためには何よりインパクトがなくてはダメ。ピンと来ないものでは、説得はおぼつかない。

・自分らしければいい
プレゼンテーションの究極の目的は、自分のいい所を、自分らしく売り込むこと。
他人との比較での相対的アピールでなく、自分らしさの絶対的アピールをどう実現するかだ。

自分のいいところが相手に伝われば、もし期待していた結果にならなくても、自分も相手も、充分に納得できる。それだけでなく、未来に向かった新たな信頼関係が結べる。こうなれば、今回は残念でも次につながるし、次に提案するとき、いい所は確実に評価してもらえるようになる。



説得する


アドマンならば、アドマンらしいプレゼンテーションをしよう。プレゼンテーションの場においては、提案の具体的内容もさることながら、プレゼンテーターが潜在的に持っているプランニングパワーや、クリエーティブパワーも同時に吟味され、問われている。自分自身を売り込むミニキャンペーンを実施するぐらいの気持ちで、プレゼンテーションに臨もう。

・説得はプラス思考から
悪いものを言いくるめるのが説得ではない。
いいもののいいところをアピールしてこそ説得できる。

言いくるめたくなったり、言いくるめる必要のある部分があるなら、それ以前にもう一度プランを練り直すべきだ。問題箇所はごまかして通すものではない。そういうところは必ずトラブルの原因となる。これでは長期的にみれば、信用を失うことになる。

・心で語る
テクニックがいくらあっても、スタンスが曖昧では相手の心は動かない。
格好つけるより、腹をくくるほうが先だ。

自分をさらけ出す。腹を割って話す。対面して話をするときの基本は、プレゼンテーションでも同じ。中身が良くて、誠意があれば(正直であれば)、通じるものは必ず相手に通じると信じるべき。

・他人事ではダメ
アナウンサーが読む原稿ではリアリティーがない。
下手でもいいから現場を見てきた記者の生の声が重要なのが最近のTVニュース。

プレゼンテーションも同じ。話術のうまい人間が説明してもダメ。企画を創った人間が、直接自分の言葉でかたりかけるのがいちばん説得力がある。魅力を語る「なぜこの企画が出てきたか」というプロセスは、本人しか知らないし話せないからだ。

・自信は持つモノ
絶対的な理想像はない、追い求めるだけムダ。
自分らしくあることから、自信は生まれる。

過信はいけないが、端々まで自分の目がゆきとどいていて、その上で自分が納得できるプランならだいたいは通るもの。逆に不安のあるものはたいていポシャる。自分らしくのびのびできていれば、自信は持てる。

・「勝てばいい」割り切りを持つ
日本のスポーツ選手がオリンピックで弱い理由がこれ。
いい試合より、勝つ試合のほうが、自分にとってメリットは大きいはず。

目的をはっきりさせ、その目的を達成するための最適プロセスを考える。方法は問わず、結果的に「勝てばいい」。不戦勝だって、勝ちは勝ち。勝ちを取りに行く上では同じ。大事なのは精神や美学じゃなくて、「一勝」すること。これと同じで、常に最高最良のプレゼンテーションをやる必要はない。要は通ればいい。これが心の余裕を生む。


(97/10/16)



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