地上波のデジタル化の社会・経済的効果





今世紀中に起こる放送界のトピックスとしては、地上波のデジタル化に代表される、放送のデジタル化を第一に上げることができる。その影響や意義をまとめると以下のようになる。

1. 放送のデジタル化の意義・メリットとして考えられるもの

・一般的には多チャンネル化・サービスの高度化・低コスト化といったメリットが上げられるが、これらは一般的な技術革新のメリットでもある。このため放送のデジタル化固有の意義としては、周波数の有効利用とそれに伴う直接・間接のビジネスチャンスの創出が最大のメリットとなる。
・地上波放送のデジタル化は、諸外国の例を見ても、インフラとコンテンツの分離、インフラにおける放送と通信の融合が前提となる。このため放送と通信が融合する時代における、トータルなインフラビジネスとしての通信、コンテンツ・ソフトビジネスとしての放送という、放送・通信の業務領域の再定義の契機となる。それだけでなく、新「通信」・新「放送」として、各々最適化したビジネスモデルを構築をする上でも、決定的な機会となる。
・これらの変化に対して、放送のディジタル化はあくまでも「チャンスの創出」に過ぎず、それを実際のメリットに結びつけられるかどうかは、取り組み方や対応方針次第であり、それ以降の課題として残ることになる。

2. 放送のデジタル化とソフト振興
・デジタル化により、放送はインフラ部分から独立した事業となるため、純然たるソフトビジネスとして、コンテンツ制作、資金調達、資金回収に効率的に特化した経営が、より容易に行えるようになるとともに、電波の有限性の名の元に限界のあった、ビジネス基盤の拡大をもたらす。
・基盤拡大を実際の産業振興に結びつけるためには、無料広告放送における広告ビジネスや有料放送におけるプラットホーム事業者のように、放送周辺におけるビジネス環境の整備をはかるとともに、海外資金の導入やソフト信用制度の確立など、実際に金をうむビジネスシステムの確立が必須である。
・デジタル化によるグローバルレベルでのインフラ再編により、ソフト流通における国境が消滅し、コンテンツデリバリーのグローバルレベルでの展開が容易に行えるようになる可能性も大きい。

3. アナログ放送終了後の周波数利用の展望
・現状における放送系コンテンツ、通信系コンテンツが相乗りする形で、同じデジタル無線系のインフラを、時分割、帯域分割で利用することにより、より効率的な電波資源の利用が可能になる。
・デジタル化のメリットを活かす意味でも、アナログ放送終了後の周波数利用は、大胆な規制緩和に基づく、市場原理の導入を前提とする必要があり、グローバルスタンダードに基づく自由な競争が行われる必要がある。
・いずれにしろ、放送・通信が融合したインフラに新たな需要として現れてくるのは、既存の放送コンテンツとは異なるタイプのビジネスモデルに基づくコンテンツである。これらのコンテンツは、コンテンツ産業がビジネスとして提供するのではなく、教育・宗教・同人自主制作等、コンテンツを送りたい側が資金を投入したり、コンテンツを利用するユーザが会員制で集まって資金を提供して制作する、放送・通信境界領域のコンテンツになると考えられる。

4. デジタル放送時代の将来展望(地上波、衛星、CATV)について
・旧来のような垂直統合を前提とした、放送・通信の区別に代わって、インフラビジネスとしての新「通信」と、コンテンツビジネスとしての新「放送」という新たな水平的な棲み分けが基本となるため、いままでの地上波、衛星、CATVという区分は意味をなさなくなる。
・インフラの中でも、衛星系(国際)や、全国系、地域系といったエリア・利用メディアによる違いは残り、各々に特化した事業形態をとる。同様にコンテンツの中でも、マス型・ニッチ型、無料・有料といった違いはビジネスモデルの違いとして残る。
・インフラビジネスたる通信事業者は、コンテンツのタイプを問わず、あらゆるニーズを取り込むことにより、より効率的なビジネスが可能になる。同時にいくつかのメディアを組み合わせて保有することにより、地上波、衛星波、有線系など各々の特徴を生かした「インフラ・ポートフォリオ」を組むことが可能になる。
・コンテンツビジネスたる放送事業者は、インフラからのフリーハンドを得ることにより、コンテンツの内容や、一時利用・二次利用といった利用形態にあわせて、コストやターゲットにあわせて最適なチャネルを組み合わせて利用することが可能になる。基盤の弱いコンテンツ提供者に対しては、プラットホーム事業者がインキュベータ的役割を果たすことも考えられる。
(98/04)



「メディアとテクノロジについての雑文」にもどる


はじめにもどる