米国における地上波デジタル化の動向





1. 地上波デジタル化への取り組みの現状


(1) 行政や規制の動向
FCC
迅速なデジタル放送への移行と、電波の公共的利用の推進を主眼とし、HDTVの実施も含めできるだけ多くを市場の選択に任せ、規定は最低限にとどめる方針。
CEMA(家電業界団体)
受信機側は、ATSCで検討されている18フォーマット受信への完全対応を申し合わせ。
ただし、どのレベルで画面表示するかは自由。

(2) ネットワークの対応
'98 NABコンベンション時点での、4大ネットワーク系列のデジタル化への対応は以下の通りである。HDTVフォーマットでの放送は、CBSが今年11月から、NBCが年明け早々からのオンエアを予定している。
また、これらは送出フォーマットとしての対応であり、スタジオフォーマットとしての対応は、CBSも1080pの優位性を認めるなど、事情が異なる。

系列 HDTV SDTV
ABC 720p 480p
CBS 1080i 480i
NBC 1080i 480p
FOX 720p 480p


(3) ローカル局の対応
対応はせまられているが、設備コスト負担との兼ね合いで消極的姿勢。
480i、480pでの対応が主流になるか。

(4) CATVの対応
ケーブルのデジタル対応は、競合メディアとの競争上必須と認識。
HDTVは720/24p、SDTVは480/60pという取り組みが、TCIなど主流。
デジタル化に伴う規制緩和や制度の変化に注目(マストキャリールール等)。
デジタル時代の各種サービスの提供(スクランブル・課金等)のための規格作りが課題。

2. 取り組みの特徴と戦略的視点


(1) ネットワークの対応
・数十年間変化のなかったビジネス構造を見直す好機ととらえる
(特に系列局との取引形態の見直し、応分の負担を求める)
・コンテンツ・プロバイダとしての強みを活かす戦略ヘシフトを強める
(特にNBCなどに顕著な傾向)
・デジタル化によるインターネットとの親和性はビジネスチャンスを拡大
(プロモーションやダイレクトマーケティングと広告の融合による市場拡大)
・デジタル化に伴う一層の規制緩和への期待
(基本的には、デジタル化はポジティブなビジネスチャンスとして認識)
(2) ローカル局の対応
・地域メディアとしてのアイデンティティーの強化
(他メディアとの差別化のポイントとして、コミュニティーへの対応を認識)
・デジタル化投資の採算性に対する疑問
(ローカル局の経営にとっては、HDTV等への対応は過剰投資)
(3) インタラクティブTVとCATVの対応
・インタラクティブTVは放送事業者、コンテンツ事業者の関心の埒外
(機材関連(ハード・ソフト)メーカー間での、規格をめぐる駆け引きの段階)
・CATV事業者にとっては、他メディアとの差別化のポイントと認識
(システムとの親和性が高く、CATVの付加価値サービスとして提供可能)
(4) 広告主の対応
・他チャンネル化による広告効果測定の重要化
(よりきめ細かいターゲット設定を可能とする、より精緻な視聴データ測定の必要性)
・フォーマットの林立による素材変換コスト増への懸念
(アッパーコンパチブルな統一フォーマットから、局側でのダウンコンバートを希望)

3. 米国における動向の示唆するもの


・市場の選択に任せたことにより、多様なフォーマットの並立と、デジタルの特性を生かしたフォーマットコンバートが頻出し、視聴者からは送出フォーマットは意識されにくくなる。
・ネットワーク等のコンテンツ供給業界、それと結びついた広告業界にとっては、デジタル化は「多チャンネル化」という間接的メリットはあっても、大きくビジネスに影響するものではない。
・CATV、地方局といった、放送インフラを担う各ビジネスの間では、新たな差別化による競争が起こるが、それぞれの特色に即した形での棲み分けは可能と考えられる。
・規格がどうあろうとも、民生用のハード市場の活性化は見込めるため、これをめぐる家電業界とコンピュータ業界の駆け引きが最大の影響か。
(98/04)



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