衛星デジタル放送ビジネスを仕切るための30の掟





○マス型の放送コンテンツビジネスはすでに飽和している


1. 映画や大型スポーツコンテンツへのニーズは、そんなに大きくない
映画やスポーツイベントは、劇場やイベント会場への動員によるリクープという面では強みがあるが、放送コンテンツとしてリクープを図っても、それ以上に直接消費者の財布から金を出させる力は持っていない。
2. テレビ番組としての新しい「キラーコンテンツ」などもうない
テレビ放送とは、元来「極上の暇潰し」たるものであり、それゆえに広告放送として成り立っている。消費者から直接リクープを図るコンテンツは、電波を使ったとしても「ヴァーチャルシアター」に過ぎず、直接競合するモノではない。
3. 「放送」の指定席はもう埋まっていて、新たに参入する余地はない
チャンネルレパートリー理論やABC分析を引くまでもなく、多くの人に支持される定番コンテンツは5チャンネル+αが限度であり、日本ではすでに地上波の段階でマス型放送の指定席は埋まっていると考えるべき。
4. マス型の放送コンテンツの制作ノウハウは、一朝一夕には得られない
ニーズにも限界があるが、放送コンテンツの制作自体が、出演者・制作者共々、人的資源に依存したビジネスであり、すで現状のコンテンツ制作でも有能な人材は枯渇気味であるのみならず、新たな人材の発掘・育成にも多くの時間が必要となる。
5. 委託・受託分離でパワーアップしたBSの二番煎じでは、ビジネスとして通用しない
BSのデジタル化、地上波のデジタル化により、地上波やBS波自体が準マスやニッチ的なコンテンツまで取り込もうとしている時期に、同じ土俵で勝負を図るのでは、これからユーザーを集めなくてはいけないCSに勝ち目はない
6. マス型コンテンツへのニーズは限られ、それだけでトラポンは埋まらない
百歩譲って、BSとの生き残り消耗戦に、まかり間違って勝ったとしても、マス型コンテンツで埋められるチャンネルはせいぜい10、準マス型を入れても30〜50がいいところであり、CSデジタルのトラポンはそれだけでは埋まらない。


○CSデジタルプラットフォーム事業はポジショニングを見直す必要がある


7. 「衛星を使ったCATV」のコンテンツでは、今以上の集客力は期待できない
CSデジタルで提供可能なコンテンツでも、比較的競争力・集客力のあるものは、すでにCATVに対するコンテンツサプライヤとして提供されているが、そこでさえキラーコンテンツたり得ていないモノが、CSデジタルでパワーを発揮するとは考え難い。
8. 産業連関的には、インフラがコンテンツ需要を生み出さないことは明白
インフラが貧弱な時代には、新たなインフラが潜在的なニーズを掘り起こすことにつながったが、すべてのニーズが顕在化して以降は、コンテンツに対しては、せいぜい流通のコストダウン効果しかもたらさない。
9. すでに市場も法制度も通信と放送の垣根はなく、「放送」の発想では金にならない
郵政省の考えかた自体が、すでにグローバルスタンダード化しており、アメリカ的な「通信・放送をあわせたインフラビジネス」「インフラを利用したコンテンツ提供ビジネスとしての放送ビジネス」という発想がベースになっている。
10. 放送周辺の通信寄りビジネスでは、コンテンツよりインフラが金を生む
コンテンツがビジネスとなるのは、マス型の一部のみであり、ニッチな世界に行けば行くほど、コンテンツに対しては金が流れず、インフラに対して流れる金だけが目立つ通信型に近づいてゆく(ホームページでいちばん儲かるのはNTT)。
11. インフラビジネスと割り切るのが、放送通信融合時代のプラットフォームビジネス
プラットフォーム事業者は、委託でも受託でもなく、放送事業者のアウトサイダーという特色がある。これは、放送でも、通信でもないビジネスとして、時流とニーズにあわせて自由に動けるという、大きなメリットとなる。
12. コンテンツビジネスにならないコンテンツが、インフラ需要を生み出すカギ
インターネットや自費出版、同人展に見られるように、ニッチになればなるほど、コンテンツのコストはコンテンツを作る側の持ち出しになる。これらをインフラ需要にどう結びつけるかが、これからのプラットフォームビジネス。


○CSデジタルの目指すべき市場は旧来の放送の延長上にはない


13. 市場原理・自由競争の時代に、放送を利権と考える発想では金は稼げない
かつての許認可の時代では、免許に代表される利権を持っていることが金を生んだが、いまはインフラとて、持っているだけでは金にならず、それを利用して「金が流れる仕組み」を作らなくては、儲からないだけでなく、コストだけかかることになる
14. 既存のコンテンツビジネスの発想に捕われている限り、新しい市場は生まれない
何でもありの世の中になっているのだから、ただでさえ消耗戦・物量戦になっているマス型放送にこだわる必要はない。マス型のコンテンツで行く限り、コンテンツの流通者にはおいしいチャンスはめぐってこない。
15. CSは準マス、ニッチと割りきることが成功につながる
放送・通信の境界域のグレーゾーンには、先行者がいないが、インフラ市場としての潜在聖は大きい。このニッチ領域で、どうやったら金が動くシステムを作れるかという方法論を築いた者が、この大きなチャンスをモノにすることができる。
16. パラボラとセットトップボックスは、モデムとブラウザーのイメージ
「テレビ」が、それだけで完結する楽しみなのに対して、パラボラとセットトップボックスは、楽しみの可能性をもたらすだけ。その先の「楽しい仕組み」を提案して初めてユーザは喜ぶし、お金も流れることになる。
17. インターネットビジネスの経験と発想が、CSデジタル事業化のカギになる
インターネットは、それ自体は金儲けからは縁遠いものだ。しかし、インフラとしてのインターネットの特性を生かし、インフラと割り切って利用した仕組みにすれば、それなりにビジネスになる。CSデジタルのビジネス化も、発想は同じだ。
18. 「トラポンを埋めるアイディア」が、メディアビジネスに成功をもたらす
リスク含みのビジネスは、CSには向かない。少額でも確実に稼いで利益を出せるビジネス構造を構築する必要がある。そのためにはトラポンを、帯域を埋めつつ、確実にそれに見合うだけのお金を取れるビジネスを指向するべきだ。


○逆転の発想でニッチをつかめるモノだけが勝ち残れる


19. ニッチ型コンテンツは、コンテンツを送る側がお金を出す点が特徴
ニッチ型コンテンツは、コンテンツにユーザがお金を出すのではなく、コンテンツを作って送り出す側が、自らお金を出してコンテンツを作って提供する点に特徴がある。この金の流れの転換に乗れる者が、ニッチの金をつかまえられる。
20. 「インフラで儲ける」から、「儲けるためのインフラ」へ
インフラを持っているだけで、うはうは金が稼げたのは過去の話。これからはインフラも競争時代。そこで勝ち残れるかは、自分の持っているインフラを誰にどう利用させれば金が儲かるかという、アイディアの良し悪しにかかっている。
21. カルチャースクールは、全体市場は大きいが、個々の事業規模は零細な点に学べ
塵も積もれば山、がニッチターゲットでビジネスをする上でのキーワード。その典型例がカルチャースクールだ。カルチャースクール全体の市場は大きいが、個々の授業ごと事業規模は極めて小さい。これをビジネス化するノウハウは、CSでも使える。
22. キーワードは、宗教、教育、カルチャー
仮想コミュニティーを作り・維持するために、送り手の側が会員の金を集めて、コンテンツを作って届けたいというニーズも見逃せない。既存のマーケットで、こういうニーズがが高いのは、宗教、教育、カルチャーの分野だ
23. なによりオタク、300億コミケ市場、1000億同人市場のインパクトを見逃すな
作る側がお金を出しても、作品を制作し、デリバリーしたいという意味では、オタク市場は欠かせない。プロの作家でさえ、自分の作りたいモノは、自費で出す時代。映像作品の制作コストが下がったデジタル時代こそ、同人テレビのニーズは高い。
24. みんな発表したがり、お金を出したがる、一億総アーチスト時代を先取りせよ
インターネットのホームページの隆盛も、「作って発表したい」個人パワーのたまもの。書道や絵画、写真の同人展。アマチュアコンサートの隆盛が、ギャラリーやホールの需要を支えている。このソースを狙わない手はない。


○メディアとしてのマーケティング戦略が勝負を分ける


25. マス放送指向では、宝の山の境界領域(会員制コンテンツ)に手を出せない
これらの境界領域に食い付くには、機を見るに敏な発想のフレキシビリティーと、細かい金もこぼさないフットワークが求められる。これらを活かすは、大物狙いのマス型の放送ビジネスとは違うビジネスセンスが必要になる。
26. 公共性を捨てたところから、新しいビジネスの芽が生まれる
ニッチ領域は、公共性・公正性とは関係ない、ごくごく私的な世界だ。規制緩和も必要だが、それ以前に、規制の隙間を見つけてビジネス化するような機転が求められる。モラルより儲け。通信事業者は、中身を問われないから儲かることを再認識しよう。
27. マス型・ニッチ型の二枚看板は、プラットフォームとしてのイメージ戦略が容易
インターネット型の純通信に対して、CSデジタルのマーケティング上の強みは、同じインフラで、「マス型から、ニッチ型まで、あらゆるコンテンツが楽しめる」点。このためにはプラットフォームは一つでも、コンテンツには複数のブランドが必要。
28. 「はじめにコンテンツ」でなく「はじめにプラットフォーム・衛星」ありきの強み
マス型コンテンツは、それ自体独立したコンテンツビジネスたり得る。従って、メリットさえあれば、どんなインフラでもマルチユースしてくれる。それにインフラ業者が中途半端に手を染めるのは、リスクこそあれメリットは考えられない。
29. 日本とアメリカは、メディア環境、コミュニケーション環境が違う
アメリカで成功したメディアビジネスが、日本でも成功するわけではない。メディア市場、コンテンツ市場が違う上に、社会やコミュニケーションのあり方も大きく違う。アメリカで成功したマーケティングが、日本で成功するとは考えられない。
30. チャンスがあったとしても、営業努力なくしてビジネスになるわけではない
可能性は大きくても、それを現実のものにするには、規制緩和が必要だ。さらに、それを実際のビジネスにまで拡げるには、的確なマーケティング戦略が必要になる。今あるのは、可能性だけ。すべては今後の努力の成果にかかっている。


これらのチェックリストを日本の現状に当てはめてみると、Sky-Perfec TVは、Direct TVに対し圧倒的に有利な立場にあることがわかる。しかし、それはDirecTVのやり方ではどうやっても勝ち目がないのに対し、Sky-Perfec TVには相対的にチャンスが与えられているという違いでしかない。そのチャンスを生かせるかどうかは、彼らが今後どういう戦略を取り、地上波デジタル、BSデジタルや、大容量通信、パッケージといった他の競合する流通チャネルと競争し、差別化を果たすかにかかっているのは言うまでもない。


(98/03・98/08)



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