真岡鉄道 益子にて -94年8月-
90年代シリーズの締めくくりとして、まだ出戻り前の1994年夏、真岡鉄道の動態保存機、C1266号機を撮影した時のカットをお届けします。この年の3月から、C12形式による蒸気機関車の動態保存を始めた真岡鉄道。鉄分休止期間中も、趣味誌の立ち読み等はしていたので、鉄道界、趣味界のおよその動向はつかんでいました。そんなワケで、益子の観光ついでに、復活蒸気を撮影してみようという次第。観光とからめて、益子駅の周辺で、いかに効率よく撮影するか。なかなかプランに苦労した覚えがあります。

まずは、真岡方面からやってくる下り列車を、北山-益子間で迎え撃ちます。下りが正向なので、こっちがやはりメインでしょう。ということで、予備知識が全然ない中、ぶっつけ本番でロケハンです。困ったときには鉄橋、というのは昔とった杵柄。地図を見ると小貝川という川があって、橋があるようですから、ひとまずそこで狙うことにしました。往年の撮影時のように、二台ボディーを用意し、短玉と長玉をつけて、二種類のカットを狙います。まずは望遠で、遠景を撮影。75年以来、およそ20年ぶりの蒸気との出会いです。

近づいてくる列車に合わせて、カメラを持ち替え、橋の周辺で狙います。昔と違い、長玉も短玉もAFズームですから、構図違いが多く狙えるのには、かえって面食らってしまいました。ほんとは、鉄道写真は「入魂一発撮り」がいいんですが。それにしても、田んぼ、あぜ道、低い築堤、小さな鉄橋と短い列車。これだけ揃うと、ほんと小型レイアウトの世界。風光明媚な景色でなくても、爆煙が出てなくても、模型ファンとしては、なんとも興奮するモノがあります。

益子駅での停車時間を利用して、クルマで先回り。益子-七井間で、もう一度狙います。先ほどが引きでしたので、今度はアップ。というより益子-七井間は、日本のローカル線の典型ともいうべき、田んぼの中の平坦線ですので、あまり狙いようがありません。なんとも当たり前の写真ですが、まあ、ワンカットは押さえておきたいということもあり、線路脇から狙いました。復活したての保存機だけあって、とてもキレイな状態ですが、過剰に磨きこんだというワケではなく、この面でも「模型」のような感じです。50系客車ながら、窓が開いて乗客の手が出ているところが、往年のローカル線を髣髴させます。

さて、この後は蒸気列車が戻ってくるまでの時間を利用して、しばし観光。そのあとは、帰途につきながら、国道294号線に沿って、できる限り上り列車の撮影チャンスを捕まえよう、というプランです。まずは、再び益子-七井間。国道121号線と真岡鉄道との踏切のところでの撮影。先ほどの下り列車より、ちょっと益子よりのポイントです。ぼくは、タンク機のバック運転がけっこう好きなので、上り列車もなかなかいい感じ。筑豊地区の枝線に多かった、C11牽引の短い旅客列車を思い出します。

上と同じ場所から、ちょっと見返し気味ですが、列車全体のサイドビュー。このカットのみ、3:2の35mmフィルムサイズでお届けします。日本型の蒸気機関車は、客車とくらべてけっこう小さめなことがよくわかります。16番やNだと、車輌限界が大きめな機関車が多く、実物を見慣れているヒトには、かなり違和感があるモデルが多いのが実情です。こうやってみると、タンク機に客車が3輌というのは、なかなかいいバランスですね。

クルマで追いかけてゆき、西田井-北真岡間の国道294号線の踏切のところで捕まえました。この日は、晴れたり曇ったり、光線の具合が変化しまくっていましたが、これは3カット目と並んで、日差しがきてます。とりたてて言うこともない構図ですが、これではほとんどジオラマ。まるで模型の撮影ですね。模型ファン、それも車輌模型でなく鉄道模型ファンからすると、こういう再現可能な景色というのは、心にきます。450×450ぐらいあれば、モジュールで作れそうですが。ところで、鉄分が復活してからも、復活蒸気の撮影というのは全然やっていません。なんか、違和感があるんですよね。ということで、この時が、いまのところ最初で最後ということになります。
(c)2009 FUJII Yoshihiko
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