登別の海と山 その1 -1975年7月20日-


今年2020年から始めたこのシリーズも、南九州のパシフィックもいなくなった現役蒸気最末期になってから、どちらかというとかなりユルく気を抜いて撮ったカットの特集という感じになってしまった。確かにこの時期はブローニーのカラーポジでしか撮っていない分、自分でも半世紀ぐらい全然見ていないカットもあったりして、それを発見して一体どこでどうやって撮ったのだろうと推察してみるのも結構面白かったりする。ということで、今回もその延長上で行くことにした。今年の2月に登別駅でのカットを掲載したが、それと同じ日である1975年7月20日に登別と虎杖浜で撮影したカットを二回にわけてお送りしよう。実はこの日はこの観光を兼ねた北海道ツアーの中では最後の撮影日であった。つまり、最後の現役蒸気機関車の撮影だったということになる。



登別から虎杖浜に向かってやってくる、下り旅客列車。C57で客車4輛というのもちょっと物足りない感じもするが、逆に実物でもこういう例があるというのはモデラーとしては強い味方ともいえる。当時岩見沢第一機関区に所属していたC57形式は5輛。それぞれ特徴があるので、比較的機番の考証はしやすい。このカットは引きで撮っているので細かいところは写っていないが、キャブの密閉改造が行われていないため、38号機か144号機ということになる。煙室扉を見るとどうやら二桁ナンバーでかなり低い位置に取り付けられている。このため38号機と比定した。この時期の他の撮影者の写真をチェックすると、なるほど38号機のテンダ側面にビラが貼られ落書きがされているのが確認できる。



ほぼ同じ登別温泉に繋がる山の中腹で、現在は高速道路が通っているあたりから続いてもう一カット。やって来たのはD51が牽引する下りの返空セキ列車。先程の旅客列車は150oを使って全編成を余裕で撮っているが、流石に現車54輛の長大編成だけに75oを装着しても前の方しか写っていない。さっきのC57がHOスケールか16番のレイアウトとすれば、こちらはさしずめNスケールという感じだろうか。もはや列車の写真というより、風景の写真に列車が写り込んでいるようなバランス感。その分海が大きく写っている構図だが、逆に北海道らしいゆったりとした感じが出てくるのではないだろうか。実はこの辺りは、それほど北海道ならではという景色ではないのだが。



さて、同じ列車が虎杖浜の駅を通過するところでもうワンカット。建物の圧縮感からすると、またレンズを交換して望遠にしているようだ。さて見えてきた機関車は、標準型で密閉キャブではないD51。このシーズンになるとさしもの室蘭本線とはいっても運用についている機関車の数が減っているので、ある程度は機番の考証が可能になる。ポイントになるのはキャブの吊り輪。鷹取工場タイプ、もしくは小倉工場旧型タイプ(どちらも複数の工場で使われている)のキャブ屋根に吊り輪が付くタイプだ。当時追分機関区に所属していたカマでこの条件に合うのは、231号機、597号機、764号機、767号機のどれかということになる。ここまでは追い込めたが、見える範囲ではこれらのカマはほぼ同タイプなので、ここから先を詰めるのは写真だけでは難しいなあ。



今度は多少線路が海に近付く竹浦駅の方に移動して、太平洋をバックにした上り列車を狙う。やって来たのは上り旅客列車。この頃はまだ基本的に客車の旅客列車は岩見沢第一機関区のC57の牽引だった。海上には何隻も釣り船が出ているので、それをバックにした撮影を狙ったものだろう。よくみると海岸にもかなりの釣り客が降り、拡大すると何本もの釣り竿が写っている。国道の向こう側、砂浜との間には何台かのクルマも止まっており、釣り客がクルマでやってきていることがわかる。トップライトで逆光気味だが、南に向かって走っているので何とか正面には光が来ている。うっすらとした煙も含め、短いけれども大いに盛り上がる北海道の夏がやって来た感じが伝わってくる。



さて、このC57は密閉キャブに改造されているので、44号機、57号機、135号機のいずれかだ。このカマは踏段改造が行われているので、57号機ではない。拡大してナンバープレートを見ると、数字は読めないが機番は3ケタのようだ。135号機であることが濃厚になって来たので、テンダの台車を確認すると、なるほど抜けていなくて板台枠だ。ということで、このカマは135号機と比定した。このあたりから段々と、最後の蒸気機関車がテレビなどメディアに取り上げられるときに、なぜか135号機が登場する度合いが高まり一躍人気者になるのだが、この年の春ぐらいまでは必ずしもそうではなく、踏段改造をしていない57号機の人気も結構高かった覚えがある。個人的には密閉キャブよりオリジナルのキャブを付けたカマの方が好きだったけど。




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