西九州の追憶 その2 佐世保線 1 -1971年11月-


前回は、長崎本線でC57170号機の牽引する旅客列車を追いかけまくった展開でしたが、今回は佐世保線。今度は翌日の朝ですね。武雄温泉に泊ったので、佐世保線では急勾配で補機がつく名撮影地であった、武雄-永尾間での撮影と相成りました。今回も朝の気配の中で無理して速いシャッターを切った分、露出はかなりアンダー気味、オマケに国産ネガカラーなので、フィルムが変質して、変色や劣化が甚だしいなど、写真としては最悪状態。お恥ずかしい限りなのですが、記録は記録。レタッチも、本格的にやればそれなりに修復可能とは思いますが、あえて印画紙への引き伸ばし時にアナログで対応できる範囲に押えてあります。どうかお許し下さい。



武雄(現武雄温泉)駅に佇む、早岐機関区のC11165号機。この写真ではナンバーは読み取れず、K-7タイプの小工デフを装着しているということ以外ディテールも良く見えないのですが、別のカットでナンバーを読み取ることができたので、165号機とわかります。佐世保線の武雄-永尾間には峠越えがあるため、30パーミルの勾配が存在します。他の区間は比較的平坦なため、機関車牽引列車は、平坦部分の定数にあわせておき、この区間のみ補機を付けて運用しました。補機は武雄をベースとして短区間でピストン運用されたので、タンク機関車のC11が使用されました。それにしても、小工デフのヤツが運用に入っているとはラッキーですね。


さて、この区間ではよく知られたお立ち台である築堤のところにきました。まずは本命が来る前の小手調べ。下り佐世保行きの「急行西海」は、この時期はDD51の牽引ですが、勾配に備えてC11の後補機がつきます。先ほどの165号機がプッシャーになっています。青15号の客車が、急行らしさを醸し出していますが。最後尾が木製窓枠のスハフ42、その前がナハ10、さらにその前がアルミ窓枠のアコも改造スハ43と、三者三様の構え。状態が悪いとはいえ、カラーだとこういう違いは一目瞭然ですね。さらにこの時期はまだナハ10の屋根は、ちゃんと銀色に塗装されていたことも確認できます。一時話題になっていましたが、蒸気機関車が現役だった頃は、九州に乗り入れてくる山陽筋の急行ではそうでした。


いよいよ本日の本命の列車がやってきました。C57牽引の下り旅客列車。C11が前補機で連結され、重連になっています。勾配でかなり速度が落ちていますので、いろいろ狙えます。まずは、田んぼに広がる稲架での稲木干しをバックに、引き気味にして撮影。力行中ですが、九州らしい完全燃焼で、完全に蒸気だけの白煙状態。気温の低さから、白煙はきれいにたなびいています。しかし、これ11月ですからね。この時期に稲刈りとは、ちょっと妙ですが、温暖な地域なので、二期作をやっていた可能性が高いです。しかし、稲刈りの時期とか、二期作とか、もはや現役蒸気機関車を撮影できた世代でなくては理解できないでしょうね。


至近距離に迫ってきた列車を、築堤上のサイドビューで捉えます。逆光気味ですが、一連の写真の中では、比較的良く撮れているほうでしょう。本務機のC57も小工デフ。それも関さんのK-1デフじゃないですか。バッチリ撮れてますね。K-1デフは、150号機、155号機の2輌しかいませんが、この時期早岐にいたのは155号機のみ。ということで、あっさり機番が比定できました。本務機の安全弁が吹いているので、石炭は焚いていることがわかります。しかし、全く蒸気の排気だけの白煙状態。早岐機関区の機関助士の技量の高さがわかります。築堤の煉瓦トンネルは、線路をアンダークロスする道路用のもの。車輌の大きさと比べても、ここが20m近い高さの築堤であることがわかります。


築堤区間の西側は大きくカーブしているので、まだまだ狙えます。2枚目の急行西海のカットのさらに先は、再び見通すことができるので、多少見返り気味にはなりますが、ちょっと雰囲気の違う絵が撮れます。このあたりは勾配のきつい区間なので、さすがに煙にも黒煙が混じりだします。でも、昨今の動態保存蒸気の爆煙からみれば、充分淡い色です。九州はもともと気温が高めというアドバンテージはありましたが、完全燃焼・黒煙防止にはかなり注力していました。リンゲルマンを装備しているのも、黒煙防止が目的です。また、クルクルパーを使用しなかったのも、完全燃焼に努め、すすやシンダを飛ばさないようにしていたからです。ぼくが爆縁は下品に感じて好きでない理由も、この辺にあるのでしょう。


多くの列車では、補機は急勾配のある武雄-永尾間のみ。C11は、一駅補機を努めると切り離され武雄に戻って行きます。しかし、武雄は機関支区も駐泊所もないので、早岐からやってきて、何列車か補機をこなし、早岐に帰ってゆく運用が組まれていました。この列車はその帰りの運用で、早岐まで前補機が付いたまま走ります。なので今回もまた、タクシーでこの列車を追いかけようという作戦です。おまけに前補機のC11、本務機のC57ともに小工デフ装備。これは狙い甲斐があります。早速待たせておいたタクシーに乗り、佐世保線と並行する国道36号線を追いかけます。さすがに勾配区間の足は遅く、すぐに追いつき追い越します。国道を並走しながら、追い越しざま撮影したC57155号機。かろうじてナンバーや区名票が読み取れます。


(c)2015 FUJII Yoshihiko


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