南の庫から 八代駅・八代機関支区 -1970年8月2日-


熊本から、次はどこにいこうか、と迷うところですが、今回はそのまま南下して、同じ時期の八代駅および機関支区のカットです。ここは、肥薩線川線の基点であるとともに、鹿児島本線の区間列車の発着もあり、機関車の出入りはけっこうありました。八代駅は、九州新幹線が乗り入れないこともあって、今でも昭和40年代の雰囲気を残していますが、今回は鹿児島本線が電化直前の正真正銘の「昭和写真」。すでにこのシリーズでも何度か登場していますが、今回の写真も、中学三年生の時の、はじめての蒸気撮影旅行時に撮影したものです。この時は、本チャンの写真は、35mm一眼レフでの撮影ですが、今回のカットは、サブで持って行ったハーフ判のキャノンデミにネガカラーを入れて撮影したもの。そんなワケで、もともとの画質が低いのに加え、経年変化による褪色や、カビ等の汚損も激しいのですが、貴重なカラーの記録ということでお許し下さい。



まず最初は、3番線に停車中の、鹿児島本線の下り旅客列車を牽引する、熊本機関区のC6017号機。鹿児島本線最後のC60は、そのほとんどが鹿児島機関区所属でしたが、波動対応で熊本機関区にも、17号機、102号機の2輌が配属されていました。末期には、鹿児島機関区の予備機の都合から、運用の振り替え等も頻繁に行われ、けっこう鹿児島のカマに混じって使われていたようで、この時も、17号機、102号機、ともども撮影しています。逆光でプラットホームの影という悪条件から、ディティールがすっかりすっ飛んでしまっていますが、C59/C60特有のスマートなプロポーションは充分に見て取れます。


続いて、同じホームの反対側、2番線に上り旅客列車を牽引してやってきたのは、鹿児島機関区のC6114号機。こちらは、夏の日差しをバッチリと浴びた順光なので、オート露出でも充分に絞り込まれ、かなりきれいな発色・描写が残っています。末期でも、九州のカマは手入れが良いほうでしたが、この頃までは、常に手入れがされ、俗に「九州色」と呼ばれる、鉄色っぽい独特の艶を放っていました。この写真でも、ススの黒色ではない、独自の色調を見て取れます。隣の線に停まっている貨物列車の、ワム50000もなつかしいですが、その後にチラリと見えるワム80000。その色に御着目ください。全面的にとび色、というわけではないのです。黒い中に、ちらちらととび色が見えているのが、この頃のワム8の色だったのです。


製紙工場をバックに、ヤードで入れ替え作業中の、人吉機関区所属のC5748号機。当時西九州、中九州から、宮崎方面行きの貨物は、肥薩線、吉都線経由で送られていたため、川線もそれなりの貨物量があります。したがって始発駅での貨物列車の組成も、かなりの重作業になっています。すでに架線には通電がはじまり、電機の試運転も行われていたワケですが、個人的には、こういう「ライフラインを支える蒸気機関車」的な存在感は大好きで、お仕事中、という感じにはゾクゾクきてしまいます。しかし、よく見るとバックに、製紙工場の専用線の、入換用DLがチラリと写っていますね。こっちに「萌え」るヒトもいるかも。


同じく、C5748号機のアップです。空の部分はカビや変色が激しいですが、機関車の発色はワリとよく残っているようです。煙突の真鍮帯の磨き出しをはじめ、各部の手入れのよさが充分にわかります。よく見ると、砂撒き管は2本。九州でも70年ごろまでは、人吉や早岐など、砂撒き管2本のままで使っていた機関区もありました。九州のC55・C57というと、頭ごなしに「砂撒き管は3本」と思っている若い方もいらっしゃるかと思いますが、そんなに単純な話ではありません。もっとも、70年代に入ってからは、全検の残っているカマを使いまわし出しだ上に、3本を原則としていた機関区にしか、蒸気が残っていなくなったので、事実上3本ガマばかりになってしまったのも確かですが。


最後は、折り返して熊本までの運用につく準備も整った、熊本機関区所属のC57151号機。緑が刺されたナンバープレートや、磨きだされた変形煙室扉ハンドルなど、当時の熊本区所属の機関車の特徴が、カラーでバッチリ捉えられています。解像度はさておき、撮影の光線状態や、ネガの保存状態も悪くはないようです。その分「熊本区のアイドル」として大切にされ、手入れが行き届いていた151号機の様子がよく伝わってきます。これまた、「九州色」に鈍く輝いています。熊本-八代間という平坦路線の運用ということで、ネグラへの帰り運用でもまだこれだけきれいな状態でいられるわけですが、当時の蒸気を生で見たことのあるヒトにとっては、寝庫への帰りでもこれだけきれいということは、ちょっと驚きですね。



(c)2008 FUJII Yoshihiko


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