大六壬の命占への応用


 大六壬はもともと卜占、すなわちある事件がどう変化していくかを見るのが本筋ですが、一応命占もできることになっています。もちろん、四柱推命を勉強している私は、命を見るのには四柱推命を使うわけですが、大六壬を用いることもごくたまにあります。(他にも河洛理数や七政がありますが、まだ十分に使いこなせない)
 世の中の占いフリークの人の多くは、命の占術が好きでしょう。実際、西洋占星術はだいたいにおいて命の占術ですし(測局的な使い方もありますが)、気学だって推命法がありますから、まあ命の占術が一番人気があるし、はやっているといってよいと思います。
 では、大六壬の推命法は、というと、実は、それほど多くの本はありません。私の知る限り、「六壬尋源」の推命秘旨の項と透派の使う六壬命理、あとは大六壬類聚の論命の項とか心機独語の占命とかで、あまり深く研究されているとは言いがたいですし、実際私もそれほど深く研究しているわけではありません。
 ここでは、「こんなものもあるんだ」というぐらいの紹介です。


 −目 次−
   1.命式の立て方
   2.命宮、身宮
   3.三限と行運法
   4.命式の見方
   5.格局法
   6.実例を二例
   7.まとめ−六壬推命の使い方



1.命式の立て方

 命式の立て方は、占おうとする人の生年月日時を使って、一般の大六壬の課式と同じように立てます。「六壬尋源」には、「即ち月将を時に加える法を以って、課体を立成す。」とあり、これは全く一般の大六壬と同じです。
 しかし、透派の六壬命理では、時の代わりに生月支を使っています。すなわち、生月支の上に月将を乗せて、命式を作ります。それなりの理由があるのでしょうが、この方法だと、例えば小寒から大寒に生まれた人(1月前半に生まれた人)は、月将も生月支も丑ですから、みな伏吟課ということになります。これは、私としてはあまり納得いかないので採用していません。もっとも、実占でも使ったことはありませんので、当たるのかどうかは知りません。ひょっとするとよく当たるのかもしれません。
 とりあえず、私は、一般の大六壬と同じように命式を立てています。



2.命宮、身宮

 命宮は、自分の運命を見るところですが、「六壬尋源」には命宮の出し方がはっきり書かれていません。阿部泰山師の「細密鑑定極秘伝」には、命宮は年支だと書かれています。例をみる限りは、「六壬尋源」は年支を命宮に採用しているようです。
 しかし、一般には、命宮は月将と占時から求められるものとされています。(例えば「命理通鑑」とかを参照してください)具体的には、月将と占時で天地盤を作りますが、その地盤が卯の天盤支を命宮とします。「課式の構造」の図を見てもらうとわかりますが、命宮とはその時間の東の方にある天球上の十二支にあたります。すなわち、その時間にちょうど命宮である支が上ってきた(地上に現れてきた)わけで、その支がその人の運命上の鍵をにぎると考えられたわけです。
 このうちのどちらをとった方がよいか??私は、一般的な命宮のとり方、すなわち後者を採用しています。
 身宮の取り方ですが、身宮は日干の寄宮の支をとります。日干は四柱推命では日主といい、自分のことですから、これは異論がありません。ただし、七政とかでは太陰、すなわち月を身宮にとりますが、大六壬では日干をとります。(ここは四柱推命的ですね)
 命宮から十二宮を求める方法があります。その順は、命宮、相貌宮、福徳宮、官禄宮、遷移宮、疾厄宮、夫妻宮、奴僕宮、子女宮、田宅宮、兄弟宮、財帛宮で、地盤の十二支の順にふります。この順番は七政でも斗数でも同じです。ただ、命宮の出し方が、「六壬尋源」と一般の方法と違うので、当然、他の宮も位置が違ってきます。どちらをとったほうがいいかは、今後の研究が必要ですね。



3.三限と行運法

 三限というのは、三伝に年数を割り振る方法です。初伝を少年期、中伝を壮年期、末伝を老年期とするのですが、その区切りが何歳かを求める方法です。
 しかし、この方法は、「六壬尋源」ではどうもはっきりしません。また「細密鑑定極秘伝」の方法は「六壬尋源」から採っているようなのですが、その出し方が違います。いずれの方法にしても、大衍の数を使うのですが、この計算の理論的根拠が定かでありません。しかしながら、いずれの計算方法にせよ、おおざっぱにいうと、初伝は二十代まで、中伝は二十代から五十代まで、末伝は五十代以降となります。この程度で、三限は十分でしょう。
 その他の行運法を説明します。
 小運は普通にいう小運で、男命は数え年1歳を寅として、卯が2歳、辰が3歳というふうに順に割り振ります。女命は数え年1歳を申として、未が2歳、午が3歳というふうに逆に割り振ります。その歳の支やその天盤支をみて行運を判断します。
 四柱推命でいう流年、すなわち太歳も見ます。これはもっぱら、日干、身宮、一課との関係を見ます。
 大運もあります。これは命宮を生まれたときとして、やはり大衍の数を用いて出すのですが、そもそも命宮の出し方がまちまちなので、省略します。
 このように、大六壬による推命は、この行運法が弱点です。行運をみることにおいては、やはり四柱推命の方が優れているように思います。ですから、私は命占では、もっぱら四柱推命を使うのです。



4.命式の見方

 命式の見方ですが、今まで縷々述べてきた課式の見方と大きく違っているわけではありません。
 日干、すなわち身宮、および一課を占う本人とみます。日支および三課を配偶者とします。この場合、結婚占いと違い、一課を男性、三課を女性とするわけではありません。ただ、そういう見方をする人もいるかもしれません。(寡聞にして私は知りませんが)
 身宮が季節的に旺相していたり、他課や三伝から生じられていたりすれば、その人は健康ですし、剋を受けたり冲刑を受けたりすれば、病気がちだったり貧困にあえいだりします。
 身宮、一課の十二天将は本人の性格や才能、職業を示しますし、日支や三課の十二天将は配偶者やその性格や状況を示します。また、日支、三課は家庭を持った後の家の状況を指すこともあります。
 初伝、すなわち発用は、四柱推命における用神と同じように考えていいでしょう。つまり、人生の目的とか興味の対象とかを表します。初伝というのは少年期を示しますから、その間に人生の目的や興味の対象が固まってくるとも言えるかもしれません。もちろん、中年、老年期に変わる人もいるわけですが。
 命式の見方について述べた歌賦もありますが、特別なことが書かれているわけではありません。これは、古典の紹介の項でおいおい紹介していこうと思います。


5.格局法

 「六壬尋源」には、推命の格局法として、二十四格十六局が挙げられています。いろいろと仰々しい名前がついています。もちろん、これらを列挙して紹介してもいいのですが、私思うに、あまり役に立つとは思われません。阿部泰山師の「細密鑑定極秘伝」に挙げられていますので、興味がある方はそれを読まれるといいと思います。格局の名前とその内容を覚えるよりは、その考え方がわかれば十分です。考え方の基本は「畢法賦」と同じです。生剋合冲刑会と空亡、十二天将の働きを理解すれば、格局などは覚えなくても十分占断は可能だと私は思います。
 さらに、神殺を使いこなせれば、上級者といえるでしょう。



6.実例を二例

 さて、これだけの準備ではいささか心もとない感じがしないでもないですが、なんと言っても「習うより慣れろ」で、実例から入った方がわかりやすいかと思います。
 以下、男女二つの実例を見てみましょう。まずは女命から。


実例1. 1930年10月22日卯刻生 女命

日干支 乙巳  占時 卯  月将 辰  空亡 寅卯  命宮 辰

初伝トウ蛇
中伝貴人
末伝天后
トウ蛇朱雀朱雀六合
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日干、身宮、命宮
 まず、日干の強さに着目すると、木を助けたり生じたりする支が全くありませんし、干上神は巳火であり日干を漏らし、中伝末伝は官鬼ですから日干をさらに弱めます。したがって、日干はかなり弱いといえます。
 この命式においては、身宮命宮ともに辰です。辰土の地盤は卯木で剋されますが、天盤は巳火でこれは辰土を生じます。辰土は日干からみて財にあたりますから、財に縁があるといえるでしょうが、日干が弱すぎるので、思うようにならない財といえます。どちらかといえば貧命にあたるでしょう。
一課
 一課は本人の状態です。六合がついていますから、和というものを大事にします。しかし、六合は木神で巳火についていますから、六合そのものは弱くなりますので、和というものが築きにくく、かえって心配事が多くなるといえます。
日支、三課
 日支と三課は配偶者です。いずれも火で、子孫、変通星でいえば食傷にあたりますから、夫は妻の助けを得ることにはなりますが、妻本人にとっては全然助けになりません。三課は午で朱雀がついていますから、派手めの感じです。朱雀は基本的には凶神ですから、結婚生活はあまり好ましくないものと思われます。
三伝
 発用は四課から出ていますから、本人の性格はどちらかというと内向きでしょう。内向きといっても内向的というわけではなく、考え方の基本は自分の内部にあるということです。未土で財ですが、トウ蛇がついていますから、心配ごとがついて回るでしょう。
 中伝は申で貴人がついていますが、申は日干を剋します。表面的にはよさそうでも、本人にとってはつらい状況といえるでしょう。
 末伝は酉でやはり官鬼ですから、よくありません。天后がついていますから、家庭内の不和、女性問題などが考えられます。
寿夭
 日干が弱く、また身宮も弱いので、夭折するかそうでなければ貧命でしょう。
実際
 この例は四柱推命の本からとったものです。とくに、六壬命式であてはまるかどうかは全く事前にチェックせずに、適当に選びました。ここでは八字そのものは挙げませんが、その本の注を引用します。「」内がその本に書かれていることです。
 「この命は乙日主ですが、水印がなく聡明とはいえません。」確かに、六壬命式でも水がありません。
 「身弱で傷官財星があるので自分で誤りをなす。」六壬でも確かに身弱です。
 「夫は商売を営み、ある町で最大のデパートを経営。」派手めの人の感じがしますね。
 「30代のころ夫は妾をもち、この本人の地位は凋落、下女のような扱いを受け、精神的な打撃が大きくなる。」これは中伝というより末伝の状況に近いです。確かに家庭不和、女性問題で悩むことになったわけですから。
 「数え44歳癸丑年夏、火が肺を攻め肺癌を患い、翌年二月に不禄(亡くなったという意味であろう)。」肺を病むかどうかは六壬命式だけではわかりませんでしたし、四柱命式でもはっきりとはしません。ただその行運では火が強くなり、日干乙は化五行で金ですし、年干は庚ですから、火剋金で肺を病むということは出てきます。十二宮に着目すれば、疾厄宮は酉ですから、課伝の多くの火から剋されるので、やはり火剋金が出てきます。ただ、これは後付けであって、命式だけみて肺癌を予想するのはよほど熟達しなければできないでしょう。
 総じて、六壬命式と当てはまっているように思います。


実例2. 1952年3月23日寅刻生 男命

日干支 戊辰  占時 寅  月将 戌  空亡 戌亥  命宮 亥

初伝青龍
中伝トウ蛇
末伝玄武
トウ蛇青龍朱雀天空
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日干、身宮、命宮
 実例1と同じようにみてみましょう。日干は戊土で日支に助けられ干上神は比和ですから、前の例ほど身弱ではありませんが、課伝には財と子孫が多く、季節は春で占時は官鬼であるため、あまり強いとはいえません。
 命宮は亥で身宮は巳です。命宮亥の地盤は卯で会をなし、木局をなします。よって、亥水の財と木局の官鬼とをどう評価するかが難しいところです。
 身宮は巳ですが、巳火の地盤は酉で会ですが、三伝水局から剋されますから、身宮は弱いといえるでしょう。したがって、健康面では不安をかかえていると言えます。
一課
 一課には天空がついています。凶事を占うときの天空はいいのですが、命占ではあまりよくありません。小事はなるが、大事は成らないという神です。性格的にはニヒルというのか、落ち着いているでしょう。頭はいいと思われます。
日支、三課
 日支は辰土、三課は子水です。日支は日干を助けますから、妻は助けになります。また子は青龍で財で、青龍というのは勢いのある十二天将ですから、やや尻にしかれるかもしれません。
三伝
 発用は三課から出ていますから、本人の性格はどちらかというと内向きでしょう。しかし青龍で子に乗じていますから、早年は、非常に活動的といえるでしょう。本人の興味は財的な方面(あるいは女性)に向くと思います。
 中伝は申でしかもトウ蛇ですから、あまりいいとはいえません。日干を洩らしますので、健康状態にはとくに注意した方がよいと思われます。
 末伝は辰で玄武がついています。玄武は凶将ですから悪いのですが、日干を助ける支ですから、必ずしも悪いとはいえません。
 三伝は水局をなしていて、格局は帝座淵穆格となりますが、身宮を剋し、日干を分けますから、貴格とはいえません。
寿夭
 日干、身宮が弱められますから、常に健康の不安があります。
実際
 この命式もまたとくに選んだわけではなく、適当に四柱推命の本を広げて拾った命式です。上と同様、「」内は原文の注釈です。
 「火が弱く、官殺が濁り、戊土は弱に転ずる。」確かに火は見当たらず、日干は弱いといえます。官殺濁るとは、時柱の甲寅と月支卯、すなわち蔵干乙のことを指します。
 「殺は官の勢いに従い、極めて聡明、文武に優れ、ひとかどの人材。」頭はいいと思われます。水が強いので頭がいいという判断もできるかもしれません。
 「25歳丙辰年に偏印水に入り天厄にあう。乙未月戊寅日に水泳中に溺死した。」25歳は行年では寅で、白虎で官鬼となります。ご存知のとおり、白虎は疾病、災厄の神で官鬼ですから、非常に危ない年です。三伝の運限法については解説しませんでしたが、この命の場合、20代から中伝に入ります。中伝は決してよくない時期ですから、溺死した原因ははっきりしませんが、水泳中に体調を崩したことは間違いありません。偶然の一致でしょうが、中伝の遁干は壬です。壬は海河の水ですから、やはりこの時期は水泳などはさけるべきだったのかもしれません。



7.まとめ−六壬推命の使い方

 以上で、大六壬の命占への応用を終わります。
 実例をみてわかったと思いますが、四柱推命に比べてとくに行運が弱いのがわかります。大六壬は比較的象意のとり方が易しいはずなのですが、こと命占に関して言えば、いまひとつ漠然としてはっきりしません。それもそのはずで、もともと大六壬はある特定の事件についての占いですから、象意のとりようもはっきりするのですが、人の一生というのは一言で言い尽くせるものではありませんから、どうしてもあいまいになってしまうのでしょう。
 とにかく、行運、とくに大運の判断が弱いのは命の占術としては(致命的な)欠点であり、この部分を改善すれば命の占術としてはまあまあということになるでしょう。しかし残念ながら、大運については、まだまだ諸説あり固まっていない感じです。
 私としては、六壬だけで推命するのは、よほどの達人でなければおやめなさい、と言いたいところです。別の命の占術をマスターしたうえで、参考に六壬を使う、ということでいいのではないでしょうか。
 ちなみに、私見ですが、あわせてみるなら、四柱推命よりも七政星術、星宗の方がよいように思います。六壬課式の天盤がすなわち七政命盤に近いからです。もっとも、七政を使いこなす方を日本ではほとんど見かけませんけどね、、、。もちろん四柱推命との併用でも(私もそうですが)より確度が高くなるのではないかと思います。