適職の見方


 ”適職の見方”というのは一般の占いの本に倣ったまでで、私自身は、四柱推命で適職などはわからない、と思っています。
 その理由を、まず第1項で述べようと思います。ただ、それで終わっては、このページの存在理由がありませんので、第2項以降で、四柱推命を職業とどう結びつけるかを考察したいと思います。
 ただ、四柱推命よりは、私の職業に対する考え方的な内容の方が多くなっています。かなり独創的というか独善的というか、そういう内容ですので、これを読んで職業を選ぼうなどとは考えないよう、はじめにお断りしておきます。



1.職業適性について

 私は一介のサラリーマンであり、職業論を学問的に研究したこともないし、また他の職業の経験もありません。よって、私が「適職とは何か」を論ずること自体、おこがましい、というか、不遜だと言われてもしかたがありません。しかし、世の中に数多の職業適性に関する論はあれど、私にはいまひとつ、というか、納得できないことが多いのです。
 職業適性とは何か。いろいろなウェブサイトを見てみると、職業にはそれぞれの職業が要求する適性がある、などと書かれています。そして、その適性は大きく2つあり、身体的な適性と内面的な適性があるとされます。
 身体的な適性があるというのは、これは疑いようがありません。強度の高い肉体労働においては(運動選手等を含む)、肉体的なストレスに耐えうる体力や運動機能等が必要なのは、ほとんど自明です。しかも、この身体的な適性については、ほとんどの人が自覚できますから、これについてはここでは論じません。
 問題は、内面的な適性です。内面的な適性といっても、いろいろあるようですが、技術とか資格、技能(例えばピアノが弾けるといったようなことも含む)というのは、内面というよりは外面的ですから除外しましょう。
 私がどうも納得できないのは、果たして個性によって職業適性が判断できるのかということです。
 非常に単純な例で申し訳ないのですが、例えば数字を緻密に計算することが好き、几帳面、だから経理に向いている、ということを考えてみましょう。適性検査はこれほど簡単ではありませんが、こういう向き不向き論は巷間よく聞かれることです。
 このようなことを会社の人事、採用担当がもし言ったとすれば、その人事、採用担当者は失格です。また仮にそのような人ばかり経理担当になったら、その会社は発展しません。
 会社の経理担当になるには、数字に対する態度、能力はごく普通でも構わないと断言できます。無論緻密な方がいいのですし、また電卓も満足に叩けないようでは困ります。しかし、経理部門の仕事は(少なくとも現代は)、数字の足し引きではなく、そこから会社の金にまつわる問題点、改善点を引き出すところにあります。また財務的な仕事、お金を借りる仕事もあるわけです。すると、金融機関との折衝もありますし、社内的な折衝だって大変です。そうすると対人関係というのも必要な能力になってきます。
 したがって、一流の経理マンになるには、分析能力、問題解決能力、よい対人関係、交渉力などさまざまな能力が必要となってきます。そういう能力がないと、ただの計算屋さんになってしまうのです。
 私が会社員なのでわかるのですが、こういうことは何も経理担当だけではなく、会社組織においては、あらゆる部門にいえることです。ですから、こと会社員に限って言うと、特定の技術、資格、技能を除いては、会社員としての職業適性というものはない、と考えます。言い換えると、会社員には(病的というほどの性格破綻でなければ)誰でもなれるということです。(出世するかどうかは本人の腕と運しだいだが)
 ですから、私は、会社員になるのに職業適性検査を行うのは、あまり意味がない、もし会社で行うとすれば、それは人事担当の趣味にすぎないと思います。まあ、これはちょっと言い過ぎで、適正検査は日々進化しています。それでも、職業適性検査を課すのは私は疑問です。よほどの性格破綻者を除く程度でしょう。(ちなみに私は入社前も入社後も適性検査など受けたことはありません。クレペリン検査は小学生のころやったけど)  では、会社員以外を考えるとどうか。公務員、政治家、教育者、学者、自営業(商売人、個人事業者、フリーランサーから芸術家や評論家等を含む)、医者、看護師、宗教家などが考えられます。公務員は別として、他は個人の行為で金を稼ぐ必要がありますから、個性がそのまま成功失敗に影響します。したがって、個人で職業を切り盛りする人には個性が極めて重要で、適性を考える必要があると思います。政治家は人気がないとできませんし(選挙に当選する必要がある)、芸術家は表現欲が、学者は人一倍すぐれた頭脳がなければつとまりません。
 公務員はどうでしょうか。私はある種の適性があると思っています。それは四柱推命でいう”貴命”です。それがなければ小役人になってしまいます。そしてそれはその公務員をいただく住民にとっては不幸です。

 以上をまとめますと、次のようになります。
  ・会社員 − 技術、技能、資格を除き、内面的な職業適性はない。
        (百歩譲って、制約条件は少ないと言い換えてもいい)
  ・個人事業 − それぞれに対する職業適性がある。
  ・公務員 − 他の職業とは違った適性がある。
         (古の四柱推命は上級官吏になることが貴命だったわけですが)
 次に適職について考えてみたいと思います。


2.適職についての考え

 前項で、一部の職業には適性が必要だが、会社員には必要がないと言いました。日本の就労者の大半は会社員なので、大半の人は職業適性に頭を悩ます必要はないでしょう。今後も、大半の人は会社員になると思うし、今の青少年が会社勤めを目指すなら、職業適性の検査などで時間をつぶさない方がよいと思います。
 それはさておき、では、職業適性が合えば、その職業は適職といえるのかどうか、というのが次の問題です。
 適性いかんにかかわらず、職業においては、成功、失敗というのはあります。また成功、失敗にかかわらず、満足、不満足ということもあります。職業上では成功したが不満足である、ということはありえます。
 例えば、私の父は学校の先生で、先生のことは比較的よくわかるので学校の先生を例にとると、学校の先生として成功していくと、一般的には、いったん教育委員会で指導主事などを行い、教頭を経て校長になります。これが学校の先生の一般的な成功のルートです。しかし、指導主事になったがゆえに、子供に直接教える機会が少なくなり、本人としてはいささか不本意ということもあるわけです。逆もありえます。
 不本意とか不満足はストレスにつながり、体調不良の原因ともなります。職業上の成功が体調不良を招く場合、果たしてその職業は本人に適していたといえるのでしょうか?
 逆に、本人は満足だが、職業としては全く成功していない場合、それはやはり適職と言えるのかどうか。本人が満足ならそれでいいではないかといえるでしょうが、ひょっとするともっと成功する職業があったのではないか、とも考えられるのではないかと。
 そういうことを考えると、適職の問題は、職業適性で割り切れるほど単純ではありません。その人のものの考え方というか哲学にまで踏み込まなければならないだろうと思います。以降、職業適性についての各論を述べようとは思いますが、四柱推命で示せるのはあくまでも適性の方向性なのであって、実際に適職となるのかどうかは、その職業に就いてからの本人の態度、意識にかかってくるのだということです。そのためには、本人の個性、可能性、体質等を十分に考慮する必要があります。またある程度の妥協、忍耐、あきらめというのも必要なことです。
 私のことをいえば、会社に入って3年はがまん、5年目からはあきらめの境地でしたが、15年目からはまあまあ満足しており、最近は、ま、適職だったかな、と自分の職業に対する思いは変化しています。結婚と社内の立場の変化によって心境が変わったこともあるでしょうし、年をとってあきらめたということもあるでしょう。経験を積むことで、自分の仕事の別な面が見えてきたこともまた心境の変化の原因でもあるような気がします。
 単刀直入にいえば、適職なんて死ぬまでわからない、ということです。そのとき気づいても遅いわけですけど。


3.職業適性のポイント

 ここから四柱推命の話に入っていきます。
 職業適性について、四柱推命におけるポイントには次のものがあると思います。

 (1)個性
 (2)貧富
 (3)体質・性向
 (4)貴賎
 (5)成敗

 以下、それぞれについて考えてみましょう。


4.個性、そして頭のよしあし

 個性についてはすでに”個性の見方”で論じました。個人で行う職業については、やはりそれなりの性格が必要です。
 例えば、芸術家では表現する欲求がなければいけません。すなわち引っ込み思案ではなかなかできません。いい作品を作れても、それを発表しようとしなければ、芸術家としては認められません。また、例えばフリーカメラマンの場合、例えば戦地に赴くとなれば多少無鉄砲なところが必要で、また体力も必要ですから、身旺であった方がいいでしょう。
 このように、個人で行う職業にあっては、どういう性格が必要か十分考える必要があります。個々の職業についての検討は皆さん自身でよく考えてください。
 ここでは、個性ではとりあげなかった頭のよしあしについて述べたいと思います。学者や研究者など、ある種の職業においては、行動よりも思索、読書を必要としますので、ここであえて頭のよしあし、知恵ということを取り上げることにします。
 「八字命批範例」の智慧の項には次のことが書かれています。 
  ・日干が水のときは、多くは頭脳明晰、記憶力あり
  ・十霊日、六秀日生まれは智慧が多い
  ・命に文昌学堂があるときは多くは聡明
  ・命に華蓋空亡があるときは多くは聡明
  ・傷官食神格で身強は多くは聡明
  ・日支に七殺、華蓋、桃花あるのは多くは頭がいい
  ・官が長生に臨むのは、学に富む
  ・学堂が駅馬に逢うのは、文章がうまい
  ・五行が偏るのは多くは愚か
  ・土日身旺で剋制なければ、思考は遅い
  ・火日身弱は多くは記憶力が悪い
 なお、十霊日、六秀日、その他の神殺については、神殺表に挙げてあります。
 「当代八字実務編」の会不会読書の章には、次のように書かれています。(抜粋です)
  ・食傷は聡明を代表する
  ・官殺印が多いのは読書を好む
  ・官殺印が多いのは比較的単純な人である
  ・財とくに偏財は読書を好まない
  ・食傷が忌神で強いのは読書よりも行動を好む
  ・比劫が多いのは読書を好まない
 だいたいは上の2書に書かれたことで間に合うでしょう。ただし、神殺での知恵の有無の判断は気をつけたほうがいいでしょう。神殺はあくまで補助的なものです。(ときどきよく当たりますが)
 よく変通星と職業を対応させる本を見かけますが、現代は社会の変化が早く、ある職業に必要な能力というのは、もはや固定的ではないといえるかもしれません。営業という職種ですら、人に直接会わなくてもできるような時代です。したがって、職業を選ぶときには、その職業の特性や必要な能力をよく知って、個性とのマッチングを考える必要があります。


5.貧富の問題

 貧富は四柱推命で比較的得意な分野だと思いますが、貧富の問題は職業の選択に密接に関わってきます。
 昔と違って、会社員が大量にいる日本においては、貧富の差が(今は広がりつつありますが)諸外国や昔ほどではありません。それは、会社員(とくに中規模以上の企業では)の個人の命が会社の業績にそれほど影響しないためです。運よく大企業に入ってよほどのへまをやらかさないかぎり、貧の行運だからといって、やめさせられたり極端に給料が減ったりすることはありません。つまり、会社員になる限りは、貧富についてはそれほど気にする必要がありません。
 しかし、こと商売人、自営業の場合は、企業に比べて収入が不安定であり、命式の貧富の問題が出てくるのです。職業年齢(18歳〜60歳ぐらい)の間に、破財の運がめぐってくるようであれば、商売人、自営業は避けた方が無難でしょう。あるいは、破財運のときには、内部留保を厚くして財務力を強化するとか、一旦会社をたたんで捲土重来を期するとかいう必要があるでしょう。
 しかし、発展期に投資をせずに貯蓄するというのは、商売人的なあり方とは逆でしょうし、残念ながら商売人としては二流と言わざるをえないでしょう。一代で身代をなしたような人は、破財の時期を真正面から受けて立ち、苦労をして事業を再興するという経験をしています。そういう苦労をしたくないと思ったら、その時点で、その人は商売人に向かないといえるかもしれませんが。
 ただ、いくつかの例をひもとくと、わりと言えるのは、財の振幅が大きい人の方が、自営業、商売人になるように思います。
 財、貧富の見方については、別にページを設ける予定ですので、それを参考にしてください。


6.体質・性向の問題

 以前、調候用神にあたる五行十干の象意をもつ職業につけばよい、と書いた本を読んだことがあります。事はこれほど単純ではないと思いますが、これにはうなづける点がないわけでもないのです。それが、ここで取り上げようとする体質・性向の問題なのです。
 体質や疾病については、後の章で論じるので、詳細はそれを参照してほしいと思います。ここでは、職業選択との関わりについて述べてみたいと思います。
 まずは常識的な考え。体質と職業とのかかわりです。例えば、漢方でいうところの熱燥証の人は、身体に水を溜め込みにくいという特徴があります。そういう人が炎熱下で汗だくになるのは命にかかわります。水分を補給しながら仕事ということになりますが、身体への負担は寒湿証の人よりも大きいと言えます。不向きとは即断できませんが、体質的にはあまり向いていない、といえると思います。
 続いて、飛躍した見方。例えば、木気が喜神である人が木気の象意の職業(例えば繊維関係の仕事)に就くのはどうか?木気が喜神だからといって、その人が木気のものを好むのかといえば、理屈からいうとそんなことは荒唐無稽なのですが、実際にはそういうことがままあるのです。あるいは何となく好作用があることがあるのです。
 もちろん、人間の身体的な五行的特性というのと、世の中の五行的な事象というのはつながりは全くありません。しかし、先人たちはそこに共通性を見出そうとしてきました。そして、目には見えないつながり(気というべきか)が何らかの作用を及ぼすという結論に達したのです。それがさまざまな開運法として結実しています。喜神の象意の職業に就くということは、まさに開運法の一つなのです。
 ただし、この性向に基づく職業選択というのはあくまでも参考なのであって、本流ではないことをお断りしておきます。例えば、商社などで取り扱うものを金属(金)にするのか繊維(木)にするのか選ぶ余地があったら、喜神の方をとった方がストレスが少ないよ、ぐらいのものです。これに重きをおいてはいけません。
 参考までに、五行の示す基本的な象意について表にしてみましょう。職業とどう結びつけるかは皆さんで考えてください。(陽宅風水指南を参考)

五行十干象意等
甲乙東方、木質のもの、長方形、
緑色、3,8
丙丁南方、燃焼するもの、電気、尖形
赤色、2,7
戊己東北、西南方、中央、土質のもの、
方形、黄色、5、10
庚辛西方、金属質のもの、円形
白、金銀色、4,9
壬癸北方、水を含むもの、流動的なもの、
波形、黒色、1,6

 色については、ものの本にはいろいろと書かれていますが、とりあえず参考書のをはしょって書いています。


7.貴賎の問題

 何の職業につくにしても貴命であることにこしたことはないのですが、そうすると賎命の人にはつく職業がなくなってしまいます。私の考えですが、貴命であることを必要とする職業はあると思っています。それは、政治家、公務員および教師です。もちろん貴命でなくてもなれるわけですが、貴命でなければ職業的な成功は得られないでしょう。一方、商売人などは賎命でも成功します。いわゆる、”富にして貴ならず”の命です。
 貴というのは倫理性を表しますから、高い倫理性を必要とする職業においては貴命でなければならないと考えています。宗教家も倫理性が必要だと思いますが、そうでなくても成功している人はいます。ただし、事業的に成功しているだけで、宗教性は低いでしょうけど。ま、公務員も同じといえば同じか!
 しかし、社会保険庁問題や談合騒ぎ、警察での不祥事など公務員の問題の多い昨今、彼らに高い倫理性が求められているのは間違いありません。
 では貴命とは何でしょうか。これについて「滴天髄」は一言です。”官星に理会あり”ということです。官殺が決め手だと言っているわけです。
 先の例のように、「八字命批範例」の貴命から列挙します。
  ・官殺が用神で喜神
  ・身旺で官殺が応じており、印が官殺を守っている
  ・身旺で食神が七殺を制する
  ・身旺で比劫が重く財が軽いとき、官殺が比劫を抑える
  ・財が印を損ない、官殺が財を漏らして印を生じる
  ・身殺両停(日主と官殺が同じくらい強い)
  ・官殺混雑のとき、七殺を合去する
 また、「八字応用学宝典」には、
  ・日干が弱い時に印が喜神で用神である
  ・日干が強い時に財官が喜神で用神である
  ・食傷制殺は武貴
  ・殺刃相済は武貴
  ・春木生まれで火が喜神は文貴
  ・食傷喜神のとき食神は文貴、傷官は武貴
と大雑把にのべています。ここでいう文とは事務、武とは技術とおおまかに考えていいでしょう。(むしろ文は一般職、武は専門職といった方が適当かもしれません)
 もちろん貴命でなくても公務員になれないことはないのですが、公務員というのは権力を持つわけで、その権力を行使するのに貴命である必要があるというわけです。
 また、政治家が貴命である必要がある理由は、一つはやはり権力の問題ですが、政治家は人に尊敬されるような雰囲気が必要です。そういう雰囲気をもつのは貴命の特徴です。


8.成敗について

 成敗とは成功、失敗であり、どういう命式であれば成功するのか、という話です。このことは職業選択と直接関係ありませんが、この成敗についての論は昔から数多くあります。はっきりいって、四柱推命の古典のかなりのものは、成敗の問題を取り上げています。「万尚書{ケイ}{キ}三盤賦」などはその例です。
 しかし、前にも述べたように、傍目からみた成敗と本人の満足度とは違うものです。また満足度というのは、ま、気持ちの持ちようで変わるものです。四柱推命で満足度が計れないこともないのですが、それ以上に本人の気持ちというか心境によるところが大きいのですから、そういうところまで四柱推命に頼るのはどうかと思います。適職かどうかは、つまるところ成敗を超えたところにあるのではないかと思います。それは、自分自身の経験からいえることです。


9.実例による説明2例

 実例をとりあげますが、これらの例は、すでに職業選択の成功、失敗が明らかになっている人の例です。ですから、本人がその職業に満足していたかどうかは定かではありません。ですから、適職を論ずる例としては、あまり適当でないかもしれません。
 なお、ここであげた例題は手近にある本から、ある程度職業の当たり外れがわかった人から適当に選んだものです。

例題1

1964年12月3日申時生 男命 (「子平命学弁証」より)

時柱日柱月柱年柱
比肩-正印偏印
冠帯
-七殺月令
42322212

 個性をみるために、まずは強弱、喜忌等をみてみましょう。
  ・日主は月令に旺じていないが、印多く戌に通根しており強い。
  ・木は亥と辰に通根しており強い。
  ・地支に水が多いが、一応従強格とみる。
 個性はどうでしょうか。
  ・月支蔵干は七殺で忌神である。親からは圧力を受けて育ったのではないかと想像する。
  ・印が強いので器用さ、吸収力はある。ただ比肩が強いので、ややわがままなところがある。
  ・印があっても官殺は忌神で強くないので、学問は高くない。
 貧富については、財が忌神でありませんから普通ですが、財の行運では破財する可能性がありますし、もともと財と縁が薄いのですから、商売人とかには向きません。貴賎についていうと、身旺で比劫が強いのですが、従強格ですから、官殺は忌神です。すなわち貴命ではありません。むしろ地支に忌神の官殺が多く、賎命といえるでしょう。
 してみると、この人は、器用さを生かした会社員を目指すべきで、決して自営業などになってはいけません。また、公務員なども賎命であるため不向きです。万一なったとしても、小役人の域を出ません。
 実際にこの人はどうなったかといえば、高校を卒業せずに自動車修理工場で自動車修理を学びました。器用だったので、修理技術はなかなかのものだったのですが、30歳で借金をして自動車修理工場の経営に乗り出しました。しかし、客はまったくといっていいほど来ず、借金でどうしようもなくなってしまいました。そのまま修理工場勤めだったら、そうはならなかったでしょう。
 性格的にも客にサービスをしようとする雰囲気はうかがわれません。
 なお、丙が二つあるのは火が強すぎて、木は焼かれてしまいます。地支に水があるうちはいいのですが、地支の水が冲されたり合されたりすると、木焚火烈で印が枯れてしまいます。そういうことから、この命はなかなか発展できません。


例題2

1960年5月23日未時生 男命 (「当代八字実務編」より)

時柱日柱月柱年柱
偏財-比肩劫財
冠帯長生
-正官月令
45352515

 強弱、喜忌について
  ・比肩、劫財が多い。
  ・月支と日支が冲であり、金の根となる作用は弱いが、財よりも強いといえる。
  ・財があるので、官で抑えるよりも食傷がよい。
  ・一応木水を喜神、金土を忌神とする。火は時と場合による。
 個性について
  ・財が喜神でそれなりに強く、活動力、統率力にすぐれる。
  ・食傷は喜神であるが天干にないので表面には出ない。
  ・ただし傷官が日支にあるので、行運次第ではそのよさが出てくる。
  ・比劫が強いので、気の強いところがある。
 貧富については、財が喜神で強いので、富命といえます。貴賎については、月令が官があり喜神ですので、貴命です。比劫を抑えるというよりは辛と合する働きとなります。
 さて職業ですが、財が喜神で強いということから、自営業という選択はありえます。比劫が強いので、あまり頭がいいとはいえませんから、どちらかというと、学問的ではない自営業ということになります。
 実際はどうだったかというと、甲申運に一度事業を興して失敗しています。壬申年32歳で創業し、癸酉年から丁卯年まで順調に事業は拡大していきました。事業者としては成功したかにみえます。
 しかし、酉運に入りますと比劫は強くなりますし、己卯年は大運と天剋地冲となりますのでよくありません。卯は本来乙の根となりますが、年支に刑、大運と冲ですから、作用が弱くなります。また己が比劫を強めますので、破財となります。実際己卯年に不渡りを出して倒産してしまいました。
 倒産した原因は投資の過多にあったのですが、比劫が強いのでそういう傾向にあるといえます。それを避けるには、破財の時期を迎える前に内部留保を厚くしておけばよかったのですが、性格的にできなかったものと思います。




筆者のあとがき

 四柱推命というのは功利的な占術ですから、現実的な面での職業選択のツールとしては使いようがあるでしょう。
 しかし、私の経験からは、適職というのは、実際に働いてみないとわからないことが多いし、また本人の満足度というのは、四柱推命の守備範囲の外(といってもある程度はわかる)です。もう定年になろうかという人が、四柱推命で、やっぱり自分には不向きの職業だったと自覚しても、いったい何になるのでしょうか。(定年後また事業をやろうなどという人は別として)それよりも、実際の職業においていかに上手く(良い意味で)立ち回ればよいかに力をそそいだ方がいいと思いますが、どうでしょうか。