1999.8.21
生物の体には極性というものがあるらしい。
手元の「三省堂生物小事典 第4版」(監修:猪川倫好/三省堂/1200円)によれば、
頭部から尾部、背部から腹部、基部から先端部、などの方向にそって、形態形成の性質や生理的な反応がしだいに変わること。
これを極性と呼ぶそうだ。
磁石のN極S極、みたいなものか。地球の北極南極、みたいなものかもしれない、いや違うか。
とにかくその極性があるために、切られたプラナリアもたいていは元の形に戻れるのだ。
つまり。たとえば今、プラナリアの頭と尾を切断し、残った真ん中の、頭なし尾なしの体を再生させるとする。すると前方切断面からは頭部、後方切断面からは尾部が作られる。誰に教えてもらわずともこっちが頭、こっちが尾と迷いがないのは、切片となった体の中にも頭極と尾極、この極性が残っているからというわけ。
では。
何らかの原因で極性が乱れるとどうなるか?
そりゃもう大変だよね。然るべきところに然るべきものが作られない! となりゃ、気がつきゃ元の体からはかけ離れたヘンテコリンな形のプラナリア誕生! だわな。
で、残念ながら私はまだ、そういうヘンテコリンな形のプラナリアをこの手で作り出したことはないのだけれど……。
「えっ、ヘンテコリンってどんな形?」とご興味をお持ちの方は是非こちら、小橋家の自然観察的道楽生活へGO!
学生時代にプラナリアをご研究なさっていた小橋さんが、当時作ってしまったヘンテコリンなプラナリアたちの写真を載せてくださってます。ああ、なんてありがたいんでしょう(ひたすら感謝申し上げます、小橋様)。それらの写真以外にも見どころ読みどころ豊富。たいへん勉強になりました。プラナリアを知るにはもってこいの小橋さんのページ、どうぞご堪能ください。
1999.10.17
エサやりを週2回に増やしてからというもの、奴ら、とても元気がいい。ひとまわり、ふたまわり、と体が大きくなり、みながみな健康優良児ってな感じ。
でもって、ある程度の大きさになったものから順に、勝手に分裂しはじめた。
以前に飼っていた黒い野生プラナリアたちは、切れる前に体に穴を空けるという妙技を見せてくれたけれども(17.奇々怪々)、今わが家にいる色白美人のGIチームはといえば、これがいつの間にか体を切ってるんだなあ。気配なく、人知れず、ブチッとね。
切り離しの箇所はだいだい決まっているようで、咽頭の下あたり。
なので、2つに分かれたプラナリアのうち頭方向のプラナリアの体は長く、尾方向のプラナリアは短い。頭と咽頭を持つ頭方向のプラナリアはエサにもすぐさま反応するが、尾方向のプラナリアは尾しか持っていないため、エサを感知することも、それに食らいつくことも当分(再生が進むまで)は不可能。
そんなわけだから、エサを投げ入れると、尾だけのプラナリアたちだけがエサから遠く離れてポツン、ポツンと残るんだ。今日、そのポツン、ポツンを数えてみたら、7つもいた。つまりはここ最近にも7匹のプラナリアが勝手に分裂してくれたってことで、いや〜けっこう、けっこう!
全体の数は約70匹にもなったよ。この3ヵ月間、一度もカッターを手にすることなく、しかしそれでも増殖計画は順調に進んでいるのである、ふふふふふ。
1999.11.06
暑い季節が過ぎたので、プラナリアたちを冷蔵庫の外へと出した。
来年の春までは、玄関の靴箱の上が彼らの居場所。
1999.11.10
寝床の清掃のついでに数を数えてみた。
別容器へと移す際に、わざわざ一匹一匹スポイトで吸い取ったので、今回のカウントは正確である。
「1」「2」「3」……「79」「80」「81」「82」!!
82匹!
1999.12.30
面白いように増える。増え続けている。
1時間かけて数を数えた。
びっくり! 268匹!!
2000.10
スイスの山でプラナリアを見つけた。
ユングフラウ Jungfrau(4158m)、メンヒ Monch(4099m)、アイガー Eiger(3970m)などを擁するベルナー・オーバーラント Berner Oberland 地方。バッハアルプゼー Bachalpsee という標高2265mの山上湖近くをハイキングしている途中でのこと。
あたりに数多く存在する、山肌をつたってチョロチョロと下る水流に目がいった。
それらの水は、直接バッハアルプゼーに流れ込むか、または湖から始まる川に合流するかのいずれかで、どちらにせよ、やがては標高567mのインターラーケン Interlakenの町にあるプリエンツ湖 Brienzerseeまで行き着くはずの水である。
10月。すでに初雪の季節を迎え、天気のぐずつき易いバッハアルプゼー近辺は、この日の朝も雪だった模様。
うっすらと積もった雪の中、時おり射す陽の光を受けキラキラと輝きながらチョロチョロチョロチョロという音を立てて下って行く、いく筋もの水の流れ。
ああ、もしや!
我慢ならず、ひとつの流れの前にしゃがみ込んだ私は、水に手を突っ込み、中の石一個をめくり上げた。
ビンゴー! 大当たりー!!
いたのだ。そこにプラナリアが。しかも、大きいのが4匹も5匹もへばりついていた。
嬉しくなって、と同時に欲が出て、なんとかこのプラナリアを手に入れたいと思い、持っていたエビアンのペットボトルを空にして、そこにチョロチョロの水と採取したプラナリアを流し入れた。
時々通りかかるハイカーの人々の不審な目をよそに、その場に多分10分くらいはしゃがみ込んでいただろう。次々と石をめくり、30匹近くをゲット。
スイスで見つけたプラナリアは、ガタイも立派だが、姿もウチのと違っていて、頭部が開いたキノコの傘のような形だった。
イケナイこととは知りつつも、私はそのプラナリアたちを日本まで連れ帰ろうと目論んだ。このままエビアンのボトルに入れて、何食わぬ顔で持ち帰ろうと…………。
しかし!
その後、南仏、スペインと連れて歩いているうちに、気温の高さにヤられたのか、はたまた交換した水が合わなかったのか、1匹2匹と姿を消し、それでもなんとか持ち堪えていた数匹も、ある朝みな死体と化していた。
ごめんね。ヒドイことしちゃって。ごめん、スイスのプラナリアたち。
採取から約1週間目。屍骸漂うボトルの水を、パリの宿の洗面台の排水口に注ぎ入れた。
2000.5
ウチのプラナリアの数はここ半年の間、だいたい300匹前後とほとんど変動ナシ。
夏の気配を感じたので、今年もまた寝床を冷蔵庫へと移す。
2000.9.30
春先からここまでの約半年、仕事がキツくバテバテとなり、ヤツらの面倒まで満足に手が回らない状態だった。
週2回のエサやりも週1回にペースダウン。
そのせいだろうか、徐々に数が減っていってしまった。
仕事を一段落させ、やっと落ち着いた今日、数えてみたらば66匹。
300匹もいたのにな。
2000.10.24
休まず働いた自分へのご褒美と、ボロ雑巾のようになってしまった心身のリフレッシュのために、とかなんとか称してそそくさと半月ちょいの旅に出かけ、帰ってきたらば、あららららら!
プラナリア、激減!!
どこ行ってしまったの?! みんな!
…………。
「どこ行ってしまったの?」じゃねーってか。3週間もエサやらずで冷蔵庫の中に閉じ込めていたら、そりゃ減るよね、やっぱり。
う〜〜〜〜。
気がつけば季節もすでに秋。うなだれつつ、寝床を冷蔵庫から出した。
2000.10.28
数が減ってしまい、今までのタッパーではあまりにも閑散としすぎると目に映ったので、生き残ったヤツらをシャーレへと移動した。
ついでに数を数えてみる。現実を知るのが怖かったが。
11匹。ガガーン!
2000.11.1
残ったプラナリアたちは数も少ないが、身体もみな貧弱で。あまりに小さく、それが生き物なのかゴミなのか、肉眼ではほとんど判別できないほどだ。
こりゃーイカンと、1日おきにエサを与えている。
しかしヤツら、どーも動きが鈍いんだな。エサを投げ入れても無反応だったりするから心配。
これは一体どういう理由なのだろう。
2000.11.4
プラナリア、8匹になった。
2000.11.11
こんなことがあってもいいのだろうか!
「なるほど!ザ・ワールド」の愛川欽也さんの声が頭の中にこだましてる。
「はい、消えた!」。
エサをやったらプラナリアが消えたんだ。
いつものように切って冷凍しておいた鶏レバーを解凍して水の中に放り込み、いつものように食べ終わるのを待っている間に、6匹も消えてしまった。
この間、およそ3時間。
何があったというのか。一挙に6匹も死ぬなんてタダごとじゃない。
どれもこれも、めちゃくちゃ小さいプラナリアだったけれど、それでもさっきまでは確かに生きてそこにいたのにな。
ああ、これがゲームの世界だったなら、いくらでも「蘇生」のアイテムやら魔法やらを使えるのだけれど、哀しいかな、ここは現世だ。死んだ者が生き返らないのは、人間もプラナリアも同じなんだよね。
残り2匹になった。
2000.11.13
減り続けると止まらない。
また1匹死んでしまった。
先日のエサやり時の死の件は、あるいはエサが悪かったのかもと思い、新鮮な鶏レバーを買ってきて切って与えた。生き残りのたった1匹に。