37.GIふたたび、そしてGS

2000.12.30
 残り1匹は未だ残り1匹のまま。
 エサへの食い付きが悪く、ちっとも大きくなってくれない。
 いつ覗いても、シャーレの中にポツンといる。寂しそうだ。
 寂しそうだが、あまりに小さいので切るのも忍びなく、仕方なしということにしていた。
 しかし!
 そのような私の腑甲斐ない状態を見るに見兼ねた姫路工業大学のNさんが、再度救いの手を差し伸べてくださった。もう一度、研究室のプラナリアを送ってくださったのだ。
 姫路から今日、宅急便で我が家に届いたよ。
 今まで飼っていたのと同じ「GI」と、そして初めましての「GS」チームが。
 ありがとうございます! Nさん。今度こそ上手に育てて、もうたくさんってくらいに増やしてみせるぞよ。

2000.12.31
 キャップ付きの筒状プラスチック容器に入って届いたプラナリアたちをシャーレに移してエサを与えた。ついでに数を数えてもみた。
 GIが41、GSが14。GIには我が家で生き残っていた1匹も含む。
 初めて見たGS系統のプラナリアは、色白のGIより心持ち黒い。心持ち大きいかも。が、それでも一緒にしたら多分見分けるのは困難になるだろう。別々のシャーレに入れて育てることにした。
 姫路工業大学のNさんによれば、GSは高温耐性の系統だそう。
 私が夏場に大量死させたことに対するご配慮で、今回特別にお送りくださったのだ。
 なんでも熱帯魚の水槽に湧いたプラナリアを譲り受け、その中からイキのいい1匹を選んで増やされたのだとか。
 1匹から無数に増やす……ああ、いいなぁ、憧れちゃうなぁ。私もたくさん増やしてみたいよ。

2001.1.7
 年が明けた。
 21世紀、21世紀だと、TVの向こうでは誰も彼もが盛んに叫んでいるけれど、そんなモンどーってことねーよ的な大事件が、この正月に我が家では起こっていた。
 GSが、次々と死んでいく。
 高温には強いが寒さには弱いそうで、だからなのだろうか、まず玄関の靴箱の上(摂氏5〜15度くらい)で数匹が犠牲になり、やべぇと思って移した居間のエアコンの真下(摂氏7〜21度くらい)でも数匹が動かなくなった。
 現在、GIは35匹、GSはなんと3匹で、うちの1匹はすでに瀕死の状態だ。
 新世紀そうそう、死体の山を築いてしまった。なんということだろう、まったく。

2001.1.8
 GSの瀕死の1匹が崩れた。
 さらにもう1匹も動かない。死にかけ? 死んでる?

2001.1.10
 GS、全滅。
 あっという間に誰もいなくなってしまった。
 そればかりか、GIチームも元気がなく、消えるヤツ、丸まったまま動かなくなるヤツが続出。
 寒かろうと思って居間に移したのだけれど、それが裏目に出たか。今度は暑すぎ?

2001.1.14
 全滅させた後にご紹介というのもなんだけど、ここでGS系統についてちょっと補足。
 このGSは熱帯魚の水槽に湧いたものを姫路工業大学のNさんが譲り受け研究室内で繁殖させたプラナリアだということはすでに書いた。
 ではいったい、元々どこの水槽に湧いたものなのか?
 実は佐々木玄祐さんという方のお宅の水槽に湧いたものである。
 「佐々木玄祐」さん。「Gen-yu Sasaki」。だから「GS」と名付けられたそう。
 我が家にやってきたGSは、あっという間に消えてしまったけれども、佐々木さんちの元祖GS(と書くと、なんだか元祖“グループサウンズ”みたいだが)は今日も元気なご様子だ。
 ぜひ佐々木さんのHP、Gen-yu's Files をご覧ください。
 プラナリアだけじゃなく、いろんな生物のプリティな姿が観られる、素敵なサイトだよ。

2001.1.15
 元気のないGIチーム。1匹、また1匹と消えてゆき、目下生存は12匹。
 人がいるときといないときで室温が大きく上下する居間に置いたのが悪かったかも。
 そう思い、姫路工業大学のNさんにもご相談させていただいて、試しに玄関の靴箱の上に戻してみることにした。
 この季節、玄関の靴箱の上は日がな一日とても寒い。外気温とさほど変わらぬ寒さだ。
 しかしほかに何の策も浮かばず。頼む。どうか耐え抜いてくれ。

2001.1.17
 プラナリアたちは、寒い場所に置くと動作がすこぶる鈍くなる。いつ覗いても、じっと固まったまま。しかし死んではいない。玄関の靴箱の上に戻してから、幸いにもまだ誰も死んではいない。
 あー、よかった。

2001.1.18
 あー、よかった。って思ったんだよ、今朝も。
 シャーレを居間のテーブルの上に持ってきて、窓越しに差し込む冬の陽の光を当て、それに反応してプラナリアたちが動き出す様子を楽しく眺めたんだ。数を数えたらちゃんと12匹いる。誰も死んでいない。それが嬉しくてさ、「じゃあエサあげるね」なんて鼻歌まじりで、水の中に鶏レバーの破片を放り込んだよ。
 しかーし! それが悪夢の始まりだった……。
 ヤツらが食い終わるのを待つ間に、ちょっとのつもりで仕事を始めたら、どこがちょっとだ、気が付きゃ3時間経過。まー、なんてことっ!
 イカン!と思って、シャーレを覗き込んだときにはすでに遅かった。
 レバーからしみ出た汁のせいで白く濁った水に、プラナリアたちの死体がプカ〜リ、プカ〜リ。それらはまるで蝉や蛇の抜け殻のような……そう、形はあるものの明らかに中身のない物体で、崩れるでもなく、溶けて消えるでもなく、水に浮かんでいた。
 犠牲者11、生存者1。
shitai.jpg
水に浮かぶ抜け殻。プラナリアたちの屍体。
2001.1.21
 東京にも雪が降り積もった日の翌朝。
 GI最後の生き残りだった1匹も崩れて終わった。


38.3度目のGI

2001.1.24
 姫路工業大学Nさんのご厚意に、懲りずにまたまた甘えてしまった。
 GI新チーム、本日到着。
 先の失敗を考慮して、シャーレではなくタッパーウェアで飼うことにした。水は多いほうがいい。
 エサも今後はレバーではなく「冷凍アカムシ」にする。これは、元祖GSを飼育なさっている佐々木玄祐さんが勧めてくださった。冷凍アカムシのほうが、レバーに比べて水が汚れにくいのだそう。
 前回のGIチームは3週間で全滅させてしまった。このままじゃ私は立派に「プラナリア・キラー」だよ。
 汚名返上を目指すぞ! オーッ!!

2001.1.25
 数えてみた。
 67匹。
 しかし、うち数匹はかなり弱っている様子。環境の突然の変化が原因だろうか。

2001.1.26
 朝、何匹ものプラナリアが死んでいるのに気が付いた。
 水は昨日取り替えたばかりだ。ひょっとして、それがいけなかったのか?
 飼育用の水として私は市販のミネラルウォーターを使っている。今まではずっと「南アルプスの天然水」(サントリー)だったけど、昨日は「天然名水」(ブルボン)を注いでみた。硬度は前者が30、後者が46。
 水の硬度の違いが、プラナリアに何らかの影響を及ぼすのか、あるいは及ぼさないのか、よくわからない。わからないけれども、わからないからこそ、いろいろ試してみなきゃなるまい。
 プラナリアの屍骸が浮かぶ水を捨て、今日は新たに硬度26.2の「森の水だより」(コカ・コーラ)を注ぎ入れた。

 水を変えてみたものの、ちっとも安心できない。
 夜、さらに数匹の死体を確認。
 原因は水ではないのだろうか。もしかしたら容器が悪い? タッパーウェアから何か有害な物質が溶け出してたりして? ちなみに使用しているタッパーは、以前にもプラナリア飼育用として使っていたモノだ。洗ってしまって置いた。数を何倍にも増やすことができた時期に用いていた、験(げん)のいい品のはずなんだけれどなぁ。
 しかし、もはや縁起をかついでいる場合じゃない。容器のせいなのかどうなのか、これもよくわからないけれど、とにかく疑わしきは排除せねばと思って、生き残りをタッパーからシャーレへと移した。
 現在35匹。ただし、この中の数匹は今にも死にそうなほど元気がない。

2001.1.27
 やはり、といった感じ。死にそうだった者たちが死んだ。
 残り少なくなったプラナリアを前にして途方に暮れる。
 外は雪。寒い。午後3時現在の水温は約7度。
 もう何をどうしていいかわからず、しかし何かをせねばと、生き残りをタッパーへと戻した。
 ただ今22匹。しかし私の予想では、明日の朝までにはさらに数が減っているだろう。

2001.1.28
 昨日。夜を待たずして何匹か死亡。
 その姿を確認したついでに、タッパーを居間へと持ってきた。
 あまりにも寒かったので。そして翌朝にはもっと冷え込むに違いないと思ったので。

2001.1.29
 5匹にまで減った。

 プラナリアは小さい。
 どのくらい小さいかというと、米粒よりずっと小さいし、ボールペンの先より小さいし、プラスチック消しゴムのカスよりも小さいくらいだ。
 そんなにも小さいくせに、死ぬとニオイを放つ。わずかだが、生臭いニオイを放つ。
 プラナリアの死体を見つけるたびに、私は水面に鼻を近付けてクンクンとニオイを嗅ぐのだけれど、その微かに生臭いニオイが、なんだか最近、死んだプラナリアたちの精一杯の自己主張のように思えてならない。
 痛いとも、寒いとも、苦しいとも言わずに死んでいった小さな生き物たちから、私に向けられた何らかのメッセージなんじゃないかな、って。
 今日も水面に鼻を近付けてクンクンとニオイを嗅いだよ。
 やっぱり微かに生臭かった。

2001.1.30
 今日は誰も死ななかった。
 嬉しい。

2001.2.4
 生き残りは5匹。だが実は、そのうち完全体なのは1匹だけで、ほかは破片である。頭だけだったり、尾だけだったり。
 それでもみな生きてはいる。
 とても小さな破片だけれど、小さいながらも完全な体に向けて再生中。
 半ば透けた真新しい表皮が美しい。

2001.2.5
 先週、メールをいただいた。
 2通。どちらも「はじめまして」の方だが、おふたりともプラナリアを観察・研究なさってらっしゃっるとのこと。いわばプラナリア飼育のベテランさんで、そんな方々が、飼い方についてのアドバイスを書いて送ってくださった。途方に暮れてる私に突然の救いの手。とても嬉しい。
 おひとりはSさん。北海道にある学校内で研究されているそうで、寒い場所での飼育法を教えていただいた。ヒーターを使って温度を固定した水槽の中に、プラナリア用のタッパーや瓶を入れるとよいですよ、と。なるほど!
 もうおひとりは、都内の高校で飼ってらっしゃるNさん。エサは生餌(アカムシや糸ミミズ)が便利、また酸欠を避けるためエアーポンプを装備したほうが安全ですよ、とご指導いただき、これまたなるほど!
 Sさん、Nさん、この場をお借りしてお礼申し上げます。ほんとうにありがとうございました。お心遣いを無駄にせぬよう努力せねばと思っています。

2001.2.10
 5匹とも順調に育っていると思っていたのだが、死んでしまった。昨日1匹、今日2匹。いずれも破片だったヤツ。
 再生途中の美しい表皮を見ることができなくなった。

2001.2.11
 また1匹、破片だったプラナリアが消えた。
 残りは1匹。完全体だったヤツ。
 しかしその完全体プラナリアも日に日に小さくなっている点が気掛かり。
 栄養不足? エサの冷凍アカムシを放り入れたが、どうも食い付きが悪く、これじゃあ大きくならねぇよなと思う。気が焦る。
 食の細い子を持つ母親の心境ってこんな感じなのかな、なんてことを考えた。



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