39.GI、HI、SSP

2001.2.14
 私は恵まれている。
 感謝しなければいけない。誰に? 神様? 仏様? いや違う、姫路工業大学のNさんに、だ。
 またまた送っていただいてしまった。
 しかも今日届いた荷物はスペシャルで、開けた途端、「わあ! プラナリアおたのしみパックだあ!」などと叫びながらスキップしたくなってしまった。
 そのおたのしみパック、入っていたのはお馴染みの「GI」と、はじめましての2種の系統、「HI」と「SSP」。そればかりじゃない。プラスチック製シャーレが6つに、さらには研究室で使用されている飼育用の水2リットル。
 容器か、水か、とにかく何が悪くてプラナリアたちが死んでいくのかよく解らないので、ここはとりあえず容器も水も研究室と同じものに変えてみたら、というNさんのご配慮だ。
 「HI」と「SSP」は、もしかしたら「GI」よりもウチの環境に合うプラナリアが見つかるかも、ということで加えてくださったそう。
 至れり尽せりの贈り物を前に、ああ私ってホント、幸せ者だよなぁ、と感じたよ。
 早速、いただいたシャーレ3つにプラナリアたちを移し、それぞれの蓋に「GI」「HI」「SSP」と書いた紙を貼った。「GI」のシャーレにはウチで寂しく生き残っていた小さな1匹も混ぜた。3つのシャーレは今、居間の壁際の棚の上に並べて置いてある。居心地はどうだい? プラナリアくんたち。
 Nさんには、ありがとうございます、と何度頭を下げても足りないくらいに感謝している。
 そしてこのご厚意に応える最良の行為は何かと考えて、やはり私がきちんとプラナリアたちを育てることだよな、ってな答えに行き着いた。しっかりやらねば。

2001.2.15
 問題ナシということなのだろうか。一晩明けたがプラナリアたちはみな元気な様子。
 水を取り替えた。そのついで、数を数えてみた。
 「GI」が22匹、「HI」が7匹、「SSP」が21匹。
 さてここで、「HI」と「SSP」について書こうか。実は私も今日、姫路工業大学のNさんから教えていただいたばかりだが。
 まず「HI」。これは兵庫県イワヤ谷産のプラナリアの中から再生能力の高いヤツを1匹だけ選んで系統にしたものだそう。「兵庫県イワヤ谷」だから「HI」なんだね。
 彼らは黒い。そして大きい。見るからにワイルドって感じだ。以前私が秩父で捕まえたヤツらよりもさらに逞しい身体と私の目には映っている。生命力も逞しかったら嬉しいなぁ。
 次に「SSP」。見かけは色白美人の「GI」と変わりないのだが、この「SSP」、なんでもすごく有性化しやすいのだそう。
 プラナリアってときに勝手に分裂して増えるよね。作られるのは自分の分身で、このとき雄だとか雌だとかの性はまったく無視される。プラナリアは元々雌雄同体なんだけれど、一応は持っている性の機能さえ使わずに増えちゃうワケだ。で、こういう形を「無性生殖」、対して性による繁殖を「有性生殖」と呼ぶそうな。
 そんでね、ヤツら便利なことに環境によっては「無性生殖」しかしない、つまり性機能を持たない身体にもなれるらしく、これを「無性化」というのだけれど、実は研究室育ちの「GI」はほとんどがこの「無性化」したプラナリアなんだって。
 しかし! ここで「SSP」のご登場。彼らは「有性化」(「無性化」とは逆。「有性生殖」できる身体になること)した「GI」同士をかけ合わせて産ませた子供の中から、最も「有性化」しやすくて卵をじゃんじゃん産むヤツを1匹だけ選び抜いて系統として増やしたものなのだそうだ。
 「SSP」とは何の略かといえば「Super Sexual Planarian」。わぁお!
 ってことは、だ。きちんとしっかり育ててあげれば、私もウチの「SSP」に子供を産ませてあげられるかも?ってことだよね。
 ああ、想像してうっとり。プラナリアの卵! プラナリアの赤ちゃん! くーっ、この目で拝んでみたーい!!
 こりゃあ、なんとしてでも死ねせるわけにはいかんよねぇ。うん。頑張らにゃあ。

2001.2.18
 誰も死んでいないみたい。
 今日はエサなどあげてみた。
 食べる者あり、素知らぬ顔で通り過ぎていく者あり。
 しかしみな活発に泳ぎ回ってくれているのが嬉しい。

2001.2.21
 春らしい陽気のせいなのかどうかは知らないが、プラナリアたち、絶好調! どのシャーレを覗いても、みな絶えず動き回っている。
 冷凍アカムシを放り入れた。
 おおっ! 素早い反応。寄ってくる、寄ってくる。たちまちエサの回りに団子のようなプラナリアの群れができた。
 この光景、久しく見ていなかったような気がするよ。
 感慨ひとしお。

2001.2.22
 姫路工業大学のNさんが送ってくださった飼育用の水は、水道水を沸かしたものだそう。
 ボトルのまだ半分も使ってはいないけれど、使い切ってしまう前に、私にはやらなければならないことがある。プラナリアに合う水を探し出さねば!
 これまでウチのプラナリアたちが悉く生き延びられなかった原因が「水」にあったのだと、まだ決まったわけではない。「容器」だったかもしれないし、「温度」だったかもしれない。あるいはもっとほかの「何か」だったかもしれない。しかしひょっとして「水」だったのだとしたら、いただいたボトルの水がなくなった時点でまたまた大量死させることになっちゃうからね。
 そこで、Nさんの研究室に倣い、試しに私も水道水を使ってみることにした。
 今朝、GIの中から元気に泳ぎ回っていた5匹を捕まえて、別シャーレへと移した。気の毒だが、彼らが実験台だ。
 そのシャーレに、水道水を沸騰させて一晩おいたものをじょぼじょぼじょぼ。
 さて、どうかなー?
 ……う〜む。なんだか違和を感じている様子。ひとところに尻を据えたまま、頭部だけを前へ左右へビヨ〜ンと伸ばしては引っ込める、その動作を繰り返している。ビヨ〜ンの次は普通、スーッと前進なんだがなぁ。まるで「こっちはどうかな? あ、ダメだ。じゃあ、こっちは? あ、こっちもダメか」ってな動きに見える。
 さっきまで我が物顔で泳いでいたというのに、水を変えた途端、妙にぎこちない動きのプラナリアになってしまった。
 心配……。

2001.2.23
 心配していた5匹だが、今朝起きがけに覗いたら、何食わぬ顔で泳ぎ回っていたよ。
 ぎこちない動きはなし。ビヨ〜ンでスーッ。よかった、よかった。
 ほっとひと安心したので、図にのって、もひとつ挑戦。今度はミネラルウォーターで試してみることにした。
 GIの中から3匹を選んで別シャーレへと移し、そこへ市販の水を注ぎ入れた。
 家にあった「森の水だより」(コカ・コーラ)。以前にも用いたことのある水だ。
 ややや。
 水道水のときほどではないが、やはりぎこちない動きになった。「なんか変だぞ〜」ってな仕種。
 しかし、ウチの水道水への挑戦でちょっぴり余裕を持った私、ひと晩おいて様子をみることにした。

2001.2.25
 ミネラルウォーターもクリア。中の3匹、今のところ元気、元気。
 「GI」「HI」「SSP」「GI(ウチの水道水)」「GI(森の水だより)」。5つに増えたシャーレをテーブルの上に並べて、エサをやった。
 うわっ! みんな食欲旺盛じゃん。
 「GI(ウチの水道水)」も「GI(森の水だより)」も、すぐさまアカムシに張り付いた。
 どのプラナリアも身体が真っ赤っ赤になった。アカムシの血(?)を新鮮なうちに心ゆくまで吸った模様。
 食べっぷりのいい生き物は、見ていて気持ちいいねぇ。

2001.3.1
 原因は「水」ではなかったのだろうか。
 だとすれば、何かな?
 そこで次は「容器」実験にトライ!
 押し入れの中からプラスチック製のシャーレを引っ張り出した。今年の頭にGIとGSを死滅させてしまったときに使用していたシャーレだ。
 よし、これで試そう、と思ったのだが、早くもここで問題に直面。
 最後にどのような処置をしてしまい込んだか──水洗いだけにとどめたのか、食器用洗剤で洗ったのか──実は思い出そうとしたが思い出せない。洗剤はご法度!と、姫路工業大学のNさんからも伺ってはいたものの、しばらくは使わないだろうと踏んで押し入れにしまうにあたってのことだからなぁ。もしかしたら、洗剤つけてキュッキュッと洗ってしまったかもしれない。
 端から状況把握ができていないという、こ〜んなにへなちょこな状態で実験もへったくれもないもんだ。しかし、いいさ、どうせ素人。開き直って続けることにした。
 使用済みシャーレを2つ用意して、ひとつはそのまま、もうひとつは熱湯で念入りに洗って、中にGIを3匹ずつ入れた。水は、いただいた研究室の水。
 これでもし、そのままのシャーレのほうのプラナリアに異変が生じたら、「容器」に問題アリと疑う余地があるってことだよね。プラナリアの身を案じながらも、妙な期待に半ばワクワク。いいかげん、原因をつかみたいしさ。
 さて、結果は?
 今の時点では、どちらのシャーレのプラナリアもすこぶる元気。
 あれ〜?

2001.3.2
 余談。
 昨日の作業の過程で、プラスチック製のシャーレを煮沸消毒しようとした際に失敗してしまった。
 最初、鍋に水をはってシャーレを入れ、その鍋をコンロにかけてガラガラと沸騰させたのだけれど、数分後に見に行ったらば、中のシャーレがグニャリと前衛芸術的に変形していた。
 ありゃりゃと思って、別のシャーレを持ってきて、今度は水だけを沸騰させ、そこへシャーレをポチャンと落とした。煮込まなければいいのだろうと考えたのだ。しかしたちまちにして、またもやグニャリ。
 プラスチック製シャーレの耐熱温度は思いの外、低いのだなぁ。
 3つめのシャーレ。今度こそグニャリとさせるものかと、沸騰したお湯が摂氏90度まで下がるのを待って、そこにシャーレをくぐらせてみた。やりィ! 大成功。
 念には念を入れて何度もくぐらせたものの、果たしてこれで消毒できたのかどうか、怪しいといえば怪しい。しかしとりあえずグニャリの難から逃れられてよかった、よかった。
 教訓。プラスチック製シャーレを沸騰した水で煮てはいけない。

2001.3.4
 プラスチック製シャーレは問題ないようだ。
 じゃあ、と思って今日はガラス製シャーレを押し入れから引っ張り出した。最後に使ったのはやはり今年の頭ごろだったか。使用後にどうやって洗ったかについては、これも記憶になし。
 洗わずにそのままで中に水を注ぎ、GIを3匹入れた。
 プラナリアたち、いたって平静。異変なし。

2001.3.5
 GI連の中に勝手に分裂するプラナリアたちが出てきた。
 「GI」シャーレで2匹、「GI(ウチの水道水)」と「GI(森の水だより)」のシャーレでそれぞれ1匹が、いつのまにか頭と尾に分かれていた。
 これは異変ではなく、たぶん当然の変化。順調に育っているからだろう。
 数が増えていく。嬉しい。
 

2001.3.8
 いただいた研究室の水が残り少なくなってきた。
 なくなったらウチの水道水を沸騰させて使おうと考えているが、いきなり切り替えるのも酷かしらと思い、準備期間を設けることにした。
 これまで研究室の水を入れていた「GI」「HI」「SSP」「GI(使い古しのプラスチック製シャーレ)」「GI(消毒した使い古しのプラスチック製シャーレ)」「GI(使い古しのガラス製シャーレ)」の6つシャーレに、研究室の水とウチの水を5:5の割合いでブレンドさせて注いでみた。
 まったく異常なし。よっしゃー!

2001.3.11
 研究室の水とウチの水のブレンドから、100%ウチの水に切り替えることにした。
 となると、「GI(ウチの水道水)」は「GI」とまったく同条件下となることに気付いたので、ならばじゃあこの際にと、「GI(ウチの水道水)」のプラナリアたちを「GI」シャーレに戻した。
 ところで「GI(ウチの水道水)」シャーレには最初に5匹を入れたのだが、どういう理由かこのプラナリアたちはとりわけ元気でよく動きよく食い、で、次々分裂して今や9匹になっていた。
 他のシャーレも、ふと覗くと、そのたびに1匹、2匹と数が増えている。
 いいよ、いいよ、絶好調だね。

2001.3.18
 水替えの際、うっかりして「GI(森の水だより)」のシャーレにもウチの水を注いでしまった。
 幸い、プラナリアたちには何の変化も見られず。
 いい機会なので、ヤツら4匹も「GI」の大所帯に戻してやることにした。


40.プラナリアの消化管

2001.3.20
 姫路工業大学のNさんが写真を送ってくださった。
 プラナリアの消化管を撮影されたものだそう。
 きれい!
 ありがとうございます、Nさん。
DigestiveSystem.jpg
▲A:腸を染めだしたもの。 B:プラナリアをお腹側から撮影。矢印が咽頭口。 C:咽頭をムリムリムリと出したところ。右上が尻尾。



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