輸入と自給
日本のような自給だけでまかなうことが不可能な国は、当然輸入に頼っ
ています。前ぺージのような展開となったときに、輸入の割り当てが減っ
てくることになります。
ではどういった国が食物の輸出をしているのかを先に調べてみましょう。
食物輸出国といえるような国は、アメリカ、オーストラリア、カナダ、フラ
ンスといった数えるほどの国です。
それらの国の輸出量の合計は、世界の穀物市場の70%にもなります。
これらの国は、いちおう人道的なスタンスを取っている国です。
それでも「中国の食糧が不足するとアメリカ人はアイスクリームが食べ
られなくなる」という記事が新聞に載ると不満が噴出したくらいですから、
自分達の取り分を減らしてまで輸出に回すことは考えにくいことです。
(まあ自分達を納得させられる程度には減らしてくれるでしょうが…)
これらの国が自国を第一に優先し、次に最低レベルの国への援助をす
る。残りを経済力にゆとりのある国(当然その頃には多くの国が名乗り
をあげている訳で)が奪い合うとすれば、日本が現在のような食糧を確
保するのは簡単ではないでしょう。
それどころか「最低レベルの国に支援するために日本も金を出せ」という
ことになるでしょうし「金を出さないのなら食糧は売らない!」という話しに
なるのは、イラクでの平和維持軍などの例からも簡単に想像できます。
また、その頃の中国の食糧事情はさらに悪化しているでしょうから、食
糧と核兵器の削減をバーターにした交渉(?年の旧ソ連の例などもあり
ます)で中国に持っていかれることも十分考えられます。
順調な増産が行なわれた場合でこうですから、食物の生産の伸びが
低下した場合には、さらに厳しい状況になるわけです。世界的な総生産
量がある程度確保されていても、供給バランス的に日本の状況は大幅
に悪化すると考えられます。
日本の食糧自給率が低いのは衆知のことでしょう。いったい現在はど
んな状況なのでしょう?
ここ30年の自給率の変化は下のようになっています。
単位% | 米 | 小麦 | いも類 | 大豆 | 野菜 | 果実 | 牛 | 豚 | 鶏 | 魚貝類 |
1965 | 95 | 28 | 100 | 11 | 100 | 90 | 95 | 100 | 97 | 109 |
1970 | 106 | 9 | 100 | 4 | 99 | 84 | 90 | 98 | 80 | 108 |
1975 | 110 | 4 | 99 | 4 | 99 | 84 | 81 | 86 | 72 | 102 |
1980 | 87 | 10 | 96 | 4 | 97 | 81 | 72 | 87 | 84 | 104 |
1985 | 107 | 14 | 96 | 5 | 95 | 77 | 72 | 86 | 92 | 96 |
1990 | 100 | 15 | 93 | 5 | 91 | 63 | 51 | 74 | 82 | 86 |
1992 | 101 | 12 | 91 | 4 | 90 | 59 | 49 | 68 | 78 | 83 |
食糧需給表(朝日年鑑)
この表から見ると、米やいも類の自給はなりたっているという感じです。
野菜は鮮度の関係もあり、採算面でも自給の可能性の高い産物と考え
られます。魚貝類は採取性のものであり、そこそこの状態です。
牛肉や果実は貿易の自由化によるものでしょうが、近年急激に低下して
います。
この自給率を摂取カロリーに換算すると、先ほどの図にもあったように
現在の日本では50%を切っています。家畜の飼料もほとんどを輸入に
たよっていることを考えれば、実際の自給率はさらに低くなると推測され
ます。また米などの自給率が高いとはいえ、これらもトラクターなどの農
耕機械に頼っているわけです。武器との引き換えと同じようなパターンで
「産油国に優先的に食糧を回さないと石油を輸出しない」などの要求をし
てきた場合、日本はさらなる窮地に陥る可能性があります。
では食糧が入ってこないという状況、食糧も石油も入ってこないという
最悪の状況について考えてみることしましょう。戦争でもしないかぎりこ
こまでひどい状況になることはないでしょうが…
輸入に頼らず、耕作機械も使わずに農業をしていることを調べるには、
江戸時代を例にするのが良いでしょう。当時でも余った魚や油かす、糞
などの有機肥料を使った耕作が行なわれていました。耕作機械の使用
などをのぞいては現代と大差のない高水準のあったようです。
だんだん畑などの耕作機械が使えないことによって消えていった耕地、
都市化によって消えていった耕地などのことを考えると「さあ、やれ!」
といった場合に、江戸時代の水準に戻すのですら何年もかかるのでは
ないでしょうか?
江戸時代に人口は2000〜3500万人に増えています。当時でも小
学校で習った足踏み式脱穀機などの技術開発もあり、石油が入ってこ
なくなっても、準備期間があればこれぐらいの人口なら養うことができる
はずです。ただし当時の食生活のレベルということを考えておかなけれ
ばないけませんから、最低レベルの生活で5000万人を養えるかどうか
でしょう。また当時何度も飢饉がおきて、大量の餓死者がでていたこと
を忘れることはできません。
現在の自給率は50%弱、飼料輸入を考えなければ食肉もほとんど計
算に入れられないでしょうから、実際の自給率は30%ぐらいまで減って
しまうことが考えられます。危機にそなえる準備期間が無かったり、石
油が入ってこなければ、一時的にはもっと低い自給率になるでしょう。
耕作機械が動き肥料も生産することができるとすれば、自給だけでも
現在の人口の30%である3600万人が現在の生活をおくることができ
るはずです。現在の供給カロリーは6000台半ばですから、それを全日
本人で分けるとすると1人あたり2000kcalを切ってしまいます。
これは近年のアフリカのサハラやバングラデシュ以下の状況に匹敵し
ます。これはせいぜい軽作業ができるといったような栄養状態です。農
作業など肉体労働をする人は3000kcal以上はほしいですし、国内でも
供給バランスがあるでしょうから、実際には代謝エネルギー程度で生き
ているだけで精一杯の状況、餓死者がでるようなことになっても不思議
はありません。
とういわけで食糧が入ってこないだけで、生きているのが精一杯。石
油も入ってこなければ7千万人近くの食糧が不足しますし、事前の準備
がなければそれ以上の状況になり、大量の餓死者がでる可能性があり
ます。過去の例としては、前世紀からのインドで100年間に1千万人の
餓死者が出たという最悪の記録がありますが、それ以上の状況も起こり
得ます。
今まで以上の食料増産が行なわれない場合にはジリジリと。国家運
営に大幅な失策をした場合は(こう考えると、すごく可能性が高そうな気
がするところが心配ですが)けっこう急激に危機状態に突入するでしょう。
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