酒場
この酒場にはだれもいない。
こわれた内臓のように、
歯車やゼンマイがはみ出している大時計。
「湯屋へ」と書かれたかんばん。
さびついた重そうな鉄のとびら。
かべにかかった写真には、
つみあげられた無数の仮面。
あとはすわる椅子も
よりかかるカウンターもない。
音楽も酒もない。