膵臓のお話

 膵臓は上腹部の背中側にバナナの様な形をして横たわっています。食べ物を消化する消化酵素(アミラーゼ、トリプシン、リパーゼなど)を作り、胃のつぎにある十二指腸に分泌します(外分泌)。また、血中の糖を組織に取り込む働きをするインスリンや、逆に血糖値を上げるグルカゴンなどを作り血中に分泌します(内分泌)。

○ 急性膵炎
 腹痛を訴え病院を受診した患者さんの約5%の方が急性膵炎と診断されました。症状は上腹部の急性腹痛発作で、背部痛、悪心、嘔吐を伴うこともあります。成因は、男性ではアルコールの飲み過ぎが4割、女性では胆石が胆嚢の外の総胆管にある胆道結石が3割です。原因がはっきりしない特発性膵炎も2割あります。急性膵炎の病態は、不活性型消化酵素のトリプシノーゲンが膵臓内で活性型のトリプシンに変換し、自分の膵臓を消化してしまい、炎症をおこす事です。腹痛発作のきっかけは、はっきりしない場合もありますが、アルコールの飲み過ぎ、脂肪分の食べ過ぎなどです。診断は血液、尿検査でアミラーゼやリパーゼの上昇をみるのですが、アミラーゼやリパーゼはすぐに下がってしまい、診断がはっきりしなくなってしまうこともありますので、腹痛の時はなるべく早く受診して下さい。腹部エコーでは膵臓の腫大や膵周囲の炎症性変化が分かります。CTや腹部単純レントゲンも診断の役に立ちます。


○ 慢性膵炎
 膵炎の再燃を繰り返すのが慢性膵炎です。膵臓の外分泌、内分泌機能の保たれている代償期と機能不全に陥った非代償期に分けられます。代償期では急性膵炎の様な発作を繰り返しますが、非代償期になりますと腹痛はむしろ軽減し、代わりに消化不良による下痢、体重減少、インスリン分泌不全による糖尿病が治療のメインとなります。膵臓は再生能力に乏しく、進行とともに膵実質の繊維化と膵管拡張がおこり、膵石、膵嚢胞ができることもあります。アルコール性膵炎の方で禁酒できない方は、仕事を続けることができなくなってしまうことが多々ありますので、膵炎と診断されましたら、必ず禁酒しましょう。


○ 
膵炎の最近の話題
 
同一家系に膵炎の患者さんが三人以上いて、発症年齢が若く、アルコール多飲などの発症の要因が見あたらない場合、遺伝性膵炎と考えられ、世界で約100家系が報告されていましたが、カチオニックトリプシノーゲンが原因遺伝子として同定されました。この遺伝子に変異があると、膵内でのトリプシンの活性化が高まり、変異をお持ちの方の約8割が、慢性膵炎となってしまいます。
 また、膵内で活性化したトリプシンを不活化する、膵分泌性トリプシンインヒビター(PSTI)の遺伝子に変異があると、軽症の膵炎をおこす事が分かりましたが、この変異を持っている方が実際に膵炎をおこす率は低く、家族性を示さない事が分かりました。
 今まで原因が不明と言われていた特発性膵炎の一部の原因が、遺伝子解析の結果明らかになってきました。どんどん遺伝子解析が進んでいくと、自分がどんな病気になりやすいか、分かってしまうようになるかもしれませんね。


○ 膵癌
 
なんらかのきっかけで、細胞の遺伝子に変異がおき、いくつかの癌遺伝子の活性化と癌抑制遺伝子の不活化が重なって癌細胞となってしまうのですが、初めは癌細胞による症状は何もありません。膵臓癌は見つかったときには進行していて、完治させるのが難しい癌に属します。なるべく早く見つけるために、腹部エコーで膵管の拡張をひっかけて精査したりしていますが、これで良いと言える現状にはありません。現在は早期発見のため、膵液や便中の細胞の癌抑制遺伝子、癌遺伝子を解析する方法などが検討されています。

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