食べ物と成人病、癌(健康情報の読み方)

東北大学公共政策大学院
 教授 坪野吉孝
高野医院 院長 高野英昭

高野:今回はメディアからの健康情報の評価の仕方を、坪野吉孝教授にお聞きします。先生は東北大学医学部卒業後、ハーバード大学などへの留学を経て、栄養疫学、がんの疫学を中心に研究に取り組み、多数の論文を医学誌に発表なさってご活躍中です。このたび、医療政策を研究する教室の教授にご就任されました。先生のホームページには、最新の英文医学誌に掲載された、食品、補助食品、栄養素と成人病や癌との関係などに関する疫学論文の要約が日本語でわかりやすく紹介されています。「大豆と魚油で、死亡率が低下」「健康食品の有害作用、3割は深刻な症状」などです。アドレスは以下ですので皆さん是非参考にして下さい。
Tubono Report  疫学批評ブログ
 坪野先生宜しくお願いします。現在日本で最も影響力のある食事療法の先生は誰ですかと聞かれれば、テレビ番組の司会者ですと答えると思いますが、このような状況を先生はどうお感じですか。


坪野:成人病や癌が増えて、皆さんの健康に対する関心の高まりを背景にメディアからの健康報道がうけているのだと思いますが、情報を批判的に受けとめることなく、スーパーに買いに行ってしまうのはいかがなものかと思います。「テレビで放映されたから」「医学博士や名誉教授などの専門家が勧める話だから」と言って、鵜呑みにできるとは限りません。「この栄養素が成人病に効く」「この補助食品でがんに克つ」マスコミを通じて、こうした情報が大量に流れていますが、その情報がどれだけ信頼できるものか、注意深く吟味することが大切です。


高野:そうですね。私たちは情報を評価してから利用していかなければと思うのですが、評価、判断の仕方がわからず、情報に振り回されている感がありますので、そのへんを教えて下さい。


坪野:次の
5つの(ステップ)を基準にして評価して下さい。 情報の根拠となる研究がどの(ステップ)まで当てはまるかを検討して下さい。

(ステップ1)
 具体的な研究に基づいているか

(ステップ2) 研究対象はヒトか

(ステップ3) 学会発表だけでなく論文になっているか

(ステップ4) 精度の高い研究デザインか

(ステップ5) 複数の研究で支持されているか


 次のような情報は、信頼性があまり高くなく、人間にあてはまるとは限りませんので、真に受けず、話半分に受けとめておいた方がいいでしょう。

(ステップ1)個人的な体験談のような、具体的な研究に基づかない話。

(ステップ2)人間ではなく、培養細胞や実験動物での研究。
この栄養素には抗酸化作用があると言うことと、栄養素を食べれば抗酸化作用が発揮され、疾患の予防に実際寄与出来るかは別問題です。また、「動物実験で効果があるなら、人間でも効果があるのでは」と思われがちですが、同じネズミのラットとマウスでも違う結果になることもあり、動物実験と人間の臨床試験で同じ結果が出ることはまれです。肺がんとベータ・カロチンのビタミン剤との関係のように、動物実験とは逆に臨床試験では喫煙者には害になる可能性が指摘されたものもあります。

(ステップ3)医学論文になっていない、学会発表どまりの研究。
学会は研究者皆が研究結果を発表する場で、発表されてから研究に対する評価が検討されます。


 それに対して、次のような情報は、信頼性がより高く、人間にもあてはまる可能性が高くなります。

(ステップ
235)人間を対象にした研究で、専門誌に論文として報告され、数多くの研究で確認されたもの。
学会発表された研究のごく一部が医学誌に論文として掲載され、その後に他研究者からの追加研究が始まり多施設での評価へとつながるわけです。

(ステップ4)「大規模な追跡調査」や「比較群を設けた臨床試験」。
胃癌になった患者さんに、今まで何を食べていたかを聞き取りして胃癌になりやすい食事を探ろうとすると、先入観などで偏りが生じます。塩分を多く摂っている人たちと、摂っていない人たちを、今後十年間追跡調査して、どれだけ胃癌が生じるかを比較する研究の方が信頼度が高いわけです。


高野:ありがとうございました。健康食品や一般の食品に、血液をサラサラにする、痩身効果がある、コレステロールを下げる、免疫効果がある等の薬理効果があるとの広告等は、薬事法、景品表示法に違反し、違法行為となります。
このような効果をうたう場合は、当然ながら、医薬品としての認定を受けなければなりませんが、違法と思われる情報がメディアにあふれているのが現状です。
取り締まりの責任は東京都にありますが、ほとんど放置されています。東京都には都民の健康促進ための行政をお願いしたいものです。

 メディアから一方向に流れてくる目新しい情報に飛びつくのではなく、皆さん一人一人の健康状態に合った食事療法、運動療法を主治医の先生と相談しながら、時間、月日をかけ、ハンドメイドで作り上げて、日々地道に実行して頂くことが大切だと思います。
 
 最後になりましたが、坪野先生は
「食べ物とがん予防 健康情報をどう読むか」(坪野吉孝著 文春新書 文藝春秋社
「がんになってからの食事療法 米国対がん協会の最新ガイド」(法研)
と言う本も出版されてますので是非参考にして下さい。


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