雲と水面

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「読む」テレビ
☆みやしたあけみ☆のテレビ【文字版】

平成13年12月20日(木)
【文字版制作&配信】☆宮下あけみ☆ akemizo@beige.ocn.ne.jp

※このメールは、転送・転記、FAXでの送信等、自由です。


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平成13年12月20日

【文字版】 MX-TV ガリレオチャンネル
【 よみがえる音の世界 〜人工内耳による聴覚の回復〜 】

【皆さまへ。】
こんにちは。☆宮下あけみ☆と申します。

東京地区で2001年12月9日(日)午前8時00分〜8時30分、(再放送=12月16日)に
放送されました、
東京メトロポリタンテレビジョン MX-TV(14チャンネル)
『ガリレオチャンネル 【よみがえる音の世界〜人工内耳による聴覚の回復〜】』
の、【文字版】を作成いたしましたので配信させていただきます。

「聞こえてくる限りのもの」を「文字化」させていただきましたので会話もそのまま
です。
また、聞き取りにくい声や音は、自分に聞こえたまま、打たせていただきました。
不明な点は「+++」、補足解説は< >で記しております。

【企画制作】は【ワック株式会社】様です。

この番組には「字幕(オープンキャプション)」がついており、聴覚障害者の方々も
内容を把握できるものでしたが、【文字版】としても、配信させていただく事にいた
しました。

尚、この【文字版】と「字幕」とは、異なります。

この文字版は、【ワック株式会社】様より、私、宮下が個人的に了解を得たもの
です。

この【文字版】の個人、団体等への【インターネットを利用しての転送・転記、ホー
ムページや会報への掲載、及び、FAX・プリントアウトしての配信・配布】等、「自
由」です。

最後になりましたが、【文字版】として文字化する事に対して、快くご了承して下さ
いました【ワック株式会社】様に、心から御礼申し上げます。本当に、ありがとうご
ざいました。

尚、【文字版】に対するお問合せ、ご意見、ご感想がございましたなら、宮下まで、
直接ご連絡下さいませ。
また、この【文字版】は、「Word」にて作成しております。プリントアウト、転
送等のため、「Word」での配信をご希望される方は、宮下までD.M.にて、ご連絡
下さいませ。

今後とも、宜しくお願い申し上げます。

      <文字版制作&配信>  ☆宮下あけみ☆
           【E-mail】     akemizo@beige.ocn.ne.jp


・・・・・・<ここから下 ↓>・・・・・・・・・・・・・・・・・・

平成13年12月9日

(映像:「GALILEO CHANNEL ガリレオチャンネル」

(映像:手や足をたたいて音を出している、男女4名)
ナレーター 向坂真弓 (以下、「ナ」と記す。) / 「洗足学園(せんぞくがくえ
ん)パーカッションフレンズ」。 このアンサンブルは、人工内耳装用者が楽し
める音楽を演奏しています。 音楽を聞いているのは、人工内耳をつけてい
る人たちです。 人工内耳とは、外の音を直接聴神経に伝え聞こえるように
する、難聴者のための医療機器です。 

人工内耳装用者の一人、真野(まの)さん。 真野さんは高度難聴をわずらい、
両耳が全く聞こえませんでした。 しかし、人工内耳埋め込み手術によって、
みごと、聴覚の世界を回復し、音楽を聞けるようになったのです。

【タイトル :よみがえる音の世界〜人工内耳による聴覚の回復〜】

(映像:東京医科大学病院)
ナ / 2001年11月、東京医科大学病院。 手術を明日にひかえた真野さん。
真野さんの耳が突然聞こえなくなったのは3年前です。 
原因不明の突発性難聴(とっぱつせい なんちょう)でした。 

真野守之さん / そうですね。 3年前に突然聞こえなくなった時には、ま、
その時もちょっと、聴力、落ちてたので、補聴器つけたんですよね。 
それが、「補聴器がこわれたんだ。」と思うくらい静かになって。 
補聴器をあれこれ、いじったんですけども、全く違っていたんですね。 
急に静かになったと言いますか。 

ナ / 人工内耳の手術を執刀するのは、耳鼻咽喉科の河野先生。 
いったい、難聴にはどのような原因があるのでしょうか?

東京医科大学病院 耳鼻咽喉科 河野淳先生 / 一般的には進行性の
原因不明の難聴と言われているもの。
その他には、髄膜炎(ずいまくえん)で難聴になるものですね。 
成人の方に多い、最近特にストレス等でですね、男性の働き盛りの方に多い、
いわゆる、突発性難聴。 なんらかの仕事で忙しいとか、寝不足、過労、精神
的ないろんな悩み等があって、知らない間に難聴になると言うケースが多い
ですね。 

ナ / 真野さんは道路の騒音(そうおん)も聞こえません。 突発性難聴に
なって以来、仕事や家庭に、大きな影響がありました。 

真野守之さん / 「仕事(営業)について」 コミュニケーションというのが結構
大事でしたので、打合せと言うものが、もう、全くできないですね。 まぁ、筆談
(ひつだん)と言う手もありますけども、いわゆる、その、お客様<の所>に行った
所での、現場、現場では、筆談は相手に負担をかけますのでね。 会話って言
うものがなりたたないんですね。 単語、単語だけを。 筆談になると、単語だけ
を並べますし。 
あと、あのぉ、少し、口話(こうわ)って言いますか、口を読めますんで、まぁ、
なんとか…。 ですけども、「家族のコミュニケーション」とは言えないですね。 

ナ / 難聴の苦しさは、音が聞こえないというだけでなく、コミュニケーション
不足によって、孤独感や疎外感(そがい かん)がつのる事だと、真野さんは
言います。 また、車や自転車の音が聞こえないために、危険を察知(さっち)
して、身を守る事ができません。 

(映像:手術の説明を受ける、真野さん)
ナ / 手術の前日。 河野先生に手術の説明を受けます。 全身麻酔や体に
機械を埋め込む事に不安はありましたが、それ以上に、「音を回復したい。」と
いう、強い思いがありました。 


(映像:耳のしくみの絵)
ナ / 音は空気の振動です。 耳はこの振動を鼓膜(こまく)によって受け取り、
中耳(ちゅうじ)の耳小骨(じしょうこつ)を震わせ、さらに、内耳(ないじ)の蝸
牛(かぎゅう)に伝わります。 

蝸牛をみたすリンパ液は、伝えられた音によって振動し、この「揺れ(ゆれ)」が、
2万本を超える有毛細胞(ゆうもうさいぼう)を揺らします。 これが細かく分析さ
れて、神経に伝えられます。 
その後、聴神経を通って脳に送られ、はじめて、音として認識されるのです。

高度難聴の場合、有毛細胞が機能していないことが多く、大きな音を入れても、
聴神経に伝わらないという難点がありました。 

この壁を乗り越えたのが、「人工内耳」です。 現在、日本で認可を受けている
人工内耳は、オーストラリアとアメリカの製品のみ。 今回、真野さんが選んだ
コクレア社(オーストラリア)製品は、1985年から世界中で使われています。 


日本コクレア副社長 渡辺真一さん / 世界中では3万4千人のかたが
使われております。 そのうち約半分がお子様ですね。 18歳以下のお子様
に使われています。
 

(映像:人工内耳友の会ACITA)
ナ / 日本での装用者はおよそ2,200人。そのうち、子供が500人です。 
全国60ヶ所以上の病院で手術が行われています。

日本コクレア副社長 渡辺真一さん / 中途失聴のかたは、年配の方も勿論、たく
さんおられてですね、そう言う方が、失聴された時点から手話を習っていくのは、な
かなか大変なものですから、そう言った意味で、やはり、今までのような音声言語を
使える人工内耳というのは、非常に有効かと思います。

ナ / 人工内耳は手術費などを含めると、およそ400万円かかります。 しかし、
1994年から健康保険が適用され、患者の費用負担はほとんどなくなっています。

人工内耳による方法は、外界の音を大きくして耳に入れる補聴器とは、根本的に違い
ます。 
人工内耳は、内耳が行っていた機能を、機械が代行しようと言う、大胆な発想から生
まれました。 いったいそれは、どのようなしくみなのでしょうか。


(映像:人工内耳のしくみ)
ナ / 人工内耳は、4つの部分にわかれます。 まず、外部の音を拾う、耳かけ式
のマイク。 マイクから拾った音を電気信号に変換するスピーチプロセッサ。 側頭
部につけられた送信コイル。 体内に埋め込まれ、電気信号を蝸牛へ送る、インプラ
ントです。 

日本コクレア副社長 渡辺真一さん / これが内部に埋め込まれるインプラントで
すけれども、この外部の送信コイルと受信コイルが皮膚(ひふ)を介して、こういう
形でくっつきます。 そうしますと、信号が送受信によって、中のインプラントに伝
わる、と言う事になるわけです。 

ナ / マイクに入った音は、スピーチプロセッサで電気信号に変換され、送信コイ
ルに送られます。 体内のインプラントが信号を受信し、蝸牛の中に入った22個の電
極に伝わります。 これが聴神経を電気刺激し、脳へ音を届けるのです。 人間の蝸
牛は、音の周波数によって刺激を受ける部分が違い、入り口付近は高い音、奥のほう
は低い音をとらえています。 

人工内耳では、小型のコンピュータで音声情報をデジタル変換し、蝸牛のしくみに合
わせて、音を周波数ごとに分析します。 そして、外界の様々な音の中から、エネル
ギーの高いものだけを選び出し、周波数ごとに決められた電極から信号を送り出しま
す。 
こうして、高い音は蝸牛の入り口へ、低い音は奥へ送られるのです。


(映像:東京医科大学病院 手術室)
ナ / 東京医科大学病院、手術室。 真野さんには既に全身麻酔(ぜんしん ます
い)が、かけられています。 

東京医科大学病院 耳鼻咽喉科 河野淳先生 / 耳の後ろの所から切開しまして、
耳の後ろにある側頭骨(そくとうこつ)という骨をけずっていきます。 その中に内
耳と言う所、そこに蝸牛と言う、いわゆる、聞こえの神経細胞がある場所があります
ので、そこの所まで骨をけずって、そこの所に電極を入れる、という手術をします。

ナ / 内耳の近くには顔面神経が通っているため、傷つけないよう、慎重(慎重)に
手術が行われます。 
埋め込まれるインプラント。 電極の太さは、わずか0.6ミリしかありません。 蝸
牛は直径1センチにもみたない、小さなきかんです。 その内部<蝸牛>に細い電極
の先を挿入するため、手術は顕微鏡を使った、非常に細かいものになります。 

およそ3時間で手術は無事、成功しました。 はたして真野さんの耳は、聞こえるよ
うになったのでしょうか。 傷が癒(い)えるまで、10日間ほどの辛抱(しんぼう)
です。


医療テクノロジーの最先端、人工内耳。 しかもその進歩は、電極の先端を、脳にま
で伸ばして行くほど、さらに高度なものになっています。 

(映像:虎ノ門病院)
ナ / 虎ノ門病院の熊川先生に話を聞きました。

虎ノ門病院 耳鼻咽喉科 熊川孝三先生 / 人工内耳はご存知のように、内耳が両
方、だめになったかたのために開発されたものですね。 ですから、内耳がだめに
なったかたには、それ(人工内耳)でよろしいと。 しかし、もっと、更に脳に近い
部分、例えば聴神経が切断されてしまった、傷害されてしまったかたには、人工内耳
を埋め込んでも役に立たないのですね。 そういうかたのために開発されたのが、
「聴性脳幹(ちょうせい のうかん)インプラント」。 我々は「ABI」と呼んでいま
すけれども、そういうものなんですね。 

(映像:聴性脳幹インプラント ABI : auditory brainstem implant)
ナ /「聴性脳幹(ちょうせい のうかん)インプラント」。 日本ではまだ二人の
患者にしか使われていません。 人工内耳の電極が一列に並んでいたのと違い、これ
は線の先に電極が集中しています。 

虎ノ門病院 耳鼻咽喉科 熊川孝三先生 / 人工内耳というのは、側頭骨という骨
の内部に埋め込んで、ここでまわりの神経を電気刺激するものですね。 

(映像:人工内耳のシステム)
ナ / ところが、聴神経の腫瘍摘出(しゅよう てきしゅつ)手術などで聴覚を切
断した場合、人工内耳を埋め込んでも音は伝わりません。 そこで開発されたのが、
「聴性脳幹インプラント」です。 

(映像:聴性脳幹インプラントのシステム)
ナ / 聴神経を通さずに、直接、脳幹(のうかん)の上にインプラントの電極を置
き、電気信号を直接、脳に伝えるのです。 これは、外界の音が耳を通らずに、直
接、脳に伝わるという、非常に画期的(かっきてき)なものなのです。 

虎ノ門病院 耳鼻咽喉科 熊川孝三先生 / そうですね。 基本的には今の成績
は、やっぱり、人工内耳のほうが優れています。 ですが、ABI(聴性脳幹インプラ
ント)もですね、今後、数年間、ハードとソフトの進歩が伴ってくればですね、最初
に我々が人工内耳を見た時と、ほぼ現在と同様の成績が得られていますので、今後、
数年間には、現在の人工内耳の成績に、ほぼ匹敵(ひってき)するようなものが得ら
れると期待しています。 

ナ / 人工内耳、聴性脳幹インプラントなど、聴覚に対するテクノロジーの進歩に
は、目を見張るものがあります。 最近は、音を電気信号に変換する、「スピーチプ
ロセッサ」を小型化し、「耳かけ式のマイク」と一体化した人工内耳も開発されてい
ます。 
しかし、装用者の中には、「全く目立たないようにしたい。」という声も、少なくあ
りません。 

虎ノ門病院 耳鼻咽喉科 熊川孝三先生 / 全てを、側頭骨、頭の下に、頭皮(と
うひ)の下に埋め込んでしまうと言う事も、開発されています。 もしこれが可能に
なれば、見た目には全く難聴であるかどうかということは、わからないわけですね。
 そのほうが、障害者のかたにとっても、いいはずなんですね。 

ナ / テクノロジーが生み出す、聴覚の未来。 人工内耳で聞こえる音の世界と
は、どういうものなのでしょうか。


<C.M.>


(映像:富士見台 聴こえとことばの教室 三才児クラス)
♪(ピアノ)+先生の歌声 / ♪タイトル「森の音楽家」
     ♪ わたしゃ 音楽家 山の小鳥
       上手にフルート ふいてみましょう 

ナ / 東京都練馬区にある、難聴幼児のための通園施設です。 
0歳から5歳までの、人工内耳をつけた多くの子供達が通っています。 

先生 / トマトかな?

男の子 / トマト。

先生 / 赤いトマト、あるかなぁ〜? トマト。 あ!! 違う? どれ? さつま
いも。

男の子 / さつまいも

先生 / じゃ、マー君は、何?

ナ / 子供達は、人工内耳を通して先生の声を聞き、発音の訓練を繰り
返しています。 

先生 / ようちゃんは、何?

ようちゃん(多分) / だいこん。

先生 / ゆみちゃんは?

ナ / 人工内耳を積極的に取り入れ、難聴幼児の言語教育に役立てている、
徳光先生に話を聞きました。

富士見台 聴こえとことばの教室理事長 徳光裕子先生 / 小さい子どもの場合
は、生まれた時から聞こえが悪いわけですから、聞こえないと言うより、聞こえが悪
くて、それで言葉も発達しないわけですから。

ナ / 子供の体は、3歳の頃までに神経が急速に発達し、言葉をあやつる能力が発
達していきます。 しかし、十分に耳から言葉を聞くことのできなかった子供は、カ
行やサ行などの発音が難しくなります。 

富士見台 聴こえとことばの教室理事長 徳光裕子先生 / 今まで補聴器だけで
やってたんですけれども、それよりも、よっぽど効果がある。 人工内耳にした場合
には、だいたい平均して、低いほうから高いほうまで、「ダー!!」っと入るんです
よ。 それでね、一番最初に「サ行」が出てくるの。 「サ」とか「シャ」とかです
ね。 こういう音が、随分、苦労して教えなくちゃいけなかったのが、スラっと言え
るようになるんですね。

先生 / もう一回、教えて。

子供 / もう一回、教えて。

先生 / どこに来たの?

女の子 / わたしのうちだよ。

ナ / 人工内耳を子供につけるかどうか。 その判断は家庭によって様々です。 
子供の将来を考え、人工内耳を選んだ親に、話を聞きました。

父親 / 補聴器だったら、このレベルにしかできない、ならない。 だけど人工内
耳をつけると、もっと聞こえるようになるから、発音もきれいになるし、今まで発音
できなかった言葉が発音できるようになる。

ナ / 勿論、人工内耳をつければ、それで良いわけではありません。 その後の教
室や家庭での教育が大事だと、先生達は語ります。 
手術からおよそ2年を経た、5歳児クラスのこの子たちは、徐々に発音が良くなって
いきました。 

子供たち / 「ゆ」(湯)!

先生 / 「湯」って、なんでしょう?

子供たち / ゆでること。

先生 / ゆでる事? 「湯」って、お水の事かな? 

子供たち / 「お湯!!」

先生 / 「湯」って、「お湯」の事だよ。

子供たち / お湯のことだよぉ〜。 


(映像:東京医科大学病院)
ナ / 人工内耳手術を終えて、10日後の真野さん。 いったん退院した後、今日、
はじめて音を聞くために、病院を訪れました。 再び音が聞こえるようになるので
しょうか。

真野守之さん / 「どんな音がはいるのかなぁ〜?」と言う気持ちと、「本当に聞
こえるのかなぁ…。」と。

ナ / さぁ、真野さんの耳に、はじめてマイクが装着されます。
なかなか、送信コイルの磁石がつきません。 埋め込んだインプラントは、いった
い、どこへ消えたんでしょう? 冨澤先生はコンピュータから音を入れて、インプラ
ントの場所を探り当てることにしました。 
真野さんの胸に、不安がよぎります。 

冨澤文子先生 / くっついてなんだけど、場所さがす。 場所、さがす…。

真野守之さん / あ…!!

冨澤文子先生 / 聞こえる?

真野守之さん / 聞こえるけど、うるさい。

冨澤文子先生 / くっついた!!

ナ / 磁石が安定しないため、帽子をかぶる事にしました。
音の調整が終わり、実際に「外の音」を聞く瞬間です。

冨澤文子先生 / 真野さん。

真野守之さん / あ!!

冨澤文子先生 / 聞こえますか?

真野守之さん / はい。

冨澤文子先生 / 聞こえますか?

真野守之さん / えぇ。

冨澤文子先生 / うるさくないですか?

真野守之さん / ちょっと…。

冨澤文子先生 / ちょっと?

真野守之さん / ちょっと、なんて言うかな。 
ラジオの同調(どうちょう)が、合っていないような音。

冨澤文子先生 / ふむふむふむ…。 なるほど。 私の声は聞こえますか?

真野守之さん / わかる。 <笑顔>

冨澤文子先生 / わかる?

真野守之さん / うん。

冨澤文子先生 / 自分の声はどうですか?

真野守之さん / 自分の声もわかる。

冨澤文子先生 / わかる?

真野守之さん / わかります。 
だから、多分、<自分が>大きな声でしゃべってないと思う。

冨澤文子先生 / そうですね。 ドナルドダックの声みたいとかね。

真野守之さん / そうそうそうそうそう。

冨澤文子先生 / 宇宙人の声みたいとかね。

真野守之さん / 宇宙人の声、聞いた事がないから、わからないけど。 (笑)

冨澤文子先生 / 聞いたことないけどね。(笑) そんな風に言いますけれども。
 奥さんの声は、どうでしょう?

奥さん / 聞こえる?

真野守之さん / うん?

奥さん / 聞こえますか?

真野守之さん / うん。 聞こえる。

冨澤文子先生 / <奥さんの声> 前の声と比べて、どうですか?

真野守之さん / 違いますね。 全然、違う。 もうちょっと…、もうちょっとど
ころか、全然、違いますね。 

(映像:外を歩く、真野さん)
真野守之さん / うん。 明るく見える。 なんでもオーバーだけど、気持ちがた
かぶってるみたい。<笑顔>

ナ / 3年ぶりに音の世界を回復した、真野さん。 取り戻したのは、音だけでは
なく、精神的なやすらぎでした。 しかし、人工内耳の音に慣れるまでは、地道なリ
ハビリが必要です。


(映像:人工内耳友の会ACITA)
ナ / ざわついた場所での会話や、電話の聞き取り等、人工内耳には多くの課題が
あります。 そして、「もう一度、音楽を楽しみたい。」というのも、装用者の望み
です。

真野守之さん / オペラ、好きだったんですけどね。 んー…。 音楽は、どうな
んでしょうね。 

(映像:洗足学園大学)
ナ / 洗足学園大学付属打楽器研究所では、人工内耳装用者に聞きやすい
音楽の研究をしています。 
はたして、どのような音が聞きやすいのでしょうか?
真野さんと、「人工内耳友の会」の皆さんに聞いてもらいました。

♪ / タンバリン 単独
♪ / 小太鼓 トライアングル シンバル タンバリン 等、合奏。

人工内耳友の会ACITA会長 小木保雄会長 / リズムはそれらしくわかりますけれ
ども、楽器が一緒に鳴り出すと、なんか、まざって、ただ、うるさいだけ。 騒音に
近い音ですね。

♪ / ティンパニー シンバル 中太鼓 <低めの音>

真野守之さん / 厳か(おごそ か)なね。 なんか、荘厳(そうごん)な感じ
で。 一番、こちら側のシンバルですか? あれが、いい感じで響いて、聞きやすい
というか、イメージがつかみやすい。

打楽器研究所 所長補佐 松本祐二先生 / オーケストラの音は雑音にしか聞こえ
ないという風に聞いたんですね。 私達、職業がオーケストラとかなもんで、ちょっ
と、ショックだったんですけども。 じゃ、オーケストラは何でかな?と考えた所、
楽器の種類が、すごく、多いわけですよね。 人数も多いし。 そうすると、やっぱ
り、混ざると、聞き分けにくいと言う事から、雑音に聞こえてしまうのかなぁ…とい
う気はしますね。 


ナ / それぞれ、聞き取りには個人差がありますが、大きな金属音や、スピードの
速い音楽は、耳障り(みみざわり)であるようです。 まだ、この研究も、まじまっ
たばかりです。 いつの日か、人工内耳装用者の楽しめる音楽を聞かせてくれること
でしょう。

医療テクノロジーの最前線を行く、人工内耳。 
機械を通して外界の音を聞かせる技術には、驚くべきものがあります。 しかし、ま
だまだ人間の耳にはかないません。 こうして、人工内耳を使った会話や音楽の聞き
取りを探っていくと、いかに人間の耳が繊細(せんさい)で、複雑な構造を持ってい
るかが、思い知らされます。 

普段、意識する事のない音の世界に、
あなたも耳を澄ませてみてはいかがでしょうか?


平成13年12月9日(日)放送
『ガリレオチャンネル 【よみがえる音の世界〜人工内耳による聴覚の回復〜】』
   企画著作 : ワック株式会社

      <文字版制作&配信>  ☆宮下あけみ☆
            【E-mail】     akemizo@beige.ocn.ne.jp


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【皆さまへ。】

こんにちは。☆宮下あけみ☆と申します。

関東地区では2001年3月29日(木)午前10時00分〜10時30分に放送されました、テレビ朝日(系列)『テレメンタリー2001「見えます、心の音が…〜難聴のダンサー、夢への旅立ち〜」』の、【文字版】を作りました。(全国で放送されますが、日程が地域によって異なります。)

「聞こえてくる限りのもの」を「文字化」させていただきましたので、会話もそのままです。また、聞き取りにくい声や音は、自分に聞こえたまま、打たせていただきました。


この番組の【文字版】のホームページへの掲載、M.L.、D.M.等のインターネットでの配信・転送・転記、及びFAX、プリントアウトしての配布は【九州朝日放送】様と【テレビ朝日】様より、ご了解を得ております。

【制作・著作】は、【九州朝日放送】様です。

聴覚障害者の方々がこの番組を視聴なさる時は、ご活用下さいませ。

この文字版は【九州朝日放送】様、及び【テレビ朝日】様より、私、宮下が個人的に了解を得たものです。

しかし、著作権を持つ【九州朝日放送様】より、
  「今回の放送は、字幕スーパー(デコーダがなくとも、テレビをつければ、そのまま文字が出ている。)により、内容が十分伝わるように作られてはおりますが、今回、この様な形、(インターネット及びFAX等)で、多くの方々に番組を知っていただける事は、こちらとしても嬉しい事です。」と、とてもあたたかいお言葉をいただく事ができました。

従って、この【文字版】の個人、団体等への【インターネットを利用しての転送・転記、ホームページへの掲載、及び、FAX・プリントアウトしての配信・配布】は「自由」です。自由ですが、もし、「団体あて」に転送、或いは「ホームページへ掲載」されたような事がございましたら、恐れ入りますが、宮下まで、ご一報下さいませ。勿論、事後連絡で結構です。(事前確認は不要です。)

最後になりましたが、【文字版】として文字化する事に対して、快くご了承して下さいました【九州朝日放送】様、【テレビ朝日】様に、心から御礼申し上げます。本当に、ありがとうございました。

尚、【文字版】に対するお問合せ、ご意見、ご感想がございましたなら、宮下まで、直接ご連絡下さいませ。

また、この【文字版】は、「Word」にて作成しております。プリントアウト等のため、「Word」、又は「テキスト」のまま配信を
ご希望される方は、宮下までD.M.にて、ご連絡下さいませ。

今後とも、宜しくお願い申し上げます。

【放送予定表】
◆全国で放送日時、時間帯が異なります。
◆ 予定のため、各局により、変更があるかもしれません。ご了承くださいませ。

<3月>
  テレビ朝日     29日 (木) 10:00〜10:30
  北海道テレビ    25日 (日) 24:25〜24:55
  青森朝日放送   25日 (日) 25:30〜26:00
  岩手朝日放送   28日 (水) 24:54〜25:24
  東日本放送     25日 (日) 24:25〜24:55
  秋田朝日放送   26日 (月) 24:54〜25:24
  山形テレビ     28日 (水) 25:26〜25:56
  福島放送      26日 (月) 11:00〜11:30
  新潟テレビ21   25日 (日) 24:25〜24:55
  長野朝日放送   26日 (月) 10:55〜11:25
  静岡朝日テレビ  25日 (日) 24:55〜25:25
  北陸朝日放送   31日 (土) 11:15〜11:45
  名古屋テレビ    25日 (日) 25:10〜25:40
  朝日放送      31日 (土) 25:50〜26:20 
             <再放送>
             4月6日(金) 10:30〜11:00
  広島ホームテレビ25日 (日) 24:30〜25:00
  山口朝日放送   30日 (金) 25:26〜26:56
  瀬戸内海放送   25日 (日) 25:00〜25:30
  愛媛朝日テレビ 25日 (日) 6:30〜7:00
  九州朝日放送 31日 (土) 7:30〜8:00
  長崎文化放送 30日 (金) 11:00〜11:30
  熊本朝日放送 25日 (日) 6:30〜7:00
  大分朝日放送 25日 (日) 25:30〜26:00
  鹿児島放送 25日 (日) 24:30〜25:00
  琉球朝日放送 30日 (金) 9:55〜10:25
  朝日ニュースター25日 (日) 23:30〜24:00


      <文字版制作>  ☆宮下あけみ☆
        【E-mail】   akemizo@beige.ocn.ne.jp
                      

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平成13年3月29日

(映像:「テレメンタリー 2001」)

(映像:踊る女性)
ナレーション(以下、「ナ」と記す。):スポットライトを浴びて踊る一人の少女、その類(たぐい)まれなる表現力に、観客は賞賛の拍手を送ります。しかし、彼女の耳には、音楽も、そして、観客の拍手も届いてはいません。

西畑絵里(にしはた えり)18歳。彼女は重度の難聴という障害を持って、この世に生まれてきました。

音楽を聞き取る事ができない彼女は、スピーカーから伝わる振動でテンポをつかみ、振り付けをカウントで完璧に体に叩き込んで踊るのです。仲間達は手を握ったり、体に触れたりして、踊り出しのタイミングを教えます。

心を一つにした少女たちのダンス。高校時代、全国大会で何度も優勝を果たしました。

1歳になった我が子の耳が聞こえない事を知った、父と母。つきっきりの訓練で、口の形を読み取って、言葉を理解できるようになりました。彼女には、一つの夢がありました。

(映像:西畑絵里さん)
絵里さん:高校を卒業したら大学に行って、勿論、ダンスをまた続けたいと思います。で、それから、社会人になったら、子供たちに生徒達にダンスを教えたいなぁ…と、思っています。

ナ:「子供たちにダンスを教えたい。」その夢を叶えるために、関東の大学を受験する事に決めました。仲間たち、そして両親の温かい心の音に支えられ、彼女は今、夢への一歩を踏み出そうとしています。

(映像:「見えます、心の音が… 難聴のダンサー夢への旅立ち」)

(映像:1999年2月 体育館)
ナ:絵里さんのもとに、嬉しい知らせが届きました。筑波大学体育学部への合格を決めたのです。

学生:イェ〜!!!(宮下→拍手と歓声) スゴイ!! スゴイ! 絵里ちゃん。あんた、スゴイ!!

父(俊男さん):おめでとう!!やったねぇー!!良かったねぇ、ついに。

母:おめでと!!

父:眠れんかったろ? 良かったね。良かったねぇ〜。

母(泰子さん):良かったね。これで、安心して、安心して眠れるし、勉強できるね。

絵里さん:良かった。

(映像:2000年3月 学校正門→九州女子高校卒業式)
ナ:音楽に合わせられず、苦しんだ事。みんなと一緒に踊った喜び。たくさんの思い出を胸に、絵里さんは高校を卒業しました。

歌声:「仰げば尊し 我が師の恩…」

ダンス部顧問 松尾京子教諭:きつくなったらね、帰ってきていい。帰ってきなさい。そして、なぁーんも言わんから、踊ればいい。いーっぱい踊ればいい。ここで。

絵里さん:はい。

松尾教諭:あきらめないでね。

絵里さん:はい!!

松尾教諭:夢を私もあきらめないわ。

絵里さん:はい。

松尾教諭:がんばって行こうね!!

絵里さん:はい!!

友人:がんばってね。

絵里さん:はい。

友人:応援してるからね。

絵里さん:はい。

友人:がんばって。

絵里さん:はい。ありがとうございます。

(映像:友人たちの手のアーチをくぐる、絵里さん。)
友人:がんばってください。

(映像:4月 桜)
ナ:出発を3日後に控えて、絵里さんはお母さんから料理を習っていました。大学では一人暮らしをはじめます。高校時代ではダンスづけの毎日。親子でゆっくりと時間を過ごすのは久しぶりです。

母:切りくいやろ?(包丁の音。「トントントントン…。」

絵里さん:お母さん!!

絵里さん:あぁ〜!! 入れたかったぁ〜。

母:もう、早く、早く。もう、野菜が煮えすぎ。これ。

(映像:出発前夜 西畑さん宅 福岡市南区)
家族:乾杯!!

父:がんばってね。がんばってね。明日から。おったら(宮下→「家にいたら」の意。)、うるさいけどね、いないと、ちょっとさみ
しいね。

母:漬け物、どうぞ。ちょっと若いけど。

父:しょうがないね。

絵里さん:その代わり、犬、飼っとったら?

父:ん?

家族:(笑)

母:今までお母さんが起こしょったけど、もう、絶対、起こされけん。間に合わん。

絵里さん:わかってます。

(映像:絵里さん)

絵里さん:ありがとうって、言いたいんですけれども、なんか、素直になれなくて、なんか、自然に、口から、なんか、文句ばっかり、ちょっと言ってしまうので。

やっぱり昔は、「生まれて来なければよかった。」って、いろいろあったんですけど。私は言葉が上手く話せないので、体で相手に伝えたい事を伝えればできるっていうのが、ダンスで。障害を持っていても、みんなと一緒に踊れるって言う事を、喜びを感じて、嬉しかったです。

質問:「18年間で一番の思い出は?」(字幕スーパーのみ)

父:いっぱいあったからね。印象が強いのは、障害者センターに行って、初めて、こう、補聴器をつけた日がですね、なんか、こう、今、昨日の日のように思い出しますですね。 「えぇ〜?!今から何年もかけて、この子に言葉を教えて、 ずぅーっとつとかないかんかな。」と、そんなことが、ちょっと最初、よぎりましたねぇ。
でも、もう、あの、「聞こえないから、しょうがないしに、自分ら親が一生懸命せんかったら、誰がするやろか?」と思ったから。

母:「お母さん、今度、若くなってね。」って言われました。絵里から。もう、自分の、こう、身なりかまわず、こうねぇ、やってきたから。 「今度、お母さん、自分のこと、して。若返ってね。もうちょっとダイエットしてね。」って。(笑)


(映像:出発の日)
父:わぁー、重てぇー、こらぁ〜。重てぇーよ。これ。

母:持てる?

父:大丈夫?これ。

弟:がんばって。

母:じゃーねー。

(映像:車の窓から外を眺める、絵里さん)
母:絵里ちゃん。さみしい?さみしくない?

絵里さん:(うなづく)懐かしいなぁ〜って。

母:あ、懐かしいなぁ〜って。懐かしいなぁ〜ってみよ。

絵里さん:だって、18年間もいたんだから。

母:そうね。

(映像:茨城県つくば市)
ナ:茨城県つくば市。筑波大学をはじめ、多くの研究機関が集まる、学園都市です。絵里さんは、キャンパス内の寮で、一人暮らしを始めました。

(映像:振動目覚まし時計で起きる、絵里さん)
ナ:絵里さんは毎朝、タイマー式のバイブレーターを枕の下に置いて、起きています。

(宮下→携帯電話の着信メロディーの音楽:曲名「夜空ノムコウ」SMAP)
ナ:念のため、胸には携帯電話。振動と音で時間を知らせてくれます。

(映像:筑波大学 体育専門学群→手書きノートテイクを受ける様子)
ナ:筑波大学 体育専門学群は、スポーツの指導者を養成する学部です。大学の講義では、ボランティアの学生が、講義や黒板の筆記を助けてくれます。

講師:これはどうしたらいいんだい?まず最初、スポーツ心理学、或いは体育スポーツ心理学の中で・・・。

学生ノートテイク ボランティア:手話通訳とちがってノートテイクっていうのは、先生の言ったことを、同じ速さで書くわけじゃないですか。けど、だいたい書けるのは5分の1なんですよ。

質問:「絵里さんの印象は?」(字幕スーパーのみ)

学生ノートテイク ボランティア:かわいいなぁ〜と思いました。今日、はじめて会ったんですけどぉ。かわいいがんばり屋さんだな。


(映像:筑波大学ダンス部)
ナ:絵里さんは早速、関東地区の大学の中でも強豪といわれる、筑波大学ダンス部に入部しました。部員たちにとって、聴覚に障害を持つ人と踊るのは、はじめての事です。

部員:タタタターン。(宮下→声と手拍子)やって。そこで。せーの、「タタタン、タタタン、タタタン、タタタン。タタタターン タターン」

部員:ここと。

絵里さん:はい。

部員:あと、もうちょい、このへん(肩)、楽にして。

絵里さん:はい。

質問:「今後、絵里さんが直面する問題は、ありますか?」
(字幕スーパーのみ)

ダンス部主将 朝倉千絵さん 3年:まだ、なんか、大変な事っていうのはわからない…って言ったほうが正しいですね。まだ全然…。それなりに成果を、“学校が”上げてるダンス部にいた子っていうのは、結構、自分は中で自力でやってるつもり
でも、外に出てみたら、先生の言う事を、ただ、聞いてただけっていうのに気づいて、いざ、自分がどうやっていいか、わかんない時もあるんですけど、その時に人に聞くのもいいんですけど、自分でどれだけ考えて、自分が正しいと思った方向に進めるか。

(映像:寮)
ナ:午後9時。練習が終わって、遅い夕食の準備です。(餃子を焼く音:ジュー・・・・・)

絵里さん:すごい運動したら、おなかすくので、夜はおかわりしてます。一杯めはふりかけで食べて、二杯めは納豆かけて食べるとか。

質問:お友達とか作るのは大変?(声、あり)

絵里さん:はい。大変ですねぇ。ハハ…。なんか、あのぉ、高校時代とかは、自然に友達ができたんですけど、大学は、私以上に周りが、もう、すごい、すごい人がいっぱいいるので。難しいですね。友達を作るのに…。難しいです。

ナ:一人の夜は、お母さんとFAXで話します。(FAX送信の音:ズーーー・・・・・)

絵里さん:自分が“ぼぉ〜…”っとした時(落ち込んだ時)に、(FAXが)来たことがありますので、すごく、励みになります。

(映像:お母さんからのFAX 音:ズルルル ズルルル ズルルル)絵里さん:(母のFAX)「ダンスの勉強がんばって、体に気をつけて、しっかり食べてね。神戸大会で逢うのを、楽しみにしています。母より。


(映像:7月→体育館で練習する、絵里さん)
ナ:土曜日の誰もいない体育館に、絵里さんの姿がありました。体をいっぱいに使って、ダンスのイメージをふくらませていきます。高校時代は仲間と一緒に、厳しい練習で、お互いを高めあってきましたしかし、大学では、自分を高めるのは、自分ひとりの闘いです。

絵里さん:えー、例えば団体になった時に、 「“木”というイメージをして。」と言われたら、すぐできるようになりたいので。あの、考えないで、すぐにできるように。体を。自然にできるようにするのが、ちょっと遅いので、そういうところが難しい。

男子学生:テスト、生理学、落とした?

絵里さん:(笑いながら、うなづく。)

男子学生:落とした?うそ。(笑)

ナ:絵里さんのダンサーとしての実力が試される時が迫っていました。ソロの創作ダンスを発表するのです。


<C.M.>


(映像:寮で料理をする様子)
ナ:一人暮らしをはじめて、4カ月になりました。

絵里さん:わぁー!! 焦げてる!

ナ:隣部屋の山下裕子さんは、高校時代、全国大会で戦った、ライバル校のダンス部員でした。

山下裕子さん:最初は見てる時に、「スゴイなぁ〜。」っていうだけで、すごい、近寄りがたい…じゃないんですけど、そういうところがあったんですけど、やっぱり、こう、一緒に生活したり、部活一緒にやってく中で、やっぱり、今までやってきた過程は、やっぱり、経験してきた事は違っても、どこかで、こう、通じている部分とかが沢山あるっていう事に気づいて、すごい、今では何でも相談したりとか、こう、二人で“イイ感じ”でやっていけてるっていう所が。

(映像:テレビを見るふたり)
(テレビ/歌:“焼けたサンタンの肌に 胸がジンジンと響く夏の太陽が嗚呼 燃え上がる…”「パシフィック ホテル」サザンオールスターズ)=歌に合わせて振り付けをする二人


(映像:9月 体育館)
ナ:ダンス部恒例の、1年生による、ソロ発表会の日です。「生命(いのち)」という作品を発表します。今回は音楽は使わずに、無音で踊ることにしました。

絵里さん:「生きる」っていうことを大切にして、私は生きているんだと言う事を表現してみたくて。音楽がいらなくても、踊れるんじゃないか?っていうのが、私の中には思っているので、音無しでも踊れるっていうことを、多くの人々にわかってもらいた
いなぁ…と、思いました。

音の無い世界… 「まるで音の無い世界」っていうのを教えたいと思います。
 

(映像:音楽とともに踊る、学生。それを見る、皆の様子。)
(映像:無音で踊る、絵里さん。それを見る、皆の様子。)


質問:「絵里さんのソロを見て、どうでしたか?」(字幕スーパーのみ)

学生:音楽はいつもあるものだという固定概念があったんですけど、音楽が無くても、物足りなさを感じなかった。

筑波大学 村田芳子助教授:むしろねぇ、彼女が、聞こえるとか聞こえないとねか、音があるとかないとか、あの、多分、そういうことをね、見てる人に、あの、思わせないっていうことが彼女のいい所だと思うんですよ。今まで自分が身につけたもの持っている動き、それから表現力、全てを結集した、いい作品だったと思います。

(映像:部屋)
ナ:先輩や教授の評価は高く、満足の行く発表だったというのに、その日の夜、絵里さんにはいつもの元気がありませんでした。

絵里さん:あんまりムリにしすぎると、なんか、前に進めないな…って、はじめて実感しました。今までは、つらいめにあった時に、「でも、がんばれる!!」という気持ちがあったけど、なんか、今回は、なんか、ちょっと。大学は、やっぱ、一人で進む、自分の力で進むじゃないですか。だから、高校の時は、みんなで一つの目標に向かっていくので、一人がだめだなぁと思っても、残りの人が支えてくれて、こう、あったんですけど(宮下→ジェスチャー:みんなで集まって目標に進んでいく様子)、大学は一人じゃないですか。そういうのを感じて、重みが。

ダンスも集中してるんですけど、ダンスよりも家族の事が大きくってきて。例えば、耳が聞こえなくなった時に、なんか、普通は入園してもあずけられる所だったんですけど、私の場合はできなくて(宮下→「そこの幼稚園に入れなくて。」の意。)、(入園)できる所を探してくれたり、幼稚園とかを。靴も小さかったみたいで、サイズがどこに行ってもなかったんですよ。見つかるまでがんばって探してくれたし。

みんなはどんどん、自分の仲間を作って、その仲間と楽しんでいく感じなんですけど、自分は家族から離れられないですね。
なんか、頭に「家族」っていう…。なかなか離れられない。


(映像:駅)

ナ:「どうしても前に進めない」「家族に会いたい」絵里さんは3日間だけ、ふるさと福岡に帰ることにしました。

(映像:騒々しい、駅構内)絵里さん:ただいまぁ〜。

父:お帰りぃ〜。遅くなったけ、乗ってないのかと思った。

絵里さん:は?

父:乗ってないのかと思った。

絵里さん:もどってない?

父:乗ってないのかと思った。

絵里さん:あぁ〜。乗ってるよ。

父:さみしかったの?

絵里さん:あぁ〜…、さみしかった。

父:お父さんに会ったら、安心やろ?

絵里さん:はっ?

父:お父さんに会ったから、安心やろ?

絵里さん:安心って?いや…、福岡に…。お父さん?…。まぁね。

(映像:車の窓から外を見る、絵里さん→自宅。家族の会話)
父:かわいい。かわいい。

絵里さん:はっ?

父:かわいいの。子どもは。

絵里さん:子どもは…

ナ:絵里さんが向かったのは、近所の焼き鳥屋さんです。

焼き鳥屋さん:あれぇ?帰ってきたん?

絵里さん:はい。

焼き鳥屋さん」あらぁ、お帰り。

絵里さん:さみしくて、帰ってきたわ。

焼き鳥屋さん:ちょっと待て。おっちゃん、抱いてあげる。いいじゃないかぁ〜、おまえ。

絵里:(笑)

ナ:溝田さん(焼き鳥屋さん)は時々、故郷(ふるさと)を離れて暮らす絵里さんを、FAXで励ましているのです。

溝田さん:筆不精やけんさぁ、書ききらんたぁ。

溝田さん:自分の道を行け。わかるか?

絵里さん:はい。

溝田さん:だから、ストレス、たまるたい。ね。 がんばれや。

(映像:母校のダンス場)
ナ:翌日、母校のダンス場に、絵里さんの姿がありました。自分が踊っていた作品を、つきっきりで後輩に教えます。絵里さんに笑顔が戻っていました。

(映像:駅)
父:絵里ちゃん、絵里ちゃん。卒業式までもてたらね、

絵里さん:はっ?

父:卒業式までもてたらね、一緒に行こうねって。

絵里さん:卒業式まで?

父:うん。

母:お父さんとお母さん、卒業式は二人で行こうねって。(笑)卒業できたらね。

絵里さん:あの、遠い時はどうしてるかなぁ…とかいろいろ思ってたんですけど、ほんとに、「みんな、がんばっているんだー!!」と思って、自分に負けたらいけないなぁ〜と、思いました。

(映像:2001年3月 自転車に乗る、絵里さん)

ナ:4月のリサイタルに向けての作品作りがはじまりました。

(映像:学生の話を聞く、絵里さん)
学生:+++。で、下はパンツスタイルって決めている事だから。

絵里さん:手とか、もっと使えばできるかもしれないって言うことで、

学生:(笑)

絵里さん:えっとねぇ、何て言えばいいんだろう。

(映像:絵里さん、アップ)
絵里さん:あの、小さい頃は、私だけどうして耳が聞こえないのか?っていうのを不思議に思っていたんですけども。でも、今、その、耳が聞こえないっていう事は、素晴らしいものだなぁ〜って、思いました。はい。思ってます。

例えば、「音楽が聞き取れない」って言う事を、今まで苦しんできたんですけれども、でも、それを乗り越えれば、きっと必ず、「何かが見えてくる」というものを、神から与えられたんじゃないか?と思うので。

まだまだ乗り越えてないですけども、でも、何かが見えてくるものではないか?と、私は感じてます。

もっともっと、自分らしい生き方を、もっとしていって。あのぉ、まだ、時間はかかると思うんですけれども、両親を安心させたいと思います。


(映像:絵里さんのソロダンス作品)

ナ:「生命(いのち)」 西畑絵里 (宮下→音楽なし。)

ナ:「たくさんの人達に 生命(いのち)を与えられて
私は今 ここにいる 聞こえない私にできることは…生きることの意味を求めて今を大切に生きたい

平成13年3月29日(木)放送

      制作・著作:九州朝日放送

       <文字版制作>  ☆宮下あけみ☆
         【E-mail】   akemizo@beige.ocn.ne.jp
                        


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