シンセサイザーで音を作る

 シンセサイザーで音を作るには音に対する微妙な感覚が必要とされる。

 昔のエレクトーンはピアノの音とフルートの音の違いがあまりなかった。もともとピアノとフルートの音に含まれる倍音が似ているので、その微妙な違いを研究して、わずかに違う倍音を忠実に、または大袈裟に再現してエレクトーンの音を作った。しかし、ピアノの音もフルートの音も、両者ともに元の楽器の音には似ていなかった。倍音の違いはさほど楽器の違いを感じさせる要因ではなかったのだ。何が楽器の違いを感じさせたかというと、音量のエンベローブだ。

 ピアノの音は出だしの音量がもっとも大きく、あとは減衰していく。一方フルートの音の出だしはピアノよりはゆっくりと音量が上がり、息の続く限りほとんど同じ音量で続く。この両者の音量の変化が楽器の音の違いに大きな役割を果たしている。人は音量変化を聞き取ることによって、何の楽器であるかを感じていたのだ。シンセサイザーで音量に変化を与えるために加える電圧変化をエンベロープと呼ぶ。昔のエレクトーンはみんな同じエンベローブで発音させていた。キーをたたくと同時に音が出て、指を離すと途端に音が止んだ。だから楽器の違いが感じられない。シンセサイザーは楽器毎に異なる 微妙な音量変化を作ることができるのだ。

 さらに凝ろうとするとピアノの出だしには多少のノイズを混ぜる。キーをたたく音だ。ノイズも音のフィルターによって、どこの倍音をカットし、どこの倍音を強調させるかが決められる。フィルターで調節したピアノのキーをたたくときに聞こえる微妙な「コツコツ」という音をピアノの音に加える。高い音ほど「コツコツ」の音は目立つので、シンセサイザーでもそのように鳴るようにセットする。

 フルートで凝るためにはキーを押さえるときのわずかな管の響きを入れる。しかし、いつもそれが聞こえるわけではないので、指を強く押さえたとき、つまりフォルテで感情を込めたいときにそれがかすかに聞こえるようにする。しかもその音はフルート本来の音がするより以前に聞こえる音だから、ピアノのように減衰音にして、しかも減衰の速度をずっと早くする。静かに吹くときには音量増加の速度を遅くし、息がもれるノイズ音をまぜるとリアルになる。

 デッサンを描くと光や構図や立体の関係に繊細になれる。絵を描く人ならわかるだろう。それと同様にシンセサイザーで音を作ると、それまではまったく気づくことのなかった音の仕組みが見えてくる。シンセサイザーの音作りは夢中になると時を忘れる。

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