「講談インターネット」         




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ストリーミング音声 (↑↑ただし、数年前のものなので、あまりこなれてませんです)





今日は「インターネット」についての一席 

を申し上げます。             

頃は元禄14年、3月14日、午前11時。

江戸城松の廊下において赤穂5万3千石の城 

主・浅野内匠頭長矩。高家筆頭・吉良上野介 

に対し刃傷におよぶ。午後6時には田村右京 

太夫の屋敷にて即日切腹、家改易。吉良に対 

してのお咎めは無し。この事に不満を抱く赤 

穂の浪士たちがやがて元禄の快挙を成し遂げ 

ることになるのですが…。ここに、三つの謎 

がございます。              

第一に、何故内匠頭は、結果は日を見るよ 

りも明らかなるに、勅使下向のミギワ刃傷に 

及んだか? 第二に、何故裁判もなしにわず 

か7時間で即日切腹となったか? 第三にこ 

の判決におよび将軍綱吉を影で操った人物が 

あった、その人物は誰か? 謎が謎を呼ぶ吉 

良上野介殺人未遂事件、それを知りたい方は 

どうぞ最後までお付き合いを願います。   

〜第一章・Eメール〜           

幕府の求めに応じ、赤穂城を明け渡し、い 

つか吉良を討ち君恩に報いんと、江戸をはじ 

め各地に散った赤穂の浪士たち。主君・浅野 

内匠頭の百日法要を終えて、仇討ちの総指揮 

を取ります元・赤穂藩城代家老・大石内蔵助 

が、京都、山科の地へ移ってまいりましたの 

は夏も盛りの6月28日のことでございまし 

た。                   

仇討ちの思案を胸に秘め、表にはただ閑居 

して悠々自適と過ごす内蔵助。       

簾で涼を取る部屋で机に向かい書を読みな 

がら、                  

「それにしても、あの家臣思いの殿が、私事 

の恨みで刃傷に及ぶとは…。信じられぬ。何 

か他に訳があるに違いない」と、いつまでも 

胸を去らぬ思いを巡らしておりますと、   

「旦那様、泉州堺より天野屋利兵衛殿がお見 

えになりました」             

「おお、これへ通せ。利兵衛、よく参ったな、

近う進め」                

「これは大石様にはご機嫌よろしく。ところ 

で今日は何御用にてのお呼びでございます  

か」                   

「うむ、実はチト相談があってな…。そ   

ちも知っての通り、今、赤穂の家来は江戸表 

はじめ、各地に散って吉良の様子をうかがっ 

ておる」                 

「はい、何でも江戸は堀部弥兵衛様を頭に吉 

良の動静を探り、近江には上方の同志をたば 

ねる近松勘六様を配し、また、大野九郎兵衛 

様は、吉良のご嫡男、上杉公の動きを見張る 

ため遠く越後へお移りとか」        

「うむ、苦労兵衛どのには、我等が破れた後、

第二陣の討ち入りをお願いしておる。こうし 

て江戸、上方、そして、越後と、志を同じく 

する我等50有余名だが、実は互いの様子を 

知らせ合うのに難儀しておる。江戸と京とは 

どんなに急いでも5日、越後へはそれ以上の 

日数がかかる。また、伝える途中に不在のも 

のがおるとさらに日数が増す。皆に密書を放 

っても、返事が来るまでに半月は経ってしま 

う。これではいつになったら討ち入りができ 

るか見当もつかぬ。なんとかせねばと思って 

おったところ、同志一の知恵者、江戸の大高 

源五よりの書状がまいったのじゃ」     

「何と申しておられます?」        

「それがな、見事本懐とげる為、吉良上野介 

を出し抜き、情報を集め、同志との連絡を迅 

速に取り合うには是が非でも」       

「是が非でも?」             

「インターネットを使えとの忠言なのじゃ」 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

「なんと、インターネットでございますか」 

「うむ、いかにもインターネットじゃ。だが、

この内蔵助、近頃やっと指一本でワープロが 

使えるようになったばかり、殿の百日法要の 

後、さまざまに書物を繙いておるが、いまひ 

とつよくわからぬ。その方は我等同志の内た 

だ一人の町人、かかることにも詳しいのでは 

ないかと思い、この内蔵助、この通りご指南 

をお願いいたす次第…。有り体に問うが、そ 

もそも、インターネットとは一体何じゃ?」 

「されば、手前町人の身ですが太夫にご講釈 

申し上げてもよろしいですか?」      

「勿論じゃ、今日は皆その気でここに来てお 

る?」                  

「は? 皆とは、ここには大石様しかおられ 

ませんが…」               

「よいから、早く始めよ」         

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

「されば、インターネットのインターとは  

『世界中でお互いに』の意、ネットとは魚を 

取る網のこと。すなわち、インターネットと 

は、『世界中に張りめぐらされた網』のこと 

にございます」              

「分からぬ? インターネットは魚捕りと関 

係あるのか?」              

「いえ、そうではございません。つまり、世 

界中がコンピュータで網の目のようにつなが 

れた…そうですな、ひと言で言えば、『連絡 

網』と思えばよいかと。それも今や全世界で、

一億をはるかに超える人々が使う、一日24 

時間、一年365日繋ぎっぱなしの連絡網、 

しかも、全体の管理人も不要の巨大な自由連 

絡網、それがインターネットにございます」 

「ほう、連絡網? とな。しかし、何故そん 

な巨大なものに管理人がいらぬのじゃ。だい 

たいそんなものを、誰が作ったのじゃ?」  

「そもそものインターネットの始まりは、今 

を去ること30年の昔。アメリカと、今はな 

いソビエトが仲が悪かった、すなわち冷戦時 

代ですな、何かというといがみ合っておりま 

した1960年代。ソビエトが宇宙にロケッ 

トを飛ばすことに成功いたしました。これに 

よりまして、アメリカは空から敵に狙われる 

ことになったのでございます」       

「まてまて、1960年代とな…天野屋、今 

は一体何年なのじゃ?」          

「は、もちろん元禄14年に決まっておりま 

するが?」                

「…あい分かった。続けよ」        

「はい。ソビエトが宇宙にロケットを打ち上 

げた、これによってアメリカは、空から核攻 

撃を受ける危険を感じるようになりました。 

ところが、もしもの時に肝心な軍事連絡網は 

ワシントンに集中をしております。もし、ワ 

シントンに核爆弾が落ちれば、連絡網は一挙 

に崩壊してしまう」            

「うーむ、どういうことかな?」      

「この図をご覧ください図1。たとえば、こ 

れが大石様、これが江戸の堀部様、これが近 

江の近松様、これが越後の大野様、そしてこ 

れが他のご家来衆とします。もし、大石様に 

何かありますと、各地の連絡が取れなくなり 

ます。あるいは、堀部様はご高齢、寝込んだ 

りしますと、江戸での連絡がとどこおる。ま 

た、近松様がどこかへ出掛けておれば、上方 

の連絡が遅れます。これが従来の連絡網とい 

うやつにございます。…話を戻します。もし、

ソビエトが空からこういう拠点を狙い撃ちに 

すれば、とたんに国中が大混乱に陥る、なん 

とか、緊急の際にもどこかがやられても常に 

連絡を取れる形はないか、考え出されたのが、

この図2網の目の形でございます。この形で 

連絡網を作れば、どこかがやられてもそこを 

迂回すれば必ずつながる。ここらへんがやら 

れても、全体には影響がない、故障が出ても 

そこは迂回すればいいから、一日24時間、 

一年365日、一秒たりとも連絡の途切れる 

ことがない。ひとつひとつがしっかりしてい 

れば、管理者もいらない。こうして、ソビエ 

トとの戦のために、アメリカ全土に張りめぐ 

らされました一秒や休むことない軍事連絡網 

が、インターネットの元祖となるったのでご 

ざいます」                

「なるほど、元は戦の為の連絡網。それなれ 

ば我等にも役に立つかも知れぬな」     

「やがて、ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト 

が消滅いたしまして、1990年、軍事用だ 

ったこの連絡網が一般に開放され、海底ケー 

ブルを通って全世界中に広がり、わずか7年 

のうちに、全世界で、7千万とも一億とも言 

われる人々が自由に利用する、一日24時間 

・一年365日つなぎっぱなしで一秒も休む 

ことのない世界中のコンピュータをつないだ 

連絡網『インターネット』となったのでござ 

います」                 

「ふむ、半分くらいは分かったが…。最後の 

コンピュータをつなぐ、というのが分からん 

な。別にFax.かなんかでもよいではない 

か」                   

「いえいえ、コンピュータ同士を直接つなぐ 

のと、紙を使ったFax.でつなぐのとでは 

速さが違います。それはもう何千倍、何万倍 

も速い。たとえばFax.では紙一枚送るの 

でも細かいものは何分もかかりますが、コン 

ピュータ同士をつなげば、同じ時間のうちに、

極端な話、電話帳を一冊丸ごと送ることもで 

きるのです。しかも、手紙なら、こう順番に 

回さなくてはなりませんが、コンピュータな 

ら、一度に何百部でもコピーできる。相手が 

47人でも、100人でも、千人でも、一通 

手紙を書けば、一瞬にしてその写しを全員に 

送ることができる。江戸、上方、越後の同士 

の方と、半月かかっていたやり取りが、まさ 

に一瞬でできてしまうのでございます」   

「なんと、同志全員に、同時にか? それも、

一瞬のうちに? しかも、返事も同様か?」 

「はい、この、インターネットを使った手紙 

のやりとりを『メール』または『Eメール』 

と呼んでおります。「E」はエレキの「E」、

「メール」はエアメイルのメール。エゲレス 

語で手紙のこと。これ即ち『Eメール』でご 

ざいます」                

「具体的にはどういったものなのじゃ」   

「は、これでございます図3。このように画 

面に相手がキーボードから打ち込んだ手紙が 

出てくるので・・・・・・・・・・・・・」 

「ふーむ、なるほど。半月かかっていた同志 

との連絡が一瞬か。恐るべしインターネット。

あい分かった。では早速、インターネットを 

使い、各地の同志と連絡網を作ることにしよ 

う。で、インターネットとは、どうやれば使 

えるようになるのじゃ」          

「それは、まずパソコンを買っていただきま 

して、インターネットとつなげる業者と契約 

していだきますれば、明日といわず、今日か 

らでもEメールがお使いになれましょう」  

「その業者とはそちか?」         

「は、天野屋利兵衛はプロバイダーにござり 

まする・・・・・・・・・・・・・・・」  

こうして、天野屋利兵衛の手配により、江 

戸、上方、越後にまで散らばった赤穂義士た 

ちの間に迅速なる連絡網が作られました(ち 

なみにある会社の中だけでつなぎ、他所に秘 

密がもれないようにしたインターネットを別 

名イントラネットと申します。いってみれば 

赤穂浪士によるイントラネットができたとい 

うことでござりましょう)。        

やがて月日に関守りなく、一年が過ぎて元 

禄15年となりました。大石は敵の目を眩ま 

すために祇園・一力茶屋で遊び惚け、その裏 

で討ち入りを急ぐ堀部弥兵衛、片岡源五衛門 

らの江戸の面々をEメールでなだめつつ、時 

を過ごしておりました。          

〜第2章・WWW〜            

ところが7月18日、主君浅野内匠頭の弟 

浅野大学君が知行没収、広島の御本家へお預 

けとなり、いよいよ浅野家再興の望みが断た 

れ仇討ちの実行が本決まりになりました28 

日。京都円山に同志を結集、世にいう円山会 

議……。が行われるはずでしたが…。実はコ 

ンピュータは手紙だけでなく映像も送ること 

ができる。つまりテレビ電話もインターネッ 

トを通じればわずかな費用で使うことができ 

る。江戸と京都をインターネットを使ってつ 

ないでテレビ会議を行い、ふたたび打倒吉良 

の決意を固めた赤穂義士。ところがそれから 

幾日かたった一日、江戸から大高源五がただ 

一人、山科へと大石を訪ねてまいりました。 

「太夫、普段からEメールで連絡を取り合っ 

ておりますが、こうして直にお目にかかるは 

赤穂出奔以来、久々のことにござりまする  

な」「うむ、そちも顔色がよさそうで何より 

じゃ。テレビ会議はまだ画面が荒いゆえ、一 

人一人の顔色まではよく見えぬのでな。時に 

今日はいかがいたした」          

「は、実はEメールでは、ちと都合の悪い内 

々の話がございまして、東海道を下り馳せ参 

じた次第にござりまする」         

「して、その用向きは?」         

と、この時大高源五、油断なくあたりを見 

回し、襖の向こうを確かめ、天井、縁の下に 

も耳を当て                

「実は、近頃我等の連絡網のEメールを盗み 

読みされている形跡が見つかり申した」   

「何と? Eメールは他人には読めないはず 

ではないか」               

「『人の行く裏に道あり花の山』どんなに世 

の中が発達しても、表があれば裏もある、道 

が通れば抜け道もできる物でござる。ことに 

インターネットは世界中に通じ何しろ一億を 

数える人間が使っておりまする、あらゆる技 

を駆使して他人の秘密を盗み見ようとする者 

がおりまする。これを世間では『ハッカー』 

と呼んでおりまする。ハッカーの多くはただ 

の覗き趣味でござるが、もしや吉良方の間者 

の仕業なれば一大事。今後のEメール通信に 

は事の他注意なさらんことを」       

「あい分かった」             

「そして、本日どうしてもお見せいたしたき 

ものが…」                

「何じゃ」                

「この大高源五、実は我が趣味を活かしまし 

て、WWWに茶の湯・俳諧のホームページを 

開き、読んでくれた方のEメールを募り、そ 

れとなく吉良の周りの情報を集めているので 

ござるが…そこで、大変な情報を手に入れま 

したので…」               

「しばし待て、実は、その、わしは天野屋の 

指南通りにメールの交換を行ってはいるが、 

わーるど、わいど、うえぶ? にはあまり詳 

しくないのじゃ…」            

「なんと、太夫! 一年近くもインターネッ 

トを使いながら…今はインターネット言えば 

Eメールではなくこちらのことを指すのが常 

識になっておりますぞ」          

「…せっかくだから、それについても、少し 

講釈してくれぬか?」           

「仕方ございませんな・・・・・・・…あの 

ですね、ひと言でまとめると、WWWとはイ 

ンターネットの連絡網を使って作られたとて 

つもなく巨大な図書館の事でござる。そして 

ホームページとは、その巨大な図書館に置か 

れている本のことでござる」        

「うーむ、それを高座で説明するのは、根本 

的にムリだと思わなかったのか?」     

「そんなことはハナから承知の上。…太夫。 

ここに太夫のパソコンがござるな。これは我 

等とのメールの交換以外には何に使っておら 

れる?」                 

「いや、天野屋に教えられた通りメールのや 

りとりをするだけで、それ以外には」    

「しからばこの中に記録されているのは、昨 

年来の我等と交換したEメールのみ、すなわ 

ち手紙がせいぜい数十通といったところでご 

ざるな」                 

「他には、祇園の芸者からのEメールが…い 

や何でもない」              

「インターネットでは電話のような通信の道 

具として用いられるパソコンながら、本来こ 

れは記録のための道具でござる。パソコンの 

中のこのくらいの小さな円盤の中に、何十冊、

何百冊という書物が簡単に入ってしまいます 

る。つまりこれは本棚、いや、ひとつの家の 

書斎くらいの本がはいる箱というわけでござ 

る」                   

「ふむ、この大きさに書斎ひとつ分の本がの 

う」                   

「そしてこれをインターネットでつなげば、 

たちまちにして世界中の書斎がひとつとなっ 

た巨大な図書館の出来上がり。そしてその中 

で誰もが自由に読める本にあたるのが、すな 

わちホームページということでござる。この 

インターネットの巨大図書館は、いついかな 

る時も開かれつながっている。たとえば今す 

ぐに、あのお客さまのもっている小型パソコ 

ンから、アメリカのホワイトハウスのコンピ 

ュータにある記録を読むこともでき申す。何 

よりもコンピュータさえあれば誰でも、その 

巨大図書館に本を置くことができる。国立図 

書館には置けませんな。講釈師の神田陽司が 

昨年半年がかりで作ったものもござる」   

「しかし、そんなに本が何億冊もあるところ 

に自分の本を置いても埋もれてしまうだけで 

あろうに。どうやってさがせばよいのじゃ」 

「それがコンピュータの優れたところ。たと 

えば神田陽司のホームページには図4『ht 

tp://t3.rim.or.jp/~ y 

oogy』という名前がついている、これを 

打ち込めばそう、地球の裏側にいても、10 

秒もかからずにホームページが出てくる。あ 

るいは『講釈師』と打ちこめば、陽司の他に、

神田紅、神田北陽といったホームページも出 

てくる。ちょっと大きな図書館で本を探して 

くれるよう頼んでも何十分もかかるというの 

に、この速さ。WWWとは恐ろしく巨大で恐 

ろしく検索の早い世界図書館というわけでご 

ざる。そして恐ろしいのは、インターネット 

はツナギッパナシであるから、国境もなけれ 

ば、規制もない。そこには、およそ全てのジ 

ャンルの情報がある図5〜11(URL紹   

介)」                  

「源五…時間がかかりすぎた、本題に入れ」 

ハッ、と答えて大高源五、懐より取り出し 

たフロッピィを、内蔵助のパソコンにセット 

し画面に呼び出し、            

「ご覧くだされ」             

「何じゃ」内蔵助が見てみますとそこには  

「このこと知らす存ずべく候えども、やむを 

得ずして候、不信に存ずべく候」とあります。

「これだけか? これは何じゃ?」     

「これは、亡き殿の最後のお言葉で」    

「なんと、殿の辞世は『風誘う…』の句では 

なかったのか」              

「これは、かの日松の廊下の当番であった、 

幕府目付・多門伝八郎殿の日記のホームペー 

ジで見つけたものにござる」        

「このこと、知らすべく存じ候えども…。こ 

のこととは何じゃ? これでは意味不明では 

ないか?」                

「それが、これは実は、殿がお腹を召された 

田村右京太夫の屋敷で、殿が屋敷の者にご伝 

言されたご遺言の一部でござる。それが何故 

か、何故か田村家にて勝手に握り潰され、そ 

の事に憤りを感じた多門どのが、使いの者か 

ら聞き出した断片とのこと。インターネット 

には検閲の機関がないので、うっかり書いて 

しまったのでございましょう。これは、イン 

ターネットがなければ、決して我等の目には 

触れなかったものでございます」      

「左様か。でかしたぞ、源五。殿のお心を唯 

一の手掛かりじゃ、引き続き探りを入れよ」 

「は」                  

「一体、殿は何を伝えたかったのだ? 『こ 

のこと』とは、一体何のことであろうか?」 

しかし、その後ついにこの遺言の続きを見 

つけることはできなかったのでございます。 

〜第3章・インターネットの可能性〜    

やがて元禄15年は暮れました。その後大 

高源五は世界中のハッカーのホームページか 

ら技術を学び、幕府の中央コンピュータに侵 

入する、つまり情報を盗み見るハッカーとな 

りました。そして12月14日、御敵吉良上 

野介は茶会を催し屋敷にあり、という情報を 

引き出し、討ち入りの日が決しました。   

吉良邸の絵図面も中央コンピュータから盗 

み出し、色男・岡野金右衛門の出る幕もない 

ままに…                 

四十七士の活躍は、丑の上刻より虎の頭に 

至り卑怯未練の吉良上野を、情報通り炭小屋 

の抜け穴に追い詰め、間十次郎殿が引きずり 

出すは雪の中。              

眉間と背中の傷を確かめ、吉良本人と分か 

るや、大石内蔵助、            

「吉良様、亡君のお恨みお晴らしするは家臣 

の務め、いざ、潔くご最期を」       

この時吉良上野介義央61才、少しも慌て 

ず。                   

「あい分かった、身共も武士、武士らしく最 

期を遂げる所存」意外にも、素直に腹を切ろ 

うとする。大石、この時とばかりに積年の胸 

のわだかまりをぶつけたのでございました。 

「吉良様、天晴れなるお心がけ。内蔵助、感 

服いてたしてござりまする。そこで、どうか 

最期にお教えくだされ。何故亡き殿は、刃傷 

におよびしや?」             

「それは…」               

「某聞き及ぶに、亡き殿、賂を贈らざりしに 

より、吉良さまご立腹のあまり無体を申され 

たとか」                 

「いや、浅野殿に、いろいろと意地の悪い行 

いを働いたは事実じゃが…。実はそれ皆、わ 

が領地・三州吉良の地を守らんがため…」  

「何と、何故亡き殿に無体をすることがご領 

地を守ことになるので」          

「それは…話してもよいが…聞けば後悔しま 

すぞ」                  

「お教えくだされ」            

「されば……あれは、あの殿中の事があるす 

こし前。ある日、ワシの所に、老中・柳沢吉 

保殿が一族の者に宛てたEメールが間違って 

送られてきたのじゃ。Eメールは多くの者に 

同時に送られるので、こういうことがよくあ 

る。それを読んでワシは肝を潰した。そこに 

書かれておったのは、柳沢殿が、我が三州吉 

良の塩田を狙っておるとのこと。塩は金にな 

るからな。何事か我が行いに難癖をつけて我 

が領地を取り上げ、柳沢一族のものにしよう 

と…。そこでワシは、そのホコ先を、同じく 

塩を作っている赤穂に向けようと、浅野殿が 

殿中にて失敗をするよう仕組んだのじゃ…」 

「なんと。誠でござるか」         

「だが、実はそれは最初から柳沢の謀り事。 

浅野殿の接待指導役であるワシにわざとメー 

ルを読ませ、自分の代わりに浅野殿に失敗を 

しむけるよう仕組んだ…何のことはない、柳 

沢は、最初から世評の高い赤穂の塩が狙いだ 

ったのじゃ…。ただ我が領民の事を思うてき 

たこの吉良義央、こんなことになるなら、あ 

の時、松の廊下にて浅野殿に切られた方がマ 

シであった…」              

「では、本当の殿の仇は柳沢…」      

「ムダなことよ。この屋敷の周りにもすでに 

手が回っておる。その方ら、不信に思わなん 

だのか…。何故今日ワシが屋敷におることが 

簡単に分かったのか、何故簡単に我が屋敷の 

絵図面を盗み出せたのか…すべては柳沢の差 

し金……わしも、そこもと達も、情報を手玉 

に取るつもりが、情報に踊らされておったの 

よ…。さ、そち等はこの後、亡き浅野殿の墓 

前に参り、忠義の武士として死ぬるだけが役 

目…。しからば、御免」          

吉良は自ら腹を切り、返す刀で喉をかき切 

り相果てました。後に残されたは大石内蔵助 

と義士の面々。              

「では、殿は…ご短慮故ではなく、すべてを 

知って、赤穂の民を思うあまりに刃傷を…」 

「太夫、どうやらすでに囲まれております」 

「ううむ、憎さも憎し柳沢…。切り死にする 

はたやすけれど…歯向かえば亡き殿の奥方・ 

遙泉院さまはもとより、弟・大学君、広島の 

御本家にもわざわい被るは必定……無念じ  

ゃ」                   

やがて四十七士は隊列整え、朝の雪の道を 

回向院から一つ目通り、永代橋を渡り、芝高 

輪泉岳寺へ…。表の井戸で、今は同じ老中の 

私利私欲の犠牲者となった吉良の首を丁寧に 

洗い、墓地へ歩み入れば、そこに待つのは、 

背後多くの手勢を従えました老中・柳沢吉保。

「これはこれは、忠義の面々。見事ご主君の 

お恨みを晴らし、身も心も晴れたであろう。 

この太平の世にあって、まさに武人の鏡、吉 

保感服いたしてござる」          

「おのれ、柳沢。吉良殿よりすべて聞いたぞ。

亡き殿のご存念は、吉良どのではなく、貴様 

に向けられるはずのもの。この内蔵助、差し 

違えてご無念晴らさん」          

「…と、そのような事はできまいな。亡き殿 

の仇を取った刀で、何の関係もないこの吉保 

を切ったでは、忠義の志士も単なる乱心者の 

群れ。ここは大人しく、忠義の武士として散 

り行くが本道。それが嫌なら一族郎党はもと 

より、亡き殿の奥方、ご子息、ひいては安芸 

のご本家まで、ただでは済むまぬことになろ 

うぞ」                  

不敵な笑みを浮かべる柳沢。ああ天道いず 

くにかあらん哉。一年九ケ月の苦心の末、や 

っと打ち果たした吉良はただの影。今はじめ 

てまみえる真の仇を前に、義士たちは手も足 

も口も出すことができない。        

「では、これより、細川・水野・毛利・隠岐 

松平。四家にご同道いただこう。なに、痛め 

吟味などはせぬ。武人の花道、ご主君を慕っ 

て、ご主君と同じく即日切腹、追い腹をお召 

しいただくことであろうぞ。これで、あの殿 

中でのことに不審を抱くものは一人もいなく 

なる」                  

一同悔しさに震えるほどに唇噛みしめ、重 

々しい足取りに「萬生山・泉岳寺」の山門が、

苦し気な音を立てギィーーーと開く。夜は白 

々と明け、朝霞がうっすらと晴れてゆく中、 

岳寺の坂の下から、ゆっくりと、ゆっくり 

と浮かび上がって参りましたのは、人、人、 

人江戸中の町人が集まったかと思える、何千、

何万という大群衆でございました。     

「義士を殺すな〜」            

「浅野の家来を助けろ〜」         

口々に叫ぶシュプレヒコールは、街に響き、 

辻辻にこだまして、あたかも雪崩れの如くに 

轟き渡っております。           

驚き慌てるは柳沢吉保、         

「こ、これは何と、何としたこと?」    

「あ、柳沢だ、老中だ、」         

「キタネエまねしやがって、みいんな知って 

るぞ」                  

「このヤロー。生類憐れみの令もテメエが言 

いだしたんだろう」            

石のつぶてが義士の頭を超え、柳沢の元へ 

飛んでまいりました。そこへ駆けつけて参り 

ましたのは、吉良邸で番をしておりました時 

に様子を察し抜け出しておりました寺坂吉衛 

門。                   

「旦那様、遅くなりました」        

「吉衛門、これは何としたことぞ?」    

「はい、門の外より吉良殿の言葉を聞いて事 

情を察し、すぐに公衆電話のISDN回線か 

らインターネットにアクセスし、いろは四八 

組はじめ江戸中のホームページに万事をした 

ためたメールを出しました。丁度アクセスの 

多い時間、チャットルームなども使いまして 

一人に伝わればこそから十人、十人に伝われ 

ばそこから百人、百人に伝われば千人、万人 

…ネズミ算とはこのことでござる。生類憐れ 

みの令このかた、幕府に不満を抱く江戸の町 

人たちが、十万、いや、それ以上は集まって 

くれたことでございましょう。まさにインタ 

ーネットの本領発揮にございまするな」   

殺気だった江戸市民の群れにコブだらけに 

された柳沢はほうほうの態で逃げ出し、赤穂 

四十七士は大いなる歓迎を受けて南部坂の遙 

泉院方へ。やがて江戸市民からのEメールが 

全国へ飛び火して世論となり、柳沢吉保の数 

々の悪事が暴かれ老中を罷免、その後逮捕さ 

れて失意のうちに生涯を終えることになった 

のでございます。             

なお、その後、インターネットのある時代 

に生きた赤穂義士たちが切腹をしたかどうか 

は、みなさまのご想像にお任せすることとい 

たします。                

赤穂義士異聞「講談インターネット」これ 

を持って読み終わりといたします。     
















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