Silvan Note 16 雨に似た音
風が吹いたかと思うと一瞬、雨音がした。
冬の日差しが黄葉したカラマツ林を包み込んでいたので、
不思議な感じだった。
しかし顔にあたったのは、水の滴ではなく、
落葉した細長い黄褐色のカラマツの葉であった。
カラコルム山脈をトレッキングした時のことだ。
疲労困憊していて、目的地に辿りつけず、
標高四八〇〇Mの峠でテントを張ることになってしまった。
峠は、風の通り道だ。
一晩中、テントが飛ばされるのではないかと、
眠れぬ夜を過ごした。
深夜にはポツポツと雨までテントを叩きだした。
気がつくと心地よい朝日の温もりがテントの中を包みこんでいた。
いつの間にかうつらうつらしていたらしい。
テントのファスナーを開けて外をみると、
驚いたことに一面の銀世界。
雨だと思っていた音は、雪の降り積もる音色だったのだ。
空は、雲ひとつない青空だ。
日差しがキラキラと新雪を照らしている。
気持ちがフッと軽くなった。
エネルギーを与えられたような気分だ。
落葉したカラマツの葉は、大地に降り積もっていく。
この黄褐色の雪は、きっと土壌に力を与えていくのだろう。
雨音に似た音色は、生命への応援歌のようにも聞こえた。
針葉樹なのに落葉するカラマツ。広葉樹の紅葉もみごとですが、このカラマツ林の黄葉もすばらしかったです。山全体が金色に輝いていて。それにビックリしたのは、落ちるときの音。まさに雨音なんだなぁ。急に風が吹いて落葉しはじめた時、「天気雨だ」と撮影班のスタッフが叫んだほど。そして、落ちたあとの大地は、一面のふわふわの葉っぱの絨毯。なんかホントに土地が肥えていく感じでした。森の中では、カラマツが黄葉すると、晩秋も終わり、本格的な冬に突入するそうです。