Silvan Note 11 木の意志

 

一枚岩の割れ目のわずかな隙間に根をはっている木に出会った。

鬱蒼と茂った葉陰で、夏の日差しは遮られて、

この大木の下だけは、ひんやりとする。うだるような暑さが嘘のようだ。

カンボジアのアンコールワットの巨大な遺跡の奥に、

タ・プロムという遺跡がある。

生命力の溢れる熱帯の森は、人間が造りだしたその寺院跡の

あちらこちらに根をおろし、今では、遺構自体を破壊するほど生い茂っている

太い根が石積みの建造物を抱き込むその姿を目のあたりにしながら、

木々が放つ力強い何かを私は感じていた。

モールス信号のように断続的に脳に直接伝わってくる。

生命力とはまた違った、そこに存在する意志のようなものだ。

人間の時空など飲み込んでしまいそうな勢いだった。

大木に凭れると、土を求めて岩の割れ目から

根が溢れ出ているのが間近にみえた。


「わざわざ、こんなところに根をはらなくてもいいのに

 そう思ったとたん、私の思考の中に、

あの時の強い信号が突き刺さってきた。

この木も確かに何かを伝えようとしている。


「ここに、いたい」


そんな声がしたような気がした。

 


Silvan
's Monologue

今回のテーマは、「第六感」。大木の近くにいると不思議なオーラを感じることがあります。「木に会う」高田宏著という本の中で、(いい本なのでぜひ読んでみてください)古人の樹木崇拝について触れているけれど、昔の人がそういう気持ちになるのがわかるような気がします。屋久島の縄文杉は、私の出会いたい木のひとつです。そのうちに行ってみたいと思っていますので実現したら「歩くネット」に報告しますね。カンボジアに行ったのは、もうだいぶ前です。自衛隊がPKOに参加する前でした。まだまだ地雷がありました。最近は、渋谷と代々木のカンボジア料理を食べながら、当時をしのんでいます。


    
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