Silvan Note 13 雨の予感
一瞬、涼やかな風が吹いた。
肌にあたる空気の表情が確かに変化した。
湿り気のあるひんやりした感触が伝わってくる。
「スコールが来る」
そう思ったとたん、
ヤシやシダの大小さまざまな葉っぱの上を雨の滴が突き刺した。
ザー。
薄暗いジャングルに届いていたわずかな日差しは消え、
バケツをひっくりかえしたようになった。
歩いていた道もあっという間に水の通路となり、川のようになった。
ボルネオ島での出来事だ。
苔むした森で、柔らかい苔の弾力を楽しみながら歩いていると、
あの時の予感が蘇った。
頬にあたる空気の粒が、微妙に変化してきたのがわかる。
大気全体で、雨の訪れを暗示しているかのようだ。
わずかに運ばれてくる水の粒子が不思議と皮膚に伝わってくる。
「絶対に来る」
なぜか予感は、知らず知らずのうちに確信へと変わっていった。
足元の弾力がわずかに強くなったような気がした。
まるで滴を待ちわびて、苔たちが、一斉に背伸びをしているかのようだ。
日本でも夏の暑い日に、突然冷たい風が吹くのを感じたことがありませんか。水の匂いがして・・・。すると、夕立がくるんですよね。熱帯にいると、スコールが頻繁にきます。海なんかの見晴らしのいいところで遠くをみていると、今いるところは、晴れていても、遠くの空は、黒く曇っていて、雨がレースのカーテンのように降っているのがみえることがあります。視覚的ではなくても、知らず知らずのうちに肌でスコールがくるのがわかることがあるんです。「あ、来るな」と思うと、くるんだなぁ、これが。スコールは、ザーと降って、止むのも早いから、熱帯の人びとは、だいたいどこでも雨宿りしてやり過ごすことが多い気がします。あくせく傘なんかさして、どしゃぶりの中に出ていく人は少ない。私も、現地の人と同じようにボーっと時間をやり過ごすことにしています。軒先で一緒に雨宿りもまた楽しいもんです。