Silvan Note 6 生のリズム

 

春の鳥を探そうと森に入った。

耳をすまし、目を凝らしていると、何か大きな力に

包まれているような感覚に襲われた。


ヒマラヤ山中の崖の上に建っている僧院の小さなお堂の中で、

読経を聞いている時もそうだった。

太鼓と鉦の単調なリズムの中で、ラマ僧たちは経典を一節、一節、

声をそろえて暗唱する。

生のリズム

目をつぶって胡座をかき、そのリズムにあわせ身体を揺すっているうちに、

自分の感覚がいつもと違うところに上昇して、

何か得体の知れない大きなエネルギーに包まれている気がしてきた。

決して嫌な感じではない。

むしろ心の底が温かくなるような安心感が生まれていた。

双眼鏡のふたつの円の中には、鳥はとらえることはできなかった。

木々の枝が風に揺れているだけだ。

しかし、枝のあちこちには、厳しい冬を越えてきた

褐色の芽が膨らんでいるのがみえた。

森全体が、眠りから覚醒する準備をしている。

もしかしたら、それが、荘厳なエネルギーとなって、

森自体を包んでいるのかもしれない。


腰をおろし、目を閉じてみる。


森の力強い生のリズムが聞こえてくるようだ。

 


Silvan
's Monologue

第一部の最後は、「第六感」。とはいっても、第六感は無意識に近い感覚なので表現するのは難しいです。インド・ヒマラヤの中にザンスカールという地方があります。「厳冬の奥ヒマラヤ氷の回廊」というNHKの番組でもとりあげられた場所です。冬は町に出るのに凍った河を歩くのですが、夏は標高4,000m前後の峠をいくつも越えていかなければこの僧院のある場所には辿りつけません。私は、歩いて五日かかりました。僧院に行くとちょうど読経の最中で、いっしょにその場に座らせてもらって読経を聞いているうちに、本当に宙に浮いたような気がしたのです。イメージ的なものなので、実際は地面に着いているのですが、自分という個体とは別のところに魂だけ上昇しているような感覚です。うまく説明できませんが。その時の感覚を第六感として表現してみました。人間には、きっと秘めた力が備わっているのかもしれませんね。


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