八郎潟干拓とエリート官僚

 

 

               1 ある書評 

(S.E兄への手紙)から

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 ところで、最近読んだ本、某氏の『エリート官僚論』には、大変考えさせられました。著者は昭和30年(1955)農林省入省のキャリア組、昭和61年ー長官。現ー理事長。

 私とは二度ほど農地局で出合いました。最初は彼がK課の法令係長、私はちょうどK課をはなれてT課で班長時代(昭35〜38)。後述のことはその時のことであります。
彼は大声でしゃべる活発なところがあり、しかも勉強する実直な青年という印象を私は持っていました。 

 その『官僚論』の書評が、最近T新聞に載っていました。評者は冒頭で「きわめてアカデミックでかつ読みやすい官僚改革論」と褒め称えています。

(書評)

 「ーーーーー
戦後日本の官僚は、〈国士型官僚〉から〈リアリスト官僚〉へと移行し、80年代以降はそのリアリスト官僚の行政手法が通じなくなってきた、というのが本書全体の論旨である」「これらの判断には著者自身の体験が大きな意味をもっているーーー」 

「貴重なのは、官僚の失敗や弱点についての多くの具体例をしめしていることであるーーー」
「例えば、官僚の失敗によって犠牲を強いられた国民の話など、中には憤りさえ覚える事例もある。」
 

「第6章でまとめられている官僚の弱点をあげれば、事実収拾の弱さ、実務に対する無知、執行体制への無関心、手放しで礼讃できない官僚の使命感、ノンキャリアに依存したテクノクラシー的性格、の5点」最後に「政官関係について、貴重な提言が示されているーー」

      (評者・O大教授--・--) 

 実は、まだ私自身が見聞きしたと思われる部分を選んで走り読みしたていどで、読んでわかったのは、国士型官僚は石黒忠篤氏の系統者である石井英之助・和田博雄・東畑四郎・小倉武一・大和田啓気の諸氏で、以後は全部リアリスト官僚という区分くらいのものです。 

(著者は、ここでいう、いわゆるエリート官僚〈キャリア官僚〉は、昭和23年までの旧高文合格者、24年以降は国家公務員上級職中の法律・経済・行政の合格者.であって各省庁の幹部へのコースに乗っている者を指すと言っております)。  

 しかし第6章「日本の官僚の思考と行動様式」の 例として八郎潟干拓を出してわれわれ(非エリート官僚)を難じるに及んでは見ざる聞かざるで過ごすわけにはまいりません。ーーーー 

ここまで書いて、貴兄へのお礼状、あまり遅れてはと気づきひとまず鈍筆をおきます。
   (1998、4、6)

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