AI着色は昭和時代の夢を見るか(その10)


PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズもこれで10回目。もう実験というよりは、色付けを楽しんでいる感じになってしまった感もある。今回は前回に続いては1971年12月15日に筑豊本線で望遠ズームを取り付けたサブカメラでカットの後半戦。今回使用したカット、およびその前後に当たるカットは、<無意味に望遠 その7 -1971年12月15日つづき->の中で発表してます。前回の発表時にトリミングを掛けたカットについては、比較しやすいようにほぼ同じようなトリミングで仕上げました。



まずは中間-筑前垣生間の遠賀川橋梁にて撮影したカットから。よくあるパターンで正面から望遠で狙っていますので、タイムラプスみたいにかなりのカットを撮っています。ということで、前回使用した一コマ前のカットです。全体にAI君お得意の低彩度でぼかしてきてますから、まあまあまとまっているのではないでしょうか。機関車もほとんど色を付けていませんが、意外と自然な感じです。線路脇の電柱に張られたケーブルの上と下で色調が変わっていることから、画の構成要素を境界線で分割した上で、そこに何が書かれているかを推論し着色しているようですね。手前のバラストにほとんど色がないのも、この部分を一つのブロックとして認識してしまっているためでしょう。


こちらは前回「無意味に望遠 その7 -1971年12月15日つづき-」に掲載したカットそのものです。Web用にダウンコンバートする前の元データに対してカラー化処理をしていますので、新たに同構図でトリミングを掛けたものです。こっちは機関車がアップになっている分、少しウェザリングを掛けていますね。しかし鉄橋の色は、緑系ともローズピンク系とも見れるような、なんとも微妙な色付けをしてきました。確かにどちらの色の橋もあるし、汚れて褪せてくればこんな感じになるので、ちょっとズルい気もしますがまあアタりなのではないでしょうか。若松機関区のD511155号機は製造以来九州一筋のカマで、当時九州配置のD51では最大番号でした(過去には1160号機が九州配属だった)。


前回同様、このあとサブカメラは冷水峠まで出していません。ということで、冷水峠名物のD60重連の下り貨物を筑前内野側のお立ち台で撮影します。まずは前回掲載した一番目のカットをカラー化しました。直方機関区のD6069号機と27号機の重連です。この区間では珍しくセラが連なっていますが、ここまでやらなくてもいいのではと思うくらい、補機・本務機とも焚きまくって猛煙を吐いています。確かに画面の上半分は煙なのですが、AI君も気合を入れ過ぎて、半端ない猛煙状態に描いてしまいました。機関車もかなりウェザリングが効いています。その一方で、コンクリートやガードレールの描写はなかなかリアルです。なんか、スマホのカメラみたいな絵になってますね。


さて、前回はこのもう一つ次のコマを採用しましたので、これは前回の二つのカットの間のコマということになります。なぜこっちにしたかというと、機関車の前方の線路脇に大きな岩が露出しており、これをAI君がきちんと認識するかどうかを試してみたかったからです。結果は大正解で、ちゃんと岩になってますね。とはいえ色も含めて、これまたウッドランドシーニックスのゴム形で作った岩のような感じ。これ冬の撮影なので、築堤の法面は枯草なのですが、夏の盛りみたいに草を茂らせてしまいました。この時本当にカラーで撮影したカットは、<冷水峠の足跡 -筑豊本線筑前内野-筑前山家間カラー編1971年12月15日(その3)->の中で発表してます。まあ、それなりに雰囲気は出てるといえましょうか。比較してみていると、心なしかこちらにも黄帯がうっすらと見えるような気分が。


続いて新飯塚駅近くで捉えた若松機関区C5552号機の牽引する下り旅客列車です。前回は3カット掲載しましたが、駅の出発シーンは後藤寺線のディーゼルカーと並走しており、ディーゼルカーは苦手なのがわかっているので、あとの2カットのみカラー化しました。まずは2カット目にあたる、上り場内信号機脇を通過するカット。信号の光が無色になってますが、これは仕方ないでしょう。あとからレタッチで色を挿せばいいことですから。全体にはこういう街中の景色は得意と見えて、そつなくまとまっています。それより後方の踏切を渡る人々をちゃんと人物と認識して、それらしい色付けをしてきている点が注目されます。極小面積ながら、ちゃんと顔や手に肌色を塗ってきてますからね。


次は手前に引き寄せてのカット。これも前回掲載したカットなので、どう色付けしたか比較が可能です。しっかり色が付いているので、遠景がよりはっきり見えるのが面白いですね。踏切の自動車や駅の跨線橋、小山の上の塔など、より存在感を発揮しています。街並みもくすんだ炭鉱町の感じが出ていると思います。これも信号は仕方ないところ。客車もぶどう色2号と識別できる色にしています。こっちは得意なんだよね。「立川ペニシリン歯磨」という琺瑯看板にはきっちり青を挿してきて、いいアクセントになっています。これも昭和の風景を学習した成果でしょうか。色味も含めて、レイアウトで再現したいような光景になっています。


C5552号機が牽引する旅客列車を撮影してから新飯塚駅にもどる道すがら、D6034号機の牽引する上り貨物列車がやってきました。帰りがけのお駄賃的にこれもワンカット押さえておきます。ちょうど場内信号機のところですね。まだ塗装の艶が残っている機関車に、夕焼けが反射している感じが良く出ています。土場でしょうか、丸太が何本か転がっている広い空地と、年季の入った羽目板作りの小屋。土の色が九州というよりは関東っぽいのですが、自然な感じでまとまっています。このカットは撮影以来プリントしたことがなかったのですが、色付けてみるとけっこう味わいがありますね。前回もありましたが、カラー化すると面白いというカットも出てくるもんですね。


(c)2024 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


「記憶の中の鉄道風景」にもどる

はじめにもどる