AI着色は昭和時代の夢を見るか(その18)
PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズ。前回までの室蘭本線栗山-栗丘間でのカットはひとまず完結ということで、今回からは最初の北海道撮影旅行のではその前日、1972年7月15日の午後に行った室蘭本線白老-社台間で撮影したカットをカラー化します。今回掲載したカットのモノクロ版は<「まっすぐな道」を訪ねて(その1) -1972年7月15日->の中で掲載しています。前回は印画紙に近く4:3にしたのでトリミングしてありますが、今回はなるべくノートリミングで作画してみました。また今回もほぼ各カットともカラーポジで撮った正真正銘のオリジナルカラー版があり、<「まっすぐな道」を訪ねて カラー版(その4) -1972年7月15日->に掲載しています。こちらの比較もお楽しみ下さい。

まずはモノクロバージョンと合わせて、白老に着くなり撮影した車扱ローカル貨物列車の入換シーンから。牽引機は鷲別機関区のC58425号機。次位に逆向きに鷲別機関区の49674号機が連結されたまま作業をしています。このカマは前に解説したように第2種休車で、このまま苗穂工場に回送されて、4日後には廃車になります。入換途中のこの段階ではまだ8輛ほど無蓋車が連結されていますが、あとの走行写真では3輛になっています。白老駅ではこの5輛分の解結をおこなったのでしょう。これから真夏という時期なのですが、なんか秋の風が吹き出したような色味ですね。とはいえ、機関車のウェザリングも含め北海道らしい色合いです。中継信号機は注意を現示していますが、色灯式と違って違和感はないですね。

少し社台の方に歩いてゆくと、上り貨物列車がやってきました。この区間は非常に列車密度が高く、72年当時は貨物は全て蒸機、旅客も蒸機中心ということで、移動中も次々と撮影対象の列車がやってくるので、バッタ撮りにならざるを得ません。そういうわけで三脚を立てている時間がなく、このあたりのカットは手持ちの35oメインカメラだけでの撮影です。牽引機は鷲別機関区のD51896号機。鷲別らしく前照灯は煤まみれ、ナンバープレートも磨かず汚れまくっていますが、良くその感じを引き出してカラー化しています。全体の色合いもなかなかいい感じ。リアルのカラーポジのカットを見ると、このあたりではバラストにちょこちょこ草が生えていますが、ちゃんとその感じで草を生やしている点も評価できます。

続いて上り貨物がやってきますので、あまり先へ進めません。ちょっと前進したところで、次の列車を撮影します。牽引機は鷲別機関区のD51165号機。鷲別機関区のカマにしてはわりとキレイで、前照灯のレンズも磨いてあります。苫小牧発の本土向け新聞紙ロールを積んだワキ5000のみの編成。AI君、牽かれているのは貨車とはわかったようですが、ワキ5000のとび色2号は知らなかったようで、黒く塗ってきています。全面プレスの貨車はとび色2号と教えれば、多分それからはちゃんとやってくれると思うので、だれか教育してください。景色は前のカットの続きなので、ほぼ同じようなトーンで仕上げてきています。その分、カマの汚さの違いが際立っており、比較してみると面白いですね。

今度は、先程白老駅で入換をしていたC58425号機が牽引する下り貨物が駅を発車してやってきました。このカットからはオリジナルのカラーポジのカットがありますので、比較が可能です。オリジナルのカラーはかなり褪色が激しく、色合いを補正しきれていないのですが、こちらの方も露出がアンダーなのは共通ですが、よりヴィヴィッドな色味になっています。褪色分を補正して考えると、けっこういい線の色付けだと思います。前回からAI君、かなり腕が上がったような感じでしたが、これバージョンアップしてますね。AdobeのCCはサブスクなんで、時々勝手にバージョンアップしているので、その成果でしょう。こちらは、ちゃんと夏らしい風景に仕上げています。

また上り貨物列車がやってきます。前のカットからカラーがあるということは、三脚を立ててブロニカS2と望遠ズームを付けたサブカメラをフルセットで構えていますので、比較が楽しめます。このカットを撮ったモノクロメインカメラは、立ち位置で手持ちですから、三脚はかなり低く構えているようです。これも全体の色調はAI版の方が深みがありますね、ただ、線路間はみっちり緑で埋まった中に花が咲いているのを、なんか枯草みたいにしてしまっていますね。あと、下り線のバラストには草を生やし過ぎ。上り線のバラストはいい感じに仕上げているのに、ちょっと惜しいところですね。今回は全体のレベルが高い分、あと一頑張りでしょうか。

同じ場所から振り返って、岩見沢第一機関区のC57135号機が牽引する下り旅客列車を撮影します。カラーポジ版の方がレンズが75oと広角なのと、ワンテンポ早くシャッターを切っているので、かなり位置が違うように見えますが、115kmのキロポストとレールの接手の位置をみると、実は一呼吸程度の差であることがわかります。実際には線路間はかなり緑が生い茂っているのですが、ちょっと寂しいかな。とはいえこちらのカットは枯草ではなく、それなりに緑の葉っぱを描いてくれているので、ムードは出ています。これも充分に及第点といっていいのではないでしょうか。今回のは着色ではなく「カラー化」と呼べるレベルに来ていると思います。

今回最後のカットは、当時の国鉄最長直線区間が始まるカーブのところ。別にフォトジェニックでもなんでもないのですが、エポックメイキングなカーブで撮ってみたかったというだけで、まずやってきたのは岩見沢第一機関区のD511037号機の上り単機回送。ギースルエジェクターを装着してはいるものの、随所に2年前まで配置されていた九州の名残が感じられます。線路脇の草は、緑と枯草が混じっていますが、カラーポジ版の方でも少ないながら枯草が残っているので、間違いとは言い切れません。線路・バラストもいい感じではないでしょうか。しかしこのカマ、オリジナルのカラーポジを見ると赤ナンバーなんですね。しかし九州時代の最後は熊本だったので、緑ナンバーではあっても赤ではなく、岩見沢で入れたものでしょう。C57135も最後は赤だったし。
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