AI着色は昭和時代の夢を見るか(その4)


PhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験するこのシリーズ。やっていると一体どうなるのかというのが中々面白い。ウマく行くこともあれば、全然スカの時もある。いずれにしろ、やればやるだけどこまで使えるかという可能性と限界もわかってくる。ということで今月もまた続きでやることに。今回は71年冬の三回目の九州撮影旅行でのカットから。今回も、こういう場合にカラー化のアルゴリズムがウマく働くというその「成果」を示すべく、吐き出したデータはそのままで、ポストプロのレタッチはしていないことを申し添えておきます。



まずはアップのバッタ撮りから。若松機関区のC5752号機が牽引する筑豊本線の上り旅客列車。三線区間だった中線の跡からの撮影。今じゃできないけど、当時は全く問題なし。バラストの上でなければセーフだったし、一般の人も平然と線路敷を歩いていた。逆光気味のかなりツブれたトーンながら、機関車はワリとそれらしく出ている。ナンバープレートや前照灯の反射はいい感じ。草の表現もまあまあだが、バラストまで緑っぽくしちゃったのは蛇足。今は「軌道緑化」よろしく草ボウボウの線路も多いが、この頃はまだちゃんと手入れされ国鉄ならローカル線でも草は生えていなかった。筑前垣生の垣生公園の脇で71年12月15日の撮影。


こんどは車窓からのカット。桂川駅かな。直方機関区のD6026号機の牽引する下り貨物列車と交換します。これも機関車はいい感じに上がっています。前回もありましたが、磨き出した砲金製の飾り帯はけっこう得意なようです。ナンバープレートも含め、輝いている感じがリアルです。偶然でしょうが、続くワム8もけっこうそれっぽい仕上げになっています。機関車周辺の線路も、珍しく錆色に塗ってきました。空や遠方の山も良い感じです。逆に保線用モーターカーや駅の跨線橋などは苦手と見えて、ハイキーにとばしてきました。それに引っ張られて、手前側の線路もハイキーになってちょっと妙な感じになっています。71年12月15日の撮影。


続いては、ちょっと変わったカット。蒸気機関車そのものではなく、走行中のシルエットを車内から撮ったもの。機関車は直方機関区のD60型式。こういう純粋な風景写真は比較的安定した出来のアウトプットが得られる。とはいえ人工物は苦手なので、「ヒノマルたまご」の看板をモノクロのまま出してしまっている。これはグレースケールからして赤文字だと思われるので、レタッチで赤を入れてやれば済む話。そういう意味では、変な色を付けられてしまうよりは、プロユース的には助かる仕様だ。今では木が生えて「普通の山」になってしまった飯塚のボタ山も、まだそれらしいハゲ山だった頃の貴重な記録でもある。新飯塚付近で71年12月15日の撮影。


D60の牽く上り旅客列車は飯塚駅で降りて、交換する下り旅客列車を牽引するC5752号機を撮影します。これまた半逆光気味でかなりツブれていますが、なんとか色味をだしています。とはいえ、ちょっとウェザリングがキツいのでは。客車のぶどう色2号は得意なところですが、やはり跨線橋は彩度を下げてゴマかしていますね。でもまあ、それらしい感じはでています。C5752号機はこの年の7月に豊岡機関区から転属してきましたが、1年も使われずに翌年3月には廃車になってしまいます。ほとんど豊岡時代の山陰仕様のままで使われていたので、九州には珍しく砂撒管も2本のままです。飯塚駅で71年12月15日の撮影。


この日の最後は日没直前に下り旅客列車を撮影しました。牽引するのは若松機関区のC5552号機。この時期は半年強ですが、若松機関区にC55・C57とも52号機が配属されていたことになります。デフやテンダは例のウェザリングで赤味がかかっているのだとおもいますが、この時は夕日が当たっているので、結果的に感じが出ています。煙も茶色っぽくならず、いい感じの仕上がりでしょう。ランボードの白線が非常に目立っています。これもバラストに草を生やせてしまっていますが、これは間違いですね。普通に錆色に仕上げてくれればいいのですが。信号も色なしなので、これは手修正ですね。飯塚-新飯塚間、71年12月15日撮影。


次の日は日豊本線の夜行で南九州に移動しての撮影です。高鍋-川南間の小丸川橋梁で狙います。まずは南延岡機関区のD51485号機が牽引する下り貨物列車。小倉工場製の九州生え抜きのカマでその生涯のほとんどを南延岡機関区ですごし、今でも保存されています。このカットは若干シャッタームラがあるのですが、それを色合いの違いと思ったのか、不思議なトーンになってしまいました。機関車の感じはいいのですが、水面と空がちょっと妙な感じです。橋梁自体はコンクリート製なので、元のグレートーンでもそんなに違和感はありません。同時に撮影した望遠サブカメラでのカットを<無意味に望遠 その8 -1971年12月16日->で公開しています。71年12月16日撮影。


続いてやってきたのは、宮崎機関区のC5765号機が牽引する下り貨物列車。ほとんど同じ構図での撮影です。というより、ここは河口近くで堤防があり、ほとんど川岸がない状態なので変化がつけられません。晴れて陽射しが出てきたこともあり、これはワリと豊かなトーンで空と川を表現しています。機関車はいい感じですが、コキフ50000とホキ2200に色味がないのは寂しいですね。まあ、ここはポストプロで手作業で色を差すんでしょうね。3輛目のプロパンガス用タンク車は、元がグレーなのでなんとかそれらしく納まっています。これも同時に撮影した望遠サブカメラでのカットを<無意味に望遠 その8 -1971年12月16日->で公開しています。71年12月16日撮影。



(c)2023 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


「記憶の中の鉄道風景」にもどる

はじめにもどる