異業種に学ぶ店作りのコツ

(その1)


1.店舗づくり
・目をつけるポイント
店舗づくりは品揃えとならび、お店からのメッセージを直接お客さまに伝えるための、重要なカギとなっている。すなわち、お店とは「メディア」なのである。したがって、お店からなにを発信するかが、店舗づくりの際第一に考えるべきポイントだ。
このためには、まず「どのようなお店にするのか」というコンセプトを明確に持っていることと、「それをどうカタチにするか」という方法論を具体的にすることが重要である。
当然、異業種に学ぶべきポイントは、この「コンセプトをいかに具体的なカタチにするのか」というところにしぼられる。個々のコンセプトをマネしても、業種が違えば通用しない。しかし、コンセプトを具体化する方法なら、業種とは関係なく有効だからだ。
・学ぶべき内容
店舗づくりの方法論は、大きくわけてハードウェア部分と、ソフトウェア部分にわけられる。ハードウェア部分とは、内装、ユニフォームや小道具、ソフトウェア部分とは、サービスのやり方や演出効果などである。これらのポイントに着目する必要がある。
この場合重要なのは、これらをいかに「らしく」しているかということである。お客さまからみて、コンセプトを伝えるためのツールの一つとしてお店がある。だから、その良し悪しは、お客さまからみてお店がコンセプト「らしい」かということになる。
このカギは二つある。一つは、お客さまのアタマの中にあるステレオタイプをウマく使うこと。もう一つは、店全体としての演出のトータルなバランスを考えることである。
・参考になる異業種の例
たとえば今ではすっかり定着したエスニックレストランの場合を考えてみよう。「エスニックふう大皿料理の居酒屋」という場合には、必ずしもどこかの国の文物にあわせていなくても、あたかも「マンガ」で書いたような「エスニックふう」を演出すればよい。それこそコンセプトがごった煮なのだから、インドでも中国でもベトナムでも、いろいろミックスした中からそれらしい感じを出せばいい。
しかし、たとえば「本格派のタイ料理」を標榜するのなら、こういうごった煮の「エスニックふう」は禁物である。この場合は店づくりも「本格的なタイふう」にするか、あるいはエスニックとはまったく関係ない、本格派レストランとしてのまとまりを感じさせるものにしたほうがいい。このあたりのバランス感覚を、実例から学ぶことが重要だろう。

2.経営哲学
・目をつけるポイント
まさか、なにも考えを持たずに経営しているお店もないと思うが、「哲学」とよべるほど明確な理念をもって経営しているお店も、また少ないというのが現実だろう。地域との共存共栄とか、お客さまへの奉仕とかいったごく当り前の「考えかた」では、経営のスローガンとして精神論的には意味があるのだろうが、実際の経営判断を行なうよりどころとしてはあまりに弱い。経営哲学とは、将来の方針も見据えて、経営判断を行なう際によりどころとなるようなものでなくてはいけないのだ。
だから、誰もが言っているような当り前の哲学なら、ないほうがいい。いかに自分のおかれているポジショニングを客観的にとらえ、それを社員全体で共有するための材料として「経営哲学」を持っているかが重要なのだ。
・学ぶべき内容
あくまでも「経営哲学」は、理念であり考えかたである。これ自体は抽象的なものとならざるをえない。しかし、これが抽象的なままに終ってしまっては、理論のための理論になってしまう。これでは、経営学の「理論」が現実には役にたたないのと同じように、あってもなくても意味がないものになってしまう。
したがって、どのように理念と現実の方針をどう関連づけているかという点が学ぶべきポイントになる。どのような哲学をもち、それをどのように経営判断や戦略づくりの中に活かしてきたか。また、現実の経営からえたノウハウを、どのように経営哲学の中にフィードバックさせて活かすか。このアタりに注目してゆく必要がある。
・参考になる異業種の例
数々の大ヒットを当て、芸能界の台風の目として注目された音楽プロダクションBeing。ここを率いる社長の長戸大幸氏は、独特の経営哲学をもち、これにより現在の地位を築いたといえる。これは、自らのポジションを「ニッチ」と規定し、これを逆手にとって強みとするためのノウハウである。
音楽界は、通好みの「本格的な」音楽と、売れ線の「大衆的な」音楽とがあるが、この両者の関係は「通好みから売れ線に」なることがあっても、その逆の例がない一方通行になっている。そして、売れ線は大手のプロダクションが中心で、中小プロダクションでは通好みの路線しか押えられない。この構造に目をつけ、通好みのミュージシャンに、ちょっとだけ「大衆的な」音楽をやらせることで、ニッチからだんだんとメジャーに進出していったのである。ここで重要なことは、この考えかたを、長戸社長が信念としてもっていたことだ。その結果、いろいろなブームを生みだし、ついには頂点に登りつめたのである。

3.経営スタイル
目をつけるポイント
経営スタイルとは、経営哲学を実際の戦略論に具体化してゆく場合に、基本方針となる考えかたである。すなわち、具体的なストアコンセプトを考えてゆくために、自らの持つ有形無形の経営資源を前提に、どのような基本展開を考えるかということである。
これは、多角化するか専門化か、チェーン化するか一店舗を守るか、といった見極めである。このためには自分の強みを客観的にとらえて、どのような展開がふさわしいかをしる必要がある。これには、店づくり、商品づくりが、基本的にあなたのノウハウだけに依存し、他の人に任せたのでは維持できないものなのかといった内在的な視点と、市場性の大きさやお店の集客力といった外在的な視点の二面性がある。
・学ぶべき内容
なによりも大事なのは、自分のポジショニングを客観的にみつめ、それにあったスタイルをとるということである。自分の実力からして不相応な計画をたてるのも無謀だが、実力を卑下するあまり、せっかくのチャンスをみすみすつぶしてしまうというのも、いかにもつまらないハナシである。これもまたコンセプトのたてかたの問題でもある。
もう一つ重要なのは、自分の個性にあった一貫した経営をすることである。中途半端はいけない。自分に勝機の自信があることなら、一旦やると決めたらどんな困難があっても途中で妥協すべきではない。また、まわりの誘惑に色気を感じても、けっして路線変更すべきではない。このような信念も、学ぶべきポイントとなる。
・参考になる異業種の例
たとえば中華料理店などの場合、基本的に二つの生きかたがある。一つはあくまでも本場の味にコダわるやりかた。もう一つは大衆化して日本人好みの味にするやりかたである。これら二つはどちらでも選べるというものではない。それぞれの店の持つ強みにあわせて、どちらかよりふさわしいほうを選ぶ必要がある。あくまでも料理職人としての腕に自分の強みがあるならば、前者のほうだろう。ビジネスと割り切るなら、当然後者のほうだ。
しかし、これらの方針は同時に店舗展開も規定する。前者の場合には、クオリティーの維持という意味から、一店舗を守り抜くことが必要になる。したがって急速な経営の拡大は望みにくい。いっぽう後者の場合には、多店舗に拡大してゆかなくては意味がないため、それを可能にする資金力や経営基盤がなくてはならない。このように経営スタイルは、独立して存在するものではなく、そのお店の強みと経営コンセプトに密接な関係があるのだ。

4.人づくり
・目をつけるポイント
いまやどんなお店でも、現場の主力となって働くべきヤング層を、いかに戦力かするかが大きな課題になっている。いま20台前半のヒトが生まれたのは、高度成長も終わり日本が安定成長に入った昭和50年前後の時代だ。かれらは、生まれたときから豊かな国に生まれ、もの余りの中で育ってきた世代だ。当然のように、それ以前の世代に通用した精神論を持ち出したり、インセンティブでつろうとしても、簡単には動いてはくれない。
それ以上に問題となるのが、自発的になにかをやろうという意識がかけている点だ。従順なかれらは教えればきちんとこなすが、自分からなにかを発見してこなすというOJTの発想は通じにくい。
こういうかれらに対して、作業のクオリティーアップを図り、参加意識を向上させるには、人づくりのシステムを作り、その中にうまくはめ込む必要があるのだ。
・学ぶべき内容
まず注目すべき点は、作業をいかに「誰でもできるもの」にしているかである。単に作業をマニュアル化したり教育制度を作ったりしても、作業そのものが高度なものであったらかれらはのってこない。作業の組織化やシステム化をまず行ない、非熟練者でもそこそこ作業をこなせるような体制を確立しなくてはついてこないのだ。したがって、この「熟練作業のシステマティックな分解」が重要になる。これがウマくできれば、マニュアル化自体はそれほど難しいことではない。
次に重要なのは参加意識の醸成である。作業が単純化されることは、かれらにとっていいことなのだが、その反面「仕事の充実感」は低くなってしまう。このため、作業の外側に、インセンティブとなるシステムを作り、この代替を図る必要がある。この両者がバランスしてはじめて、大きな効果を発揮するのだ。
・参考になる異業種の例
マニュアル化といわれてまず思い出すのが、東京ディズニーランド、日光江戸村といったテーマパークと、ハンバーガーショップのようなファーストフードだろう。しかし、マニュアルそのものを見たところで、異業種の参考にはならない。重要な点は、いわれた通りやれば、質的に充分な作業ができるような、作業のシステム化なのである。本来ひとりでこなせる作業を、売子、裏方、マネジャーなどがどのように分担しているか、このあたりをいかに読み取るかがカギになる。
また社員をその気にさせる、インセンティブとしての仕組みづくりに関しては、リクルートがはじめた社内の褒賞のイベント化が代表的だろう。団塊の世代あたりからみると意味なくみえるかもしれないが、あれでいてヤング層にはなかなかインパクトがある。また、わかりきったアイディアでも、ヒントを与えて相手にいわせるなど、経営参加意識を高めるための方策も、正社員の場合などには重要になるだろう。

5.商品づくり
・目をつけるポイント
ストアコンセプトを、お客さまの目にみえるように具体化するカギとしては、しょうひづくりは、店づくりとならび重要なものである。コンセプトをいかに商品の中に具体化しているかどうかが、お客さまをお店に呼ぶのである。
もちろん、この場合の商品とは「モノ」に限らない。美容院などのようにサービスそのものが「商品」というお店もあるだろうし、レストランなどのように、モノとサービスを組み合せた商品を提供しているお店もあるだろう。
どちらにしろ、実際にお客さまに提供している「商品」を通して、どのようなカタチで、どのような個性をアピールしているか、その「語り口と表現」が注目すべきポイントだ。
・学ぶべき内容
それらの商品づくりにより、他のお店に対し、どういう個性をアピールし、いかに差別化を図っているかという点を、まず学ぶ必要がある。
レストランのように自分のお店で独自の商品を作っている場合や、独自の企画で作った商品を中心に販売している場合にはこれはわかりやすい。しかし、一般の商店のようにメーカーの既製品を仕入れて販売する場合でも、こういう個性化、差別化は可能である。というより、こういう一般のお店のほうが、ストアコンセプトを打ちだしにくいぶん、アイディアと工夫が必要なのだ。
そして品揃えにより、お客さまに対する付加価値をどう高めているかも重要である。独自の商品づくりは、あくまでもお店のロイアリティーを高めるためのものだからだ。話題になっているお店なら、かならず光る個性がある。ひとりの生活者として、街の中を歩くときにも、これらのポイントを見抜くようにしよう。
・参考になる異業種の例
たとえば、渋谷、三軒茶屋などで居酒屋「祭ばやし」チェーンを経営する東邦興産は、20年近く前から吟醸酒専門の居酒屋を展開している。吟醸酒そのものは、もちろんそれ以前からあり、酒通の間ではしる人ぞしる存在であったが、いかんせん醸造元までいかなくては入手できない「幻の酒」であり、東京では、ほとんど手にいれることも難しかった。
これを全国の造り酒屋から集めるチャンネルを作ることで、この「幻の酒」を飲むことができる居酒屋を作ることが可能になった。これは、当時としては大きな付加価値であり、これがその後の吟醸酒ブームの火つけ役となったことはいうまでもない。
また、品揃えということでは、最近の秋葉原のセールスポイントの変化もみのがせないだろう。かつては秋葉原といえば「安さ」が売物であったが、いまでは「安さ」だけならディスカウンターのほうが有利である。しかし、秋葉原は生き残っている。これは、そのスケールメリットを活かし、パソコン等、専門的商品の「品揃えの豊富さ」をアピールするようになったからに他ならない。





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