異業種に学ぶ店作りのコツ

(その2)


6.接客サービス
・目をつけるポイント
ひとことで「接客サービス」とはいっても、当然のことながら、どんな場合でも同じようにいたれりつくせりの対応がよいというワケではない。接客サービスのどの面をアピールしようとしているのか、メリハリがついていることがなによりも重要だ。
サービスを欲してない人、サービスの価値がわからない人に対してなにをやったところで、コストがかかるだけ、うっとうしがられるだけで、なんらメリットはない。逆に、いろいろフォローしてあげてはじめてお客さまになっていただけるような、心からサービスを欲している人なら、コストを払ってもサービスを必要としている。
お客さまは、今や完全に二層分化してる。だから、中途半端な接客サービスでは、どちらからも評価されない。やるならば、徹底して顧客サービスを排した「セルフサービス」か、かゆいところを先回りしてかいてあげるようなハイコストの「付加価値サービス」かどちらかにすべきである。
・学ぶべき内容
接客サービスといっても、その最終的な目的は、あくまでもあなたのお店を他のお店と「差別化」し、ロイヤリティーの高いお客さまを増やすことにある。この視点を忘れて、いろいろなサービスそのものを学ぼうとしても意味がない。
そのサービスを提供することでどこを個性化しているのか、どういうメリットをお客さまに提供しようとしているのか。こういう問題意識が、どう接客サービスの中に活かされているかを見抜く必要がある。大事なのは、人と違うことだからだ。
もちろん、サービスがいいこと「だけ」が大事なわけではないのはいうまでもない。これでもかこれでもかとフルコースで接客サービスにつくせば、もちろん喜んでくれるお客さまはいる。しかし、コスト割れしてしまったのでは意味がない。お店に来てくれるお客さまのどの層をターゲットとし、そこにしぼったサービスをどう工夫しているか、ここも、お客さまの立場になって学ぶべき重要なポイントだろう。
・参考になる異業種の例
まず、一切の接客サービスを排したお店としては、セルフサービスが基本のディスカウンターが代表的だろう。鳴り物入りの進出でマスコミの話題を呼んだ「トイザらス」など、そのアメリカ流のセルフサービス商法が一つの「見せ場」にもなっている。また、価格破壊が売り物の郊外型ディスカウンターでは、あえて店員が愛想を見せないことが、いかにも「安い」というイメージにつながっている。
このようなお店にくるお客さまは、安さを求めているからこそ、不要なコストにつながる「接客サービス」を拒絶するのだ。この対極にあるのが「高級クラブ」だろう。束の間のときを極上の「接客サービス」を味わってすごしたいからこそ、高いお金を出してもやってくる紳士がいるのである。世の中の傾向としては、「接客サービス」は有償という気風が強まっている。したがって、「接客サービス」自体をいかにビジネス化するかという視点も忘れないようにすべきだろう。

7.接客テクニック
・目をつけるポイント
経済のソフト化・サービス化が進む現在では、「接客テクニック」とはいうまでもなく「売りのテクニック」のコトではない。そんなものがいくらあってもダマされないほど、お客さまのレベルは高くなっているのが今日の世の中だ。いまや、接客テクニックで第一に必要とされるのは、お客さまへの信頼関係をどう築くかということなのである。
このためには、「売り」だけから考えるとムダと思えることも多いと思う。しかし、すぐに金になることを考えないのが接客の秘訣なのだ。自分とお客さまとの間でいかに信頼関係を作り、お店にくることを「楽しいこと」にしてゆくか。
長い目でみるならば、こういうグッドサイクルをお客さまとお店の間に作り上げることこそが、なによりもお店の差別化になるし、けっきょくは売り上げにもプラスになるのだ。
・学ぶべき内容
お客さまの信頼を勝ち取る第一のカギは、プロとしてのカウンセリングとニーズ発見機能を持つことである。すなわち、「これを売りたいから」というのではなく、親身になってお客さまのかかえている問題を解決するような「場」を作ることである。特別に買うものとか、用事とかあるわけではないのだが、なぜか来たくなる雰囲気づくりが重要である。もちろん、コスト割れしてまでサービスする必要はない。これは、店長やオーナーであるあなたの人柄を、お店を通してどうアピールするかという問題なのだ。
あなたも一歩街にでれば、いろいろなお店で「お客さま」になっているはずだ。応対が気持ちいいと感じた店や、またあの人にあってみたいなと感じさせた店はどこにでもあるだろう。このような、ファンづくり、常連づくりのカギになるのが、お客さまへの接しかたなのだ。
参考になる異業種の例
かつて、広告会社が媒体の代理店で、新聞などのスペースを売り歩くビジネスが中心だった頃は、広告会社の「営業」といえば、いかに広告枠を売り付けるか、という「押し込み」が中心であった。この時代においては、広告会社は新聞などの媒体社のことしか考えず、「広告主をだましてでも、いかに売り上げをあげるか」というのがモチベーションとなっていた。当時は売り手市場だったこともあり、まさにこの「押売り」こそ求められる販売テクニックだった。
しかし、高度成長期ごろを境に、広告会社にもとめられるものは、媒体の代理店から、広告主のための広告会社に変化してきた。すなわち、広告主と運命共同体となって、広告主のために最良の広告キャンペーンを企画・立案する役割である。これとともに、広告会社の得意先担当責任者であるAE(アカウント・エクゼクティブ)に求められるものは、いかに広告主から「人格的信頼」を得られるかにかわってきた。
広告業界では、一流のAEと呼ばれるには、ウマいキャンペーンを作るコトよりも、キャンペーンが失敗したときに「あの人がアレだけやってくれたのに、ウマくいかなかったのだからしかたない」と感じてもらえるほど信頼関係を確立している必要がある。
これからのサービス化社会では、いっぱんのお店とお客さまの関係でも同様のコトが求められるようになるのではないだろうか。

8.商圏の把握・分析
・目をつけるポイント
いまや、純然たるコミュニティーベースのお店では経営が難しくなっている。話題になっているお店、お客さまが集まっているお店は、その立地こそ旧来の商店街の中にあったとしても、物理的な立地を越えた広い商圏をもち、幅広い顧客層を獲得しているのだ。このためには、お客さまがどこから来ているのか、実体を正しくつかむともに、それに合わせたコミュニケーション戦略や顧客戦略をとる必要がある。
もちろん、どんな場合でも地元のお客さまの動向は重要である。しかし、それだけでは経営が成り立たない。これは競合店でも同じコトだ。競合店の出店状況とあわせ、お客さまの動きをどう動的に把握しているかをつかまえることがポイントになる。
・学ぶべき内容
このような商圏の把握のためには、なによりもまず顧客情報の収集がスタートになる。まず学ぶべきポイントといえば、この顧客情報の集めかたと、そのデータをどう経営に活かすかである。顧客カードや、顧客名簿といった顧客データ収集のツールはもちろん、あなたのお店に必要な情報となる項目にはどんなものがあるか、参考にすべきだろう。
話題になっているお店にいってみて、「お客さま名簿」などに名前と住所を書き込む際などに、どのくらいのエリアから顧客を集めているか、数ページめくって確かめてみるのもいいだろう。びっくりするくらい広い範囲から、お客さまを集めていることに気づくはずだ。この場合重要になるのは、ベースになっているお客さまと、特異点を見分けることである。
東京のお店でも、顧客名簿には千葉、埼玉、神奈川といった関東近県の地名がならぶことが多い。しかし、この分析で重要なのは、このお客さまたちにどういう共通点があるかだ。どのお客さまも、わざわざ足を運んでいるのか、あるいは単に勤め先が近所にあるのでよく来店するというだけなのか、ここが見分けられる情報でなくては、商圏の分析には意味がない。流れを捕まえることと、わざわざお客さまを呼んでくることは、根本的に異なる戦略だ。そして、これを見極めるのが商圏の把握なのだ。
・参考になる異業種の例
いまや、商圏は一軒のお店だけではとらえられなくなっている。その例を取り上げてみよう。世田谷区の三軒茶屋や下北沢の周辺には、プロ向けの高級輸入楽器を取り扱う楽器店が多い。もちろん、地価の高騰を避けてバブル期に音楽スタジオが都心から環七の外側に移ってきたとか、プロのミュージシャンが世田谷、目黒周辺に多く住んでいるとか、そもそもの理由はあったのだろうが、今では「集積効果」のほうが大きくなっている。
すなわち、専門店的なものであればあるほど、近くにたくさんかたまっているほうが、全体としての集客力も大きくなり、結果としてお客さまからすれば「あのあたりにいけば何とかなるだろう」と感じさせるからである。
古くは秋葉原の電気街や神田の古本屋もそうだし、この10年ぐらいでは、駿河台のスポーツ用品や新宿のディスカウンターもそうである。新宿のディスカウンターといえども、20年前はバッタ屋同然の「ヨドバシカメラ」が、一部のマニア相手に販売していただけなのだ。こういうチャンスを逃さないためにも、商圏の動的な把握は重要なのである。

9.セールスポイント
・目をつけるポイント
'90年代は多様化の時代といわれている。かつてのように、「一世を風靡する」大ヒットはもう出ないのだろうが、決して悪いことばかりではない。多様化の時代は、個性化の時代でもある。十人十色。独特のオリジナリティーを持っていて、その個性さえはっきりしているならば、どこかに支持してくれる人がいるということである。
お店に置き換えて考えてみれば、オリジナリティーがあって個性的な店なら、大繁盛とはいかなくても、しっかりと支持してくれる「お得意さん」がついてくれるということだ。
ここで重要なのは、この個性とは、万人受けするものでなくてもいいということなのだ。大ヒットのためにはデメリットになってしまうような変わった点こそ、個性化のためにはメリットになる。これには考えかたを切り替えるしたたかさが必要になる。
すなわち、自分としては決して売物だと思っていなくても、お客さまからみると「気に入っている」点をいちはやくつかみ、それをストアコンセプトへのフィードバックさせる。つまり、セールスポイントになりそうなものは、コンセプトを変えても個性として取り入れアピールする必要があるのだ。
・学ぶべき内容
たとえば、ヤング層からみると、昔からずっと一筋でやっているような、せまい店、キタない店、フルい店、といったお店をみると、決してネガティブなものを感じることはなく、「コダわりのある渋い店」というイメージがある。かつてはどこにでもあったような、単なるボロい店でも、それが個性になり、味わいに活かせる時代なのだ。
ここでもっとも重要なのは、「お客さまの見方は、お店サイドの見方とは一致しないほうが多い」ということである。自分のおもいいれにコダわりすぎると、せっかくの自分の強みである「個性」がみえてこない。「改装する前のほうがよかったのに」などといわれるような店になってはおしまいである。
このためには、なによりも先入観なしで、お客さまの声をよく聞くコトが必要だ。セールスポイントについては、なによりもお客さまが先生なのだ。
・参考になる異業種の例
横浜の中華街でウケる通っぽい店というのは、だいたい裏道にあって、一見すると街のラーメン屋みたいな作りで見た目はあまりさえない。そこで、家族だけで秘伝の味を守りながらやっている。こんなイメージが強い。
もちろん、立派な店構えや、トレンディーなインテリアの店にも通ウケするだけのクオリティーを持ったお店はいくらでもある。しかし、蘊蓄をかたむけられそうな気配が、その気にさせるのである。セールスポイントとは、こんなちょっとしたアイディアでいくらでも作れるのだ。
屋台風居酒屋のヒットも、こんなところに秘密があるのかもしれない。別にキタないところ、せまいところがいいというワケでもないのだが、せまかろうが、キタなかろうが、それを個性として売れるだけの「中身」と「ストーリー」を作ってしまえば勝ち、ということなのだ。

10.店の強みの強化のしかた
・目をつけるポイント
日本人の常として、イザ景気が悪くなるといろいろ対策を考えるが、ウマくいっているときは、ついつい景気に流されてしまいがちになるものだ。しかし、それでは手遅れになることが多い。ウマくいっているときこそ、次の手を考えるべきだ。このためには、お店の持っている「強み」を正しくつかまえ、それをさらに強化してゆく必要がある。
お店の持っている「強み」とは、お客さまがお店によいイメージや魅力を感じているポイントのコトである。しかし、お客さまのイメージはいつもかわるものなのだ。時流によっても変わるし、他のお店との相対的な関係によっても変わってしまう。
したがって、いかにお客さまの気持ちを受信するかと同時に、いかにその変化を常にリアルタイムでつかまえるかも重要になる。いつでも正しい認識ができていることが大切なのだ。
・学ぶべき内容
強みに限らず、ストアコンセプトにしても、店づくり、商品づくりにしても、お客さまの気持ちをつかんでいることはビジネスの原点である。しかし、こと強みに関しては、まず本当の強みを知ることが大事になる。お客さまが思っているお店の魅力は、店長やオーナーの思っているものとは違うことが多く、先入観をもってお客さまを見てしまったのでは、なかなか正しくつかまえることができない。
したがって、どれだけ自分の思いいれを捨てて、客観的に情報を読み取るかが重要になる。このためには、実際のお客さまと接するだけでなく、ターゲットとなっている層が、なにに関心をもち、どういう行動様式をしているかまで含めて、広く研究する必要がある。
また、差別化のためには、同業他社や販社の声を聞くことも大事である。研究会や交流会、各社の営業マンなど、使える機会を充分に活かして情報武装することが必要なのだ。
・参考になる異業種の例
急成長したお店は、最初から同じコンセプトで押して成功したということは少ない。お客さまからみた「強み」を次々と先取りし、それを時流に合わせて次々とストアコンセプトや業態を変えることで、お店の個性とできたからこそ、成功したのである。
その急成長とともに、いまや秋葉原のOA市場でもリーダー的存在となった、総合OAショップ「ソフマップ」の足跡は、ニーズを先取りした多角化の歴史でもある。
最初は、ゲームソフトなどのレンタルパソコンソフトとしてスタートしたソフマップだが、パソコンソフトのレンタルが違法とされるや、中古ソフトの販売にシフトした。この時期はちょうどパソコンが8ビットから16ビットに高機能化する時期でもあり、ハードについても、新規顧客中心から、買い換え顧客が増加する時期でもあった。
この時期をとらえ、外部の資本を導入して資金力をつけるとともに、中古パソコンの下取り販売に進出した。中古パソコンショップはこれ以前からもあったが、時期が早かったこともあり、あまり成功しなかった。しかし、ソフマップはタイミングよく市場の拡大期をとらえたため、大成功した。これを、新品パソコンのディスカウント販売と組み合せることで、たちまち秋葉原でも随一の総合OAショップへ成長したのであった。
この一連の流れをパソコンマニアから見ると、マニア中心→テイクオフ→OAブームという市場の構造変化をみごとに先取りしていることがわかる。このように時流をつかまえてはじめて、10数年で秋葉原で20以上の店舗をかまえるに至ることができたのだ。




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