異業種に学ぶ店作りのコツ

(その3)


11.経営環境の変化への対応
・目をつけるポイント
経営方針の転換とか、業態の開発とか、ビジネス上の方針の転換を考えるのは、えてして問題がおきてからということが多い。そもそも順調にいっている間は、稼ぐのに忙しくて、先のことなど考えているヒマなどない、ということになりがちだ。また、いいときほど、この調子よさがいつまでも続くという甘い考えに陥りがちなので、次はどうしようかなどどいう発想も生まれにくいだろう。
しかし、経営方針の転換は良いときこそ先取りしてやる必要がある。というより、悪くなってから手をつけたのでは遅いのである。時間的にも、資金的にも、企業体力があるときでないとできないことなのだ。すなわち、経営環境の変化への対応は、あくまでも先手先手といかなくてはいけないのだ。
このためには、目先の利益や短期的な経営目標だけにとらわれることのない「大局観」を持つ必要がある。いい時期こそ、考えるべきとき、行動すべきときなのだ。
・学ぶべき内容
経営環境の変化への対応が優れた企業は、なによりも、経営上の着眼点が優れているものだ。そもそも状況の把握や読みがまずくては、どんなに優れた判断力を持っている経営者でも、正しい指針を出せるわけでがない。このためには、常に現状に甘んじることなく、自社のおかれているポジションを客観的に把握することができるバランス感覚ある視点が求められる。したがって、いかにこの先見性とバランス感覚を磨いているかが、学ぶべき第一のポイントである。
さて、状況の把握なら学者や評論家でもできるが、それを実際の経営に落しこむ行動力は、経営者ならではのものだ。ここで重要になるのは、判断のタイミングと思いきりである。タイミングが遅れるのはもちろん問題だが、早すぎても現在のビジネスチャンスをつぶすことになる。先取りして行動すべきタイミングとは、意外と狭い範囲しかない。そして、今こそやるべきだと思ったら、それを実行する行動力も重要だ。
このためには、コンセンサスを作れるだけの人望と、まわりをひっぱってゆけるリーダーシップが重要になる。不安があっても、あなたがやることなら何とかなるだろう。こう社員に思わせてはじめて、企業は方向転換ができるのだ。
・参考になる異業種の例
宅急便でおなじみのヤマト運輸は、かつては三越の商品の配達を中心としていた東京ローカルの運送会社であった。この時点でも、中堅どころとしてそこそこ安定した経営基盤をもっていた。しかし、百貨店の商品配送は市場的な限界があるとともに、将来的な見通しも暗かった。このため、小倉会長は宅急便への進出を決めた。
この時点では、百貨店の配送業務は充分順調だった。それに引き換え、宅配便はまだ誰も進出していない未知のビジネスで、リスクも大きかった。しかし小倉氏は、ここで宅急便に進出しない限りヤマト運輸の将来はないし、進出するなら今のタイミングしかないと判断した。すなわち、進出には莫大な資金が必要なため、経営状態のいい今でなくてはできないことを見抜いていたのだ。
そして、多くの反対を押しきり、商品配達から撤退するとともに、宅急便に進出した。その結果は、もちろん誰もが知っている通りである。これはまさに小倉氏の判断力と行動力の賜物である。このように、経営方針の転換の成功には、トップの経営者としての資質が問われるのである。

12.経営の複合化
・目をつけるポイント
経営が悪くなると、すぐ新しいことに手を出したがる人がいる。「となりの芝生は」というヤツで、とかく自分の景気が悪くなると、まわりがよくみえるらしい。しかし、これでウマくいくわけがない。景気が悪くなったのには、それなりの理由がある。そこを直さずして、他のことに手を広げても、悪循環にハマるのがオチだ。
経営の複合化とは、なにも新しいことに手を出すことではない。複合化がウマくいくためのカギは、まさにその逆である。本業の基盤をより確固たるものとし、そこをベースに「本業を広げる」発想をもってはじめて、多角化は成功するのだ。
このためには、それぞれのビジネスが、相互にビジネスチャンスを広げあう「シナジー効果」の重視がもっとも大切だ。このようなグッドサイクルを作れないような分野や、いままでの自分のノウハウや強みが生きない分野には、むやみに事業は広げないほうがいい。
やってウマくいく事業とは、なによりも進出する必然性が明確なものである。どうしてその事業に進出するのか、その必要性を重視して判断すべきだろう。
・学ぶべき内容
複合化の事例を研究する際にカギとなるのは、その事業のどこに「進出する必然性」があり、どんな「シナジー効果」を生み出しているかということである。すなわち、「本業」で持っていたノウハウや強みが、どのようなカタチで、どこに活かされているのか。また、新たな事業から、どんなメリットが本業のほうにフィードバックされているのか。このあたりの構造をしっかりと捕まえることが必要だ。
また、「複合化したほうがいい」と判断するに至った経緯も考える必要がある。基本的には「複合化」「多角化」といった展開は、どんな場合でも意味があるものではない。それだけの経営資産があれば、本業そのものに投下したほうがずっと意味がある場合のほうが多いのだ。したがって、背に腹は変えられない事情まで読み取らなくてはいけない。
その上で、自分のお店の複合化を考える場合には、現在自分がもっといる強みにはどんなものがあるかキッチリとつかんでいる必要があることはいうまでもない。
・参考になる異業種の例
本業とのシナジー効果が期待できる強みには、いろいろなものがある。たとえば、スペースから発想するなら、本業では余っているスペースを使って、コーヒーショップをやったり、小物の販売をやったりということが考えられる。
仕入から発想するなら、すでに取引のある仕入先の扱い商品の中で、自分の店にくるお客さまに売れそうな品物があれば、いままで扱っていなかったジャンルも扱うことが考えられる。同じく客筋から発想して、たとえば高校生のお客さまが多い店なら、ファンシーグッズとか、お店へのストアロイアリティーをウマく利用できるような商品扱うやりかたもある。
このように、自分の持っているアドバンテージを活かす方法はいくらでも参考例をみつけることができると思うが、あくまでも「なぜやるのか」という意味づけを念頭におく必要があるのはいうまでもない。

13.広告宣伝のやりかた
・目をつけるポイント
広告・宣伝は、店舗や商品とならんで、ストアコンセプトをお客さまに伝える重要なツールである。ともするとプロモーション型の広告では、お店の側からすると商品や値段の告知にばかり関心が集中し、お店のイメージを伝えるという面はおろそかになりがちである。しかし、お客さまはあくまでも冷静にみつめている。
安さだけが取柄というお店であれば、確かに商品や値段の訴求だけでいいような気もする。だが、あまりに金をかけずに貧相な広告をやってしまうと、今度は「何か問題があるから安いのじゃないか」というような、「なんかウサンくさい店」というイメージが生まれてしまうこともある。
広告では、送り手の側が意図した以上の情報が相手に伝わるものである。このノウハウをつかむためには、ひとりの生活者の視点に戻って、いろいろなお店の広告を見ることが必要だ。
・学ぶべき内容
広告する上での第一のカギは、「売りの訴求ととイメージ訴求のバランス」である。お店の広告である以上、純粋にイメージ広告というモノはありえない。商品の広告をやりながら、その中からいかにイメージ訴求をやってゆくかが重要なのだ。これは、ちょうど商品のディスプレーや演出が、店づくりにつながり、ストアコンセプトを伝える上で大きな役割があるのとよくにている。
次に重要なのは、イメージ訴求のためには、商品に密着した使いかたの提案がカギになる点だ。提案型のパブリシティーを重視する必要がある。このためには、コミュニティーペーパーをウマく使ったり、お客さま向けの小冊子を作ったりという「広報」的な発想を持たなくてはいけない。
また忘れがちなのは、ちらしなどお店の提供するコミュニティー広告も、お客さまの目に触れるときには、テレビや新聞にのっているマス広告と同列で見られる点である。金をかければいいということではないが、安くてもセンスを感じさせるモノでなくては、お客さまの目を惹くことができないのだ。
・参考になる異業種の例
お店にとってもっとも参考になるのは、やはり大型店の広告展開だろう。大型店の場合は、一般のお店と同じようなコミュニティー広告だけでなく、マス媒体を使った広告も展開するほど予算があるだけに、流通にとって、お客さまとのコミュニケーションの理想を示してくれる。
たとえば百貨店では、玉川高島屋のちらしは、具体的な商品を取り上げつつ、季節感あふれる地域情報を織り込んだ生活提案型の内容になっていて評判がいい。また、東急ハンズのちらしは、基本的には商品カタログではあるが、提案しているテーマが明確であるとともに、そこにならべている商品がヒト味違っていてセンスがよく、ちらし自体がイメージ訴求になっている。
広告づくりはアイディアとセンス次第だ。どんな業種の広告でも、その気持ちをもって研究すれば、必ず成果があるはずだ。

14.ストアコンセプト
・目をつけるポイント
ストアコンセプトの必要性については、いまさらいうまでもないだろう。しかし、誤解を招きやすいのは、その中身についてである。ストアコンセプトに重きをおくヒトほど、ともすると、突飛なもの、目立つものでなければコンセプトとして意味がないと思いがちである。しかし、コンセプトというものはそういうモノではない。
目立つだけのものをいくらよせ集めても、そこにはコンセプトはない。逆に、そのお店の店がまえにしろ、品揃えにしろ、サービスにしろ、あらゆるモノを通して終始一貫した「筋」が通っているかがカギなのだ。この奥に流れる考えかたを見抜く必要がある。
また、時流にあわせることと目新しさの違いにも目を向ける必要がある。時流にのってしまっては、実はもう新しいものではない。店のイメージを固めるのに時間がかかることを考慮すると、コンセプトにはあくまでも目新しい要素を持っている必要がある。しかし、目新しいと思って取り入れたものはすでに「時流」になっていることも多い。このあたりの「時代感覚」を養うことも、流通業に携わるものとしては必要だろう。
・学ぶべき内容
まず学ぶべきことは、ストアコンセプトを元に、お店全体でいかにトータルなバランスをとっているかという点だ。実現できないようなコンセプトをたてて、中途半端になってしまっては意味がない。したがって、実際の経営資源の中で実現可能なコンセプトかどうか念頭においておかないと、単なるアイディア倒れに終ってしまうことになる。
また、時流の半歩から一歩先を読むことも大切だ。世の中には一歩半ぐらい先にいかないとウケないお店もある。こういうところを重点的にウォッチングしておけば、ウマい具合に時流の先取りが可能な場合も多い。しかしこの場合も、そのまま外見だけをマネしたのでは意味がなく、自分のお店に活かせるエッセンスはどこであり、自分流にアレンジしてから取り入れなくてはいけないことはいうまでもない。
・参考になる異業種の例
外面的な意味で、もっともストアコンセプトに敏感なのが、クラブ、カラオケボックスといった「トレンディースポット」業界であろう。これらの業界は、存在自体がトレンディーなのではなく、常に新しいアイディアを取り入れ、それを提案してゆくからこそ、話題性がある。したがって、一定時期ごとにコンセプトの見直しを行ない、リフレッシュする必要がある。これを怠ると、たちまち客足は去ってしまう。
とはいうものの、内装や調度など、コンセプトの見直しのたびにすべて作り替えていたのでは、バブルの時期ならいざ知らず、ビジネスとしてやっていけない。このため、全面的なリフレッシュではなく、部分的な+αで、大きくコンセプトを変えているのである。いつ頃、なにがはやったか。なにがアウトオブデートになったのか。それとともにどこがどう変わったのか。このあたりに敏感になる必要があるだろう。

15.ショップリニューアル
・目をつけるポイント
お店は生物である。どんなにがんばっても、いつかは古くなり新鮮さが失われる。全国津々裏々で、新しい競合店は次々と生まれている。これもまたあなたのお店の鮮度を損ねる。お客さま浮気なものである。目新しいものにはとても敏感だ。そこで行なわれるのがお店のリニューアルである。
すなわち、リニューアルの裏には、必ず「鮮度が失われたところ」があるのである。ここを見抜かずに、いくら事例を研究しても意味がない。なんのためにリニューアルをやるのか。目的があってはじめてリニューアルするものなのだ。
またそのためにはなにが必要かをしることも重要だ。リニューアルは、外面的なモノだけではない。目的によっては、お店の内外装や品揃えには手をつけなくてよい場合もある。すなわち、店員の教育システムや、顧客管理のシステムといった「ソフト面」に問題点がある場合は、そういうお客さまからは直接みえない部分をリニューアルするだけで効果が上がる場合もある。
・学ぶべき内容
まずなによりリニューアルの目的を見抜く必要がある。ついつい表面的にどう変わったかというところに関心が向きがちになるのはやまやまだが、極端なことをいってしまえば、具体的な方策は時流とお客さまのニーズさえわかっていればいくらでも考えることができる。それより実例でしかわからないのは、どういうボトルネックを解消するために、どこに手をいれたのかということである。
どこをどう変えたのか。それは、部分的なリニューアルか、抜本的なリニューアルか。そこから読み取るべきものは、リニューアルの意図だ。これは明確になれば、アピールすべきポイントをどこにおくかとか、目的、方法別のリニューアルのやりかたとかいったことも見えてくる。
そして、自分のお店のかかえている現状の問題点はどこにあるのか、客観的な分析を行なえば、なにを改善すればよいのかは、おのずと浮かび上がってくる。
・参考になる異業種の例
コンビニエンスストアは、その性格上店同士の差別化がとても難しい業種である。さらに、出店に際しても各チェーンとも同じような顧客の動態分析から立地戦略をたてているので、似たような地域に固まりやすく、競合状況が厳しい。
このため、コンビニエンスストアチェーンは、定期的なCI変更を行ない、イメージアップと差別化を図っている。このようなCI変更に際しては、インテリア・エクステリアのリニューアルや、ファーストフード新メニューを中心とした新商品の導入、新サービスの導入を行なっている。
もちろん、その手法自体は一般のお店にとってはあまり参考にはならないだろうが、それらのリニューアルを行なった意図がどんなモノであり、採用した戦略がどういうものであったかは、目につきやすく、わかりやすいものであるだけに研究しやすいものであろう。



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