ゲームミュージックのための

MMLプログラミング入門

(その4)



・いよいよMUSIC LALFが発売になった
10月4日に、待望のMUSIC LALFが発売になった。もうきみは買ってくれたかな。いままでは、話だけ聞いても現物に手が届かなかったので、なんか、かゆい背中を服の上から掻くようなもどかしい感じがしていたヒトも、これで、実際に音を出して試すことができるようになった。まだ手元にないヒトは、さっそくなじみのパソコンショップへ行って注文しよう。さて、この講座も、いよいよ第4回だ。これまでの3回は、どちらかというと基本的なコマンドの説明やその使い方が中心だった。けれど今回からは、製品も発売されたので具体例を中心に、実際にMUSIC LALFを使って音楽をプログラムするためのテクニックを解説していきたいと思う。
さっそく、余談になってしまうけれど、読者の皆さんはこの記事、年末も押し迫ってきて、街角にはジングルベルも流れてきてクリスマス気分も高まった頃に読んでいるのだろうが、実はこの原稿は、年末進行がはじまったので(年末年始は、印刷屋さんや本屋さんが休みなので、雑誌は早めに作ってしまうのだ)10月の半ばに書いている。巷の話題は日本シリーズだったりする。今月号はまだいいけど、次の新年号は11月のなかばに書かなくちゃいけないワケで、この季節感のズレはなかなかツラいものがあったりするのでありました。
おっといけない。本題に戻そう。今回は、MUSIC LALFのディスクに収められたデモ用の曲データの中から、古代先生の作ったデータを取り上げ、そこで使われているワザを分析しよう。古代先生の曲は、全部で5曲収められている。
PC-9801用のディスクには、「SAMPL2」「SAMPL3」「OJYO1」「OJYO2」の4曲が、PC-8801用のディスクには、「SAMPL1」「SAMPL2」「SAMPL3」の3曲が、それぞれ収められている。どちらにも入っている「SAMPL2」「SAMPL3」の2曲は、まったく共通のデータだ。したがって全部で5曲というワケだ。この中から「SAMPL2.MLF」を題材として取り上げてみよう。
「SAMPL2.MLF」のソースファイルは、リストのようになっている。MUSIC LALFの製品版に収められているファイルは、PC-8801でも使う関係上、データを小さくするため若干読みにくいところがあるので、このリストでは多少整理して読みやすくしてあるが、基本的には同じソースファイルだ。さて、製品をもっているヒトはここで一度演奏してどんな曲か聞いてみよう。

・どアタマはベースが聞かせどころ
さて、この曲は大きくわけて、ループがかかるまでの「イントロ」と、ループでくりかえされる「テーマ」の2つの部分から構成されている。リストでいうと上の3段がイントロで、下の5段半がテーマだ。テーマに入ると、ゲームミュージックではおなじみの、ディジタルなフィーリングを活かした内蔵音源を使った曲らしい展開になるが、イントロはどちらかというと、生のバンド演奏のような、リアルなノリが特徴になっている。これを支えているのが、AとCとFM音源を2チャンネルを使った、チョッパーベースのシミュレーションだ。
ちょっと専門的になるけれど、チョッパーベースの奏法には、弦をはじく右手の使い方の違いから、大きくわけて2つの奏法がある。一つは親指を弦に叩きつける「サミング」、もう一つは人指し指に弦をひっかけて弾きあげる「プル」だ。「サミング」は、弦を叩くだけに、太い重低音と同時に、バスドラムのような強いアタックが特徴で、ベースパターンの基本になる。「プル」は、逆に低音は出ないが、金属質の堅い音が特徴で、ベースパターンのアクセントになる。このまったく音質の違う両者を組み合わせて、16ビートのベースラインを作るわけだ。それだけに、シンセなどでシミュレートするのはとてもむづかしい。ここでは、基本的な「サミング」の基本的なサウンドをチャンネルAで、「プル」と「サミング」のアクセントのサウンドをチャンネルCで作ることで、この作りにくいサウンドをシミュレートしている。
また、チョッパーベースは、音符ごとのダイナミクスが強烈で、大きい音と、小さい音のメリハリが大きく、これが「ノリ」を生み出している点が特徴になっている。これについては、ヴォリュームの相対指定、絶対指定を組み合わせ、一音一音音符ごとに音の強弱をつけ、リアルなノリを作り出している。また、「q」コマンドで、AチャンネルとCチャンネルのゲートタイムを変えている点も見のがせないだろう。
この部分では、FM音源のBチャンネルで出しているドラムのパートも、4分音符でのハイハットのきざみがバスドラのきざみになり、そこからおもむろにリズムパターンに入ってくるという、この手のファンキーなイントロの常道を押えている。リアルなノリを出したいときにはこういう風にバンドアレンジの「常道」を押えるというのも、とても重要になってくる。
さて、ベースソロの最後に入ってくる軽いオブリガートは、なにげなく聞いてしまうが、デチューンユニゾンとハーモナイズをウマく使い、あまりSSG音源というコトを感じさせないサウンドに仕上げてある。このあたりのテクニックは、SSG音源を活用する基本テクニックの一つなので、よく研究してみてほしい。そういう場合には"J"コマンドや"!"コマンドなど、デバッグ用のコマンドをウマく使えば、必要なパート、必要なチャンネルだけを取り出して聞くことができる。

・バンドっぽいイントロのアレンジ
さて、2段目に入ると、Cチャンネルがメロディーに変わると共に、今度はぐっとプログレッシブ・ロックを思わせる曲想になる。このような、ベース、ドラム、メロディーというFM音源3チャンネルの使い方は、この手のリズミックなゲームミュージックでは常道ともいえるものだ。この場合、単調になってしまうのを防ぐカギはSSG音源の活用にある。
ここでは、まずFチャンネルをメロディーの補強に使っている。このような場合には、なるべく似たような音色にした上で、デチューンをかけて「コーラス効果」で使うか、休符を入れて少しタイミングをずらした「エコー効果」で使うかどちらかがよく使われるというのは、先月号に書いたよね。この曲では、エコー効果が使われている。CとFの両チャンネルを比べると、Fのアタマにr8が入っているののに気づくと思う。これで、エコー効果を作っているわけだ。
一方、DとEの両チャンネルは、完全に伴奏の和音パートとなっている。多分、ギターパートをイメージしたアレンジだろう。しかし、SSGだけの和音だと、ちょっと寂しい感じもしてしまう。そこでこのパートは、Aチャンネルのベースのパートとシンクロさせ、各拍のアタマのタイミングがあうようにして、ベースのサウンドを厚くし、かつ伴奏にもなるように工夫されている。ベースのパートで、ところどころに8分音符が入っているのはこのためだ。
もともと、ベースとギターがユニゾンするように同じリズムをきざむことで、そのサウンドを一体化させて厚い伴奏パートを作り出すというのは、ロックバンドの基本奏法だ。だから、ベースを中心に、ギターのパート(しばしば、コードのルート(ベースが奏いている音と同じ)とその5度上の音のシンプルな和音を使う)をユニゾンさせる奏法は、そのまま、FM音源で作ったベースのサウンドの上に、SSGで作ったギターパートをかぶせる、という方法でゲームミュージックでも、基本的なアレンジになっている。
さて、3段目は、いよいよテーマにつなぐための「キメ」のパートだ。音楽用語では「バンプ」というのだけれど、こういうバンド全員で同じメロディーを演奏するキメは、少し前のフュージョン全盛の頃には、とても流行したものだ。ここでは、2段目の手法を拡張して、SSGのパートをすべてギターに見立てると共に、Cチャンネルでは、ギターっぽい音色と、シンセっぽい音色を交互にくりかえすことで、まるでギター、シンセ、ベースがユニゾンしているような効果を作り出している。
曲想も、それまでのバンドっぽいものから、かなりメカニカルなイメージになり、メインテーマの方にすんなりつながるところは、さすがのセンスだね。こういう作曲のテクニックやアイディアは、ゲームミュージックばかり聞いていたのではなかなか学べないので、ロックから、ジャズから、クラシックから、ジャンルを問わず曲をたくさん聞いて身につけたいものだね。さて、Bチャンネルの最後で"y"コマンドが出てくるが、これは、音色を微修正して、スネアの音をタムタムの音に変えるためのものだ。だから、MUSIC LALFのユーザなら、ここはそのまま音色指定を変えてしまってもかまわないだろう。

・テーマはゲームミュージックの定石にのって
4段目からは、いよいよテーマ部が展開する。ここからはループがかかっているので、もしこの曲をゲームに使うとすれば、オープニングなりスタートアップなりの長さをイントロと合わせておき、ここからタイトルなり実際のステージなりがはじまるというイメージだろうか。ちょっと話が外れるけど、オープニングなどでは、画面の方の展開パターンやその所用時間が決っているだけに、それにピッタリ合わせて音楽の方を作ると、とても効果が上がる。曲のスピードさえキメておけば、スタートさせるタイミングさえキメておけば簡単にできるので、ゲームなどを作るときには気をつけておきたい点だね。
テーマ部の展開は、基本的にはイントロの後半と同じように、Aチャンネルがベース、Bチャンネルがドラムス、Cチャンネルがメロディーと、FM3チャンネルで、ベース、ドラムス、メロディーを押え、SSG3チャンネルで「伴奏」をつけるというアレンジになっている。曲想も、「リズムもの」の王道というイメージだよね。
テーマ部の構成は比較的簡単で、4小節+8小節×2+キメという構成になっている。このような場合は、FM3チャンネルで、ベース、ドラムス、メロディーを担当するアレンジだと、ベースやメロディーの音色を変えても、どうしても単調な感じになりがちになるコトが多い。そこでこの曲では、SSGチャンネルの使い方を4小節ごとに大きく変えて、全体のメリハリをだしている。
ソースを見てもらえばすぐわかると思うけれど、テーマ部では、FMチャンネルは特別なことはやっていない。どちらかというと淡々と同じペースで演奏しているイメージが強い。そのワリに実際聞いてみると、曲の流れにそってとても大きなメリハリがある。アイディアさえあれば、SSGチャンネルを活用する効果はこんなにも大きいのだ。では、分析してみよう。
まず最初の4小節、リストの4段目のパートでは、Fチャンネルのみを使い、エコー効果でCチャンネルのメロディーの補強をしているのみで、DE両チャンネルは休みだ。こういう風に、思い切って省略するのも、全体のメリハリを大きくするにはとても効果的だ。こういう内蔵音源でも、MIDIを使ったコンピュータミュージックでも、メリハリというと、すぐ「ハデなところを、よりハデに」と思ってしまうヒトが多いけれど、メリハリというのは、実は相対的なもので、絶対的なハデさではない。だから、思い切ってシンプルなところを作ることで、山場をより盛り上げるという方が、ずっと効果的だ。そもそも、ハデすぎて仕掛けばっかりの音楽になってしまったら、今度は聞いている方が気持ちよく聞いていられなくなってしまうよね。
さて、その先の8小節のパターンを2度くりかえすところを見てみよう。ここでは、前半の4小節と、後半の4小節で伴奏のアレンジの手法をがらりと変えることでメリハリをつけている。
前半の4小節では、Fチャンネルはユニゾンから3度のハモりとスタイルを変えながら、メロディーのサポートにまわっている。その間DEの両チャンネルは、メロディーともベースラインとも関係ない、別のゆったりしたメロディーを、3度でハモりながら演奏する、専門用語ではオブリガートとか、カウンターメロディーとかよばれるパートを担っている。
これに対して後半の4小節では、DEFの3チャンネルをフルに使って、リズムに合わせて和音をきざみ、イントロの後半で見られたような、オーソドックスなリズミックなサウンドになっている。
この部分は、曲想自体が後半になるほど盛り上がってくるので、たとえば、8小節全部をロックっぽいアレンジにしたとしても、そこそこまとまると思う。でも、あえて、前半をクラシック的なカウンターメロディーを使うアレンジにしたことで、最初のおとなしい部分から、だんだんと盛り上がってくるようにつなぎ、全体のメリハリが一層くっきりするようにしているワケだ。このあたりのセンスは、みなさんもぜひ学び取ってほしいアイディアだね。
実は、この8小節のパートは、それ自体が二度くりかえされる。一度目と二度目では、伴奏パートはまったくくりかえしだが、メロディーが違っている。これが、8段目のCチャンネルだけのパートだ。こうすることで、ただくりかえすだけとは違うメリハリにつながっている。このあと4小節分の比較的長いキメのあと、またテーマのアタマに戻る。
さて、このテーマの部分でも、弦のスライド奏法の感じを取り入れたプレイ(7段目のAチャンネル)や、LFOを利用したベンド(7段目のCチャンネル)といった小技がいくつか出ている。しかし、基本的には、アレンジのアイディアで曲想を作るという、正統的な技法で作られている。それだけに、SSGの各チャンネルを交互にミュートして演奏することで、各チャンネルのパートのもっている役割をじっくり研究してほしいと思う。



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