ゲームミュージックのための
MMLプログラミング入門
(その6)
さてこの連載も第六回目、いよいよ最終回となってしまった。今回も、前回同様、読者のみなさんから寄せられた課題曲の応募作品を、古代先生のコメントとともに紹介したいと思う。
藤井:古代先生、今月もよろしくおねがいします。
古代:どうぞ、よろしく。
<平野くんの作品>
藤井:まず最初は、京都市右京区に住んでいる平野泰正くんの作品(リスト1)からいきましょうか。これは、PC-8801シリーズ用のサウンドボードIIをつかって、MUSIC LALFで作った作品です。
古代:これは、なかなかの大作ですね。ゲームミュージック風というか、ディスコ風というか、そういうアップテンポのアレンジの応募作品が多い中、オーケストラ風というのがいいね。
藤井:もともとの課題曲のメロディーが、ユーロビートっぽいアレンジでも、荘厳なクラシックっぽいアレンジでも、どちらでもいけるメロディーだったから、いつか出てくるとは思っていたけど、やっぱり出てきましたね。
古代:やっぱり、他と発想が違うっていうのは、スゴく目立っていいよね。
藤井:でも、アイディアはあっても、こういうのは誰でもできるアレンジじゃないですからね。
古代:応募者のプロフィールを見ると和声学とか勉強しているらしいけど、アレンジとしては悪くないよね。なかなかイメージが出てると思う。
藤井:構成もいいですよね。
古代:どアタマからテーマの部分の持っていきかたとか、つなぎのメロディーとのつながりかたとか、なかなかよかった。
藤井:ダイナミックレンジというか、メリハリのつけかたも、音数の多いサウンドボードIIのメリットをウマく生かしてアレンジしてますね。でも、ここまで凝って作っていると、あと一つ音色にも凝ってほしい気がしますね。
古代:うん、ちょっと音がうるさい感じがするよね。
藤井:ストリングスとか、クラシックっぽいストリングスのおとってあるからね。厚みがあるけど、ハデじゃない落ち着いた音のストリングス。
古代:SSGで鳴らしているテーマ部も、たとえばチェンバロ風とかクラシックっぽい音色で鳴らすともっとカッコよかったかな。
藤井:つなぎのところのメロディーとか、クラリネットとか、オーボエとか、クラシック特有の木管系の音色にするのもいいですね。木管系は、FM音源ではとても作りやすいし(笑)。
古代:あと、アルペジオで和音を鳴らすというのも、クラシックっぽい感じを出すには効果的だね。
藤井:そう、それで一歩間違うと、みんな心当たりがあるというあのプログレの世界に(笑)。
古代:おっとイケない、次いきましょう。
<藤田くんの作品>
藤井:さて次は、石川県金沢市に住んでいる藤田浩一くんの作品(リスト2)です。これも、PC-8801シリーズ用のサウンドボードIIをつかって、MUSIC LALFで作った作品です。
古代:テーマの処理の仕方はまあまあいいね。
藤井:「いろいろな技法については、一通り使いました」という感じですね。
古代:基本的なポイントはクリアしているんじゃないかな。
藤井:なんか、NHK教育テレビのテーマソングみたい。
古代:どこかで聞いたフレーズが入っている感じ(苦笑)。
藤井:よっぽど入れたかったんじゃないですか(笑)。かなり無理につないであるみたいだし。
古代:アレンジにメリハリがなくて、最初から最後まで全力疾走という感じがする。もっとスケールの大きい発想で、余裕をもって曲に抑揚をつけてほしかった。
藤井:サウンドボードIIだということで、余計メリハリは重要ですよね。音数が多いし、音色も厚いぶん、意識しないで作ると、すぐ全開バリバリになりがちだからね。
古代:実は、この課題曲のテーマは、ワザと抑揚をつけていない。それは、アレンジを見る場合、いかにメリハリをつくるかというところをポイントにしたかったからなんだ。弱い部分がないと、強調したい部分が生きてこない。このあたりをウマくつけてほしかった。
藤井:「あの」Bメロのところで、思い切って曲想を変えるなり、せっかくサウンドボードIIなんだけどなんて思わずに、思い切って音数をへらすなり、なんか工夫があるとよかったですね。
古代:藤田くんは、いろいろ研究しているみたいなだけに、惜しいよね。次回は、この辺を工夫してみてね。
<中西くんの作品>
藤井:最後は、名古屋市千種区に住んでいる中西哲也くんの作品(リスト3)です。これは、PC-9801シリーズ用のサウンドボードをつかって、MUSIC LALFで作った作品です。
古代:あれっ、これ、このまま終っちゃうの。シメというか、オチというか、なんかほしいなぁ。
藤井:ここまで長くやられると、この終りかたはないでしょうね。
古代:でもテーマは、まあ、消化されていると思う。
藤井:気持ちはわかりますね。でも長い。このアイディアを生かすんだったら、この半分とか、1/3とかの長さのほうがいいんじゃないかな。
古代:あとこれ、曲はハ長調なのに、イントロとエンディングの鐘の音はヘ長調なんだよね。なんか違和感があって聞きにくいな。
藤井:オーバーラップしているところがあるだけに、こういう点は大事ですね。人間の耳って敏感ですからね。
古代:作品の説明に書いてあるみたいに、せっかく表現したいイメージがあるんだから、それを効果的に表現するというコトもこんどは考えてみてね。
<総評と感想>
藤井:ということで、2カ月連続して読者から応募のあった作品を聞いてきたわけですが、全体の講評とご感想をお願いします。
古代:発売のタイミングもあったと思うけど、MUSIC LALFを使った作品の応募が増えてきているのが、とてもうれしいですね。やっぱり、自分が作ったソフトをいろいろな人が使っていてくれると思うと、とってもうれしいです。自分の作ったゲームミュージックが、いろいろなところで聞こえてくるのとは、また違った意味で感激がありますね。
・さて、応募してくれた作品は、思っていた以上にレベルが高いものが多かったので、どうしても、そのぶん、評価は厳しくなってしまいました。課題曲の他に自作のオリジナル曲とかも送ってくれた人が多くて、ゲームミュージックに対する熱意がとても感じられました。みなさんが、曲を発表する場をほしがっていることをひしひしと感じました。
・応募の機種はいろいろあったのですが、やはりサウンドボードIIを使った作品のほうが、音数も、音色そのもの分があるぶん、迫力ある作品になりやすいようです。でも、それだけ激戦なワケですから、かえって作るのが大変というコトもいえますね。サウンドボードIIの機能にたよって、アレンジやメロディーがおろそかになってしまってはなんにもなりませんよね。サウンドボードIIを使うときは、ハードに負けないよう、がんばってイメージを膨らませてください。
・いろいろな作品を通して聞いていて気になった点は、無駄なくりかえしのある曲が、全体に多かったことです。あまりだらだらと長くては、聞いているほうは緊張感がなくなって、せっかくのメロディーもつまらなく感じてしまいがちです。なぜくりかえすのか、その意味を曲全体の構成の中から考えてみてください。曲は長いほうがいいと考えているのだったら、それはちょっと違いますね。
・あと、コード進行というものをちゃんと理解していない作品も気になりました。コードとあわないメロディーがついていたり、メロディーと伴奏でコード進行の解釈が違ったり、どう聞いても気持ち悪いのに、と思う作品も意外に多くて気になりました。
・もう一点残念だったのは、いろいろな面で水準はクリアしているのだけれど、「普通だね」で終ってしまう曲いが多かったことです。どこかで聞いたような「ウマくまとまった曲」にしたいという気持ちもわからないではないけど、それはあくまでもせいぜいテクニックを磨くための練習であって、人に聞かせるものじゃないよね。その曲でなにを表現したいのか、なにを訴えたいのか、自分らしい「個性」を作品の中にどう生かしていくかがなによりも大事なんだ。これまでは、曲をMMLで表記するだけで大変で、とても個性の表現まで気をまわせなかったかもしれないけど、MUSIC LALFをつかえばいろいろ表現が可能だと思うから、これからも、ぜひ作り続けてくださいね。
藤井:ところで、古代先生。最近はどんなゲームを制作しているんですか。
古代:セガのメガドライブ用のゲームなんだけど、「スラップファイト」というのをつくっているんだ。
藤井:発売はいつ頃?
古代:4月頃の予定です。
藤井:どんなゲームなのかな、その「スラップファイト」というのは。
古代:まだ、中身はちょっとご勘弁(笑)。でも、期待していてくださいね。
藤井:なかなか楽しみですね。
古代:みなさん、出たらぜひ買ってくださいね。
藤井:では、最後にひとこと。
古代:みなさん、たくさん応募してくれてありがとう。ここで紹介できなかった作品もいっぱいあったし、言い足りなかったこともいっぱいあった。でも、みんなの熱意がテクノポリス編集部に通じれば、今後も連載じゃないけど、機会をみてまたこのコーナーを特集でやれると思う。だから、今回は課題曲というカタチをとったけど、オリジナルの作品とか、オリジナルの音色とかどんどん編集部宛送ってください。必ず目も耳も通しますから。
藤井:古代先生どうも、ありがとうございました。
ということで、連載は終りだけれど、読者のみなさんからの応募作品は受け付けていますし、数がたまってきたら、古代先生の添削やコメントとともに誌上で紹介することができると思うので、自信の作品や音色データができたらぜひ送ってください。宛先は、
までです。
ではみなさん、これからもよろしく。
(完)
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