題 | 奇術師 (原題: The Prestige) |
著 |
著: クリストファー・プリースト (Christopher Priest)
/ 訳: 古沢嘉徹 |
版 | 早川文庫FT 2004年(原典1995), 940円, ISBN4-15-020357-1 |
帯 | ふたりの天才奇術師の激しいライバル心が悲劇を招く! |
話 |
新聞記者のアンドルーは、いるはずのない兄弟との精神的な繋がりを感じていた。
しかし養子に出された自分の過去を調べても、そのような家族がいたという事実はない。
そんなときに送られてきた19世紀末に活躍した奇術師の自伝。
そして取材先で会った女性ケイトは、その自伝を送ったのが自分であること、
著者の奇術師ボーデンがアンドルーの実の祖父であることを告げ、
さらに彼女の祖父でやはり奇術師であったエンジャとボーデンとの間の確執を語り始める。
ともに瞬間移動を得意とする二人の奇術師のキャリアは、相手をたたき潰すことを目的としながらからみ合っていた。
ボーデンの自伝では、奇術を成立させる彼の二重存在性が仄めかされ、
エンジャの日記では科学者テスラとの出会いにより得たある電気装置によるトリックの完成が語られる。
そして二つのテキストは、悲劇的な舞台事故に収束してゆく。
さらに、謎めいたテスラの装置にまつわるケイトの記憶はアンドルーの“兄弟”の秘密へとつながっていくのだ。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★ |
構成自体が舞台奇術のような小説。様々に転調しながら繰り返される“分身”のモチーフは、
やがて異端の科学者テスラの登場により、一気に異世界へと物語を導いていくのだが、
物語全体に観客を惑わすミスディレクションが張り巡らされている。
しかし、ボーデンの秘密は本当にここに書かれているとおりなのかちょっと不思議な気がするよね。
もっと幻想的な何かが隠れてそうな...
アンドルーが取材しようとしたネタの瞬間移動も本筋に関係があるのかないのかはっきりしないし、目眩ましの詰まった一本。 |
イカした言葉
「奇術師が奇術のタネを守ろうとするのは、タネが壮大で重要なものであるからではなく、
あまりにも卑小でささいなものであるからだ。」(p85) |
題 |
異次元を覗く家 (原題: The House On The Borderland) |
著 | 著: ウィリアム・ホープ・ホジスン (William Hope Hodgson) / 訳: 団精二 |
版 | 早川文庫SF 2004年(原典1908, 初版1972), 660円, ISBN4-15-01058-6 |
帯 | 夜ごと襲い来る化け物の群れ! 幻想と不条理に満ちた怪奇SFの傑作 |
話 |
アイルランドの森の奥にある廃墟で見つかった一冊のノート。
そこには一人の老人の経験した怪異の日々が綴られていた。
いつからそこにあるのかもわからない巨大な館に移り住んだ老人とその妹は、奇妙な出来事に悩まされはじめる。
突然訪れるリアルな幻覚の中で、何処ともしれぬ惑星の荒野へ導かれ、そこに建つ同じ館と、館を取り巻く怪物の群れを見る。
そして、館の地下にある亀裂から這い出てきた怪物たちの襲撃。
さらに、老人は時が急速に加速する怪現象にとらわれる。昼と夜、夏と冬がめまぐるしく進み、
数十億年の未来へと運ばれていく中で、世界の終焉を目の当たりにするが、この幻想から帰還した彼の傍らには、
永劫の時に朽ち果てて塵と化した愛犬の亡骸があった。
さらに続く怪現象に老人は自分の運命の終わりを予感し、そこで手記は終わる。 |
評 |
統合人格評 ★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★ |
最近なぜか古いモノを読んでいるのだけど、今回は一段と古い約100年前の小説。
SFというよりは幻想小説と呼ぶ方が適切だと思う。
互いのつながりも、その発祥も不可解な怪異がとりとめもなく続くだけと言えばそれまでの物語。
時間の流れが加速して、永劫の未来へと突き進む渺茫とした描写がおもしろいのだけど、考えてみれば、
ウエルズの『タイムマシン』が1895年なので、その影響を受けているのかも。
古典としての価値はあるけれど、さすがに古びているのはやむを得ず。 |
イカした言葉
世紀という世紀、永劫という永劫が、過去に溶けこんでいった。(p202) |
題 |
最後にして最初の人類 (原題: Last and First Men) |
著 | 著: オラフ・ステープルドン (Olaf Stapledon) / 訳: 浜口稔 |
版 | 国書刊行会 2004年(原典1930), 2800円, ISBN4-336-04538-0 |
帯 | 人類は何処へ |
話 |
20億年未来の「人類」が現代人に語りかける人類の歴史。
現代(といってもこの本が書かれた1920年代)からヨーロッパ没落と米中対立を経て、地球はアメリカ化する。
その後、数千年の停滞した繁栄の果てに科学技術を忘れ去った文明は資源枯渇により一度滅び、
再び立ち上がったものの復興した技術を制御しきれず、全世界を火の海にして絶滅する。
かろうじて残った少数の人類が一千万年の暗黒時代を生き延び、新たな種としての「第二期人類」が勃興する。
しかし高邁な文明を築いた彼らも数度の火星生命の襲撃により滅びる。
その後も、進化と退化、興隆と滅亡を繰り返し、幾たびもの暗黒時代をくぐり抜け、何度かは自らの後継者をデザインし、
姿形を大きく変えながら幾つもの文明が花開くが、数億年の時の流れの中ではいずれも一瞬の閃きでしかない。
やがて、月軌道の異変から居住不能となった地球を離れ金星に移住し、さらに太陽の膨張を逃れ海王星に移り、
ついには「第18期人類」として最も高みへ到達した文明を築いた彼らだが、その知能の高さ故に、
避け得ない滅びの到来を感知し、その無常なる運命を過去へと発信するのだ。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 - |
このHPの2冊下にある『スターメイカー』の前に立つ、偉大なる書物。
著者がはしがきで宣言している通り、ここで語られるのは遠大なる神話、至高の無常観に貫かれた、
冷徹なしかしどこか慈悲に満ちた視点で描かれる人類史の鳥瞰図である。
『スターメイカー』ではこの歴史すら、宇宙史の中の微かな陰でしかないのだが。
この神話は、後の数々のSF作品に多大な影響を与えていて、今回初めて、
その源泉たるイマジネーションに触れることができたのが何よりの収穫であった。
まあ、ステープルドンの想像力といえども当時の歴史背景や科学技術レベルに縛られざるを得ず、
科学技術の加速度を読み間違っているとは思う。
おそらく現代人類はこのままで行けば1000年以内には人体改造や太陽系開発で
20億年後の最終人類の成果の幾つかには到達できるのではないだろうか。そういえばコンピュータの描写もないしね。
もちろん、だからといって、現代の世界の構図がアメリカ-中国の2大勢力の対抗になるであろうことや、
かなり正確な核エネルギー活用などの“予言”を、
第二次大戦前に成し遂げた想像力の到達範囲をおとしめることはできない。
『スターメイカー』とあわせて、SFファンは必読。 |
イカした言葉
「世界はまさにかくあるしかないのだ。深みを覗き見れば高みをも仰ぎ見ることになろう。
この二つを称えるがいい」(p200) |
題 |
スターメイカー (原題: Star Maker) |
著 | 著: オラフ・ステープルドン (Olaf Stapledon) / 訳: 浜口稔 |
版 | 国書刊行会 2004年(原典1937), 2600円, ISBN4-336-04621-2 |
帯 | 星の創造者 |
話 |
イギリスの丘の上で物思いにふけっていた「わたし」の精神は、肉体を離脱し天の彼方へと旅だった。
地球を遠く離れ星間を飛翔する「わたし」は、様々な形態の知性が文明をなす数々の世界を目の当たりにする。
彼らの文明が栄えそして滅ぶ様を観察していくうちに認識の領域を拡大する「わたし」は、やがて時をも超えて、
これらの文明が互いに連携し氾銀河レベルのコミュニティを構成していく姿を、
彼らと恒星そのものである知性との抗争と、その後の共存を、
また宇宙創生期のおぼろな星間物質が構成する知性社会の興亡から始まり、
永劫の時の果てに全宇宙の星々が燃え尽き、すべての精神が滅びていくまでの宇宙史全体を見渡していく。
これらすべての知性が憧憬を抱く造物主“スターメイカー”の存在証明は宇宙のどこにも見つからないのだが、
「わたし」はついに、宇宙史をも超えて、
創造の無限の反復の果てに座する究極の超越者“スターメイカー”の存在とその意図を垣間見る。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 - |
これを果たして小説と呼んで良いものか。物語などという身近なものを超越した、
おそらくは人類がこれまでに生み出した中でもっとも遠大なスケールの幻視(ヴィジョン)の書。
諸文明の描写に当時の時代背景や社会認識が透けて見えはするものの、
70年近くも前にこれを書いたステープルドンの天才に対して賞賛を惜しむことはできない。
何しろ後世への影響力の巨大さだけは知られた伝説的なタイトルだっただけに、こうしてキチンと日本語版が出版され、
読む機会が与えられたことを大いに評したい。少なくともSFファンであれば必読。 |
イカした言葉
それでも語らずにはいられないのだ。(p304) |
題 |
チョーク! (原題: Choke) |
著 |
著: チャック・パラニューク (Chuck Palahniuk)
/ 訳: 池田真紀子 |
版 | 早川書房 2004年(原典2001), 2300円, ISBN4-15-208549-5 |
帯 | 戸梶圭太が大絶賛の青春小説 ♂よう、こいつは抜けないけどイケるぜ!♂ |
話 |
医大をドロップアウトした僕はセックス依存症。
18世紀の植民地を再現した観光村で働きながら、イカれてしまった母親の月3000ドルの入院費を稼ぐために、
あるコトを繰り返していた。高級レストランで食べ物を喉に詰まらせ、正義感にあふれる誰かに助けさせるというものだ。
ヒーローになったその誰かは可哀想な僕を経済的にも助けてくれるという寸法だ。
子供の頃の僕を連れ回しながら、社会を混乱させる数々の違法行為を仕掛けていた母親は
今や寝たきりとなり日に日に弱っていくばかり。
そんな母親が明かした僕の出生にまつわる驚くべき秘密は、僕の人生をさらに袋小路に追いつめていく。
そこから逃れるために僕は...。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★ / ホラー人格評 ★ |
“爽やか”はふさわしい言葉ではないが、頭に浮かぶ一つめの言葉だ。
相変わらずのカッコいい文体に、ねじくれたストーリーのパラニューク節だけど、
その実、ここにあるのは、本当にストレートな愛と友情と解放の物語。
自分を束縛し規定する過去から逃れるために、自分が高貴な何かで“ない”ことを証明しようとし、
そして逆に自分が高貴な何者かで“ある”ことを証明しようとし、
あがいてもあがいても、どん底へ落ちていく主人公が、迷走の果てにその底を突き抜ける爽やかな印象を残す青春小説。
読んでる途中には気づかないのだけどね。 |
イカした言葉
「たとえば、この先の人生について考えているつもりでも
せいぜい二年先までのことしか考えられないものだということ」(p104) |
題 |
イノセンス After The Long Goodbye |
著 | 著: 山田正紀 |
版 | 徳間書店 2004年, 1600円, ISBN4-19-86181-4 |
帯 | 男はただ、愛したかっただけ… |
話 |
サイバーテロを担当する公安九課に所属するサイボーグ・バドーの愛犬ガブが行方不明となった。
バドーの電脳が初期化された際に彼の魂を見失ったらしい。
感情や思考のすべてが電子回路と数式に還元できるサイボーグである自分の虚ろさに思い悩みながらガブを探すバドー。
一方、世界的ファストフードチェーンの味覚の要である人物をターゲットとした、
正体不明のテロリスト・ブリーダーのテロ計画が発覚。
護衛に向かったバドーは、あろうことか彼自身がブリーダーの計画の重要な歯車となっていることに気づき、
かろうじてテロを未然に防ぐ。そして、ガブを取り戻し、ブリーダーと対峙するために、
以前のテロで廃墟となったビルへと向かう。 |
評 |
統合人格評★★ / SF人格評★★★ / ホラー人格評 ★ |
押井守監督の同名映画のノヴェライズではなく、前日譚にあたる別のエピソード。
全編、ヒトの本質とは何か、そして自らがそれを備えていないではないかと問い続ける男の遍歴の物語で、
そこは実は共感できる部分だ。
著者名が隠されていても2~3行読めば山田正紀作品であることはすぐ分かる高濃度「山田文体」なのだが、
いくらなんでもやりすぎで、小説の錬度を下げる方向にしか働いていない。
あと気になったのは、「イノセンスな」という表現が多用されることで、「イノセントな」が正当だよね。細かいことだけど。 |
イカした言葉
「イヌはあなたの臭いになついているわけじゃない。イヌはあなたの魂に
なついているのよ」(p73) |
題 |
ブラック・ハウス (上・下) (原題: Black House) |
著 |
著: スティーブン・キング (Stephen King) &
ピーター・ストラウブ (Peter Straub)
/ 訳: 矢野浩三郎 |
版 | 新潮文庫 2004年 (原典2001), 895円/933円, ISBN4-10-219333-2/4-10-219334-0 |
帯 |
その邪悪な家は、息をひそめて待ち構えている—。 / 子供たちを喰らう、悪魔の所業を食い止めろ! |
話 |
アメリカの田舎町フレンチ・ランディングの住民は、
正体不明の連続児童誘拐殺人鬼フィッシャーマンの影におびえていた。4人目の犠牲者タイラー少年が姿を消し、
警察署長のデールは、数々の難事件を解決しながら若くして引退した刑事ジャックに助けを求めた。
ジャックは事件の背後にこの世界に隣接する異世界の存在を感じ取る。
そこは、彼がかつて少年時代に訪れ、運命を変えた世界だった。
複数の人格を使い分け全てを見通す盲人DJヘンリーや、インテリ暴走族ビーザーらの協力を得て
食人鬼フィッシャーマンに迫る彼だが、一方でフィッシャーマンも巧妙に人々を扇動し、ジャックを窮地に陥れようとする。
無数の世界の中心に位置する「暗黒の塔」に幽閉されたアッバラーの廷臣に操られる老人と、
「彼方の国」の女王と連携して彼らの企みに対抗するジャックの壮絶な追跡劇の末、
ジャックはアッバラー解放の鍵となる力を秘めたタイラー少年を救出するために
フィッシャーマンが建てた邪悪な黒い家の彼方に向かう。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★ |
実にストレートな異世界ファンタジーなのだが、
物語の大半の舞台となるのがアメリカのありふれた田舎町と日常生活であり、
ほとんどの登場人物は気づきもしないうちに重なり合った二つの世界のギャップが面白い。
登場人物もあざといまでに魅力的だし、作者と読者の視点を意識的に明示して「お話」感を追求した2大ストーリーテラー、
キングとストラウブの手腕はさすがにさすが。
あまりに勧善懲悪すぎるのが若干興ざめなのだけど、非常によく出来た話だと思う。 |
イカした言葉
「教えてくれ。死者は生きてる者に力を貸してくれなければ」(上巻p406) |
題 |
アイリッシュ・ヴァンパイア
(原題: BLOODY IRISH Certic Vampire Legends) |
著 | 著: ボブ・カラン (Bob Curran) / 訳: 下楠昌哉 |
版 | 早川書房 2003年 (原典2002), 1700円, ISBN4-15-208530-4 |
帯 | 菊地秀行氏絶賛! “光は東方より”という。
ならば、“闇は西方より”か。 |
話 |
『ドラキュラ』の舞台は鬱蒼とした東欧の森と、文明による新たな闇を孕むロンドンだったが、
その隠されたルーツは作者B・ストーカーの故郷アイルランドにあった。その血統を受け継ぐ吸血鬼譚4編。
アイルランドの荒涼とした丘や、禁断の知識を求める奇人の館を舞台とする呪われた物語。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★ / ホラー人格評 ★★★★ |
こういう小説を読むと、ホラーに関する自分の見識の底の浅さを思い知らされる。
ここに並ぶ物語を正しく解するには、系統だった読書経験と、彼の地の伝承と
それを生んだ歴史に関する知識が必要だ。ここにあるのは新しいものではなく、
豊饒なアイルランドの精神世界を編集した産物なのだ。「仕える女」が意外と映画的なオチで面白い。 |
題 |
塵クジラの海 (原題: Involution Ocean) |
著 |
著: ブルース・スターリング (Bruce Sterling)
/ 訳: 小川隆 |
版 | ハヤカワ文庫FT 2004年 (原典1977), 660円, ISBN4-15-020353-9 |
帯 |
21歳のぼくが書いたこの物語には、若者が愛する人生のすべてが詰まっている。 — 著者序文より |
話 |
巨大なクレーターの底にのみ空気が存在する水無星。
塵の海に棲息する巨大な塵クジラの内臓から生成される麻薬シンコフィーネを求め流れてきた外星人ジョンは、
シンコフィーネの違法化を機に、塵クジラを直接入手するべく遠洋漁業の漁船に乗り込んだ。
そこで運命的な出会いをした異形の異星人女性ダルーサと激しく惹かれあうようになるジョンは、
海の底に潜む何者かを捜し求める船長の秘密の計画に巻き込まれていく。
奇怪な生物の跳梁する海での過酷な生活の中でジョンの運命は激動する。 |
評 |
統合人格評 ★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★ |
この小説を知らずに読んだら、作者がB・スターリングだとはとても気がつかない。
デカダンなサイエンス・ファンタジーなんて。何しろデビュー作だけあって、若書きで、今あらためて評価するにはチトつらい。
あのスターリングが昔こんなのを書いていた、という一点のみで取り上げる価値ありかな。 |
イカした言葉
「彼らを見たくなどありません。向こうだって見てほしくないでしょう」(p260) |
題 | サイコトパス |
著 | 著: 山田正紀 |
版 | 早川書房 2003年, 1700円, ISBN4-334-92417-4 |
帯 |
日本SF・ミステリー界に新たなる高峰。
拘置所に収監中の男からの奇妙な依頼。世界が、自分が、壊れていく……。 |
話 |
女流推理作家の新珠静香は、連載の結末をことごとく的中する手紙を送りつけてくる謎の囚人、
水頭男(すいずつお)を訪ねる。彼は行方不明の娘の居場所を教える代わりに
バラバラ死体となった自分のパーツを探してほしいという奇怪な依頼をする。
彼に導かれるまま、凶暴なスキンヘッドの男アイ(眼?)と捜索を始めた静香の前に、
耳姦春男、口唇言葉子という奇妙な名前の人物たちが出没する。
どうやら、彼らを被害者や容疑者とする連続殺人が進行中らしいのだ。
時を同じくして腕貫勝弘なる人物が静香の連載を勝手に書き継ぎ、
しかも、小説と現実がリンクしはじめる。連載の主人公のモデルである娘晴香はどこへ行ったのか。
そして、端々に現れる謎の言葉「サイコトパス」とはいったい何を意味するのか。
次第に世界が壊れていく中、ついに「サイコトパス」が姿を現わす。 |
評 |
統合人格評 ★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★ |
ぶっちゃけて言えば、夢オチなのだけどね。ミステリとして評価することはできません。
密室とか暗号とか本格めいた仕掛けはあるけど、この世界の中ではそもそも意味がない。
かといって、世界を創出する機械たる「サイコトパス」とその理論的背景、
動作目的についても物語の終わり近くまで引っ張りすぎて、SFになる契機もはずしているように思われる。
著者本人がD・リンチに重ねている、混乱した世界観を楽しむのが本筋だけど、既存の山田作品の焼き直しの感あり。 |
イカした言葉
「たとえそれが捏造されたトラウマであっても」(p339) |