題 |
万物理論 (原題: Distress) |
著 |
著: グレッグ・イーガン (Greg Egan) / 訳:山岸真 |
版 | 創元SF文庫 2004年(原典1995), 1200円, ISBN4-488-71102-2 |
帯 | 宇宙を統べる究極の物理学理論。恐るべき未来世界。ハードSFの粋 |
話 |
「人間性」を踏み越え掻き乱す過激なバイオテクノロジーの取材に神経をすり減らした
科学ジャーナリスト、アンドルーは、南太平洋の人工島ステートレスで開催される物理学会議を訪れる。
アインシュタイン没後100周年を記念して行われるこの会議では、
全ての自然法則を包括的に記述する万物理論について、3人の科学者がそれぞれ別個の学説を発表する予定であり、
アンドルーはそのうちの一人、モサラを題材にしたドキュメンタリーを制作することになっていた。
科学が世界の全てを把握し支配することに反対する様々な「無知カルト」も集結するステートレスで、
アンドルーは謎の人物アキリから、モサラに身の危険が迫っていることを告げられる。
宇宙は説明されることで形作られるとし、ある個人〈基石〉が宇宙の基盤となれるだけの強力な理論を完成した瞬間を
核として全てが創出されると信じる秘密団体「人間宇宙論」グループの一派が、
独自の理論/信念に基づき〈基石〉最有力者のモサラの命を狙っていることが明らかになってくる。
生物テロの巻き添えになり、さらに、特許の不法使用によって形成されたテクノ解放主義者の楽園ステートレスを
崩壊させようと国際企業体が送り込んできた傭兵軍の襲撃による混乱の中で、アンドルーは中立のスタンスから一歩踏み出す。
そして、宇宙のあり方を大きく変えてしまう(かもしれない)万物理論はいよいよ完成の時を迎えようとしていた。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★★★★★ / ホラー人格評 ★★ |
この評を書くまでに2回通読した。人間宇宙論そのものは奇抜とはいえSF読みにとっては
目新しくはないのだが、そのセクトである主流派・穏健派・過激派の思想・目的が視点が変わるたびに激しく変わり、
読者は目眩がするほど引きずり回されることになるのだ。通勤読書での一読ではきちんとついて行けなかった。
しかし、ツッコミどころは多数。やはり気になるのは、全宇宙を巻き込む大仕掛けが地球人類の領域で起こるところで、
それなら10億年も前にどこかの異星文明が万物理論を完成していて、そこで全て終わってるハズだよね。
それに、人間宇宙論は結局のところ、コトが起こるまでは原理的に実証不可能な「信念」であり、
これに基づいてテロリズムを実行する組織というのもちょっと根拠薄弱だと思う。
宗教的な洗脳とかやってなさそうだし。
まあ、そういうところを引っくるめた強引かつ奇想天外な理論展開がイーガンの持ち味であり醍醐味であるのだけれど。 |
イカした言葉
武器をもちこもうとされるかたは無断でどうぞ。当方も無断で破壊させていただきます。
ステートレス空港組合 (p157) |
題 |
鎮魂歌 [レクイエム] (原題: Requiem) |
著 | 著: グレアム・ジョイス (Graham Joyce) / 訳:森下弓子 |
版 | ハヤカワ文庫FT 2004年(原典1995), 840円, ISBN4-15-020364-4 |
話 |
不慮の事故で妻ケイティーを喪ったトムは、勤務先の高校でおこった出来事をきっかけに教師を辞め、
昔の恋人のシャロンが住むエルサレムを訪れる。
そこで出会ったのは、15年も安宿に閉じこもり死海文書を隠すユダヤ人の老人や、
壁に秘密の暗号を書き残しては消える謎の老婆の幻覚(?)。
老人から死の間際に死海文書を託されて途方にくれるトムは、セラピストのシャロンの友人で、
彼女の患者でもあった学者アフマドに解読を依頼する。
自らの罪と、人に取り憑くジンの存在を語るアフマドは、トムにもジンが取り憑いていることを告げる。
妻を裏切り、死に追いやったと感じ罪悪感に囚われるトムだが、シャロンにもそれを告白しようとせず、
次第に鬱積する彼の思いは、様々な形で何かを伝えようとするケイティーや、
謎の老婆(実はマグダラのマリア)の幻覚となって現れ、ついにはシャロンまでもその幻覚を共有していく。
一方、アフマドにより解読が進む死海文書は、キリスト教の成立に際して仕組まれた欺瞞を暴いていくことになる。
キリスト教徒のトム、ユダヤ人のシャロン、アラブ人のアフマド、それぞれのジンは
エルサレムの地から力を得るかのように強大になっていく。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 ★ / ホラー人格評 ★★ |
ここで起きた出来事の全ては現実の枠内で起きている。
報われぬ想いが凝固したジンの存在は、心理学用語で説明できるものだし、登場人物達もそのことは自覚している。
それでも、それを主観として語るとき、そして描写の手法を選べば、世界はたちまち幻想の支配する異界になってしまうのだ。
エルサレムの土地柄もあるのかもしれない。
読中にアラファト氏が危篤となり、ついには亡くなってしまったのは何か不思議 |
イカした言葉
自分自身というものは、すべてのなかで最悪の裁判官だから」(p381) |
題 |
フランケンシュタイン
(原題: Frankenstein ; Or, The Modern Prometheus) |
著 | 著: メアリ・シェリー (Mary Shelley) / 訳:森下弓子 |
版 | 創元推理文庫 1984年(原典1831), 1800円, ISBN4-488-53201-2 |
話 |
ストーリーをここに紹介するまでもない、名作中の名作。
最初に世に出たのは1818年だが、本書の底本は第3版。 |
評 |
統合人格評 ★★★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 ★★★★ |
引き続き原点回帰。本書を手に取るのは多分3~4回目にもなるだろうか。
数限りない評論や解釈が尽くされたこの歴史的傑作に僕なんぞが新たな言説を付け加えることはできないが、
まあ少しくらいなら。
この物語が200年近い年月を経て生き続けているのは、文学的完成度などではなく(むしろ、それほどではない?)、
人類が共有する潜在意識の金鉱、そのど真ん中を掘り当てた功績の為。
作中で怪物は自分の絶対的孤独を嘆くが、彼の一族は現在に至るまで大いに繁栄し続けている。
そして思うのは、書かれた当時とのモラルの変化。
当時どのように読まれたか知らないが、現代の読者であればむしろ怪物の方に感情移入するだろう。
異質さ・醜悪さだけで排斥されることになる怪物だが、現代社会であればここまで無条件な拒絶をされることはない。
この物語は、おそらく更に200年を生き延びていくに違いない。
僕らとは異質のモラルを持つであろう未来の読み手は、ビクターと彼の怪物との相克をどのように受け止めるのだろうか。 |
題 |
ニューオリンズの白デブ吸血鬼
(原題: Fat White Vampire Blues) |
著 | 著: アンドルー・フォックス (Andrew Fox) / 訳:大谷真弓 |
版 | アンドリュース・プレス 2004年(原典2003), 1800円, ISBN4-901868-21-7 |
帯 | デブでなにが悪い! |
話 |
ジュールズ・デュション、ニューオリンズでしがないタクシー運転手稼業を営む白人吸血鬼。
吸血鬼になりたての80年前は眉目秀麗な美青年で、第2次大戦時にはナチスの魔の手から母国を救う活躍もしたこともある。
でも、世界一の肥満都市ニューオリンズの住人の脂肪分たっぷりの血液のせいで、今や体重210Kg、糖尿病を疑い、
歩けば膝の関節が痛む超肥満体に成り果てている。
そんなある日、若い黒人吸血鬼マリスXが現れ街から出て行けとジュールズに迫る。
若造にバカにされてはと、色々駆け回ってもどんどん事態は悪くなるし、自分を吸血鬼にしたモーリーンを頼ってもお説教ばかり。
ついには長年暮らした家を貴重なレコードコレクションともども放火され行き場を失ったジュールズを見かねたモーリーンは、
かつてジュールズの相棒でその後仲違いした服装倒錯者の吸血鬼ドゥードゥルバグをカリフォルニアから呼び寄せる。
チベットの導師の下で修行した経験もある彼(彼女?)に、吸血鬼の秘密の能力開発指導をうける一方、
モーリーンとマリスXとの関わりもわかってくる。
マリスXのプレッシャーは次第に強くなり、親しい友人も次々に殺されていく。
すっかり自信を喪失したジュールズだが、自分が友人達に如何に愛されてきたかを、
そして、これまで吸血鬼として重ねてきた行為の罪深さを自覚し、マリスXの本拠地へ返り討ち覚悟の反撃に向かう。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★ / ホラー人格評 ★★★★ |
さて、吸血鬼モノ2連発だけど、こちらは中々に面白い。
ジョージ・アレック・エフェンジャーの創作ワークショップ出身の作者の、これが処女長編だそうで、
細部まで丁寧に趣向を凝らした好感度の高い作品。
コウモリに変身した後の吸血鬼の体重がどこへ行くかなんて、吸血鬼の生態にちなむ謎を引き出し伏線として活用するなど、
アイデアの処理が光る。過去の栄光にすがり、ダメな自分に落ち込む主人公の姿は情けなくも、なんとも心惹かれる。
ニューオリンズの夜闇の猥雑さを体現したこの小説には、退廃の香りは無いけれど、
これは市井に生きる吸血鬼の新しいスタイルだと言えるだろう。
どん底から立ち上がるジュールズの姿に、そして彼をダメなところも込みで愛し支える友人達(人間も吸血鬼も)の姿に泣ける。 |
イカした言葉
「ジュールズ、あなたはわたしやマリスXとちがって、質量に恵まれている。」(p349) |
題 |
形見函と王妃の時計 (原題: The Grand Complication) |
著 | 著: アレン・カーズワイル (Allen Kurzweil) / 訳:大島豊 |
版 | 東京創元社 2004年(原典2001), 3800円, ISBN4-488-01640-5 |
帯 | 稀覯書、図書館、読解不能の速記法、さらには階級闘争!? |
話 |
ニューヨークの図書館に司書として勤める〈ぼく〉の前に、典雅な老人ジェスンが現れたのが始まりだった。
稀覯本・器械仕掛けのコレクターの富豪であるジェスンは、〈ぼく〉を屋敷に招待すると、コレクションの一つである形見函と、
これにまつわる18世紀のある発明家の物語を示し、形見函の空の仕切りにかつて収められていた何かの探索を依頼した。
頑迷な管理者が目を光らせる図書館内からこっそり持ち出した書物から、
目的のモノがマリー・アントワネットの為に作られた複雑な機構をもつ懐中時計であることを知った〈ぼく〉は、
ジェスンの要請/指導に乗り、図書館を離れて怪しげな人物が跋扈する世間へと探索の手を広げていく。
しかしその過程で、ジェスンに欺瞞的に利用されていることに気がついた〈ぼく〉は一転、妻や同僚の助けを借り、
彼に対する意趣返しに取りかかるのだ。 |
評 |
統合人格評 ★★★ / SF人格評 - / ホラー人格評 - |
前作『驚異の発明家の形見函』で
語られた形見函の、空白の仕切りを中心として物語は回る。
メインプロットよりもむしろ、絢爛豪華な細部の描写が素晴らしく、一つの国にも似た図書館世界、
アンティーク時計やマリーアントワネット関連アイテムコレクターの奇矯な姿が詰め込まれたこの本自体が、
様々な事物を収めた形見函のようである。
そして読者は、この「函」にもまた空白の仕切りがあることに気づく。肝心の時計の不在だけでなく、あらゆる所に
あるべきものが欠如した空白が注意深く配置されていて、ちょっと不思議な印象を受けるのだ。
さらに一筋縄ではいかないのは、前作が書かれた経緯、本書そのものの成立に関する仕掛けが幾重にも
張り巡らされているということで、物語の技巧を楽しめる作品となっている。
そして装丁がまた美しい。前作とあわせて書棚に並べておきたい一冊。 |
イカした言葉
「わたしのモットーは常に、我蒐める、故に我有り、なのですよ」(p161) |
題 |
重力への挑戦 (原題: Mission of Gravity) |
著 | 著: ハル・クレメント (Hal Clement) / 訳: 井上勇 |
版 |
創元SF文庫 2004年 (原典1954, 初版1965), 720円, ISBN4-488-61501-5 |
話 |
巨大惑星メスクリン、とてつもない質量と惑星の形がレンズ状に潰れるほどの超高速の自転により、
重力が極地地帯で地球の700倍、赤道地帯では3倍という想像を絶する世界。
その調査に訪れた地球人は、貴重な機器と調査結果を乗せたロケットを極地地方で見失ってしまう。
人間では到達不能な環境での回収作業の為に、地球人はメスクリン人とのコンタクトを試みる。
超重力環境下で暮らすムカデのような姿をした彼らは地球の大航海時代に似た文明水準にあった。
赤道地方を探検中の商人・探検家のバーレナン一行は、地球人の申し入れを受け、
自分たちにとっても未知の領域を踏破する冒険を開始する。
わずかな落下が死に直結し、飛んだり、物を投げることなど考えられなかった彼らは、地球人のサポートを受け、
荒れ狂う海原・大絶壁を乗り越えてロケットを目指す。
しかし、地球人はバーレナンがこの冒険を引き受けた真の理由をまだ知らない。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 - |
なぜか未読だったSFの古典を復刊を機会にようやく読むことができた。
フォワードの『竜の卵』、ニーブンの『インテグラル・ツリー』、バクスターの『フラックス』などの諸作の源流は、
古くささはあるもののやはり名作といっていいでしょう。
明らかに異質な世界にも関わらず、地球人と同じ知性・感情を持つ異星人は不自然だ、
とかいったピントはずれな批判があったのは有名な話。
ハードSFとはいえ、極限的な物理学的環境から生み出される異世界の描写がポイントである以上、
視点であるメスクリン人の精神構造が全く異質では読者に伝わらないのだから、この割り切りは有効だよね。
それより苦労するのは、作中の単位が全てヤード・ポンド法であることで、解りづらいこと・イメージしづらいことこの上ない。
こんな地球上の瑣事で引っかかるのも皮肉な話なのだけれどね。 |
イカした言葉
「"投げる"というのは、どういう意味かね」(p19) |
題 |
パターン・レコグニション (原題: Pattern Recognition) |
著 |
著: ウィリアム・ギブスン (William Gibson) / 訳: 浅倉久志 |
版 | 角川書店 2004年 (原典2003), 2200円, ISBN4-04-791468-1 |
帯 | テロリズムの時代にギブスンが投じた待望の新機軸!! |
話 |
テロでWTCビルが倒壊した翌年の2002年。広告業界における一種の
フリーランス予言者として活動しているケイスは、ある仕事の依頼主ビゲンドから
“フッテージ”の作者探しを要請される。
ネットの中に不定期に現れる作者不詳の映像の断片“フッテージ”は、
ストーリーも発表の目的も不明ながら、完璧な完成度を誇り、多くの人を引きつけ、
作者の正体や意図に関する議論が世界中で沸騰していた。
ケイスはそんなファンサイトの一つで盛んに投稿を繰り返していた一人だが、
“フッテージ”にマーケッティングの潜在力を感じとったビゲンドが彼女の能力に目をつけたのだ。
“フッテージ”を市場経済の場へ引きずり出すことに疑問を感じながらも依頼を受けたケイスは、
やがて、“フッテージ”に隠された電子透かしの存在を知り、その数字を得るべく東京へ向かう。
ところが、彼女の周囲になにやら不穏な動きが見え隠れしてくる。何者かが彼女の探索を妨害しようとしているようなのだ。
何が起こっているか理解できないままに捜査を続ける彼女は、ついに接触に成功した作者との対面のために、
モスクワへと向かい、試練をくぐり抜け、この時代が生み出した真実へと近づいていく。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★★★ / ホラー人格評 - |
ついにギブスンが現代小説を書いた。というより、時代がギブスンに追いついた、とでも言おうか。
テクノロジーとグローバリズムにより、旧来とは全く異なるモノに作り替えられた世界を舞台とした聖杯探しの旅は、
旅人も道程も目的地も、奇妙に現実感を欠きながら、しかし強烈にリアルな21世紀の情景でもある。
何しろ舞台は、広告戦略の場でありネット社会であり電子暗号を扱う企業であり、
グローバルエコノミーを隙間なく埋め尽くしながらも実業から遠く遊離した領域なのだ。
あまりにも異質すぎて、僕らの暮らす「現在」とは陸続きとは思えない。
一方で、アメリカ人のケイスが異邦人として訪れるロンドン、東京、モスクワは、旅人の目を通して見た異境ながら、
9.11テロを象徴とする新たな世界の対立構造を背景ノイズとした、リアルな21世紀の「現在」なのだ。
ギブスンはやっぱりカッコいい。これはSFではないがギブスンがこれまで書いてきた
作品群と軌を一にしたサイバーパンク(まだ言うか)の新たな姿だと思う。 |
イカした言葉
「わたしは物事を金銭ずくでは計算しない。その卓説性で計算する」(p68) |
題 |
復活の儀式 (上・下) (原題: The Ceremonies) |
著 | 著: T・E・D・クライン (T. E. D. Klein) / 訳: 大瀧啓裕 |
版 | 創元推理文庫 2004年 (原典1984), 各1000円,
ISBN4-488-55901-8/4-488-55902-6 |
帯 | 英国幻想文学大賞受賞 / 伝説のホラー巨編登場 |
話 |
NYの学校講師ジェラミィはゴシックロマンスの研究に没頭するために、
郊外の田舎町ギリアドで夏期休暇を過ごすことに決めた。
そして、ギリアドに向かう直前に図書館で助手として働く敬虔な娘キャロルと出会い、お互いに惹かれ合うものを感じる。
しかし、ジェラミィのギリアド行きも、キャロルとの出会いも、実は好々爺然とした見かけの下に邪悪な貌を隠した
「老いた者」ロージィの手引きによるものだった。数千年前に地球に飛来し、傷ついた身をギリアド近くの森に隠す
おぞましい存在に支配され、百年の時を生きる老いた者は、この特別な夏に行う復活の儀式の生け贄として二人を選んだのだ。
ロージィの厚意を疑わないキャロルは彼に導かれるままに古代の舞踊や歌を覚え、知らないうちに儀式を重ねていく。
一方、キリスト教原理主義的な禁欲の生活を送る人々が暮らすギリアドの町では小さな怪異が忍びより積み重なり始める。
家畜が狂い、作物が害虫に侵されるなか、住人はよそ者であるジェラミィに疑惑の目を向ける。
そして7月末、ジェラミィを訪ねてキャロルとロージィがギリアドにやって来る。ついに儀式は完成に向かう。 |
評 |
統合人格評 ★★★★ / SF人格評 ★★ / ホラー人格評 ★★★★ |
作りに作り込んだ、巨編の名にふさわしい完成度の大作。
マッケンやラブクラフトの作品世界を取り込んで緻密に構成された物語は、宇宙規模の恐怖を背後に隠しながら、
実に日常的な描写の積み重ねから始まる。
そんな現実が、様々な暗喩や象徴を先触れに、カビが次第に壁面を覆うようにじわじわと怪異に蝕まれていく様や、
文明に背を向けた、アーミッシュを連想させるキリスト教的共同体の生活が、実は土着宗教やインディアンの文化的背景を
色濃く残していることが次第に明らかになっていくところなど、読み応え十分。
怪異の中心に座する存在の“実力”がボヤかされたまま(世界を滅ぼす程度の力はあるらしい)
なのはチョイと不満だし地味といえば地味だけど、高く評価されるべき作品。
大瀧さんの訳は少し変(テレヴィとかペンサルヴェイニャって、確かにそういう発音かもしれないけど...)。 |
イカした言葉
「わしが探してたのは、あなたのようですよ」(上巻p117) |